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第43話:噂、王都へ
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ガルド商会との専属契約は、俺たちの活動に革命的な変化をもたらした。
もはや素材の保管場所に困ることも、売り先に悩むこともない。俺たちはダンジョンや討伐依頼で得た戦利品を、ただガルド商会のラトナ支部に持ち込むだけでよかった。そこでは俺の鑑定結果に基づいた適正価格が、即金で支払われる。
俺が作る高品質ポーションは、ガルド商会の目玉商品として扱われるようになった。『アルカディア製』というブランド名が付けられ、その驚異的な効果から、富裕層や高ランク冒険者の間で金貨数十枚という高値で取引されているらしい。
俺たちの懐は、もはや金貨を数えるのが馬鹿らしくなるほどに潤っていた。俺は稼いだ金で街の一等地に大きな屋敷を購入した。石造りの頑丈な建物で、寝室は一人一部屋。広い訓練場と、俺専用の錬金術工房まで備わっている。
「すごい……お城みたいです!」
初めて屋敷に足を踏み入れたルナが、目をキラキラと輝かせはしゃいでいる。
「まさか、私がこのような場所に住むことになるなんて……夢のようですわ」
フィオナも感極まった様子で、レースのハンカチで目頭を押さえている。
「フン。まあ、悪くない」
シルフィは腕を組んでそっぽを向きながらも、その口元はわずかに緩んでいた。
新しい拠点を得た俺たちは、これまで以上に精力的に活動を開始した。Cランク依頼はもはやウォーミングアップのようなもので、時には複数のギルドが合同で挑むようなBランクの危険な依頼にも、俺たちはたった四人で挑み、そして常に完璧な成果を上げて帰ってきた。
『辺境の超新星』という二つ名は、もはやラトナだけの呼び名ではなくなっていた。
ガルドの言葉通り、彼の商隊は俺たちの武勇伝を王国中に広めていたのだ。
『ラトナに、彗星の如く現れた若きパーティーあり』
『神速の獣人剣士、孤高のエルフ魔剣士、そして一撃で戦況を覆す天才魔術師。その三人を率いるのは、謎に包まれた鑑定士のリーダー』
『彼らの名は、『アルカディア』。Bランクモンスターさえも子供扱いにするという』
吟遊詩人たちが俺たちの活躍を尾ひれをつけて歌い、その噂は人々の口から口へと燎原の火のように広がっていった。
そして、その噂は当然のように、全ての始まりの場所、王都アヴァロンにも届いていた。
---
王都アヴァロン。その中心にそびえ立つ王城の一室で、一人の男が苦虫を噛み潰したような顔で、机に叩きつけられた報告書を睨みつけていた。
男の名は、レオ。かつて俺が所属していた勇者パーティー『光の剣』のリーダーであり、俺を追放した張本人だ。
「……ガルド商会の報告書は、これだけか?」
低い声で尋ねるレオに、報告を持ってきた文官は怯えたように頷いた。
「は、はい。辺境都市ラトナを中心に活動するパーティー『アルカディア』の活躍は、現在、王国で最も注目を集めております。彼らが扱う素材やポーションの品質は、我が国の宮廷付きの職人たちのそれを遥かに凌駕するとの評判で……」
「黙れ!」
レオが机を叩き、怒鳴りつけた。文官はびくりと肩を震わせ、口をつぐむ。
「鑑定士のリーダー、だと……? ふざけたことを。辺境にそれほどの腕を持つ鑑定士がいるというのか。なぜ王宮はそいつを把握していなかった!」
レオの苛立ちは、無理もなかった。俺――アレン・ウォーカーを追放して以来、彼のパーティー『光の剣』のダンジョン攻略は完全に行き詰まっていたのだ。
アレンがいた頃は当たり前のように回避できていた罠にかかり、仲間が負傷する。アイテムの鑑定を誤り、偽物を掴まされては無駄金を使う。モンスターの弱点が分からず、格下の相手にすら苦戦を強いられる。
些細な綻びの積み重ねが、パーティー全体の士気と連携を確実に蝕んでいた。
「またガストンが怪我をしたそうね。これで今月に入って三度目よ」
部屋の隅の椅子に座っていた魔術師のサラが、冷ややかに言った。その声には以前のような自信はなく、疲労の色が濃く滲んでいる。
「仕方のないことでしょう。あの男がいなくなってから、私たちの探索はまるで目隠しで森を歩いているようなものですもの」
その言葉に、部屋のもう一人の人物――聖女リリアが、ぴくりと反応した。
彼女は窓の外を眺めながら静かに佇んでいた。その美しい顔はどこか憂いを帯び、血の気が引いているように見える。
リリアの耳にも、もちろん『アルカディア』の噂は届いていた。鑑定士が率いる、獣人、エルフ、魔術師のパーティー。その構成を聞いた時から、彼女の胸には拭い去ることのできない一つの疑念が渦巻いていた。
まさか。そんなはずはない。あの『役立たず』が、そんな活躍をしているはずがない。
だが、噂が広まるにつれ、その疑念は日に日に確信へと変わっていった。
『アルカディア』が扱うポーションの驚異的な効果。ダンジョン内の隠された通路をいとも簡単に見つけ出すという手腕。モンスターの弱点を的確に見抜くという戦術。
その全てが、かつて自分たちが足手まといだと切り捨てた一人の鑑定士の能力と、あまりにも酷似していたのだ。
「……リリア。何か考え込んでいるようだが」
レオが、訝しげに彼女に声をかけた。
リリアは、ゆっくりと振り返った。その瞳には、レオにもサラにも見せたことのない、深い後悔と、そして焦りの色が浮かんでいた。
「……いいえ。何でもありませんわ、勇者様」
彼女はそう言って、聖女らしい穏やかな笑みを浮かべてみせた。だが、その心の中は嵐のように荒れ狂っていた。
もし、本当に『アルカディア』を率いる鑑定士がアレンだったとしたら?
自分たちが捨てた石は、実は何よりも貴重な宝石だったとしたら?
そして、その宝石が今、辺境の地で、自分たちの手の届かない場所で他の美しい石たちと共に、まばゆいばかりの輝きを放っているとしたら?
リリアは、自分の胸を締め付ける、嫉妬と独占欲に似た黒い感情の正体に、まだ気づいていなかった。
彼女はただ、唇を噛みしめる。
アレン。その名前を口にするだけで胸が苦しくなる。幼い頃の楽しかった思い出が、ナイフのように彼女の心を切り刻んでいた。
王都に届いた辺境からの噂は、かつて俺を追방한 자たちの心に、静かに、しかし確実に、暗い影を落とし始めていたのだった。
もはや素材の保管場所に困ることも、売り先に悩むこともない。俺たちはダンジョンや討伐依頼で得た戦利品を、ただガルド商会のラトナ支部に持ち込むだけでよかった。そこでは俺の鑑定結果に基づいた適正価格が、即金で支払われる。
俺が作る高品質ポーションは、ガルド商会の目玉商品として扱われるようになった。『アルカディア製』というブランド名が付けられ、その驚異的な効果から、富裕層や高ランク冒険者の間で金貨数十枚という高値で取引されているらしい。
俺たちの懐は、もはや金貨を数えるのが馬鹿らしくなるほどに潤っていた。俺は稼いだ金で街の一等地に大きな屋敷を購入した。石造りの頑丈な建物で、寝室は一人一部屋。広い訓練場と、俺専用の錬金術工房まで備わっている。
「すごい……お城みたいです!」
初めて屋敷に足を踏み入れたルナが、目をキラキラと輝かせはしゃいでいる。
「まさか、私がこのような場所に住むことになるなんて……夢のようですわ」
フィオナも感極まった様子で、レースのハンカチで目頭を押さえている。
「フン。まあ、悪くない」
シルフィは腕を組んでそっぽを向きながらも、その口元はわずかに緩んでいた。
新しい拠点を得た俺たちは、これまで以上に精力的に活動を開始した。Cランク依頼はもはやウォーミングアップのようなもので、時には複数のギルドが合同で挑むようなBランクの危険な依頼にも、俺たちはたった四人で挑み、そして常に完璧な成果を上げて帰ってきた。
『辺境の超新星』という二つ名は、もはやラトナだけの呼び名ではなくなっていた。
ガルドの言葉通り、彼の商隊は俺たちの武勇伝を王国中に広めていたのだ。
『ラトナに、彗星の如く現れた若きパーティーあり』
『神速の獣人剣士、孤高のエルフ魔剣士、そして一撃で戦況を覆す天才魔術師。その三人を率いるのは、謎に包まれた鑑定士のリーダー』
『彼らの名は、『アルカディア』。Bランクモンスターさえも子供扱いにするという』
吟遊詩人たちが俺たちの活躍を尾ひれをつけて歌い、その噂は人々の口から口へと燎原の火のように広がっていった。
そして、その噂は当然のように、全ての始まりの場所、王都アヴァロンにも届いていた。
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王都アヴァロン。その中心にそびえ立つ王城の一室で、一人の男が苦虫を噛み潰したような顔で、机に叩きつけられた報告書を睨みつけていた。
男の名は、レオ。かつて俺が所属していた勇者パーティー『光の剣』のリーダーであり、俺を追放した張本人だ。
「……ガルド商会の報告書は、これだけか?」
低い声で尋ねるレオに、報告を持ってきた文官は怯えたように頷いた。
「は、はい。辺境都市ラトナを中心に活動するパーティー『アルカディア』の活躍は、現在、王国で最も注目を集めております。彼らが扱う素材やポーションの品質は、我が国の宮廷付きの職人たちのそれを遥かに凌駕するとの評判で……」
「黙れ!」
レオが机を叩き、怒鳴りつけた。文官はびくりと肩を震わせ、口をつぐむ。
「鑑定士のリーダー、だと……? ふざけたことを。辺境にそれほどの腕を持つ鑑定士がいるというのか。なぜ王宮はそいつを把握していなかった!」
レオの苛立ちは、無理もなかった。俺――アレン・ウォーカーを追放して以来、彼のパーティー『光の剣』のダンジョン攻略は完全に行き詰まっていたのだ。
アレンがいた頃は当たり前のように回避できていた罠にかかり、仲間が負傷する。アイテムの鑑定を誤り、偽物を掴まされては無駄金を使う。モンスターの弱点が分からず、格下の相手にすら苦戦を強いられる。
些細な綻びの積み重ねが、パーティー全体の士気と連携を確実に蝕んでいた。
「またガストンが怪我をしたそうね。これで今月に入って三度目よ」
部屋の隅の椅子に座っていた魔術師のサラが、冷ややかに言った。その声には以前のような自信はなく、疲労の色が濃く滲んでいる。
「仕方のないことでしょう。あの男がいなくなってから、私たちの探索はまるで目隠しで森を歩いているようなものですもの」
その言葉に、部屋のもう一人の人物――聖女リリアが、ぴくりと反応した。
彼女は窓の外を眺めながら静かに佇んでいた。その美しい顔はどこか憂いを帯び、血の気が引いているように見える。
リリアの耳にも、もちろん『アルカディア』の噂は届いていた。鑑定士が率いる、獣人、エルフ、魔術師のパーティー。その構成を聞いた時から、彼女の胸には拭い去ることのできない一つの疑念が渦巻いていた。
まさか。そんなはずはない。あの『役立たず』が、そんな活躍をしているはずがない。
だが、噂が広まるにつれ、その疑念は日に日に確信へと変わっていった。
『アルカディア』が扱うポーションの驚異的な効果。ダンジョン内の隠された通路をいとも簡単に見つけ出すという手腕。モンスターの弱点を的確に見抜くという戦術。
その全てが、かつて自分たちが足手まといだと切り捨てた一人の鑑定士の能力と、あまりにも酷似していたのだ。
「……リリア。何か考え込んでいるようだが」
レオが、訝しげに彼女に声をかけた。
リリアは、ゆっくりと振り返った。その瞳には、レオにもサラにも見せたことのない、深い後悔と、そして焦りの色が浮かんでいた。
「……いいえ。何でもありませんわ、勇者様」
彼女はそう言って、聖女らしい穏やかな笑みを浮かべてみせた。だが、その心の中は嵐のように荒れ狂っていた。
もし、本当に『アルカディア』を率いる鑑定士がアレンだったとしたら?
自分たちが捨てた石は、実は何よりも貴重な宝石だったとしたら?
そして、その宝石が今、辺境の地で、自分たちの手の届かない場所で他の美しい石たちと共に、まばゆいばかりの輝きを放っているとしたら?
リリアは、自分の胸を締め付ける、嫉妬と独占欲に似た黒い感情の正体に、まだ気づいていなかった。
彼女はただ、唇を噛みしめる。
アレン。その名前を口にするだけで胸が苦しくなる。幼い頃の楽しかった思い出が、ナイフのように彼女の心を切り刻んでいた。
王都に届いた辺境からの噂は、かつて俺を追방한 자たちの心に、静かに、しかし確実に、暗い影を落とし始めていたのだった。
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