ゴブリンだって進化したい！～最弱モンスターに転生したけど、スキル【弱肉強食】で食って食って食いまくったら、気づけば魔王さえ喰らう神になってた

第75話 グラーヴェ大森林統一

ワイバーン軍団を完全に掌握し、竜哭山からグラーヘイムへと帰還した俺を、住民たちは神を見るような目で出迎えた。
飛竜を従え、漆黒の翼で空から舞い降りる俺の姿は、彼らにとってもはや伝説や神話の世界の光景だったからだ。

俺が、このグラーヴェ大森林の名実ともに唯一無二の覇者となった。
その事実は連合軍の士気を、そして住民たちの忠誠心を絶対的なものへと昇華させていた。

俺の支配は盤石となった。

だが俺は勝利の余韻に浸ることはなかった。
むしろここからが本当の始まりだと気を引き締めていた。

俺は王城に幹部たちを集め、新たな方針を告げた。
「これより我々は内政に注力する。目標は、このグラーヴェ大森林を外部のいかなる脅威にも屈しない、盤石の一大国家とすることだ」

俺の宣言に、血気盛んなオークたちの中からわずかな不満の声が漏れた。
「ボス、我々は空の軍団さえ手に入れたのですぞ！ 今こそ人間どもに攻め込み、積年の恨みを晴らすべきでは！」

その声にガロンが鋭い眼光を向ける。
「黙れ！ ボスのお考えに口を挟むな！」

俺はガロンを手で制し、静かに語り始めた。
「気持ちは分かる。だが考えてみろ。我々が今、人間と全面戦争を始めたらどうなる？ たとえ一つの国を滅ぼせたとしても、我々もまた無傷では済まないだろう。その隙を他の人間の国や、あるいはまだ見ぬ魔王軍に突かれたら？ 我々は滅びる」

俺の冷静な分析にオークたちは押し黙った。

「戦とは始めることよりも終わらせることの方が遥かに難しい。そして勝利の後、何を成すかというビジョンなくして始めた戦争は、ただの破壊と消耗をもたらすだけだ。俺が目指すのはそんなものではない」

俺はグラーヘイムの未来図を彼らに語って聞かせた。

農耕を発展させ、食料を完全に自給自足する。
鉱山を開発し、より強力な武具を量産する体制を整える。
街道を整備し、森の中の物流を活性化させる。
そしてゴブリン、オーク、エルフ、さらにはワイバーンといった異なる種族が、それぞれの文化を尊重し共存するための法と教育を確立する。

それは単なる軍事国家ではない。
生産力と文化レベルを兼ね備えた、真の文明国家を築くという壮大な計画だった。

「我々はまず、この森を完璧な我々の領土、『聖域』とする。外部の者が我々の許可なく一歩たりとも足を踏み入れることのできない、不可侵の王国を築き上げるのだ。その上でいずれ来るべき外部との交渉、あるいは戦争に備える。それこそが真の勝利への道だ」

俺の言葉は熱を帯びていた。
それは前世でただ搾取され、すり減るだけだった俺が心の底から渇望していた、理想の組織、理想の国家の姿だった。

俺のビジョンに幹部たちは皆、心を打たれていた。
彼らは目の前の王がただの戦闘狂ではなく、遥か先の未来を見据える真の指導者であることを改めて理解したのだ。

その日を境に、グラーヘイムは急速な内政発展の時代へと突入した。

ガロンは軍事訓練と並行して、兵士たちに街道整備や鉱山開発といった土木作業を指揮した。
リリアはルゥと共に小さな学校のようなものを開き、ゴブリンやオークの子供たちに文字や簡単な計算、そして多種族が共存するための心を教え始めた。
オークの長老衆は俺の知識を元に、より詳細な法典の編纂に取り掛かった。

そして俺自身も竜翼軍団を率いて森の隅々までを飛び回り、まだ見ぬ資源の探索や危険な魔物の討伐を行い、領土の安全を確保していった。

数ヶ月が過ぎる頃にはグラーヴェ大森林は様変わりしていた。
森の中には石畳で舗装された街道が走り、いくつかの要所には見張りの砦が築かれた。森の中央には壮麗な都グラーヘイムがそびえ立ち、その周辺には豊かな農園が広がっている。

森の魔物たちはこの新たな支配者の誕生を認め、ある者は森の奥深くへと姿を消し、またある者は俺たちの支配下に入ることを望んでグラーヘイムの門を叩いた。

グラーヴェ大森林はついに一つの意志の下に完全に統一されたのだ。

俺の名はもはや森の中だけの伝説ではなかった。
森の近くの村々で猟師や木こりたちの間で、噂が囁かれ始めていた。

「最近、森が静かすぎる」
「森の奥に巨大な都を築き、飛竜さえも従える魔物の王が現れたらしい」
「その王の名は『ゴブ』。その姿は漆黒の翼を持つ、魔王そのものだとか……」

その噂はまだ小さく、信憑性のないものとして扱われていた。
だがその小さな波紋がやがて森の外の世界――人間たちの王国や魔王軍といった巨大な存在の耳に届き、大きな波となって押し寄せてくることをまだ誰も知らなかった。

グラーヴェ大森林の統一。
それは俺の物語の第一部の終わりに過ぎない。
そして世界を巻き込む壮大な物語の本当の序章が、今、静かに始まろうとしていた。