鑑定スキルで万物を見抜く俺、実は女の子の好感度も丸見えです

夏見ナイ

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第85話:道中の前哨戦

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王都の手前、最後の砦となるはずだった『グレイロック砦』はもはや砦としての機能を失っていた。分厚い石造りの城壁は内側からの爆発によって無残に破壊され、門は大きく開け放たれている。黒い蛇の紋章が描かれた旗が風にはためいていた。

邪教団に完全に占拠されている。

「……偵察部隊からの報告です!」

ルナが率いる斥候部隊の一人が血相を変えて駆け込んできた。

「砦の内部には少なくとも百名の教団兵と複数の大型ゴーレムが配備されています! 正面からの突撃は危険です!」

報告を聞いた兵士たちの間に緊張が走る。王都へ向かうにはこの砦を突破するしかない。だが、まともに攻めれば多大な犠牲を払うことになるだろう。

俺は馬上から静かに砦を観察していた。そして、もちろん【万物解析】を発動させる。

俺の意識は砦の分厚い城壁を透過し、内部の構造、敵の配置、そしてこの砦そのものに隠された秘密を余すことなく暴き出していく。

「……なるほどな」

しばらくして、俺は不敵な笑みを浮かべた。

「心配するな。この砦、一日もかからずに無血で奪還してみせる」

俺の言葉に、周囲の者たちは信じられないといった表情で顔を見合わせた。

俺はすぐに全軍の指揮官たちを集め作戦会議を開いた。壁に広げられた地図の上に、俺はスキルで得た情報を書き込んでいく。

「この砦は古代の遺跡の上に建てられている。そしてその地下には忘れ去られた古い水路が網の目のように走っている。その一つが砦のちょうど中央、兵糧庫の真下へと繋がっている」

俺の言葉に指揮官たちは息を呑んだ。

「俺とアルカディアのメンバー、そして遊撃部隊の精鋭二十名で今夜この水路から砦の内部に潜入する。そして兵糧庫に火を放ち混乱を引き起こす。それが合図だ」

俺は地図上の一点を指差した。

「混乱に乗じて本体は砦の裏手にあるこの崖を登る。鑑定によればこの崖は見た目よりも脆く、ゴーレムの攻撃数発で簡単に崩落させることができる。そこから一気に内部へなだれ込む」

「しかし、アレン殿! 正面の敵はどうするのですか?」

衛兵隊長が当然の疑問を口にした。

「正面は攻めない」

俺はにやりと笑った。

「陽動部隊が派手に鬨の声を上げ、攻撃の準備をする『ふり』だけをする。砦の連中は俺たちが正面から攻めてくると信じ込んでいる。その裏をかくんだ」

それは常識外れの、あまりにも大胆な作戦だった。だが俺のこれまでの実績と揺るぎない自信に満ちた態度が、指揮官たちの不安を期待へと変えていった。

その夜、作戦は寸分の狂いもなく実行された。

闇夜に乗じて俺が率いる精鋭部隊は古い水路を通って、誰にも気づかれずに砦の心臓部へと潜入した。

兵糧庫はほとんど無警戒だった。俺たちはそこに静かに火を放つ。乾燥した穀物に燃え移った炎は、あっという間に大きな火柱となって夜空を赤く染め上げた。

「火事だー! 兵糧庫から火が出たぞ!」

砦の内部は大混乱に陥った。敵兵たちはまさか内部に敵が潜入しているとは思わず右往左往している。

その混乱は砦の外で待機していた本体にもはっきりと見えた。

「今だ! ゴーレム部隊、崖を破壊しろ!」

フィオナの合図で俺たちがラトナから連れてきた数体の味方のゴーレム(ドワーフの職人たちが俺の設計図を元に急造してくれたものだ)が、唸りを上げて崖へと突進する。

凄まじい轟音と共に崖は俺の予測通りいとも簡単に崩れ落ち、砦の内部へと続く大きな突破口を形成した。

「「「うおおおおお!!!」」」

ラトナ連合軍の本体がその突破口から怒涛の如く砦の内部へと雪崩れ込んでいく。

正面ゲートで警戒していた敵兵たちは背後から現れた大軍に完全に虚を突かれた。彼らは戦う前に戦意を喪失してしまった。

砦の内部でも俺たちが率いる精鋭部隊が混乱する敵兵たちを次々と無力化していく。

戦いはもはや一方的な蹂躙だった。

夜が明ける頃にはグレイロック砦は完全に俺たちの手に落ちていた。敵兵のほとんどは降伏し、俺たちの軍勢には死者は一人も出ていない。軽傷者が数名出ただけだった。

まさに無血開城。

俺の宣言通りたった一夜にして、難攻不落のはずだった砦をほぼ無傷で奪還してみせたのだ。

この鮮やかすぎる勝利はラトナ連合軍の兵士たちの士気を爆発的に高めた。彼らは俺の指揮能力がもはや人間業ではない、神懸かり的なものであることを確信した。

そしてこの前哨戦の勝利の報は風のように王都へと届いた。

絶望の淵にいた王都の民と残された兵士たち。
彼らの心に、辺境から来た英雄アレン・ウォーカーの名が救世主の響きを伴って深く、深く刻み込まれた瞬間だった。

俺たちは陥落させた砦で短い休息を取った後、再び王都へとその歩を進める。

最後の決戦の地は、もう目と鼻の先だ。
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