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第46話:リリアの後悔
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リリアが放った「アレンを呼び戻すべき」という言葉は、勇者パーティー内にこれまで以上の波紋を広げた。
「何を馬鹿なことを言っているんだ、リリア!」
最初に反発したのは、やはりレオだった。彼の勇者としてのプライドが、一度捨てた人間を呼び戻すという屈辱的な行為を許さなかった。
「俺たちが追い出した男に、頭を下げろとでも言うのか! そんなこと、できるはずがないだろう!」
「ですが、他に方法がありますか!」
リリアが珍しく感情的な声で反論する。
「このままでは、私たちは本当にダメになります! 勇者パーティーの名声も、人々の信頼も、全て失ってしまう! それでもいいのですか!」
「……それは」
レオは言葉に詰まった。リリアの言う通りだったからだ。
「俺は……賛成だ」
意外なことに、口を開いたのはガストンだった。彼はバツが悪そうに頭を掻きながら、ぽつりと言った。
「確かにアレンを追い出したのは、俺たちの間違いだった。あいつがいなきゃ、俺たちはまともにダンジョンの一つも歩けねえ。……今なら分かる。俺は、あいつに謝りてえ」
彼の率直な言葉に、サラはふっと息を漏らした。
「脳筋にしては、たまには良いことを言うじゃない。私も反対はしないわ。このままジリ貧になるよりは、よっぽどマシよ。それに……」
サラは意味深にリリアを見た。
「あの『アルカディア』のポーション、一度使ってみたいと思っていたところだもの」
三人のうち二人までが賛成に回った。レオは孤立した形となった。彼は悔しそうに歯を食いしばり、部屋の中を苛立たしげに歩き回る。
「……勝手にしろ! 俺は認めん! だが、お前たちがどうしてもと言うなら好きにすればいい! ただし、俺は頭など下げんからな!」
レオはそう吐き捨てると、部屋から出て行ってしまった。残された三人の間に、気まずい沈黙が流れる。
その夜、リリアは一人、自室のベッドの上で膝を抱えていた。
昼間の議論の後、彼らは結局アレンを連れ戻す方向で動き出すことを決めた。まずは『アルカディア』が本当にアレンのパーティーなのか、確かな情報を掴むことから始めるという。
だが、リリアの心は晴れなかった。
アレンを呼び戻す。それは正しい判断だと分かっている。パーティーのため、世界のため、それが最善の道であることも。
なのに、なぜだろう。胸の奥が、ずきずきと痛むのは。
彼女は目を閉じた。すると、瞼の裏に幼い頃のアレンの姿が浮かんでくる。
いつも彼女の後ろをついて歩いていた、少し気弱な少年。
彼女が聖女の力に目覚めた時、自分のことのように喜んでくれた、優しい少年。
「いつか、僕がリリアを守る騎士になるよ」と、照れながら約束してくれた、愛しい幼馴染。
その思い出が、今は棘のように彼女の心を刺す。
いつから、自分は彼を見下すようになったのだろう。
いつから、彼の優しさを当たり前のものだと思うようになったのだろう。
いつから、彼の存在を自分の隣にいるのが当然の『所有物』のように、感じるようになったのだろう。
聖女として人々から称賛され、勇者という特別な存在の隣に立つようになって、自分は驕り高ぶっていたのだ。自分は特別な人間で、アレンは自分より劣った存在だと無意識のうちに決めつけていた。
そして、彼が自分以外の誰かと仲良くしているのを見るだけで胸の奥がざわついた。彼が自分の知らない世界で評価されていると聞けば、言いようのない苛立ちを感じた。
それは、嫉妬だった。そして、歪んだ独占欲だった。
自分が彼を『役立たず』と罵り、追放に加担したのは、彼が自分の手の届かない場所へ行ってしまうことへの、無意識の恐怖からだったのかもしれない。
自分だけを見ていてほしい。自分のためだけに、その力を使ってほしい。
そんな醜い感情。
「……私……」
リリアは自分の心の闇に気づき、愕然とした。聖女と呼ばれる自分が、こんなにも汚れた感情を抱いていたなんて。
そして、今、彼を呼び戻そうとしているのも、本当にパーティーのためだけなのだろうか。
違う。
辺境の地で、獣人の少女やエルフの女剣士といった、自分以外の女性たちに囲まれ幸せそうにしている彼が、許せないのだ。
彼の居場所は、自分の隣でなければならない。彼の力は、自分のために使われるべきだ。
そんな身勝な想いが、自分の心の大部分を占めていることにリリアは気づいてしまった。
「……あ……ああ……」
込み上げてくる自己嫌悪に、リリアは声を殺して泣いた。
後悔。その二文字が、彼女の心を容赦なく苛む。
もし、あの日、彼を引き留めていたら。
もし、あの日、彼の価値を正しく認めてあげられていたら。
今頃、自分たちは全く違う未来を歩んでいたのかもしれない。
だが、失われた時間はもう戻らない。
彼女は、夜ごと夢を見るようになった。
それは、アレンと二人で王都の丘の上から星を眺めていた、遠い昔の夢。
『リリアは、一番星みたいだね。キラキラしてて、綺麗だよ』
『もう、アレンったら……』
夢の中で彼女は幸せそうに笑っている。
だが、目が覚めた時、彼女を待っているのは冷たい現実と、頬を伝う一筋の涙だけだった。
聖女リリアの後悔は、深く、そして暗い海の底へと彼女をゆっくりと沈めていくようだった。
彼女はまだ知らない。その後悔が、やがて彼女をある一つの大きな決断へと導いていくことになるということを。
「何を馬鹿なことを言っているんだ、リリア!」
最初に反発したのは、やはりレオだった。彼の勇者としてのプライドが、一度捨てた人間を呼び戻すという屈辱的な行為を許さなかった。
「俺たちが追い出した男に、頭を下げろとでも言うのか! そんなこと、できるはずがないだろう!」
「ですが、他に方法がありますか!」
リリアが珍しく感情的な声で反論する。
「このままでは、私たちは本当にダメになります! 勇者パーティーの名声も、人々の信頼も、全て失ってしまう! それでもいいのですか!」
「……それは」
レオは言葉に詰まった。リリアの言う通りだったからだ。
「俺は……賛成だ」
意外なことに、口を開いたのはガストンだった。彼はバツが悪そうに頭を掻きながら、ぽつりと言った。
「確かにアレンを追い出したのは、俺たちの間違いだった。あいつがいなきゃ、俺たちはまともにダンジョンの一つも歩けねえ。……今なら分かる。俺は、あいつに謝りてえ」
彼の率直な言葉に、サラはふっと息を漏らした。
「脳筋にしては、たまには良いことを言うじゃない。私も反対はしないわ。このままジリ貧になるよりは、よっぽどマシよ。それに……」
サラは意味深にリリアを見た。
「あの『アルカディア』のポーション、一度使ってみたいと思っていたところだもの」
三人のうち二人までが賛成に回った。レオは孤立した形となった。彼は悔しそうに歯を食いしばり、部屋の中を苛立たしげに歩き回る。
「……勝手にしろ! 俺は認めん! だが、お前たちがどうしてもと言うなら好きにすればいい! ただし、俺は頭など下げんからな!」
レオはそう吐き捨てると、部屋から出て行ってしまった。残された三人の間に、気まずい沈黙が流れる。
その夜、リリアは一人、自室のベッドの上で膝を抱えていた。
昼間の議論の後、彼らは結局アレンを連れ戻す方向で動き出すことを決めた。まずは『アルカディア』が本当にアレンのパーティーなのか、確かな情報を掴むことから始めるという。
だが、リリアの心は晴れなかった。
アレンを呼び戻す。それは正しい判断だと分かっている。パーティーのため、世界のため、それが最善の道であることも。
なのに、なぜだろう。胸の奥が、ずきずきと痛むのは。
彼女は目を閉じた。すると、瞼の裏に幼い頃のアレンの姿が浮かんでくる。
いつも彼女の後ろをついて歩いていた、少し気弱な少年。
彼女が聖女の力に目覚めた時、自分のことのように喜んでくれた、優しい少年。
「いつか、僕がリリアを守る騎士になるよ」と、照れながら約束してくれた、愛しい幼馴染。
その思い出が、今は棘のように彼女の心を刺す。
いつから、自分は彼を見下すようになったのだろう。
いつから、彼の優しさを当たり前のものだと思うようになったのだろう。
いつから、彼の存在を自分の隣にいるのが当然の『所有物』のように、感じるようになったのだろう。
聖女として人々から称賛され、勇者という特別な存在の隣に立つようになって、自分は驕り高ぶっていたのだ。自分は特別な人間で、アレンは自分より劣った存在だと無意識のうちに決めつけていた。
そして、彼が自分以外の誰かと仲良くしているのを見るだけで胸の奥がざわついた。彼が自分の知らない世界で評価されていると聞けば、言いようのない苛立ちを感じた。
それは、嫉妬だった。そして、歪んだ独占欲だった。
自分が彼を『役立たず』と罵り、追放に加担したのは、彼が自分の手の届かない場所へ行ってしまうことへの、無意識の恐怖からだったのかもしれない。
自分だけを見ていてほしい。自分のためだけに、その力を使ってほしい。
そんな醜い感情。
「……私……」
リリアは自分の心の闇に気づき、愕然とした。聖女と呼ばれる自分が、こんなにも汚れた感情を抱いていたなんて。
そして、今、彼を呼び戻そうとしているのも、本当にパーティーのためだけなのだろうか。
違う。
辺境の地で、獣人の少女やエルフの女剣士といった、自分以外の女性たちに囲まれ幸せそうにしている彼が、許せないのだ。
彼の居場所は、自分の隣でなければならない。彼の力は、自分のために使われるべきだ。
そんな身勝な想いが、自分の心の大部分を占めていることにリリアは気づいてしまった。
「……あ……ああ……」
込み上げてくる自己嫌悪に、リリアは声を殺して泣いた。
後悔。その二文字が、彼女の心を容赦なく苛む。
もし、あの日、彼を引き留めていたら。
もし、あの日、彼の価値を正しく認めてあげられていたら。
今頃、自分たちは全く違う未来を歩んでいたのかもしれない。
だが、失われた時間はもう戻らない。
彼女は、夜ごと夢を見るようになった。
それは、アレンと二人で王都の丘の上から星を眺めていた、遠い昔の夢。
『リリアは、一番星みたいだね。キラキラしてて、綺麗だよ』
『もう、アレンったら……』
夢の中で彼女は幸せそうに笑っている。
だが、目が覚めた時、彼女を待っているのは冷たい現実と、頬を伝う一筋の涙だけだった。
聖女リリアの後悔は、深く、そして暗い海の底へと彼女をゆっくりと沈めていくようだった。
彼女はまだ知らない。その後悔が、やがて彼女をある一つの大きな決断へと導いていくことになるということを。
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