鑑定スキルで万物を見抜く俺、実は女の子の好感度も丸見えです

夏見ナイ

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第86話:落ちぶれた勇者

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グレイロック砦を攻略した俺たちは、ついに王都アヴァロンの城壁が見える最後の丘陵地帯へと到達した。そこから見える光景は、騎士の報告以上に凄惨なものだった。

黒い煙が街の至る所から立ち上り、城壁は巨大な獣に噛み砕かれたかのように無残に崩れ落ちている。かつての美しい都の面影はもはやどこにもない。時折、街の方から魔物の咆哮と人々の悲鳴が、風に乗って微かに聞こえてくる。

兵士たちの顔に怒りと、そして悲しみの色が浮かんだ。ここが自分たちの国の首都だった場所なのだ。

俺は全軍に野営の準備を命じた。今夜はここで最後の休息を取り、明朝、総攻撃を仕掛ける。

俺が斥候部隊からの報告を待っていると、見張りの兵士の一人が血相を変えて俺の元へ駆け込んできた。

「ま、マスター! 前方から数名の生存者が……! 王都から落ち延びてきたようです!」

俺はすぐにその場所へと向かった。そこにはボロボロの鎧を身につけ、泥と血にまみれた数人の兵士たちが力なく地面に座り込んでいた。皆、虚ろな目をしており、その心は希望を完全に失っているようだった。

そして、その中心にいる二人の人物を見て、俺は思わず足を止めた。

一人は、かつて俺が所属していたパーティーのリーダー、勇者レオだった。
そしてもう一人は、戦士ガストン。

だがそこにいたのは、俺の知る傲慢で自信に満ち溢れた彼らの姿ではなかった。

レオはかつて輝いていたミスリルの鎧を失い、継ぎ接ぎだらけの革鎧をみすぼらしく身に着けていた。そして何より、彼の右腕が肩の付け根から無くなっていた。聖剣を握っていたはずの腕が。

その顔には深い絶望と、全てを失った者の空虚な色だけが浮かんでいる。

ガストンもまた自慢の巨大な戦斧を失い、その体には無数の深い傷跡が刻まれていた。彼はただ地面の一点を見つめ、ぶつぶつと何か意味のない言葉を呟いている。

あまりにも変わり果てた姿だった。

俺の存在に気づいたレオがゆっくりと顔を上げた。その虚ろな瞳が俺の姿を捉え、わずかに見開かれる。

「……アレン……か……」

その声は力なく、かすれていた。かつての尊大な響きはどこにもない。

「……レオ。ガストンも」

俺はかける言葉が見つからず、ただ彼らの名前を呼んだ。

レオは自嘲するようにふっと笑った。

「……見ての通りだ。惨めな様だろう……?」

彼は失われた右腕の付け根を左手でそっと撫でた。

「……聖剣は奪われた。奴らの幹部の一人にな……。俺はもはや勇者ではない。ただの片腕の役立たずだ……」

その言葉はかつて彼が俺に投げつけた言葉と全く同じだった。だがその響きは、あまりにも悲しく、そして虚しかった。

「サラは……死んだ」

ガストンがぽつりと呟いた。

「……俺を庇ってな……。俺が盾役のくせに油断したせいで……。あいつは最期まで俺のことを『脳筋』と罵っていたよ……。はは……」

乾いた笑い声が虚しく響く。パーティーの紅一点だった、あの皮肉屋の魔術師はもうこの世にいない。

俺は何も言うことができなかった。彼らを憎んでいたはずだった。彼らの不幸をどこかで望んでいたはずだった。

だが目の前に広がるこのあまりにも惨めな光景は、俺の心からそんな黒い感情さえも奪い去っていった。

「……リリアは……」

俺は一番聞きたかった、そして聞くのが怖かった名前を口にした。

レオは力なく首を振った。

「……分からん。俺たちが王城から脱出する時……彼女は民を避難させるために神殿に残ると言った。それが彼女を見た最後だ。……おそらく、もう……」

その言葉に、俺の心臓がどくんと大きく跳ねた。

リリアが、まだあの地獄のような街の中にいる。

俺は固く、固く拳を握りしめた。

憎い相手だった。俺を裏切り、傷つけた女だった。だがそれでも、彼女は俺のたった一人の幼馴染だったのだ。

「……アレン」

レオが俺の顔をまっすぐに見上げた。その瞳には初めて見る懇願の色が浮かんでいた。

「……頼む。俺はもう戦えない。だがお前なら……お前ならやれるかもしれん。どうか……王都を、民を……そして……リリアを助けてやってくれ……」

彼はその場で俺に向かって土下座をするかのように深く、深く頭を下げた。

かつてあれほどまでに尊大だった勇者が、今、俺に全てを託そうとしていた。

俺はそんな彼の姿を静かに見下ろしていた。

過去の因縁は、もうどうでもよかった。
復讐も憎しみも、この絶op的な現実の前ではあまりにもちっぽけな感情に過ぎなかった。

俺の胸に、ただ一つの燃えるような想いが宿っていた。

必ず、勝つ。
そして、救い出す。

俺は落ちぶれた勇者に背を向けた。そして眼下に広がる炎と煙に包まれた故郷の街を、もう一度見据えた。

「……当たり前だ」

俺は誰に言うでもなく、そう呟いた。

その声はラトナ連合軍の全ての兵士たちの心に、新たな決意の炎を灯したかのように静かに、そして力強く響き渡った。
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