鑑定スキルで万物を見抜く俺、実は女の子の好感度も丸見えです

夏見ナイ

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第58話:新たな目標

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屋敷での賑やかで、そして少しだけ騒がしい日常は、すっかり俺たちの生活に定着していた。

朝はフィオナの作る完璧な朝食で始まり、昼は三人娘の誰かしらが俺の周りで繰り広げる静かな(時には騒がしい)アピール合戦をいなしながら過ごす。そして夜は冒険で得た戦利品の整理や、次の計画を練る。

その繰り返しは、かつて王都で送っていた息の詰まるような日々と比べれば天国そのものだった。

だが、人間とは欲深い生き物らしい。安定した生活と、揺るぎない仲間との絆。それらを手に入れた俺の心の中に、いつしか新たな欲求が芽生え始めていた。

このままで、いいのだろうか、と。

その日、俺は一人で冒険者ギルドを訪れていた。特に目的があったわけではない。ただ、最近は高難易度の依頼ばかり受けていたから、たまには初心に返って掲示板にどんな依頼があるのか見てみようと思っただけだ。

ギルドの中は相変わらずの活気だった。俺の顔を見つけた何人かの冒険者が、親しげに挨拶をしてくる。俺もそれに手を振って応えながら、掲示板へと向かった。

その時、一組の若いパーティーが依頼書の前で口論しているのが目に入った。まだギルドカードが銅色に輝く、登録したての新人たちのようだった。

「だから、無理だって! ゴブリン五体の討伐なんて、俺たち三人じゃ危険すぎる!」

華奢な体つきの斥候らしき少年が、必死にリーダー格の若い剣士を説得している。

「弱気なこと言うなよ! ここで一発デカいのを当てなきゃ、いつまで経っても薬草採取ばっかりだぞ!」

剣士の少年は、自信過剰なのか、無謀なのか。彼の隣に立つ小柄な女魔術師も、不安そうな顔で俯いていた。

どこにでもいる、ありふれた新人冒険者の姿。かつての俺も、もし戦闘能力があれば彼らのようになっていたのかもしれない。俺は特に気にも留めず、通り過ぎようとした。

だが、俺のスキルが彼らの姿を勝手に解析してしまったのだ。

【剣士の少年:レベル5】
【才能:剣術の筋は良いが、防御を疎かにする悪癖あり。パーティー全体の状況が見えていない】

【斥候の少年:レベル4】
【才能:隠密スキルは高いが、自信のなさからその能力を活かしきれていない】

【魔術師の少女:レベル4】
【才能:魔力は低いが、支援魔法(補助魔法)に類稀なる適性あり。だが、本人は攻撃魔法に憧れており、自分の本当の才能に気づいていない】

「…………」

俺は、思わず足を止めた。

なんて、ちぐはぐなパーティーなんだ。剣士は前衛として致命的な欠陥を抱え、斥候は才能を殺している。魔術師は、全く見当違いの努力をしている。

このままゴブリンの群れに挑めば、結果は見えている。良くて重傷、悪ければ全滅だろう。

まるで、かつてのフィオナを見ているかのようだった。才能がありながら、それを正しく導く者がいないために埋もれてしまっている。

俺は、彼らに声をかけようとして寸でのところでその言葉を飲み込んだ。

いきなり見ず知らずの先輩冒険者に、お前たちの戦い方は間違っている、などと指摘されて素直に聞き入れる者がいるだろうか。いや、いないだろう。むしろ、大きなお世話だと反感を買うのがオチだ。俺が一個人の冒険者である限り、他のパーティーのやり方に口を出すのは越権行為でしかない。

俺は、何も言わずにその場を離れた。だが、彼らの姿が妙に心に引っかかっていた。

ラトナは、活気のある良い街だ。だが、それは同時に多くの新人冒険者が成功を夢見て集まり、そしてその多くが夢破れて去っていくか、あるいは命を落とす過酷な場所でもある。

もし、俺のこの力を使えば。

もし、俺が彼らの才能を見抜き、正しい道を示してやることができたなら。

彼らのような若者が無駄死にすることを、少しは減らせるのではないか。そして、それは巡り巡って、このラトナという街全体の力を底上げすることに繋がるのではないか。

そんな考えが、俺の頭の中にふと浮かんだ。

お節介、かもしれない。偽善、かもしれない。

だが、フィオナが自分の力で覚醒し、心からの笑顔を見せてくれた時の、あの喜び。ルナが日々の訓練で成長していく姿を見る、あの楽しさ。

俺は、育成という行為に冒険とはまた違う、大きなやり甲斐を感じ始めているのかもしれない。

屋敷への帰り道、俺はぼんやりと空を見上げていた。

俺たちのパーティー『アルカディア』は強い。それは間違いない。だが、俺たち四人だけでこの街の全てを守れるわけではない。

もっと大きな視点で、物事を考えるべき時が来ているのではないか。

俺たち個人の成功だけでなく、この街に生きる人々や後に続く者たちのために、俺たちにしかできないことがあるのではないか。

そのためには、今の『パーティー』という形では小さすぎる。

もっと公的で、もっと多くの人々と関われるような、大きな『器』が必要だ。

そうだ。

パーティーではなく、『ギルド』として。

その言葉が、俺の頭の中に閃光のように突き刺さった。

自分たちのパーティーを正式なギルドとして登録する。そして、ギルドマスターとして新人冒険者の育成や街の防衛、未開地の開拓といった、より大きな事業を手掛けていく。

それこそが、俺がこの街で、この仲間たちと共に次に目指すべき道なのではないか。

俺の心の中に、新たな目標が確かな輪郭を持って浮かび上がった。それは、これまでのようにただ依頼をこなすのとは全く違う、壮大で、そして困難な道だろう。

だが、不思議と胸が躍っていた。

俺は、屋敷の扉を開けた。中では、三人娘が俺の帰りを待ちわびて賑やかに談笑している。

この最高の仲間たちがいれば、どんな大きな目標だってきっと達成できる。

俺は、彼女たちにこの新しい夢を語るために、確かな足取りでリビングへと向かうのだった。
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