ゴブリンだって進化したい!~最弱モンスターに転生したけど、スキル【弱肉強食】で食って食って食いまくったら、気づけば魔王さえ喰らう神になってた

夏見ナイ

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第76話 人間の警戒

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グラーヴェ大森林にかつてないほどの静寂と秩序が訪れてから、半年が過ぎた。
俺、ゴブがこの森の絶対的な支配者となって以来、森の生態系は俺という王の意志の下に完全に管理されていた。

かつて森の周辺を脅かしていた凶暴な魔物は、俺の軍門に降るか、あるいは森の奥深くへと追いやられた。ゴブリンやオークによる人間への散発的な襲撃も、俺が固く禁じたことで完全に鳴りを潜めている。

森は静かになった。
あまりにも静かになりすぎた。

そして、その異常な静寂は、森と国境を接する人間の大国『アークライト王国』の注意を引くには十分すぎた。

王国の東部に位置する国境の砦『フォート・イーストン』。
その司令官であるベテラン騎士のダリウスは、ここ数ヶ月の不可解な現象に眉をひそめていた。

「魔物の目撃報告、ゼロ。被害報告、ゼロ。森から聞こえてくる獣の咆哮さえもほとんど聞こえなくなった……。嵐の前の静けさとはこのことか」

ダリウスは砦の城壁の上から、不気味なほど静まり返ったグラーヴェ大森林を睨みつけた。
これまで、この森は王国にとって常に悩みの種だった。ゴブリンの襲撃、オークの略奪、そして時折現れる強力な魔物。それらを討伐するために砦は常に臨戦態勢を強いられ、多くの騎士たちの血が流されてきた。

だが今はどうだ。
まるで森そのものが死んでしまったかのように、静まり返っている。
それは平和と呼ぶにはあまりにも不自然で、不気味な静寂だった。

「ギルドからの報告も同様です」
副官の若い騎士が、報告書を手にダリウスの隣に立った。
「森へ入った冒険者パーティが立て続けに消息を絶っています。高ランクのパーティでさえ帰還しません。ギルドは森の内部で何か大規模な『異変』が起きていると見て、最高レベルの警戒を発令しました」

「異変、か……」
ダリウスは顎鬚を撫でた。
「森の魔物たちが内輪で大規模な戦争でも始めたか? あるいは我々の知らない、新たな『何か』が森の王として君臨したか……」

どちらにせよ放置はできない。
この静寂が王国を襲う巨大な津波の前触れである可能性を、彼は決して否定できなかった。

ダリウスは決断を下した。
「王都に報告と許可を求める使者を送れ。我が砦の騎士団の中から精鋭を選抜し、グラーヴェ大森林への大規模な調査隊を派遣する、と」
「しかし司令! それは危険すぎます!」
「危険だからこそ行くのだ。敵の正体が分からぬまま怯えて砦に籠っているだけでは国は守れん。我々が王国にとっての『目』となり、『耳』となるのだ」

ダリウスの決意は固かった。

数週間後。
王都からの許可が下り、三十名からなる精鋭調査隊が編成された。率いるのは、ダリウス自身が最も信頼を置く若き騎士隊長アルフレッド。彼は数々の魔物討伐で功績を上げた勇猛果敢な男だった。

「アルフレッド、いいか」
出発の前夜、ダリウスはアルフレッドに最後の指示を与えていた。
「お前の任務は戦闘ではない。あくまで偵察と情報収集だ。森の異変の正体を突き止め、それを無事に持ち帰ること。決して深追いはするな。危険と判断したら即座に撤退しろ。お前たちの命以上に重要なものはない」
「はっ! 肝に銘じます!」

アルフレッドは力強く敬礼した。
彼の目には未知の脅威に挑む騎士としての誇りと、使命感が燃えている。

翌朝。
調査隊は仲間たちの見送りを受け、フォート・イーストンの城門から静まり返ったグラーヴェ大森林へと足を踏み入れていった。
彼らはまだ自分たちがこれから遭遇するであろうものの、本当の恐ろしさを何も知らなかった。

彼らが調査しようとしている『異変』の正体が、ただの魔物の内乱などではないこと。
森の奥深くで飛竜さえも従える漆黒の翼を持つ魔王が、静かに、そして冷徹に自分たちの国を見据えていることなど、知る由もなかった。

人間の警戒。
それは俺が築き上げた静寂の王国と、外の世界との最初の接触の始まりだった。
そしてそれは避けられない衝突への、カウントダウンが始まった合図でもあった。
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