鑑定スキルで万物を見抜く俺、実は女の子の好感度も丸見えです

夏見ナイ

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第45話:亀裂

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王都へ帰還した勇者パーティーを待っていたのは、冷ややかな視線と失望のため息だった。
ギルドに依頼の失敗を報告すると、受付係はあからさまに軽蔑した表情を浮かべた。「勇者様御一行が、鉄錆の回廊ごときに手間取るとは」という言葉が、嫌味たっぷりに突き刺さる。
かつては英雄として称えられた彼らが、今や嘲笑の対象となりつつあった。その落差に、パーティーメンバーのプライドは深く傷つけられていた。

その日の夜、彼らが拠点とする高級宿の一室は、かつてないほどの重苦しい空気に包まれていた。
「……なぜだ。なぜ、こうも上手くいかない」
レオが、テーブルに置かれたグラスのワインを睨みつけながら低い声で呟いた。その問いに、誰も答えない。答えは皆が分かっていたからだ。だが、それを認めることは、自分たちの愚かさを認めることと同義だった。
「全て、あいつのせいだ」
沈黙を破ったのはレオだった。彼はグラスを乱暴に掴むと、ワインを一気に呷った。
「あの役立たずが、俺たちを呪っているに違いない。そうだ、そうでなければ、こんなことになるはずがない」
あまりにも身勝手な責任転嫁だった。だが、今のレオにはそうでも思わなければ自分を保つことができなかった。

その言葉に、ついにガストンが堪忍袋の緒を切らした。
「ふざけるな! てめえの判断ミスを、アレンのせいにするんじゃねえ!」
ガストンはテーブルを拳で叩き、立ち上がった。その目は怒りで血走っている。
「役立たずはどっちだ! 罠一つ見抜けず、仲間に怪我ばかりさせる無能なリーダーがよ!」
「なんだと、この脳筋ゴリラが! 俺に逆らう気か!」
レオも立ち上がり、ガストンを睨みつける。二人の間を、一触即発の険悪な空気が流れた。
「まあまあ、二人とも落ち着いて」
サラが、面倒くさそうに間に入った。だが、その言葉には全く心がこもっていない。
「仲間割れなんてみっともないわ。それより、今後のことを考えましょう。このままでは勇者パーティーの名が泣くわよ」
彼女の冷静すぎる言葉は、火に油を注いだだけだった。
「てめえは黙ってろ! いつも涼しい顔して、高みの見物ばかりしやがって!」
ガストンがサラにまで噛み付く。
「あら、口の利き方には気をつけなさいよ、筋肉馬鹿。私がいなければ、あなたなんてとっくにオークの餌食になっていたはずだわ」
「なんだと!」

もはや収拾がつかない。かつて魔王軍と戦った仲間たちの姿は、そこにはなかった。互いを罵り、責任をなすりつけ合うだけの醜い集団。それが勇者パーティー『光の剣』の、偽らざる現状だった。

リリアは、その光景をただ黙って見ていた。その美しい顔は、まるで能面のように何の感情も浮かべていない。
彼女の心は、すでにここにはなかった。
彼女の脳裏に浮かんでいたのは、辺境の地で活躍するという鑑定士の姿。
アレン。
彼は今、どんな仲間たちと、どんな冒険をしているのだろうか。
きっと、こんな醜い言い争いなどしていないのだろう。彼が率いるパーティーは、互いを信頼し支え合っているに違いない。
なぜなら、アレンはそういう男だったからだ。
彼は決して目立つ存在ではなかった。いつも一歩引いて、パーティー全体のことを見ていた。誰が疲れているか、誰が無理をしているか。彼は鑑定スキルを使わずとも、人の心の機微に敏感だった。
そして、さりげなく手を差し伸べる。
「ガストンさん、その斧、少し刃こぼれしていますね。俺が研いでおきますよ」
「サラさん、次の街で新しい魔術書が入荷するらしいです。見てみますか?」
そんな些細な気遣い。あの頃、彼らはそれを当たり前のこととして気にも留めていなかった。だが、今になってその一つ一つがどれほど貴重なものだったかを痛感している。
彼こそが、このバラバラな個性を持つパーティーを繋ぎ止める、かすがいだったのだ。
そのかすがいを、自分たちの手で叩き出してしまった。
「……もう、やめてください」
リリアが静かに、しかし凛とした声で言った。
その声には聖女としての威厳が宿っていた。言い争っていた三人が、はっとしたように彼女を見る。
「今の私たちに必要なのは、内輪揉めではありません。どうすれば、かつての輝きを取り戻せるのか。それを冷静に考えるべきです」
リリアの言葉に、三人はぐっと言葉に詰まった。正論だったからだ。
「……そのためには」
リリアは一度言葉を区切った。そして、言うべきか言うまいか、逡巡するように唇を噛んだ。
だが、彼女はもう自分の中の感情に嘘をつくことができなかった。
「……アレンを、呼び戻すべきです」

その言葉が、部屋に重く響き渡った。
それは、彼らがずっと目を背けてきた、唯一の、そして最善の解決策だった。
レオはプライドを傷つけられたように顔を真っ赤にした。ガストンはバツが悪そうに目を逸らし、サラは興味深そうにリリアの顔をじっと見つめていた。
勇者パーティーに、決定的な亀裂が入った瞬間だった。
その亀裂は、もはや誰にも修復することはできないのかもしれない。
そして、その原因を作ったのは他の誰でもない、彼ら自身なのだった。
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