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第54話:祝杯
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勇者パーティーがラトナを去った後、俺たちの屋敷の前はしばらくの間、街の人々の歓声に包まれていた。彼らは、俺たちが勇者たちを追い返したことを自分たちの勝利のように喜んでくれていた。
「よくやったぞ、アルカディア!」
「俺たちの英雄に、指一本触れさせやしねえ!」
そんな声援に、俺は屋敷の窓からそっと手を振って応えた。ルナやフィオナは人々の温かい歓迎に、少し照れくさそうに、しかし嬉しそうに微笑んでいる。シルフィは相変わらず「騒がしい奴らだ」と呟いていたが、その横顔はどこか柔らかかった。
やがて人々の興奮も収まり、街がいつもの日常を取り戻し始めた頃、俺たちは屋敷のダイニングルームに集まっていた。
テーブルの上には、俺が腕によりをかけて作った料理が並んでいる。ガルド商会から特別に仕入れたAランクの牛肉を使ったローストビーフ、森で採れた珍しいキノコのクリームスープ、そしてフィオナが魔法で冷やしてくれた果実たっぷりのサングリア。
今日は祝杯だ。
過去との完全な決別と、俺たちの揺るぎない絆を祝うための特別な宴だった。
「じゃあ、乾杯しようか」
俺がグラスを掲げると、三人もそれぞれのグラスを手に取った。
「何に乾杯するんですか?」
ルナがこてんと首を傾げて尋ねる。
「そうだな……」
俺は少し考えてから、笑顔で言った。
「俺たちの新しい門出と、最高の仲間たちに。乾杯」
「「「乾杯!」」」
カチン、と軽やかな音が響き、四つのグラスが合わさった。甘いサングリアが喉を心地よく潤していく。
「それにしても、驚きましたわ。まさかあの方々が本当にここに来るなんて」
フィオナが、興奮冷めやらぬといった様子で言った。
「全くだ。随分とみっともない姿を晒してくれたもんだな」
シルフィが、ローストビーフを口に運びながら楽しそうに言う。
「でも、少しだけ怖かったです……。あの勇者様、アレン様に剣を向けようとして……」
ルナが少しだけ不安そうな顔をする。俺はそんな彼女の頭を優しく撫でた。
「大丈夫だ。君たちがいてくれたから、俺は少しも怖くなかったさ」
俺の言葉に、ルナは嬉しそうに目を細め、俺の腕にすり寄ってきた。
食事は和やかな雰囲気の中で進んだ。俺たちは、あの勇者パーティーのことなどもうすっかり忘れてしまったかのように、今日の出来事やこれからの冒険の計画について語り合った。
「次の依頼は、北の山脈に現れたというアイスグリフォンの討伐なんてどうだろうか」
「まあ! 氷のグリフォンですの!? 素敵ですわ!」
「氷か……。私の炎の魔法の良い的になりそうだな」
「アレン様が行くところなら、私、どこへでもついていきます!」
他愛のない会話。だが、その一つ一つが俺にとっては宝物のように感じられた。
孤独だった俺に、こんなにも温かい食卓が与えられた。信頼できる仲間たちと笑い合いながら未来を語ることができる。これ以上の幸せが他にあるだろうか。
食事が一段落した頃、フィオナが少し改まった表情で俺に向き直った。
「アレン先生。一つ、お聞きしてもよろしいでしょうか」
「なんだ?」
「……あの方々の中にいた聖女様。彼女は先生の幼馴染だったと伺いました。先生は……その……彼女に対して、もう何の未練もおありにならないのですか?」
それは、少しだけデリケートな質問だった。ルナとシルフィも、興味深そうに俺の顔を見つめている。
俺は、グラスに残ったサングリアをゆっくりと飲み干してから静かに答えた。
「未練、か。そうだな……」
俺は、リリアの最後の絶望に満ちた表情を思い出した。
「全くない、と言えば嘘になるかもしれない。幼い頃の楽しい思い出は確かにあったからな。それが、あんな形で終わってしまったことに対して少しの痛みは感じるよ」
俺は正直な気持ちを打ち明けた。
「だが、それはもう遠い昔の話だ。今の俺にとって、彼女はただの『過去の人』でしかない。俺の心の中にあるのは、後悔や未練じゃない。これから君たちと一緒にどんな冒険ができるだろうかっていう、未来への期待だけだ」
俺の言葉に、三人は安堵したような、そして嬉しそうな表情を浮かべた。
「そうですわよね! 過去よりも未来ですわ!」
「アレン様!」
「……フン。まあ、それが賢明な判断だな」
彼女たちの頭上に輝く、それぞれの色のオーラがひときわ強く、そして温かく輝いたように見えた。
この祝杯は、俺たち『アルカディア』にとって一つの大きな節目となった。
俺たちは過去の亡霊を完全に振り払った。そして、互いの絆がどんな伝説の武具よりも強く、どんな城壁よりも固いものであることを再確認したのだ。
夜が更け、宴が終わる頃、俺は一人、屋敷のバルコニーに出てラトナの街の夜景を眺めていた。煌めく街の灯りは、まるで星空のようだ。
「ここが俺の帰る場所なんだな」
しみじみと、そう思った。
もう迷うことはない。俺は、この愛すべき仲間たちと共にこの街で生きていく。
辺境の超新星の物語はまだ始まったばかり。これから先、どんな困難が待ち受けていようとも、この仲間たちと一緒ならきっと乗り越えていけるだろう。
俺は、澄み切った夜空に向かって静かに、しかし力強くそう誓った。
「よくやったぞ、アルカディア!」
「俺たちの英雄に、指一本触れさせやしねえ!」
そんな声援に、俺は屋敷の窓からそっと手を振って応えた。ルナやフィオナは人々の温かい歓迎に、少し照れくさそうに、しかし嬉しそうに微笑んでいる。シルフィは相変わらず「騒がしい奴らだ」と呟いていたが、その横顔はどこか柔らかかった。
やがて人々の興奮も収まり、街がいつもの日常を取り戻し始めた頃、俺たちは屋敷のダイニングルームに集まっていた。
テーブルの上には、俺が腕によりをかけて作った料理が並んでいる。ガルド商会から特別に仕入れたAランクの牛肉を使ったローストビーフ、森で採れた珍しいキノコのクリームスープ、そしてフィオナが魔法で冷やしてくれた果実たっぷりのサングリア。
今日は祝杯だ。
過去との完全な決別と、俺たちの揺るぎない絆を祝うための特別な宴だった。
「じゃあ、乾杯しようか」
俺がグラスを掲げると、三人もそれぞれのグラスを手に取った。
「何に乾杯するんですか?」
ルナがこてんと首を傾げて尋ねる。
「そうだな……」
俺は少し考えてから、笑顔で言った。
「俺たちの新しい門出と、最高の仲間たちに。乾杯」
「「「乾杯!」」」
カチン、と軽やかな音が響き、四つのグラスが合わさった。甘いサングリアが喉を心地よく潤していく。
「それにしても、驚きましたわ。まさかあの方々が本当にここに来るなんて」
フィオナが、興奮冷めやらぬといった様子で言った。
「全くだ。随分とみっともない姿を晒してくれたもんだな」
シルフィが、ローストビーフを口に運びながら楽しそうに言う。
「でも、少しだけ怖かったです……。あの勇者様、アレン様に剣を向けようとして……」
ルナが少しだけ不安そうな顔をする。俺はそんな彼女の頭を優しく撫でた。
「大丈夫だ。君たちがいてくれたから、俺は少しも怖くなかったさ」
俺の言葉に、ルナは嬉しそうに目を細め、俺の腕にすり寄ってきた。
食事は和やかな雰囲気の中で進んだ。俺たちは、あの勇者パーティーのことなどもうすっかり忘れてしまったかのように、今日の出来事やこれからの冒険の計画について語り合った。
「次の依頼は、北の山脈に現れたというアイスグリフォンの討伐なんてどうだろうか」
「まあ! 氷のグリフォンですの!? 素敵ですわ!」
「氷か……。私の炎の魔法の良い的になりそうだな」
「アレン様が行くところなら、私、どこへでもついていきます!」
他愛のない会話。だが、その一つ一つが俺にとっては宝物のように感じられた。
孤独だった俺に、こんなにも温かい食卓が与えられた。信頼できる仲間たちと笑い合いながら未来を語ることができる。これ以上の幸せが他にあるだろうか。
食事が一段落した頃、フィオナが少し改まった表情で俺に向き直った。
「アレン先生。一つ、お聞きしてもよろしいでしょうか」
「なんだ?」
「……あの方々の中にいた聖女様。彼女は先生の幼馴染だったと伺いました。先生は……その……彼女に対して、もう何の未練もおありにならないのですか?」
それは、少しだけデリケートな質問だった。ルナとシルフィも、興味深そうに俺の顔を見つめている。
俺は、グラスに残ったサングリアをゆっくりと飲み干してから静かに答えた。
「未練、か。そうだな……」
俺は、リリアの最後の絶望に満ちた表情を思い出した。
「全くない、と言えば嘘になるかもしれない。幼い頃の楽しい思い出は確かにあったからな。それが、あんな形で終わってしまったことに対して少しの痛みは感じるよ」
俺は正直な気持ちを打ち明けた。
「だが、それはもう遠い昔の話だ。今の俺にとって、彼女はただの『過去の人』でしかない。俺の心の中にあるのは、後悔や未練じゃない。これから君たちと一緒にどんな冒険ができるだろうかっていう、未来への期待だけだ」
俺の言葉に、三人は安堵したような、そして嬉しそうな表情を浮かべた。
「そうですわよね! 過去よりも未来ですわ!」
「アレン様!」
「……フン。まあ、それが賢明な判断だな」
彼女たちの頭上に輝く、それぞれの色のオーラがひときわ強く、そして温かく輝いたように見えた。
この祝杯は、俺たち『アルカディア』にとって一つの大きな節目となった。
俺たちは過去の亡霊を完全に振り払った。そして、互いの絆がどんな伝説の武具よりも強く、どんな城壁よりも固いものであることを再確認したのだ。
夜が更け、宴が終わる頃、俺は一人、屋敷のバルコニーに出てラトナの街の夜景を眺めていた。煌めく街の灯りは、まるで星空のようだ。
「ここが俺の帰る場所なんだな」
しみじみと、そう思った。
もう迷うことはない。俺は、この愛すべき仲間たちと共にこの街で生きていく。
辺境の超新星の物語はまだ始まったばかり。これから先、どんな困難が待ち受けていようとも、この仲間たちと一緒ならきっと乗り越えていけるだろう。
俺は、澄み切った夜空に向かって静かに、しかし力強くそう誓った。
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