鑑定スキルで万物を見抜く俺、実は女の子の好感度も丸見えです

夏見ナイ

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第57話:ラブコメ日常③ - フィオナ

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フィオナは、俺たちのパーティーにおける最強の『切り札』であると同時に、俺たちの屋敷における完璧な『家事担当』でもあった。

没落貴族の令嬢でありながら、彼女は驚くほど家庭的だったのだ。掃除、洗濯、そして特に料理。その腕前は、そこらの専門家を遥かに凌駕していた。

「先生、おはようございます! 今朝は先生のお好きなオムレツを焼いてみましたわ。卵は、ガルド商会から仕入れたばかりの新鮮なグリフォンの卵ですのよ!」

毎朝、俺がダイニングルームに下りると、そこには完璧に準備された朝食と、エプロン姿で微笑むフィオナが待っている。その姿はまるで新妻のようで、毎朝少しだけ心臓に悪い。

彼女の俺に対する好感度は、あの日オークの群れを殲滅して以来、常に高い数値を維持していた。

【フィオナからアレンへの好感度:98/100(献身的な愛/桜色)】

『献身的な愛』。その名の通り、彼女の好意はもはや崇拝に近いレベルに達していた。俺の身の回りの世話を焼くことが、彼女にとっての至上の喜びなのだ。

その献身ぶりは、食事の準備だけにとどまらない。

俺の部屋は、俺が何もしなくても常に塵一つなく磨き上げられている。俺が脱ぎ捨てた服は、いつの間にか綺麗に洗濯され、畳まれてクローゼットにしまわれている。俺が書斎で読書をしていれば、絶妙なタイミングで彼女がブレンドしたハーブティーが運ばれてくる。

正直に言って、少しばかり過保護すぎるきらいがあった。

その日、俺は工房で新しい武具の製作を試みていた。ゴブリンの棍棒から抽出した『強化鉄』を使い、ルナのための新しいダガーを作ろうとしていたのだ。

鑑定スキルで最適な鍛造法は分かる。だが、実際に槌を振るうのはまた別の技術が必要だった。俺は汗だくになりながら、炉で赤く熱した鉄塊を金床の上で叩いていた。

カン、カン、と甲高い音が工房に響く。だが、なかなか思ったような形にならない。

「……くそっ、難しいな」

俺が額の汗を拭い、一息ついた、その時だった。

「先生、お疲れ様ですわ」

工房の入り口にフィオナが立っていた。その手には、冷たい水差しと清潔なタオルが用意されている。

「ああ、フィオナか。すまないな、いつも」

「いえ、とんでもないですわ! 先生のお役に立てることが、私の喜びなのですから」

彼女はそう言って、微笑みながら俺のそばへ来た。そして、俺が止める間もなく、持っていたタオルで俺の汗を優しく拭い始めたのだ。

「お、おい、フィオナ。自分でできる」

「まあ、先生。お黙りになって」

彼女の顔がすぐ目の前にある。甘い花の香りと彼女の吐息が、俺の頬をくすぐった。その距離の近さに、俺は心臓が跳ね上がるのを感じた。

【フィオナの思考:『先生の、汗……。なんだか、ドキドキしますわ……』】

彼女の思考まで流れ込んできて、俺はもうどうしていいか分からなくなった。

「先生は、少しご自分を労わるということをご存じないようですわね。私がしっかりとお世話をして差し上げなければ」

フィオナは、まるで母親のようなことを言いながら、甲斐甲斐しく俺の世話を焼く。冷たい水を注いでくれたり、肩を揉んでくれたり。その一つ一つの仕草が、あまりにも自然で、そしてあまりにも親密すぎた。

「あのな、フィオナ……」

俺が、さすがに少し距離を置くように言おうとした、その時。

工房の入り口から、二つの冷たい視線が突き刺さっているのに、俺は気づいた。

ルナとシルフィだった。

ルナは、俺とフィオナの様子を大きな瞳を潤ませながら、じっと見つめている。その頭上には『悲しみ』と『嫉妬』を示す、青と紫が混じったオーラが揺らめいていた。

シルフィは、腕を組んで壁に寄りかかり、能面のような表情でこちらを睨みつけている。彼女の頭上では、もはやお馴染みとなった淀んだ紫色の『嫉妬』のオーラが、嵐のように渦巻いていた。

まずい。完全に修羅場というやつだ。

「あら、お二人とも。どうかなさいましたの?」

フィオ-ナは、ようやく二人の存在に気づき、にこやかに尋ねた。この状況で全く悪びれない彼女の天然っぷりは、ある意味、最強の武器かもしれない。

「……別に」

シルフィが、地を這うような低い声で答えた。

「アレン様が、フィオナさんとイチャイチャしてるのを見てただけ、です……」

ルナが涙声で呟いた。

「い、イチャイチャなんてしてない!」

俺は慌ててフィオナから身を離し、弁解しようとする。だが、時すでに遅し。

「先生、まだ汗が残っておりますわ。こちらへ」

フィオナが、再び俺にタオルを差し出してくる。

「アレン様、私もお背中、流します!」

ルナが、意味の分からないことを言いながら駆け寄ってくる。

「……くだらん」

シルフィが、凍てつくような一言を吐き捨て、踵を返して去っていく。

俺は、三人の少女たちに囲まれ(一人には去られたが)、完全に動きを封じられていた。

この屋敷での日常は、確かに幸せだ。だが、それは同時に常に薄氷の上を歩くような、スリリングなものでもある。

俺は、工房の天井を仰ぎ、これから先の自分の胃の健康について、少しだけ真剣に心配するのだった。

まあ、これも幸せな悩み、なのだろうが。
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