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第53話:惨めな退場
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俺たちが屋敷の中に消えていった後も、勇者パーティーの四人はその場から動けずにいた。まるで、時間の止まった彫像のように。
アレンの屋敷の重厚な扉は、彼らと、彼らが失ったものとを隔てる絶対的な壁として、冷たくそびえ立っている。
やがて、その重苦しい沈黙を破ったのは、意外にも近くで成り行きを見守っていた街の人々の声だった。
最初はおずおずと、しかし次第に大きく、その声は勇者パーティーへと向けられていった。
「おい、見たかよ、今の」
「ああ。王都の勇者様一行だろ? なんで、アレンさんたちにあんな偉そうな態度とってたんだ?」
「分かんねえのか? 噂じゃ、アレンさんは昔あのパーティーにいたらしいぜ。で、役立たずだってんで追い出されたんだとよ」
その声に、レオたちの肩がびくりと震えた。自分たちの過去の過ちが、こんな辺境の地ですでに知れ渡っていたという事実に、彼らは愕然とした。
「ひでえ話だよな。アレンさんたちが、どれだけこの街のために尽くしてくれたか知らねえのか」
「そうだそうだ! プレイグラットを倒してくれたのも、オークの群れから村を救ってくれたのも、全部アルカディアのおかげじゃねえか!」
「それに比べて、なんだってんだ、あいつらは。困った時だけ助けを求めに来るなんて、虫が良すぎるぜ!」
人々の声は、徐々に怒りの色を帯びていく。彼らにとって『アルカディア』、特にアレンは、もはやただの冒険者ではない。この街を救い、発展させてくれた恩人であり、誇りだった。その英雄を侮辱する者たちを、彼らは許すことができなかった。
一人、また一人と、野次馬だったはずの人々が勇者パーティーを取り囲むように集まってくる。その数は、あっという間に数十人に膨れ上がった。屈強な冒険者、頑固そうなドワーフの鍛冶職人、普段は温厚な食堂の女将さんまで。
彼らの瞳には、明確な敵意が宿っていた。
「おい、王都の勇者様よぉ。あんたらに俺たちの英雄をどうこう言う資格はねえんだよ」
「さっさとこの街から出ていきな!」
「そうだ、出ていけ! ここはお前たちの来る場所じゃねえ!」
非難の嵐。それは、レオたちがこれまで経験したことのない、完全なアウェーの空気だった。王都では、彼らは常に称賛と羨望の的だった。人々から、これほどまでに剥き出しの敵意を向けられたことなど一度もなかったのだ。
「な……なんだ、お前たちは! 俺が誰だか分かっているのか!」
レオは、狼狽しながらも虚勢を張って叫んだ。
「俺は魔王を倒した勇者レオだぞ! 無礼であろう!」
だが、その権威はもはやここでは何の効力も持たなかった。
「知るか、そんなもん!」
一人の冒険者が、地面に唾を吐き捨てた。
「俺たちにとっての英雄はアレンさんたちだ。あんたらじゃねえ!」
「そうだ、そうだ!」という同調の声が、波のように広がる。
ガストンはその光景に青ざめ、サラは心底うんざりしたようにため息をついた。リリアは、人々の非難の声に耐えきれず、俯いたまま震えている。
完全に、孤立無援。
彼らは、自分たちがラトナという街全体を敵に回してしまったことを、ようやく理解した。ここには、彼らの味方など一人もいない。
レオは、悔しそうに歯ぎしりし、周囲を睨みつけた。だが、彼一人でこの数の人間を相手にすることはできない。それに、ここで騒ぎを起こせば勇者としての最後の威厳さえも失うことになるだろう。
彼は、屈辱に耐えながら低い声で仲間に命じた。
「……行くぞ」
その一言を絞り出すのが、彼の精一杯だった。
勇者パーティー『光の剣』は、街の人々の罵声と冷たい視線を浴びながら、すごすごとその場を去るしかなかった。
その背中は、あまりにも小さく、惨めに見えた。
かつて魔王を討ち、世界を救った英雄たちの無様な退場。
彼らがラトナの街の門をくぐるまで、非難の声が止むことはなかった。
リリアは馬上で一度だけ振り返った。
夕日に染まる街の向こうに、アレンの屋敷が小さく見える。
そこには、彼女が失ってしまった温かい光景が広がっているのだろう。
もう二度と、自分の手には届かない、幸せな日常が。
涙が、彼女の頬を静かに伝った。
それは、自分たちの愚かさが招いた当然の報いだった。
辺境の街ラトナは、こうして過去の亡霊を完全に追い払った。そして、街の人々と『アルカディア』の絆は、この一件を通してさらに強く、固いものとなっていくのだった。
アレンの屋敷の重厚な扉は、彼らと、彼らが失ったものとを隔てる絶対的な壁として、冷たくそびえ立っている。
やがて、その重苦しい沈黙を破ったのは、意外にも近くで成り行きを見守っていた街の人々の声だった。
最初はおずおずと、しかし次第に大きく、その声は勇者パーティーへと向けられていった。
「おい、見たかよ、今の」
「ああ。王都の勇者様一行だろ? なんで、アレンさんたちにあんな偉そうな態度とってたんだ?」
「分かんねえのか? 噂じゃ、アレンさんは昔あのパーティーにいたらしいぜ。で、役立たずだってんで追い出されたんだとよ」
その声に、レオたちの肩がびくりと震えた。自分たちの過去の過ちが、こんな辺境の地ですでに知れ渡っていたという事実に、彼らは愕然とした。
「ひでえ話だよな。アレンさんたちが、どれだけこの街のために尽くしてくれたか知らねえのか」
「そうだそうだ! プレイグラットを倒してくれたのも、オークの群れから村を救ってくれたのも、全部アルカディアのおかげじゃねえか!」
「それに比べて、なんだってんだ、あいつらは。困った時だけ助けを求めに来るなんて、虫が良すぎるぜ!」
人々の声は、徐々に怒りの色を帯びていく。彼らにとって『アルカディア』、特にアレンは、もはやただの冒険者ではない。この街を救い、発展させてくれた恩人であり、誇りだった。その英雄を侮辱する者たちを、彼らは許すことができなかった。
一人、また一人と、野次馬だったはずの人々が勇者パーティーを取り囲むように集まってくる。その数は、あっという間に数十人に膨れ上がった。屈強な冒険者、頑固そうなドワーフの鍛冶職人、普段は温厚な食堂の女将さんまで。
彼らの瞳には、明確な敵意が宿っていた。
「おい、王都の勇者様よぉ。あんたらに俺たちの英雄をどうこう言う資格はねえんだよ」
「さっさとこの街から出ていきな!」
「そうだ、出ていけ! ここはお前たちの来る場所じゃねえ!」
非難の嵐。それは、レオたちがこれまで経験したことのない、完全なアウェーの空気だった。王都では、彼らは常に称賛と羨望の的だった。人々から、これほどまでに剥き出しの敵意を向けられたことなど一度もなかったのだ。
「な……なんだ、お前たちは! 俺が誰だか分かっているのか!」
レオは、狼狽しながらも虚勢を張って叫んだ。
「俺は魔王を倒した勇者レオだぞ! 無礼であろう!」
だが、その権威はもはやここでは何の効力も持たなかった。
「知るか、そんなもん!」
一人の冒険者が、地面に唾を吐き捨てた。
「俺たちにとっての英雄はアレンさんたちだ。あんたらじゃねえ!」
「そうだ、そうだ!」という同調の声が、波のように広がる。
ガストンはその光景に青ざめ、サラは心底うんざりしたようにため息をついた。リリアは、人々の非難の声に耐えきれず、俯いたまま震えている。
完全に、孤立無援。
彼らは、自分たちがラトナという街全体を敵に回してしまったことを、ようやく理解した。ここには、彼らの味方など一人もいない。
レオは、悔しそうに歯ぎしりし、周囲を睨みつけた。だが、彼一人でこの数の人間を相手にすることはできない。それに、ここで騒ぎを起こせば勇者としての最後の威厳さえも失うことになるだろう。
彼は、屈辱に耐えながら低い声で仲間に命じた。
「……行くぞ」
その一言を絞り出すのが、彼の精一杯だった。
勇者パーティー『光の剣』は、街の人々の罵声と冷たい視線を浴びながら、すごすごとその場を去るしかなかった。
その背中は、あまりにも小さく、惨めに見えた。
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彼らがラトナの街の門をくぐるまで、非難の声が止むことはなかった。
リリアは馬上で一度だけ振り返った。
夕日に染まる街の向こうに、アレンの屋敷が小さく見える。
そこには、彼女が失ってしまった温かい光景が広がっているのだろう。
もう二度と、自分の手には届かない、幸せな日常が。
涙が、彼女の頬を静かに伝った。
それは、自分たちの愚かさが招いた当然の報いだった。
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