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第78話 魔王軍の注目
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アークライト王国がグラーヴェ大森林の『緑の災厄』に対し、その最強戦力である『白銀騎士団』の派遣を決定していた頃。
世界の全く別の場所で、もう一つの巨大な勢力がこの森の異変に気づき始めていた。
大陸の北端。
万年雪と活火山が混在する過酷な大地。
魔王城『パンデモニウム』。
その最深部、黒曜石でできた巨大な玉座の間で、魔王ゴルザリオンは退屈そうに肘をついていた。
彼の前には、この世界の全ての情報を収集し分析するための魔法具『千里眼の水盤』が置かれている。水盤には大陸各地の様子が、まるで衛星映像のようにリアルタイムで映し出されていた。
「……つまらぬ」
魔王は低く、地響きのような声で呟いた。
「人間どもは相変わらず小競り合いを繰り返すばかり。勇者の生まれ変わりもまだ赤子のまま。我が覇道を阻むものは何一つない。あまりにも退屈だ」
数千年の時を生きる魔王にとって、この世界の時間はあまりにも緩慢に流れすぎていた。
彼が水盤を魔法で消し去ろうとした、その時だった。
「――おや?」
彼の紅い瞳が、水盤に映し出されたある一点に釘付けになった。
それは大陸の中央部に広がる、グラーヴェ大森林の魔力分布図だった。
「……なんだ、この魔力の流れは」
これまでグラーヴェ大森林は、多種多様な魔物が無秩序に存在するだけの混沌とした魔力溜まりに過ぎなかった。
だが今、水盤に映し出されているのは全く違う光景だった。
森全体の魔力が、まるで一つの巨大な心臓に吸い寄せられるかのように森の中央の一点に向かって渦を巻くように流れている。そしてその中心点からは、他のどんな魔物の魔力とも違う、禍々しくもどこか神聖ささえ感じさせる規格外の魔力が、脈動するように放たれていた。
「……面白い。我が知らぬ間に、あの森に新たな『王』でも誕生したか」
魔王の口元に、数百年ぶりに獰猛な笑みが浮かんだ。
退屈な世界にようやく楽しめそうな玩具が現れた。
「――ザラキエルを呼べ」
魔王の命令に応じ、影の中から一人の魔族が音もなく姿を現した。
痩身で長い黒髪を持つ優美な男。だがその瞳の奥には、底知れない狡猾さと残忍さが宿っている。
魔王軍四天王の一人、『策謀』のザラキエル。
彼は魔王軍の諜報と謀略の全てを司る、魔王の懐刀だった。
「お呼びでしょうか、我が主、魔王ゴルザリオン様」
ザラキエルは優雅に片膝をついた。
「ザラキエルよ。グラーヴェ大森林へ行け」
魔王は水盤を指し示した。
「あの森で何が起きているのか。この異常な魔力の主が何者なのか。その全てをその目で確かめてこい」
「御意に」
ザラキエルは水盤を一瞥すると、すぐに事態を理解したようだった。
「人間どももこの異変に気づき、動き始めているようですな。好都合です。彼らを観測の駒として使いましょう」
「うむ。好きにせよ」魔王は楽しそうに言った。「だが一つだけ言っておく。その新たな『王』とやら、もし見込みがあるのなら殺すな。我が軍門に降るよう誘ってみるのも一興だろう。この退屈な世界を共に塗り替える仲間は、多いに越したことはない」
「……ふふ。承知いたしました。我が王の新たな『玩具』として相応しいかどうか。このザラキエルが、じっくりと品定めしてまいりましょう」
ザラキエルは不敵な笑みを浮かべると、再び影の中へと溶けるように消えていった。
魔王は一人、玉座の間で再び水盤を見つめていた。
水盤には森の中央、俺が築き上げた都『グラーヘイム』の姿が、ぼんやりと、しかし確実に映し出されている。
「ゴブリンロード、か……。下級の魔物が随分と大きく出たものだ。だがその放つ魔力の質は、そこらの魔王などとは比較にならん。一体何者だ……?」
時を同じくしてアークライト王国と魔王軍。
世界の二大勢力が、奇しくも同じ場所に、同じタイミングでその触手を伸ばし始めていた。
彼らの目的はただ一つ。
グラーヴェ大森林に突如として現れた未知なる第三勢力。
漆黒の翼を持つ魔物の王『ゴブ』。
俺はまだ知らない。
自分という存在がもはや森の中だけの問題ではなく、世界全体のパワーバランスを揺るがす巨大な嵐の目となりつつあることを。
そして人間と魔王軍、二つの巨大な思惑が、俺の築き上げた王国の上で複雑に交錯しようとしていることを。
束の間の平和は終わりを告げようとしていた。
俺の国は否応なく、世界の大きな奔流へと飲み込まれていく。
世界の全く別の場所で、もう一つの巨大な勢力がこの森の異変に気づき始めていた。
大陸の北端。
万年雪と活火山が混在する過酷な大地。
魔王城『パンデモニウム』。
その最深部、黒曜石でできた巨大な玉座の間で、魔王ゴルザリオンは退屈そうに肘をついていた。
彼の前には、この世界の全ての情報を収集し分析するための魔法具『千里眼の水盤』が置かれている。水盤には大陸各地の様子が、まるで衛星映像のようにリアルタイムで映し出されていた。
「……つまらぬ」
魔王は低く、地響きのような声で呟いた。
「人間どもは相変わらず小競り合いを繰り返すばかり。勇者の生まれ変わりもまだ赤子のまま。我が覇道を阻むものは何一つない。あまりにも退屈だ」
数千年の時を生きる魔王にとって、この世界の時間はあまりにも緩慢に流れすぎていた。
彼が水盤を魔法で消し去ろうとした、その時だった。
「――おや?」
彼の紅い瞳が、水盤に映し出されたある一点に釘付けになった。
それは大陸の中央部に広がる、グラーヴェ大森林の魔力分布図だった。
「……なんだ、この魔力の流れは」
これまでグラーヴェ大森林は、多種多様な魔物が無秩序に存在するだけの混沌とした魔力溜まりに過ぎなかった。
だが今、水盤に映し出されているのは全く違う光景だった。
森全体の魔力が、まるで一つの巨大な心臓に吸い寄せられるかのように森の中央の一点に向かって渦を巻くように流れている。そしてその中心点からは、他のどんな魔物の魔力とも違う、禍々しくもどこか神聖ささえ感じさせる規格外の魔力が、脈動するように放たれていた。
「……面白い。我が知らぬ間に、あの森に新たな『王』でも誕生したか」
魔王の口元に、数百年ぶりに獰猛な笑みが浮かんだ。
退屈な世界にようやく楽しめそうな玩具が現れた。
「――ザラキエルを呼べ」
魔王の命令に応じ、影の中から一人の魔族が音もなく姿を現した。
痩身で長い黒髪を持つ優美な男。だがその瞳の奥には、底知れない狡猾さと残忍さが宿っている。
魔王軍四天王の一人、『策謀』のザラキエル。
彼は魔王軍の諜報と謀略の全てを司る、魔王の懐刀だった。
「お呼びでしょうか、我が主、魔王ゴルザリオン様」
ザラキエルは優雅に片膝をついた。
「ザラキエルよ。グラーヴェ大森林へ行け」
魔王は水盤を指し示した。
「あの森で何が起きているのか。この異常な魔力の主が何者なのか。その全てをその目で確かめてこい」
「御意に」
ザラキエルは水盤を一瞥すると、すぐに事態を理解したようだった。
「人間どももこの異変に気づき、動き始めているようですな。好都合です。彼らを観測の駒として使いましょう」
「うむ。好きにせよ」魔王は楽しそうに言った。「だが一つだけ言っておく。その新たな『王』とやら、もし見込みがあるのなら殺すな。我が軍門に降るよう誘ってみるのも一興だろう。この退屈な世界を共に塗り替える仲間は、多いに越したことはない」
「……ふふ。承知いたしました。我が王の新たな『玩具』として相応しいかどうか。このザラキエルが、じっくりと品定めしてまいりましょう」
ザラキエルは不敵な笑みを浮かべると、再び影の中へと溶けるように消えていった。
魔王は一人、玉座の間で再び水盤を見つめていた。
水盤には森の中央、俺が築き上げた都『グラーヘイム』の姿が、ぼんやりと、しかし確実に映し出されている。
「ゴブリンロード、か……。下級の魔物が随分と大きく出たものだ。だがその放つ魔力の質は、そこらの魔王などとは比較にならん。一体何者だ……?」
時を同じくしてアークライト王国と魔王軍。
世界の二大勢力が、奇しくも同じ場所に、同じタイミングでその触手を伸ばし始めていた。
彼らの目的はただ一つ。
グラーヴェ大森林に突如として現れた未知なる第三勢力。
漆黒の翼を持つ魔物の王『ゴブ』。
俺はまだ知らない。
自分という存在がもはや森の中だけの問題ではなく、世界全体のパワーバランスを揺るがす巨大な嵐の目となりつつあることを。
そして人間と魔王軍、二つの巨大な思惑が、俺の築き上げた王国の上で複雑に交錯しようとしていることを。
束の間の平和は終わりを告げようとしていた。
俺の国は否応なく、世界の大きな奔流へと飲み込まれていく。
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