鑑定スキルで万物を見抜く俺、実は女の子の好感度も丸見えです

夏見ナイ

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第44話:【視点切替】勇者パーティーの現状

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湿った空気が、錆びた鉄の匂いを運んでくる。勇者レオが率いるパーティー『光の剣』は、王都近郊のダンジョン『鉄錆の回廊』の第二階層にいた。ここは彼らが以前、訓練代わりに利用していた場所だ。本来なら、目をつぶってでも進めるはずだった。
「ぐっ……!」
前方で、鈍い呻き声が上がった。パーティーの盾役である戦士ガストンが、床から突き出た錆びた槍に足を貫かれ、その場に膝をついている。
「また罠か! クソッ、どうなってやがる!」
ガストンが悪態をつきながら槍を引き抜こうともがく。だが、槍には返しがついており、動かせば動かすほど傷が広がった。
「動くな、ガストン! リリア、回復を!」
レオが苛立ちを隠せない声で叫ぶ。聖女リリアが駆け寄り、その傷口に癒しの光をかざした。じゅっと肉の焼ける音がして、傷は塞がっていく。だが、ガストンの顔に浮かんだ苦悶の色は消えない。
「【ヒール】!」
リリアの詠唱が、虚しくダンジョンに響く。傷は塞がっても、一度受けた痛みと失った体力は完全には戻らない。
これが、今月に入って何度目の光景だろうか。
アレンがいた頃は、考えられないことだった。彼はどんな些細な罠も見逃さず、常にパーティーに安全な道を示してくれていた。あの頃、彼らは罠の存在そのものを意識することすらほとんどなかった。それが当たり前だと思っていた。
「チッ、使えない奴め。さっさと立て」
レオは治療を終えたガストンに、労いの言葉一つかけずに吐き捨てた。彼の苛立ちは限界に達しつつある。
「うるせえ! てめえの無謀な指示のせいだろうが!」
ガストンが、初めてレオに牙を剥いた。これまで勇者であるレオの言葉は絶対だった。だが、彼の権威は度重なる失敗によって少しずつ失墜していた。
「なんだと? この俺に口答えするか!」
「当たり前だ! アレンがいた頃は、こんな怪我一つしなかった! なのに、あいつを追い出してから、俺たちは進むことすらままならねえじゃねえか!」
ガストンの言葉は、パーティー全員が心の奥底で感じていた、しかし口に出せなかった真実だった。
アレン・ウォーカー。彼らが『役立たず』と断じ、追放した鑑定士。
彼の不在は、まるで船から羅針盤と海図を投げ捨てたかのように、この勇者パーティーを迷走させていた。
索敵ができないため魔物の奇襲に常に怯えなければならない。
罠を解除できず、単純なダンジョンでさえ命懸けの探索となる。
手に入れたアイテムの価値が分からず、貴重な素材をゴミとして捨ててしまったり、逆に呪われた武具を不用意に持ち帰ってしまったりもした。
そして、何より深刻だったのは補給管理の破綻だった。
アレンは常にパーティー全体の消耗を計算し、最適な量のポーションや食料を準備していた。いつ、誰が、どれだけ回復薬を使うべきか。彼の管理は完璧だった。
だが、今やその役目を担う者はいない。
「ポーションは、もう残り少ないわよ。ガストンの怪我で、ほとんど使い切ってしまったわ」
魔術師のサラが、冷たい声で事実を告げる。
「なんだと!? まだ第二階層だぞ!」
レオが愕然とする。彼らは、自分たちがどれだけ無駄にポーションを浪費しているか、全く把握していなかった。

パーティー内の雰囲気は最悪だった。レオは自分の判断ミスを認められず、苛立ちを仲間にぶつける。ガストンは度重なる負傷に不満を募らせリーダーに反発する。サラは、この愚かな状況に半ば呆れ、冷めた態度で傍観している。
そして、リリアは。
彼女はただ黙って、仲間たちの言い争いを聞いていた。聖女としてパーティーの和を保つのも彼女の役目のはずだった。だが、今の彼女にはその気力すらなかった。
彼女の心は、ここにはない。
遠い辺境の地で、今頃、彼はどうしているのだろうか。
『アルカディア』。そのパーティーの名を聞くたびに、リリアの胸は締め付けられるように痛んだ。鑑定士が率いる、獣人、エルフ、魔術師のパーティー。その活躍は、今や王都でも知らぬ者はいない。
彼女は自分たちが犯した過ちの大きさに、ようやく気づき始めていた。
アレンは、役立たずなどではなかった。彼こそが、このパーティーの心臓であり頭脳だったのだ。彼がいたからこそ、勇者は勇者として輝き、仲間たちは安心して戦うことができた。
その土台を、自分たちの手で愚かにも崩してしまった。
「……もう、戻りましょう、勇者様」
リリアが、か細い声で言った。
「これ以上進むのは危険です」
その言葉は、このパーティーの現状を何よりも雄弁に物語っていた。かつては魔王軍の幹部さえも打ち破った彼らが、今やゴブリンやスケルトンがうろつくだけの低級ダンジョンでさえ、攻略できなくなってしまっているのだ。

レオは悔しそうに歯ぎしりしたが、反論できなかった。ポーションも尽き、仲間たちの士気も最低。これ以上進めば、全滅の可能性すらある。
「……撤退する」
彼は屈辱に満ちた声で、そう告げた。
誰一人、言葉を発しない。ただ、重苦しい沈黙だけが彼らを支配していた。
地上へと戻る道すがら、彼らは一体のゴブリンが落とした汚れた小袋を見つけた。以前のアレンなら、それがゴブリンの腹の中に隠されていた希少な『幸運の石』であることを見抜き、パーティーにささやかな幸運をもたらしていただろう。
だが、彼らはその価値に気づかず、ただの汚い石袋として無造作に蹴り飛ばし、通り過ぎていった。
勇者パーティー『光の剣』の凋落。それは、誰の目にも明らかだった。
全ては、あの日、一人の地味な鑑定士を彼らが見下し、切り捨てたことから始まっていた。その事実に、彼らが本当の意味で向き合うのは、もう少しだけ先のことになる。
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