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第98話:最後の一撃
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どれくらいの時間が経ったのだろうか。
全てを飲み込んだ純白の光の中で、俺の意識は穏やかな温もりに包まれていた。それはまるで母親の腕の中に抱かれているかのような絶対的な安心感だった。
もう、戦わなくてもいい。
もう、苦しまなくてもいい。
このまま、この心地よい眠りに身を委ねてしまいたい。
そんな誘惑に俺の魂が引きずり込まれそうになった、その時。
『……アレン様……!』
遠くで誰かが俺を呼ぶ声が聞こえた。必死に俺の名前を呼ぶ、愛しい声。
『……おい、アレン! しっかりしろ!』
『先生! 目を覚ましてくださいまし!』
仲間たちの声だ。俺をこの世界に繋ぎ止めてくれる、大切な絆。
俺は重く鉛のようになった瞼を、ゆっくりとこじ開けた。
最初に目に飛び込んできたのは、信じられない光景だった。
俺の目の前で、あの巨大な邪神の体がまるで砂の城が崩れるように、静かに、そして美しく光の粒子となって霧散していく。
俺が突き立てたリリアの光の矢。
その一撃が邪神の核、教祖の魂を完全に浄化したのだ。
『……アア……我ガ……混沌ガ……光ニ……』
邪神のもはや悲鳴とも聞き取れない最後の断末魔が空間に響き渡る。だが、その声にはもはや憎悪も狂気もなかった。ただ無に還っていく安らかな響きだけがあった。
やがて邪神の巨体は完全に消滅し、その後に残されたのは静寂だけだった。
その、瞬間。
これまで王都全体を覆っていた禍々しい黒い雲が、まるで嘘のようにさっと晴れていった。
そして東の空の地平線から、一筋の黄金色の光が差し込んできた。
夜明けだ。
絶望の長かった夜が明け、希望の朝日がこの死の都と化していた王都アヴァロンを、優しく、そして力強く照らし始めたのだ。
光は瓦礫の山を、亡骸を、そして生き残った俺たちを分け隔てなく平等に照らし出す。それはまるで、この世界が浄化され新たに生まれ変わったかのような神々しいまでの光景だった。
「……アレン様!」
俺の背後から泣きじゃくった声と共に小さな体が飛び込んできた。ルナだった。
「よかった……! よかった……!」
彼女は俺の背中に顔をうずめ、ただそれだけを繰り返した。
「ああ。……終わったんだ」
俺は彼女の頭を優しく撫でた。
振り返ると、そこには満身創痍の仲間たちがいた。
シルフィは魔剣を杖代わりに荒い息をつきながらも、満足げな笑みを浮かべている。
フィオナは涙でぐしょぐしょになりながら、それでも女神のように美しく微笑んでいた。
ガストンは力尽きたように地面に座り込み、天を仰いで男泣きに泣いていた。
レオは失われた右腕を見つめ、そして昇り始めた太陽を見上げ、静かに何かを噛みしめるように目を閉じていた。
そして少し離れた場所でフィオナに肩を支えられたリリアが、俺をただじっと見つめていた。その瞳には感謝と後悔と、そしてもう決して届かない想いが複雑に入り混じっていた。
俺は彼女に静かに一度だけ頷いてみせた。
それだけで十分だった。俺たちの長かった物語は、確かにここで一つの終わりを迎えたのだ。
やがて玉座の間に残っていたラトナ連合軍の兵士たちが、何が起きたのかを完全に理解し、一人がかすれた声で叫んだ。
「……か、勝った……」
その一言が引き金だった。
「勝ったぞおおおおおおお!!!」
「邪神は滅んだんだ!」
「夜が……明けた……!」
一人、また一人と歓喜の雄叫びが上がる。それはやがて一つの巨大な声の波となり、王城を、そして王都全体を震わせた。
地獄のような三日間の戦いの末に掴み取った、奇跡の勝利。
世界に光が戻った。
俺は仲間たちに囲まれながら、昇りゆく太陽を眩しそうに見つめていた。
追放された鑑定士の長く、そして過酷だった旅路は、今この場所で最高の形でその終着点を迎えたのだった。
全てを飲み込んだ純白の光の中で、俺の意識は穏やかな温もりに包まれていた。それはまるで母親の腕の中に抱かれているかのような絶対的な安心感だった。
もう、戦わなくてもいい。
もう、苦しまなくてもいい。
このまま、この心地よい眠りに身を委ねてしまいたい。
そんな誘惑に俺の魂が引きずり込まれそうになった、その時。
『……アレン様……!』
遠くで誰かが俺を呼ぶ声が聞こえた。必死に俺の名前を呼ぶ、愛しい声。
『……おい、アレン! しっかりしろ!』
『先生! 目を覚ましてくださいまし!』
仲間たちの声だ。俺をこの世界に繋ぎ止めてくれる、大切な絆。
俺は重く鉛のようになった瞼を、ゆっくりとこじ開けた。
最初に目に飛び込んできたのは、信じられない光景だった。
俺の目の前で、あの巨大な邪神の体がまるで砂の城が崩れるように、静かに、そして美しく光の粒子となって霧散していく。
俺が突き立てたリリアの光の矢。
その一撃が邪神の核、教祖の魂を完全に浄化したのだ。
『……アア……我ガ……混沌ガ……光ニ……』
邪神のもはや悲鳴とも聞き取れない最後の断末魔が空間に響き渡る。だが、その声にはもはや憎悪も狂気もなかった。ただ無に還っていく安らかな響きだけがあった。
やがて邪神の巨体は完全に消滅し、その後に残されたのは静寂だけだった。
その、瞬間。
これまで王都全体を覆っていた禍々しい黒い雲が、まるで嘘のようにさっと晴れていった。
そして東の空の地平線から、一筋の黄金色の光が差し込んできた。
夜明けだ。
絶望の長かった夜が明け、希望の朝日がこの死の都と化していた王都アヴァロンを、優しく、そして力強く照らし始めたのだ。
光は瓦礫の山を、亡骸を、そして生き残った俺たちを分け隔てなく平等に照らし出す。それはまるで、この世界が浄化され新たに生まれ変わったかのような神々しいまでの光景だった。
「……アレン様!」
俺の背後から泣きじゃくった声と共に小さな体が飛び込んできた。ルナだった。
「よかった……! よかった……!」
彼女は俺の背中に顔をうずめ、ただそれだけを繰り返した。
「ああ。……終わったんだ」
俺は彼女の頭を優しく撫でた。
振り返ると、そこには満身創痍の仲間たちがいた。
シルフィは魔剣を杖代わりに荒い息をつきながらも、満足げな笑みを浮かべている。
フィオナは涙でぐしょぐしょになりながら、それでも女神のように美しく微笑んでいた。
ガストンは力尽きたように地面に座り込み、天を仰いで男泣きに泣いていた。
レオは失われた右腕を見つめ、そして昇り始めた太陽を見上げ、静かに何かを噛みしめるように目を閉じていた。
そして少し離れた場所でフィオナに肩を支えられたリリアが、俺をただじっと見つめていた。その瞳には感謝と後悔と、そしてもう決して届かない想いが複雑に入り混じっていた。
俺は彼女に静かに一度だけ頷いてみせた。
それだけで十分だった。俺たちの長かった物語は、確かにここで一つの終わりを迎えたのだ。
やがて玉座の間に残っていたラトナ連合軍の兵士たちが、何が起きたのかを完全に理解し、一人がかすれた声で叫んだ。
「……か、勝った……」
その一言が引き金だった。
「勝ったぞおおおおおおお!!!」
「邪神は滅んだんだ!」
「夜が……明けた……!」
一人、また一人と歓喜の雄叫びが上がる。それはやがて一つの巨大な声の波となり、王城を、そして王都全体を震わせた。
地獄のような三日間の戦いの末に掴み取った、奇跡の勝利。
世界に光が戻った。
俺は仲間たちに囲まれながら、昇りゆく太陽を眩しそうに見つめていた。
追放された鑑定士の長く、そして過酷だった旅路は、今この場所で最高の形でその終着点を迎えたのだった。
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