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第二話 捕食者の目覚め
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カサカサ、キィキィ。
音は徐々に近づいてくる。【微光】スキルでぼんやりと照らされた洞窟の闇の中、その姿がおぼろげに見えてきた。予想よりも大きい。体長は50センチメートルほどだろうか。赤黒い目をした、一匹の巨大なネズミだった。剥き出しの黄色い前歯が不気味に光り、長い尻尾をゆらゆらと揺らしている。
『ジャイアント・ラット Lv.1』
オブシディアンの視界の端に、対象の情報がシステムウィンドウとして表示された。レベルは1。自分と同じだ。しかし、その体躯と凶暴そうな見た目は、明らかにこちらを格下と見ているようで、威嚇するようにキィ、と鋭い鳴き声を上げた。
どう戦う? 物理攻撃力ゼロの自分に、あの牙を防ぎきる防御力があるとは思えない。種族特性の【物理耐性(微)】がどれほどのものか…。試してみるしかない。
オブシディアンは、その場で動きを止め、ネズミの出方を窺った。相手がこちらに気づき、警戒心を露わにしている。距離はおよそ3メートル。
キシャァッ!
ジャイアント・ラットが短い脚で地面を蹴り、一直線に突進してきた。鋭い爪と牙が、オブシディアンの黒い身体目掛けて迫る。
(避けるか? いや、受けてみる!)
オブシディアンは回避行動を取らず、あえてその場に留まった。衝撃に備え、身体の表面張力を高めるようなイメージを意識する。
ガッ、ガリッ!
ネズミの牙と爪が、オブシディアンのゼリー状の身体に突き刺さる…かに見えたが、硬いゴムのような弾力に阻まれ、表面をわずかに削るにとどまった。鈍い痛みと共に、HPゲージが微かに減少する。
(これが【物理耐性(微)】…思ったより効果があるな。でも、ダメージは受ける)
耐えられないほどではないが、何度も喰らえば危険だ。それに、ただ耐えているだけでは勝てない。オブシディアンはネズミの攻撃を受け止めながら、反撃の機会を窺った。
ジャイアント・ラットは、攻撃が思ったように通じないことに苛立ったのか、一度距離を取り、再びキィキィと鳴きながらオブシディアンの周りをうろつき始めた。隙を窺っているようだ。
(どうすれば【捕食吸収】を使えるんだ? スキルリストから選択しても、対象を指定しろと出るだけだ…)
ヘルプを呼び出すほどの余裕はない。ならば、試行錯誤するまで。おそらく、対象に密着する必要があるのではないか? スライムの捕食といえば、相手を体内に取り込むイメージだ。
オブシディアンは、ネズミが再び突進してくるタイミングを待った。そして、相手が懐に飛び込んできた瞬間、回避するのではなく、逆に蠕動運動で前進し、ネズミの身体に覆いかぶさるように密着した。
(今だ! 【捕食吸収】!)
スキルを発動する意思を込める。すると、ネズミに接触しているオブシディアンの身体の一部が、じわりと相手の毛皮に浸透していくような奇妙な感覚があった。
ギィヤァァァーーーッ!?
ジャイアント・ラットが、これまでとは比較にならない絶叫を上げた。オブシディアンの身体に触れている部分から、白い煙のようなものが上がり、ネズミの身体がみるみるうちに溶けていく。まるで強酸に触れたかのように、肉が、骨が、形を失っていく。そのおぞましい光景とは裏腹に、オブシディアンには温かいエネルギーが流れ込んでくる感覚があった。
ネズミは必死にもがき、オブシディアンから逃れようとするが、不定形の身体は粘着質で、一度捉えた獲物を離さない。溶解と吸収は続き、数秒後には、あれほど暴れていたジャイアント・ラットは完全に形を失い、オブシディアンの黒い身体の中へと取り込まれて消滅した。
『ジャイアント・ラット Lv.1を捕食しました』
『経験値を5獲得しました』
『レベルが2に上がりました』
『体力+1、魔力容量+1、物理防御力+1、魔法防御力+1』
『スキル【暗視 Lv.1】を獲得しました』
『素材「ネズミの毛皮(劣質)」「ネズミの牙(欠けた)」を獲得しました』
立て続けにシステムメッセージが流れ込む。初めての戦闘、初めての捕食。そして、初めてのレベルアップ。ステータスが上昇し、新たなスキルまで手に入った。
(これが…【捕食吸収】。経験値だけじゃなく、スキルや素材まで得られるのか。これは…凄い)
オブシディアンは、自らの身体から発する【微光】を消してみた。洞窟は再び完全な闇に包まれる。しかし、先ほどまでとは違い、ぼんやりとではあるが周囲の状況が認識できた。岩肌の凹凸、地面の小石。まるで赤外線カメラを通したかのように、モノクロームの濃淡で世界が見えている。これが【暗視】の効果だろう。これなら、【微光】で自分の居場所を知らせるリスクを冒さずに済む。
(次は【擬態】を試してみるか)
オブシディアンは、近くにあった拳ほどの大きさの岩に意識を向けた。そして、【擬態】スキルを発動し、「あの岩のようになる」とイメージする。
すると、オブシディアンの黒く不定形だった身体が、ぐにゃりと形を変え始めた。表面の質感も、ぬらりとしたものから、ゴツゴツとした岩肌のようなテクスチャに変化していく。数秒後、オブシディアンは、周囲に転がっている他の岩と見分けがつかないほどの、ただの黒っぽい岩塊へと姿を変えていた。
(すごいな…これなら、動かなければモンスターにもプレイヤーにも気づかれにくいだろう)
擬態を解除し、元のスライムの姿に戻る。擬態中は移動ができないようだが、待ち伏せや緊急回避には非常に有効そうだ。捕食したモンスターの姿にもなれるのだろうか? それは、また別の機会に試してみよう。
最初の戦闘とスキルの試用を終え、オブシディアンは確かな手応えを感じていた。攻撃力ゼロというハンデはあるが、【捕食吸収】による成長性と、【擬態】による生存能力。これらを上手く使えば、この世界で十分にやっていける。いや、やり方次第では、他の誰よりも強くなれるかもしれない。
オブシディアンは再び洞窟の奥へと進み始めた。【暗視】スキルのおかげで、暗闇の中での移動も苦にならない。先ほどの戦闘とレベルアップで、移動速度も心なしか少し上がった気がする。
しばらく進むと、道の先がわずかに開け、少し広い空間に出た。そこには、オブシディアン以外の存在がいた。緑色の肌をした、小柄な人型の魔物――ゴブリンだ。粗末な棍棒を手に、キョロキョロと周囲を見回している。おそらく、あれも自分と同じプレイヤーだろう。
『ゴブリン・プレイヤー Lv.1』
名前は表示されず、種族とレベルだけが見える。相手もこちらに気づいたようで、一瞬警戒の色を見せたが、オブシディアンがただのスライムであると認識すると、興味を失ったようにそっぽを向いた。レベル1のスライムなど、脅威にもならないということか。
オブシディアンも、そのゴブリン・プレイヤーに関わるつもりはなかった。馴れ合う気はないし、下手に刺激して戦闘になるのも面倒だ。オブシディアンはゴブリンから距離を取り、壁際を這うようにして通り過ぎる。ゴブリンも特に何もしてこなかった。互いに不干渉。それが魔物プレイヤー同士の基本的なスタンスなのかもしれない。それでいい。自分は一人で強くなる。
ゴブリンのいた空間を抜け、さらに洞窟の奥へ。また別の物音が聞こえてきた。今度は複数。壁の向こうから、ガサゴソという音と、複数のキィキィという鳴き声が聞こえる。
(ジャイアント・ラットの群れか…?)
一体ならともかく、複数となると厄介だ。しかし、同時に経験値を得るチャンスでもある。
オブシディアンは、壁の陰に身を寄せ、【擬態】を発動。近くの岩と同化し、息を潜めて様子を窺うことにした。闇に溶け込む黒い岩塊は、ただそこにあるだけで、何の脅威も感じさせない。捕食者としての最初の狩りを成功させたオブシディアンは、次なる獲物を静かに待ち構えていた。
名前: オブシディアン
種族: スライム(名無し)
称号: なし
所属: 未定義
【能力値】
体力: 3
魔力容量: 3
物理攻撃力: 0
物理防御力: 2
魔法攻撃力: 0
魔法防御力: 2
素早さ: 2
【スキル】
・捕食 Lv.1
・自己修復 Lv.1
・擬態 Lv.1
・微光 Lv.1
・物理耐性(微) ※種族特性
・暗視 Lv.1
音は徐々に近づいてくる。【微光】スキルでぼんやりと照らされた洞窟の闇の中、その姿がおぼろげに見えてきた。予想よりも大きい。体長は50センチメートルほどだろうか。赤黒い目をした、一匹の巨大なネズミだった。剥き出しの黄色い前歯が不気味に光り、長い尻尾をゆらゆらと揺らしている。
『ジャイアント・ラット Lv.1』
オブシディアンの視界の端に、対象の情報がシステムウィンドウとして表示された。レベルは1。自分と同じだ。しかし、その体躯と凶暴そうな見た目は、明らかにこちらを格下と見ているようで、威嚇するようにキィ、と鋭い鳴き声を上げた。
どう戦う? 物理攻撃力ゼロの自分に、あの牙を防ぎきる防御力があるとは思えない。種族特性の【物理耐性(微)】がどれほどのものか…。試してみるしかない。
オブシディアンは、その場で動きを止め、ネズミの出方を窺った。相手がこちらに気づき、警戒心を露わにしている。距離はおよそ3メートル。
キシャァッ!
ジャイアント・ラットが短い脚で地面を蹴り、一直線に突進してきた。鋭い爪と牙が、オブシディアンの黒い身体目掛けて迫る。
(避けるか? いや、受けてみる!)
オブシディアンは回避行動を取らず、あえてその場に留まった。衝撃に備え、身体の表面張力を高めるようなイメージを意識する。
ガッ、ガリッ!
ネズミの牙と爪が、オブシディアンのゼリー状の身体に突き刺さる…かに見えたが、硬いゴムのような弾力に阻まれ、表面をわずかに削るにとどまった。鈍い痛みと共に、HPゲージが微かに減少する。
(これが【物理耐性(微)】…思ったより効果があるな。でも、ダメージは受ける)
耐えられないほどではないが、何度も喰らえば危険だ。それに、ただ耐えているだけでは勝てない。オブシディアンはネズミの攻撃を受け止めながら、反撃の機会を窺った。
ジャイアント・ラットは、攻撃が思ったように通じないことに苛立ったのか、一度距離を取り、再びキィキィと鳴きながらオブシディアンの周りをうろつき始めた。隙を窺っているようだ。
(どうすれば【捕食吸収】を使えるんだ? スキルリストから選択しても、対象を指定しろと出るだけだ…)
ヘルプを呼び出すほどの余裕はない。ならば、試行錯誤するまで。おそらく、対象に密着する必要があるのではないか? スライムの捕食といえば、相手を体内に取り込むイメージだ。
オブシディアンは、ネズミが再び突進してくるタイミングを待った。そして、相手が懐に飛び込んできた瞬間、回避するのではなく、逆に蠕動運動で前進し、ネズミの身体に覆いかぶさるように密着した。
(今だ! 【捕食吸収】!)
スキルを発動する意思を込める。すると、ネズミに接触しているオブシディアンの身体の一部が、じわりと相手の毛皮に浸透していくような奇妙な感覚があった。
ギィヤァァァーーーッ!?
ジャイアント・ラットが、これまでとは比較にならない絶叫を上げた。オブシディアンの身体に触れている部分から、白い煙のようなものが上がり、ネズミの身体がみるみるうちに溶けていく。まるで強酸に触れたかのように、肉が、骨が、形を失っていく。そのおぞましい光景とは裏腹に、オブシディアンには温かいエネルギーが流れ込んでくる感覚があった。
ネズミは必死にもがき、オブシディアンから逃れようとするが、不定形の身体は粘着質で、一度捉えた獲物を離さない。溶解と吸収は続き、数秒後には、あれほど暴れていたジャイアント・ラットは完全に形を失い、オブシディアンの黒い身体の中へと取り込まれて消滅した。
『ジャイアント・ラット Lv.1を捕食しました』
『経験値を5獲得しました』
『レベルが2に上がりました』
『体力+1、魔力容量+1、物理防御力+1、魔法防御力+1』
『スキル【暗視 Lv.1】を獲得しました』
『素材「ネズミの毛皮(劣質)」「ネズミの牙(欠けた)」を獲得しました』
立て続けにシステムメッセージが流れ込む。初めての戦闘、初めての捕食。そして、初めてのレベルアップ。ステータスが上昇し、新たなスキルまで手に入った。
(これが…【捕食吸収】。経験値だけじゃなく、スキルや素材まで得られるのか。これは…凄い)
オブシディアンは、自らの身体から発する【微光】を消してみた。洞窟は再び完全な闇に包まれる。しかし、先ほどまでとは違い、ぼんやりとではあるが周囲の状況が認識できた。岩肌の凹凸、地面の小石。まるで赤外線カメラを通したかのように、モノクロームの濃淡で世界が見えている。これが【暗視】の効果だろう。これなら、【微光】で自分の居場所を知らせるリスクを冒さずに済む。
(次は【擬態】を試してみるか)
オブシディアンは、近くにあった拳ほどの大きさの岩に意識を向けた。そして、【擬態】スキルを発動し、「あの岩のようになる」とイメージする。
すると、オブシディアンの黒く不定形だった身体が、ぐにゃりと形を変え始めた。表面の質感も、ぬらりとしたものから、ゴツゴツとした岩肌のようなテクスチャに変化していく。数秒後、オブシディアンは、周囲に転がっている他の岩と見分けがつかないほどの、ただの黒っぽい岩塊へと姿を変えていた。
(すごいな…これなら、動かなければモンスターにもプレイヤーにも気づかれにくいだろう)
擬態を解除し、元のスライムの姿に戻る。擬態中は移動ができないようだが、待ち伏せや緊急回避には非常に有効そうだ。捕食したモンスターの姿にもなれるのだろうか? それは、また別の機会に試してみよう。
最初の戦闘とスキルの試用を終え、オブシディアンは確かな手応えを感じていた。攻撃力ゼロというハンデはあるが、【捕食吸収】による成長性と、【擬態】による生存能力。これらを上手く使えば、この世界で十分にやっていける。いや、やり方次第では、他の誰よりも強くなれるかもしれない。
オブシディアンは再び洞窟の奥へと進み始めた。【暗視】スキルのおかげで、暗闇の中での移動も苦にならない。先ほどの戦闘とレベルアップで、移動速度も心なしか少し上がった気がする。
しばらく進むと、道の先がわずかに開け、少し広い空間に出た。そこには、オブシディアン以外の存在がいた。緑色の肌をした、小柄な人型の魔物――ゴブリンだ。粗末な棍棒を手に、キョロキョロと周囲を見回している。おそらく、あれも自分と同じプレイヤーだろう。
『ゴブリン・プレイヤー Lv.1』
名前は表示されず、種族とレベルだけが見える。相手もこちらに気づいたようで、一瞬警戒の色を見せたが、オブシディアンがただのスライムであると認識すると、興味を失ったようにそっぽを向いた。レベル1のスライムなど、脅威にもならないということか。
オブシディアンも、そのゴブリン・プレイヤーに関わるつもりはなかった。馴れ合う気はないし、下手に刺激して戦闘になるのも面倒だ。オブシディアンはゴブリンから距離を取り、壁際を這うようにして通り過ぎる。ゴブリンも特に何もしてこなかった。互いに不干渉。それが魔物プレイヤー同士の基本的なスタンスなのかもしれない。それでいい。自分は一人で強くなる。
ゴブリンのいた空間を抜け、さらに洞窟の奥へ。また別の物音が聞こえてきた。今度は複数。壁の向こうから、ガサゴソという音と、複数のキィキィという鳴き声が聞こえる。
(ジャイアント・ラットの群れか…?)
一体ならともかく、複数となると厄介だ。しかし、同時に経験値を得るチャンスでもある。
オブシディアンは、壁の陰に身を寄せ、【擬態】を発動。近くの岩と同化し、息を潜めて様子を窺うことにした。闇に溶け込む黒い岩塊は、ただそこにあるだけで、何の脅威も感じさせない。捕食者としての最初の狩りを成功させたオブシディアンは、次なる獲物を静かに待ち構えていた。
名前: オブシディアン
種族: スライム(名無し)
称号: なし
所属: 未定義
【能力値】
体力: 3
魔力容量: 3
物理攻撃力: 0
物理防御力: 2
魔法攻撃力: 0
魔法防御力: 2
素早さ: 2
【スキル】
・捕食 Lv.1
・自己修復 Lv.1
・擬態 Lv.1
・微光 Lv.1
・物理耐性(微) ※種族特性
・暗視 Lv.1
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