ゴブリンだって進化したい!~最弱モンスターに転生したけど、スキル【弱肉強食】で食って食って食いまくったら、気づけば魔王さえ喰らう神になってた

夏見ナイ

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第77話 白銀騎士団

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人間の調査隊が森に足を踏み入れてから三日が経過した。
俺は玉座に座りながら、森の隅々にまで張り巡らせた斥候網からの報告を静かに聞いていた。

「報告! 人間部隊、森の東部、黒牙川流域を進行中。数はおよそ三十。装備は鋼鉄の鎧と剣。統率の取れた軍隊と見られます」

報告に来たのは『黒曜の爪』に所属するゴブリンの斥候だった。彼は気配を完全に消し、人間の部隊に影のように随行してその動向を逐一俺に伝えてきていた。

「……何か発見した様子は?」
「いえ、今のところは。ただ森の異常な静けさに、明らかに警戒を強めています。頻繁に足を止め、周囲を偵察している模様」

当然だろう。
彼らは未知の領域に踏み込んだ探索者だ。慎重になるのは当たり前だ。

俺はしばらくの間、目を閉じて思考を巡らせた。
この調査隊をどう扱うべきか。

選択肢は三つ。
一つ、このまま放置し、どこまで来るか様子を見る。だがこれではグラーヘイムの存在が露見するリスクが高い。
二つ、警告を与えて追い返す。森の魔物を使って脅し、彼らが自ら引き返すように仕向ける。だが手練れの騎士団相手に、中途半端な脅しが通用するかは疑問だ。
三つ、殲滅する。彼らが森の情報を外に持ち出す前に、完全に葬り去る。これが最も確実で安全な選択肢だろう。

俺の心は初めから三つ目の選択肢に傾いていた。
非情な決断だとは思う。だが俺が守るべきはグラーヘイムの平和と、数百の同胞たちの命だ。そのために三十人の人間の命を犠牲にすることは、王として当然の判断だった。

だがその時、俺の脳裏にリリアの顔が浮かんだ。
彼女は人間を憎んでいる。だが同時に、無用な殺戮を誰よりも嫌うだろう。
俺がかつて自分を救ってくれた冒険者たちと同じように、ただ「人間だから」という理由で彼らを皆殺しにしたと知ったら、彼女はどう思うだろうか。

俺は小さくため息をついた。
いつから俺はこんなに甘くなったのか。

「……ガロンを呼べ」

俺の命令で、すぐに将軍ガロンが玉座の間に現れた。
「お呼びでしょうか、我が王」

「ガロン。お前に鉄槌軍団の精鋭五十を預ける。森に侵入してきた人間どもを排除しろ」
「はっ! お任せを!」

ガロンの目に好戦的な光が宿る。

「だが待て」俺は彼を制した。「殲滅はするな。目的はあくまで『排除』だ。彼らの戦力を削ぎ、戦意を喪失させ、森から追い出すに留めろ。ただし」

俺の声が低くなった。
「もし彼らがグラーヘイムの存在に気づく素振りを見せたり、あるいは我々の警告を無視してさらに深部へと進もうとするならば……その時は躊躇うな。一人残らず殺せ」

それは警告と最後通牒。
俺が人間に対して示した、ギリギリの慈悲だった。

「……承知いたしました」
ガロンは少し不満そうな顔をしながらも、俺の命令を正確に理解し力強く頷いた。

ガロン率いるオークの精鋭部隊はすぐさま出撃した。
彼らは人間の調査隊が進むルートの先で、静かに待ち伏せを行った。

一方、アルフレッド率いる調査隊は、森の奥深くへと進むにつれて言いようのない不気味さを感じ始めていた。
「……おかしい」アルフレッドが呟いた。「罠の一つも魔物の奇襲の一つもない。まるで誰かが掃除した後のように綺麗すぎる」

彼らは森の中に、不自然なほどに整備された「道」のようなものを発見した。それは明らかに獣道などではない。何者かが意図的に作り出したものだ。
道の先には一体何があるのか。
アルフレッドの心に好奇心と、そして強い警戒心がせめぎ合う。

ダリウス司令の「深追いするな」という言葉が頭をよぎる。
だがここまで来て手ぶらで帰るわけにはいかない。
彼は斥候を数名先行させ、道の先を調べさせることにした。

それが運命の分かれ道だった。

斥候たちが道の先の丘を越えようとした、その瞬間。
森の木々が揺れた。

「グルオオオオオオ!」

地響きと共に緑色の巨神たちが、道の両脇から姿を現した。
オークだ。
だが彼らが知る、粗野で統率の取れていないオークではない。
全員が統一された黒鉄の鎧を身に纏い、巨大な戦斧を構え、一つの生命体のように統率の取れた動きで斥候たちを包囲していた。

「なっ……!?」

斥候たちが反応するよりも早く。
オークたちの中心から、一際巨大な将軍の風格を漂わせるオークが進み出た。
ガロンだ。

「これより先は我が王の領地。生きて帰りたければ武器を捨て、速やかに立ち去れ」

ガロンの威厳に満ちた声が森に響き渡った。

斥候たちはその圧倒的な威圧感の前に完全に凍りついていた。
そして彼らの報告を受け、後方から駆けつけたアルフレッドの本隊もまた、目の前の光景を信じられないといった顔でただ呆然と見つめるしかなかった。

森の異変の正体。
それは彼らの想像を遥かに超える、武装し組織化されたオークの軍団だったのだ。

アークライト王国と魔森連合。
二つの勢力の最初の接触は、あまりにも静かに、しかし決定的な緊張感を持って始まろうとしていた。

アルフレッドは柄に手をかけ、ゴクリと喉を鳴らした。
彼の騎士としての誇りが、ここで引き下がることを許さなかった。

「我々はアークライト王国騎士団! 魔物の指図など受けるものか! 全員、かかれ!」

その号令が、この森の静寂を破る最初の戦端となった。
そしてその報告がアークライト王国全体を揺るがす大きな衝撃へと繋がっていく。
王国の精鋭調査隊が森の奥で謎のオーク軍団と交戦し――壊滅した、と。

この報告を受け王国上層部はついに決断を下す。
グラーヴェ大森林に潜む未知の脅威『緑の災厄』。
その完全排除のため、王国最強と謳われる騎士団の派遣を。

その騎士団の名は『白銀騎士団』。
王国千年の歴史の中で一度たりとも敗北を知らない、伝説の騎士団だった。
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