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第三十六話 灼熱の心臓を求めて
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悪名高きPKギルド「スカル・ブレイド」を蹂躙し、古代の炉のエネルギーを吸収して【物質生成(初級)】スキルを獲得したオブシディアン。彼の力は、もはや単なる魔物プレイヤーの域を超え、EROの世界における「災害」として認識されるレベルに達していた。しかし、当の本人はそんな外界の評価を意に介することなく、次なる目標――古代竜の試練の達成――へと意識を集中させていた。
(第二の試練、「灼熱の心臓にて竜の涙を灯せ」…まずは、「竜の涙」を見つけなければならない)
古代の炉の壁画や、吸収した知識の断片によれば、「竜の涙」とは火山活動によって生成される特殊な鉱石、あるいは火山の精霊が守護するアイテムである可能性が高い。そして、それはおそらく、この火山地帯の最深部、噴煙を上げるあの活火山の中心付近に存在するのだろう。
オブシディアンは、古代の炉があったドームを後にし、活火山を目指して再び移動を開始した。【影潜行 Lv.2】で溶岩と火山灰に覆われた大地を滑るように進む。向上した【火炎耐性(大)】と【ブレス耐性(中)】のおかげで、灼熱の環境によるダメージはほとんど気にならないレベルになっていた。【深淵の核 Lv.1】が常に周囲の魔力を吸収し、MPを回復させてくれるため、スキル使用の負担も少ない。
活火山に近づくにつれて、地形はさらに険しくなり、溶岩の流れも活発になってくる。地面の亀裂からは絶えず高温のガスが噴き出し、視界も悪化していく。【熱源感知 Lv.1】スキルが、周囲に潜む高温の危険――隠れた溶岩溜まりや、マグマの中に潜むモンスター――を警告してくれるため、慎重に進むことができた。
遭遇するモンスターも、より強力になっていた。全身が黒曜石のような硬い甲殻で覆われた巨大なサソリ『オブシディアン・スコーピオン Lv.15』、溶岩の中を自在に泳ぎ回り、高熱のブレスを吐く竜のような生物『ラーヴァ・ドレイク Lv.16』など、レベル15以上の強敵が次々と現れる。
オブシディアン・スコーピオンの甲殻は【竜鱗 Lv.2】に匹敵する硬さを誇り、【物質生成】で生み出した黒曜石の武器でもなかなかダメージを与えられなかった。オブシディアンは、【腐食溶解液 Lv.1】で甲殻の接合部を狙って溶解させ、内部の柔らかい部分に【爪撃 Lv.2】を叩き込み、弱ったところを【捕食吸収 Lv.2】で仕留めた。
ラーヴァ・ドレイクは、溶岩内からの奇襲と高威力のブレスが厄介だった。オブシディアンは【風操作(小)】でブレスの軌道を逸らしつつ、【石材操作(小)】で溶岩流を一時的に堰き止め、相手を地上に誘い出す。地上戦に持ち込めば、【影潜行】による機動力と【爪撃】【酸液生成】を駆使して有利に戦いを進め、最終的に捕食に成功した。
これらの強敵を狩ることで、オブシディアンは着実に経験値を稼ぎ、レベルも17へと到達した。
『レベルが17に上がりました』
『体力+1, 魔力容量+1, 物理攻撃力+1, 物理防御力+1, 魔法攻撃力+1』
『スキル【捕食吸収】がLv.3に上がりました』
『スキル【古代言語解読(初級)】がLv.2に上がりました』
【捕食吸収 Lv.3】は、吸収速度、回復力、そして知識獲得効率がさらに向上し、もはやオブシディアンの生命線とも言えるスキルへと成長した。そして、【古代言語解読 Lv.2】へのレベルアップ。これは非常に大きい。これで、日誌や断章の解読がさらに進むはずだ。
活火山の麓にたどり着いたオブシディアンは、その巨大さにあらためて圧倒された。山肌からは絶えず噴煙が上がり、時折、地響きと共に小規模な噴火が起きている。山頂付近は赤熱しており、強大な火のエネルギーが渦巻いているのが【熱源感知】スキルを通じて感じられた。
(この山のどこかに、「竜の涙」が…)
オブシディアンは、登山を開始した。火山灰で滑りやすい斜面を【壁面歩行(小)】で登り、溶岩流が流れる場所は【石材操作】で足場を作りながら進む。【蟲の共鳴 Lv.1】で周囲の微細な情報を拾い上げ、「竜の涙」に繋がりそうな特殊な鉱脈や、異常な魔力の流れを探る。
登るにつれて、モンスターのレベルもさらに上がっていく。炎の精霊『ファイア・エレメンタル Lv.17』、火山ガスを操る『サルファー・デーモン Lv.16』などが出現したが、エレメンタル知識(炎)を持つオブシディアンは、それらの弱点を的確に突き、効率的に狩りを進めていった。
そして、火山の七合目付近、巨大な溶岩洞窟の入り口を発見した。洞窟の奥からは、これまで感じたことのない、極めて純粋で強力な火の魔力が漏れ出ている。そして、その魔力の中に、微かにだが、竜種特有の気配が混じっているのを【嗅覚強化】(のような感覚)が捉えた。
(ここか…!)
オブシディアンは、警戒しながらも洞窟の中へと進む。内部は灼熱の空気で満たされ、壁一面が赤熱している。通路を進むと、やがて広大な空間に出た。そこは巨大な溶岩湖になっており、湖の中央には祭壇のような岩島が浮かんでいる。そして、その祭壇の上に、それはあった。
拳ほどの大きさの、燃えるように赤い宝石。それは心臓のようにドクンドクンと脈打ち、周囲の溶岩から絶えずエネルギーを吸収しているように見えた。その宝石から放たれる純粋な火の魔力と、微かな竜の気配。間違いなく、これが「竜の涙」だろう。
しかし、祭壇には先客がいた。祭壇の周囲の溶岩の中から、三つの巨大な頭部を持つ、全長20メートルはあろうかという巨大な竜――ヒュドラのような姿をしたモンスターが姿を現した。その身体は赤熱した鱗で覆われ、三つの口からは絶えず溶岩のような涎(よだれ)を垂らしている。
『マグマ・ヒュドラ Lv.18 (Dungeon Boss)』
レベル18、ダンジョンボス級。この溶岩洞窟の主であり、「竜の涙」の守護者なのだろう。三つの頭がそれぞれオブシディアンを捉え、威嚇するように唸り声を上げる。
(ヒュドラか…厄介な相手だ)
三つの頭はそれぞれ独立して攻撃してくるだろうし、再生能力を持っている可能性もある。そして、ここは相手にとって完全なホームグラウンドだ。
オブシディアンは、まず距離を取り、相手の攻撃パターンを見極めることにした。【影潜行 Lv.2】で気配を消し、溶岩湖の周囲にある岩陰に隠れる。
ヒュドラは、オブシディアンの姿を見失うと、苛立ったように三つの口から同時に高熱のブレスを吐き出した。灼熱の奔流が洞窟内を薙ぎ払い、岩壁を溶解させる。
(広範囲ブレスか…しかも三方向から同時に。まともに喰らえば危ない)
オブシディアンはブレスを回避しながら、反撃の糸口を探る。【物質生成(初級)】で黒曜石の槍を生成し、ヒュドラの頭部の一つを狙って射出する。槍はヒュドラの鱗に弾かれるが、わずかに注意を引くことはできた。
(やはり、物理攻撃は通りにくいか。ならば…)
オブシディアンは【風操作(小)】スキルを応用し、洞窟内の熱気を操ることを試みた。ヒュドラの周囲の温度を急激に下げ、動きを鈍らせる。さらに、【腐食溶解液 Lv.1】を三つの頭部目掛けて連続で噴射する。
「グルオオオッ!」
ヒュドラは苦痛の声を上げる。酸と毒の混合液は、鱗の上からでもダメージを与えているようだ。しかし、ヒュドラの身体からはすぐに蒸気が上がり、傷がみるみるうちに再生していく。
(やはり再生能力持ちか…! 生半可な攻撃では押し切れない)
ならば、再生能力を上回るダメージを与えるか、あるいは再生の源を断つ必要がある。オブシディアンは、ヒュドラの動きと魔力の流れを注意深く観察する。【熱源感知 Lv.1】が、ヒュドラの体内に、三つの頭部とは別に、ひときわ強い熱を発する部位があることを捉えた。おそらく、それが核(コア)、あるいは再生能力の源だろう。
(あの核を破壊するか、あるいは喰らう!)
オブシディアンは決意を固めた。ヒュドラの三つの頭による猛攻を掻い潜り、本体の核へと到達する。それは危険な賭けだが、他に有効な手段は見当たらない。
オブシディアンは【死霊魔術】で召喚可能な最大数のボーン・ハウンドを召喚し、ヒュドラの三つの頭にそれぞれぶつける。囮として時間を稼いでもらう。【統率力(微)】で的確に指示を出し、連携させる。
そして、自身は【影潜行 Lv.2】を発動し、溶岩湖の縁を滑るように移動。ヒュドラ本体の側面へと回り込む。ボーン・ハウンドたちが必死に抵抗し、ヒュドラの注意を引きつけている隙に、オブシディアンは【跳躍】と【風操作】による滑空を駆使して、ヒュドラの巨大な胴体へと飛び乗った。
灼熱の鱗がオブシディアンの身体を焼くが、【竜鱗 Lv.2】と【火炎耐性(大)】で耐える。そして、核があると思われる場所――胸部付近の、ひときわ赤熱している鱗の密集地帯――目掛けて、【捕食吸収 Lv.3】を発動した。
「グギャアアアアアアアアアアアッ!!」
ヒュドラが、これまでとは比較にならない絶叫を上げた。核から直接エネルギーを吸われる痛みと、存在そのものを脅かされる恐怖。三つの頭が狂ったように暴れ、召喚されたボーン・ハウンドたちを瞬く間に破壊する。そして、その怒りの矛先は、本体に取り付いたオブシディアンへと向けられた。
灼熱のブレス、鋭い牙、巨大な爪が、オブシディアン目掛けて襲いかかる。オブシディアンは【竜鱗】と【影潜行】による回避を駆使し、必死に耐えながら吸収を続ける。HPとMPが猛烈な勢いで削られていくが、【捕食吸収 Lv.3】による回復と【深淵の核】によるMP供給がそれを支える。まさに死闘。
(もう少し…もう少しで、核に届く…!)
オブシディアンは全意識を集中させる。そして、ついに。
『マグマ・ヒュドラ Lv.18 (Dungeon Boss)を捕食しました』
『経験値を800獲得しました』
『レベルが18に上がりました』
『体力+3, 魔力容量+5, 物理攻撃力+1, 物理防御力+2, 魔法防御力+2』
『スキル【自己再生(小) Lv.1】を獲得しました』
『スキル【三頭思考 Lv.1】を…獲得に失敗しました』
『スキル【火炎ブレス Lv.1】を獲得しました』
『称号【ヒュドラ・ベイン】を獲得しました』
『素材「ヒュドラの赤熱鱗」「再生の核」「溶岩竜の血」を獲得しました』
ヒュドラは完全に沈黙し、その巨体は溶岩の中へと沈んでいった。レベルは18に上がり、新たなスキルも獲得。【自己再生(小)】は、戦闘中の生存能力をさらに高めるだろう。【火炎ブレス】は、待望の強力な遠距離属性攻撃スキルだ。
守護者を失った祭壇の上で、「竜の涙」が静かに脈打っている。オブシディアンは祭壇に近づき、その燃えるような赤い宝石に触れた。
瞬間、宝石は眩い光を放ち、オブシディアンのインベントリへと吸い込まれていった。
『アイテム「竜の涙」を獲得しました』
これで、第二の試練に必要なアイテムは手に入れた。オブシディアンは、消耗した身体を休ませる間もなく、試練の舞台である古代の炉へと意識を向けた。試練達成の時は近い。そして、その先にある「灼熱の心臓」とは一体何なのか。期待と、わずかな緊張感を胸に、オブシディアンは溶岩洞窟を後にした。
名前: オブシディアン
種族: アビス・スライム
称号: 影に潜む者 (効果向上), 墓守殺し, 深淵を宿す者, 竜殺し, 風を征す者, ヒュドラ・ベイン
所属: 未定義
【能力値】
体力: 31
魔力容量: 42
物理攻撃力: 9
物理防御力: 18
魔法攻撃力: 14
魔法防御力: 25
素早さ: 20
【スキル】
・捕食吸収 Lv.3
・影潜行 Lv.2
・微光 Lv.1
・闇視 Lv.1
・噛みつき耐性(微) Lv.1
・跳躍 Lv.1
・嗅覚強化 Lv.1
・糸生成 Lv.2
・毒耐性(大) Lv.1
・竜鱗 Lv.2
・爪撃 Lv.2
・腐食溶解液 Lv.1
・物理耐性(小) Lv.1
・物質生成(初級) Lv.1
・アンデッド耐性(微) Lv.1
・死霊魔術(初級) Lv.1
・精神耐性(中) Lv.1
・ブレス耐性(中) Lv.1
・怨念耐性(小) Lv.1
・深淵の核 Lv.1
・統率力(微) Lv.1
・水中活動(微) Lv.1
・粘液噴射 Lv.1
・麻痺耐性(小) Lv.1
・壁面歩行(小) Lv.1
・鎌鼬 Lv.1
・蟲の共鳴 Lv.1
・威圧 Lv.1
・猛禽の目 Lv.1
・古代言語解読(初級) Lv.1 -> Lv.2
・魅了耐性(微) Lv.1
・突風耐性(小) Lv.1
・風操作(小) Lv.1
・火炎耐性(大) Lv.1
・熱源感知 Lv.1
・エレメンタル知識(風) Lv.1
・エレメンタル知識(炎) Lv.1
・自己再生(小) Lv.1
・火炎ブレス Lv.1
(第二の試練、「灼熱の心臓にて竜の涙を灯せ」…まずは、「竜の涙」を見つけなければならない)
古代の炉の壁画や、吸収した知識の断片によれば、「竜の涙」とは火山活動によって生成される特殊な鉱石、あるいは火山の精霊が守護するアイテムである可能性が高い。そして、それはおそらく、この火山地帯の最深部、噴煙を上げるあの活火山の中心付近に存在するのだろう。
オブシディアンは、古代の炉があったドームを後にし、活火山を目指して再び移動を開始した。【影潜行 Lv.2】で溶岩と火山灰に覆われた大地を滑るように進む。向上した【火炎耐性(大)】と【ブレス耐性(中)】のおかげで、灼熱の環境によるダメージはほとんど気にならないレベルになっていた。【深淵の核 Lv.1】が常に周囲の魔力を吸収し、MPを回復させてくれるため、スキル使用の負担も少ない。
活火山に近づくにつれて、地形はさらに険しくなり、溶岩の流れも活発になってくる。地面の亀裂からは絶えず高温のガスが噴き出し、視界も悪化していく。【熱源感知 Lv.1】スキルが、周囲に潜む高温の危険――隠れた溶岩溜まりや、マグマの中に潜むモンスター――を警告してくれるため、慎重に進むことができた。
遭遇するモンスターも、より強力になっていた。全身が黒曜石のような硬い甲殻で覆われた巨大なサソリ『オブシディアン・スコーピオン Lv.15』、溶岩の中を自在に泳ぎ回り、高熱のブレスを吐く竜のような生物『ラーヴァ・ドレイク Lv.16』など、レベル15以上の強敵が次々と現れる。
オブシディアン・スコーピオンの甲殻は【竜鱗 Lv.2】に匹敵する硬さを誇り、【物質生成】で生み出した黒曜石の武器でもなかなかダメージを与えられなかった。オブシディアンは、【腐食溶解液 Lv.1】で甲殻の接合部を狙って溶解させ、内部の柔らかい部分に【爪撃 Lv.2】を叩き込み、弱ったところを【捕食吸収 Lv.2】で仕留めた。
ラーヴァ・ドレイクは、溶岩内からの奇襲と高威力のブレスが厄介だった。オブシディアンは【風操作(小)】でブレスの軌道を逸らしつつ、【石材操作(小)】で溶岩流を一時的に堰き止め、相手を地上に誘い出す。地上戦に持ち込めば、【影潜行】による機動力と【爪撃】【酸液生成】を駆使して有利に戦いを進め、最終的に捕食に成功した。
これらの強敵を狩ることで、オブシディアンは着実に経験値を稼ぎ、レベルも17へと到達した。
『レベルが17に上がりました』
『体力+1, 魔力容量+1, 物理攻撃力+1, 物理防御力+1, 魔法攻撃力+1』
『スキル【捕食吸収】がLv.3に上がりました』
『スキル【古代言語解読(初級)】がLv.2に上がりました』
【捕食吸収 Lv.3】は、吸収速度、回復力、そして知識獲得効率がさらに向上し、もはやオブシディアンの生命線とも言えるスキルへと成長した。そして、【古代言語解読 Lv.2】へのレベルアップ。これは非常に大きい。これで、日誌や断章の解読がさらに進むはずだ。
活火山の麓にたどり着いたオブシディアンは、その巨大さにあらためて圧倒された。山肌からは絶えず噴煙が上がり、時折、地響きと共に小規模な噴火が起きている。山頂付近は赤熱しており、強大な火のエネルギーが渦巻いているのが【熱源感知】スキルを通じて感じられた。
(この山のどこかに、「竜の涙」が…)
オブシディアンは、登山を開始した。火山灰で滑りやすい斜面を【壁面歩行(小)】で登り、溶岩流が流れる場所は【石材操作】で足場を作りながら進む。【蟲の共鳴 Lv.1】で周囲の微細な情報を拾い上げ、「竜の涙」に繋がりそうな特殊な鉱脈や、異常な魔力の流れを探る。
登るにつれて、モンスターのレベルもさらに上がっていく。炎の精霊『ファイア・エレメンタル Lv.17』、火山ガスを操る『サルファー・デーモン Lv.16』などが出現したが、エレメンタル知識(炎)を持つオブシディアンは、それらの弱点を的確に突き、効率的に狩りを進めていった。
そして、火山の七合目付近、巨大な溶岩洞窟の入り口を発見した。洞窟の奥からは、これまで感じたことのない、極めて純粋で強力な火の魔力が漏れ出ている。そして、その魔力の中に、微かにだが、竜種特有の気配が混じっているのを【嗅覚強化】(のような感覚)が捉えた。
(ここか…!)
オブシディアンは、警戒しながらも洞窟の中へと進む。内部は灼熱の空気で満たされ、壁一面が赤熱している。通路を進むと、やがて広大な空間に出た。そこは巨大な溶岩湖になっており、湖の中央には祭壇のような岩島が浮かんでいる。そして、その祭壇の上に、それはあった。
拳ほどの大きさの、燃えるように赤い宝石。それは心臓のようにドクンドクンと脈打ち、周囲の溶岩から絶えずエネルギーを吸収しているように見えた。その宝石から放たれる純粋な火の魔力と、微かな竜の気配。間違いなく、これが「竜の涙」だろう。
しかし、祭壇には先客がいた。祭壇の周囲の溶岩の中から、三つの巨大な頭部を持つ、全長20メートルはあろうかという巨大な竜――ヒュドラのような姿をしたモンスターが姿を現した。その身体は赤熱した鱗で覆われ、三つの口からは絶えず溶岩のような涎(よだれ)を垂らしている。
『マグマ・ヒュドラ Lv.18 (Dungeon Boss)』
レベル18、ダンジョンボス級。この溶岩洞窟の主であり、「竜の涙」の守護者なのだろう。三つの頭がそれぞれオブシディアンを捉え、威嚇するように唸り声を上げる。
(ヒュドラか…厄介な相手だ)
三つの頭はそれぞれ独立して攻撃してくるだろうし、再生能力を持っている可能性もある。そして、ここは相手にとって完全なホームグラウンドだ。
オブシディアンは、まず距離を取り、相手の攻撃パターンを見極めることにした。【影潜行 Lv.2】で気配を消し、溶岩湖の周囲にある岩陰に隠れる。
ヒュドラは、オブシディアンの姿を見失うと、苛立ったように三つの口から同時に高熱のブレスを吐き出した。灼熱の奔流が洞窟内を薙ぎ払い、岩壁を溶解させる。
(広範囲ブレスか…しかも三方向から同時に。まともに喰らえば危ない)
オブシディアンはブレスを回避しながら、反撃の糸口を探る。【物質生成(初級)】で黒曜石の槍を生成し、ヒュドラの頭部の一つを狙って射出する。槍はヒュドラの鱗に弾かれるが、わずかに注意を引くことはできた。
(やはり、物理攻撃は通りにくいか。ならば…)
オブシディアンは【風操作(小)】スキルを応用し、洞窟内の熱気を操ることを試みた。ヒュドラの周囲の温度を急激に下げ、動きを鈍らせる。さらに、【腐食溶解液 Lv.1】を三つの頭部目掛けて連続で噴射する。
「グルオオオッ!」
ヒュドラは苦痛の声を上げる。酸と毒の混合液は、鱗の上からでもダメージを与えているようだ。しかし、ヒュドラの身体からはすぐに蒸気が上がり、傷がみるみるうちに再生していく。
(やはり再生能力持ちか…! 生半可な攻撃では押し切れない)
ならば、再生能力を上回るダメージを与えるか、あるいは再生の源を断つ必要がある。オブシディアンは、ヒュドラの動きと魔力の流れを注意深く観察する。【熱源感知 Lv.1】が、ヒュドラの体内に、三つの頭部とは別に、ひときわ強い熱を発する部位があることを捉えた。おそらく、それが核(コア)、あるいは再生能力の源だろう。
(あの核を破壊するか、あるいは喰らう!)
オブシディアンは決意を固めた。ヒュドラの三つの頭による猛攻を掻い潜り、本体の核へと到達する。それは危険な賭けだが、他に有効な手段は見当たらない。
オブシディアンは【死霊魔術】で召喚可能な最大数のボーン・ハウンドを召喚し、ヒュドラの三つの頭にそれぞれぶつける。囮として時間を稼いでもらう。【統率力(微)】で的確に指示を出し、連携させる。
そして、自身は【影潜行 Lv.2】を発動し、溶岩湖の縁を滑るように移動。ヒュドラ本体の側面へと回り込む。ボーン・ハウンドたちが必死に抵抗し、ヒュドラの注意を引きつけている隙に、オブシディアンは【跳躍】と【風操作】による滑空を駆使して、ヒュドラの巨大な胴体へと飛び乗った。
灼熱の鱗がオブシディアンの身体を焼くが、【竜鱗 Lv.2】と【火炎耐性(大)】で耐える。そして、核があると思われる場所――胸部付近の、ひときわ赤熱している鱗の密集地帯――目掛けて、【捕食吸収 Lv.3】を発動した。
「グギャアアアアアアアアアアアッ!!」
ヒュドラが、これまでとは比較にならない絶叫を上げた。核から直接エネルギーを吸われる痛みと、存在そのものを脅かされる恐怖。三つの頭が狂ったように暴れ、召喚されたボーン・ハウンドたちを瞬く間に破壊する。そして、その怒りの矛先は、本体に取り付いたオブシディアンへと向けられた。
灼熱のブレス、鋭い牙、巨大な爪が、オブシディアン目掛けて襲いかかる。オブシディアンは【竜鱗】と【影潜行】による回避を駆使し、必死に耐えながら吸収を続ける。HPとMPが猛烈な勢いで削られていくが、【捕食吸収 Lv.3】による回復と【深淵の核】によるMP供給がそれを支える。まさに死闘。
(もう少し…もう少しで、核に届く…!)
オブシディアンは全意識を集中させる。そして、ついに。
『マグマ・ヒュドラ Lv.18 (Dungeon Boss)を捕食しました』
『経験値を800獲得しました』
『レベルが18に上がりました』
『体力+3, 魔力容量+5, 物理攻撃力+1, 物理防御力+2, 魔法防御力+2』
『スキル【自己再生(小) Lv.1】を獲得しました』
『スキル【三頭思考 Lv.1】を…獲得に失敗しました』
『スキル【火炎ブレス Lv.1】を獲得しました』
『称号【ヒュドラ・ベイン】を獲得しました』
『素材「ヒュドラの赤熱鱗」「再生の核」「溶岩竜の血」を獲得しました』
ヒュドラは完全に沈黙し、その巨体は溶岩の中へと沈んでいった。レベルは18に上がり、新たなスキルも獲得。【自己再生(小)】は、戦闘中の生存能力をさらに高めるだろう。【火炎ブレス】は、待望の強力な遠距離属性攻撃スキルだ。
守護者を失った祭壇の上で、「竜の涙」が静かに脈打っている。オブシディアンは祭壇に近づき、その燃えるような赤い宝石に触れた。
瞬間、宝石は眩い光を放ち、オブシディアンのインベントリへと吸い込まれていった。
『アイテム「竜の涙」を獲得しました』
これで、第二の試練に必要なアイテムは手に入れた。オブシディアンは、消耗した身体を休ませる間もなく、試練の舞台である古代の炉へと意識を向けた。試練達成の時は近い。そして、その先にある「灼熱の心臓」とは一体何なのか。期待と、わずかな緊張感を胸に、オブシディアンは溶岩洞窟を後にした。
名前: オブシディアン
種族: アビス・スライム
称号: 影に潜む者 (効果向上), 墓守殺し, 深淵を宿す者, 竜殺し, 風を征す者, ヒュドラ・ベイン
所属: 未定義
【能力値】
体力: 31
魔力容量: 42
物理攻撃力: 9
物理防御力: 18
魔法攻撃力: 14
魔法防御力: 25
素早さ: 20
【スキル】
・捕食吸収 Lv.3
・影潜行 Lv.2
・微光 Lv.1
・闇視 Lv.1
・噛みつき耐性(微) Lv.1
・跳躍 Lv.1
・嗅覚強化 Lv.1
・糸生成 Lv.2
・毒耐性(大) Lv.1
・竜鱗 Lv.2
・爪撃 Lv.2
・腐食溶解液 Lv.1
・物理耐性(小) Lv.1
・物質生成(初級) Lv.1
・アンデッド耐性(微) Lv.1
・死霊魔術(初級) Lv.1
・精神耐性(中) Lv.1
・ブレス耐性(中) Lv.1
・怨念耐性(小) Lv.1
・深淵の核 Lv.1
・統率力(微) Lv.1
・水中活動(微) Lv.1
・粘液噴射 Lv.1
・麻痺耐性(小) Lv.1
・壁面歩行(小) Lv.1
・鎌鼬 Lv.1
・蟲の共鳴 Lv.1
・威圧 Lv.1
・猛禽の目 Lv.1
・古代言語解読(初級) Lv.1 -> Lv.2
・魅了耐性(微) Lv.1
・突風耐性(小) Lv.1
・風操作(小) Lv.1
・火炎耐性(大) Lv.1
・熱源感知 Lv.1
・エレメンタル知識(風) Lv.1
・エレメンタル知識(炎) Lv.1
・自己再生(小) Lv.1
・火炎ブレス Lv.1
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これまであらゆるMMOを最前線攻略してきたが、もう俺(大川優磨)はこの遊び方に満足してしまった。いや、もう楽しいとすら思えない。
ゲームは楽しむためにするものだと思い出した俺は、新作VRMMOを最弱職業『テイマー』で始めることに。
βテストでは最弱職業だと言われていたテイマーだが、主人公の活躍によって評価が上がっていく?
そんな周りの評価など関係なしに、今日も主人公は楽しむことに全力を出す。
この作品は「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています。
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
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冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
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