ゴブリンだって進化したい!~最弱モンスターに転生したけど、スキル【弱肉強食】で食って食って食いまくったら、気づけば魔王さえ喰らう神になってた

夏見ナイ

文字の大きさ
63 / 96

第62話 王の帰還

しおりを挟む
「散開しろ! 崖を駆け下りろ! 何があっても足を止めるな!」

俺は卵を抱えた部下たちに絶叫しながら、自らは最後尾についた。背後から迫るプレッシャーは、もはや殺気という生易しいものではない。山そのものが怒り、俺たちという異物を排除しようとしているかのような絶対的な拒絶の意志。

振り返ると、漆黒の巨体が信じられない速度で空を駆け上がってくるのが見えた。
ワイバーンロード。
彼の怒りは、その飛行速度を通常の何倍にも引き上げているようだった。

「ギシャアアアアア!」

ロードの咆哮が、俺たちの真上で炸裂した。
その音波だけで崖の岩がボロボロと崩れ落ちる。部下の一人が足を滑らせて体勢を崩した。

「危ない!」

俺は咄嗟に彼の腕を掴み、引き上げた。だが、その一瞬の遅れが命取りとなった。

ロードは俺たちの頭上を通り過ぎると反転し、ブレスの体勢に入った。その巨大な顎が開き、喉の奥が灼熱の太陽のように輝き始める。

「くそっ!」

逃げ場はない。この崖の上でブレスを食らえば、俺たちに待っているのは蒸発という名の死だけだ。

俺は最後の賭けに出た。
「全員、俺の後ろに隠れろ!」

俺は部下たちを背後にかばい、崖の僅かなくぼみに身を押し込めた。そして、残っていたMPの全てを注ぎ込み、スキルを発動させる。

【硬質外皮 Lv2】
【頑強 Lv1】

俺の全身の皮膚が黒曜石のように硬質化し、その内側でグレートボアから受け継いだ強靭な筋肉が限界まで収縮する。防御に特化した二重の鎧。

そして、俺は背中の漆黒のマントを大きく広げ、自分と部下たちを覆うように盾とした。

次の瞬間。
世界が白に染まった。

ゴオオオオオオオォォォォ!

灼熱の奔流が俺の背中を直撃する。
凄まじい熱と衝撃。マントがジリジリと音を立てて蒸発していく。その下の硬質化した皮膚が熱でひび割れ、肉が焼ける嫌な匂いが立ち込めた。

「ぐ……うおおおおおおおおっ!」

俺は歯を食いしばり、絶叫して耐えた。意識が何度も飛びそうになるのを、仲間を守るというただ一点の意志だけで繋ぎ止める。

どれくらいの時間が経っただろうか。
永遠にも思えた灼熱の嵐が、ようやく止んだ。

俺の背中のマントはほとんど消し飛んでいた。皮膚は焼け爛れ、激痛が全身を駆け巡る。だが、俺は立っていた。そして、俺の背後で部下たちは全員無事だった。

「……ボス……」

彼らが、信じられないものを見るような目で俺の背中を見つめている。

「……化け物が」

崖の上空でホバリングしていたワイバーンロードが、忌々しげに呟いた。その声はテレパシーのように、直接俺の脳内に響いてきた。

「我がブレスを正面から受け止めて、なお立つか。虫ケラにしては骨がある」

ロードの漆黒の瞳が俺を正確に捉えていた。その瞳には怒りと共に、初めて俺という存在に対する純粋な興味の色が浮かんでいた。

「だが、貴様らが我が巣で何をしたかは分かっている。その罪は万死に値する。卵を置いていけ。さすれば、苦しまずに殺してやろう」

それは王による最後の慈悲の宣告だった。

俺は焼けた背中の痛みに耐えながら、ゆっくりと顔を上げた。そして、血反吐を吐き捨て不敵に笑ってみせた。

「断る」

俺は部下が抱えていたワイバーンの卵の一つを乱暴に奪い取った。そして、それをロードに見せつけるように高く掲げる。

「こいつらは俺が貰い受ける。そして、お前よりも遥かに強い竜に育て上げてやろう。俺の、手駒としてな」

その挑発は、王の逆鱗に触れるには十分すぎた。

「……そうか」

ロードの声から感情が消えた。それは、絶対零度の怒りの表れ。

「ならば後悔するがいい。貴様がこの森で最も触れてはならないものに手を出したことを」

ロードはもはやブレスを吐こうとはしなかった。
彼はゆっくりと、その巨大な身体を俺たちがいる崖の上へと降下させてくる。

一対一で、直接俺を叩き潰すつもりなのだ。

「お前たちは卵を持って、麓のガロンと合流しろ。これは命令だ」
俺は部下たちに最後の指示を与えた。

「しかし、ボス一人では!」
「行けと言っている!」

俺の【魔王の覇気】が彼らの反論を封じ込める。部下たちは悔しそうに歯を食いしばりながらも、俺に一礼し、崖を駆け下りていった。

やがて、崖の上には俺と、そしてゆっくりと着地したワイバーンロードの二つの影だけが残された。

風がヒュウと鳴いた。
眼下ではまだ陽動部隊とワイバーンの群れの戦いが続いている。だが、その喧騒はもはや俺たちの耳には届いていなかった。

「さて、始めようか」

俺はボロボロの身体を引きずりながら、冒険者から奪った長剣を構えた。

「王と王の戦いをな」

漆黒のワイバーンロードが、それに応えるようにその巨大な顎をゆっくりと開いた。

この森の真の支配者を決める、頂上決戦。
その火蓋が、今、静かに切って落とされた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

俺の職業は【トラップ・マスター】。ダンジョンを経験値工場に作り変えたら、俺一人のせいでサーバー全体のレベルがインフレした件

夏見ナイ
SF
現実世界でシステムエンジニアとして働く神代蓮。彼が効率を求めVRMMORPG「エリュシオン・オンライン」で選んだのは、誰にも見向きもされない不遇職【トラップ・マスター】だった。 周囲の冷笑をよそに、蓮はプログラミング知識を応用してトラップを自動連携させる画期的な戦術を開発。さらに誰も見向きもしないダンジョンを丸ごと買い取り、24時間稼働の「全自動経験値工場」へと作り変えてしまう。 結果、彼のレベルと資産は異常な速度で膨れ上がり、サーバーの経済とランキングをたった一人で崩壊させた。この事態を危険視した最強ギルドは、彼のダンジョンに狙いを定める。これは、知恵と工夫で世界の常識を覆す、一人の男の伝説の始まり。

M.M.O. - Monster Maker Online

夏見ナイ
SF
現実世界に居場所を見出せない大学生、神代悠。彼が救いを求めたのは、モンスターを自由に創造できる新作VRMMO『M.M.O.』だった。 彼が選んだのは、戦闘能力ゼロの不遇職【モンスターメイカー】。周囲に笑われながらも、悠はゴミ同然の素材と無限の発想力を武器に、誰も見たことのないユニークなモンスターを次々と生み出していく。 その常識外れの力は、孤高の美少女聖騎士や抜け目のない商人少女といった仲間を引き寄せ、やがて彼の名はサーバーに轟く。しかし、それは同時にゲームの支配を目論む悪徳ギルドとの全面対決の始まりを意味していた。 これは、最弱の職から唯一無二の相棒を創り出し、仲間と世界を守るために戦う、創造と成り上がりの物語。

雑魚で貧乏な俺にゲームの悪役貴族が憑依した結果、ゲームヒロインのモデルとパーティーを組むことになった

ぐうのすけ
ファンタジー
無才・貧乏・底辺高校生の稲生アキラ(イナセアキラ)にゲームの悪役貴族が憑依した。 悪役貴族がアキラに話しかける。 「そうか、お前、魂の片割れだな? はははははは!喜べ!魂が1つになれば強さも、女も、名声も思うがままだ!」 アキラは悪役貴族を警戒するがあらゆる事件を通してお互いの境遇を知り、魂が融合し力を手に入れていく。 ある時はモンスターを無双し、ある時は配信で人気を得て、ヒロインとパーティーを組み、アキラの人生は好転し、自分の人生を切り開いていく。

癒し目的で始めたVRMMO、なぜか最強になっていた。

branche_noir
SF
<カクヨムSFジャンル週間1位> <カクヨム週間総合ランキング最高3位> <小説家になろうVRゲーム日間・週間1位> 現実に疲れたサラリーマン・ユウが始めたのは、超自由度の高いVRMMO《Everdawn Online》。 目的は“癒し”ただそれだけ。焚き火をし、魚を焼き、草の上で昼寝する。 モンスター討伐? レベル上げ? 知らん。俺はキャンプがしたいんだ。 ところが偶然懐いた“仔竜ルゥ”との出会いが、運命を変える。 テイムスキルなし、戦闘ログ0。それでもルゥは俺から離れない。 そして気づけば、森で焚き火してただけの俺が―― 「魔物の軍勢を率いた魔王」と呼ばれていた……!? 癒し系VRMMO生活、誤認されながら進行中! 本人その気なし、でも周囲は大騒ぎ! ▶モフモフと焚き火と、ちょっとの冒険。 ▶のんびり系異色VRMMOファンタジー、ここに開幕! カクヨムで先行配信してます!

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

小国の若き王、ラスボスを拾う~何気なしに助けたラスボスたるダウナー系のヤンデレ魔女から愛され過ぎて辛い!~

リヒト
ファンタジー
 人類を恐怖のどん底に陥れていた魔女が勇者の手によって倒され、世界は平和になった。そんなめでたしめでたしで終わったハッピーエンドから───それが、たった十年後のこと。  権力闘争に巻き込まれた勇者が処刑され、魔女が作った空白地帯を巡って世界各国が争い合う平和とは程遠い血みどろの世界。  そんな世界で吹けば飛ぶような小国の王子に転生し、父が若くして死んでしまった為に王となってしまった僕はある日、ゲームのラスボスであった封印され苦しむ魔女を拾った。  ゲーム知識から悪い人ではないことを知っていた僕はその魔女を助けるのだが───その魔女がヤンデレ化していた上に僕を世界の覇王にしようとしていて!?

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

処理中です...