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第79話 前線基地
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アークライト王国騎士団調査隊の壊滅という衝撃的な報告は、瞬く間に王都を駆け巡り、王国上層部に激震を走らせた。
「オークの軍団だと? それも鋼鉄の鎧で武装し、統率の取れた動きをする、だと?」
王城の会議室で、国王アークライト三世はダリウス司令からの報告書を読み上げ、苦々しげに呟いた。
集まった大臣や将軍たちは皆、厳しい表情で押し黙っている。
「にわかには信じがたい話ですな」老齢の宰相が口を開いた。「オークなど知性の低い、ただの獣。彼らが軍隊を組織するなど……」
「だが事実だ」軍務大臣が腕を組んで反論した。「生き残った兵士たちの証言は一致している。そしてアルフレッド隊長をはじめとする三十名の精鋭が帰ってこなかった。これもまた事実だ」
会議室の空気は重く沈んでいた。
グラーヴェ大森林に、未知の、そして極めて危険な軍事勢力が誕生した。
その事実はもはや疑いようがなかった。
「問題は彼らの目的だ」国王が地図上の森を指差した。「今のところ彼らは森から出てきてはいない。だが、あれほどの軍団を組織したからには、いずれ我々の領土へ侵攻してくる可能性は極めて高いと見るべきだろう」
「先手を打つべきです!」
若手の将軍が拳を机に叩きつけた。
「奴らが力を蓄える前に、王国最強の白銀騎士団を派遣し森ごと焼き払うのです!」
「待て、早まるな」宰相がそれを制した。「敵の正体も正確な規模も分からぬまま、闇雲に大軍を送り込むのは危険すぎる。それに、あの広大な森を焼き払うなど現実的ではない」
議論は平行線を辿った。
だが王国として、この脅威を座視するわけにはいかない。
数日間にわたる議論の末、国王は一つの決断を下した。
「――白銀騎士団の派遣を正式に決定する」
その言葉に会議室に緊張が走る。
「だが目的は殲滅ではない。第一段階として、森の境界線、フォート・イーストンの前方に大規模な『前線基地』を建設する。そしてそこを拠点とし、敵勢力への牽制とさらなる情報収集を行う」
それは慎重でありながらも、断固とした王国としての意思表示だった。
我々は、お前たちの存在を認識している。そしてこれ以上の侵攻は決して許さない、と。
「基地の建設と防衛の全権は、白銀騎士団長アラン・フォン・ヴァイスに一任する。彼ならば必ずや、この難局を乗り切ってくれるだろう」
アラン・フォン・ヴァイス。
その名が出た瞬間、会議室にいた誰もが固唾を呑んだ。
王国最強の騎士にして生ける伝説。白銀の鎧をその身に纏い、聖剣デュランダルを振るう王国最高の英雄。
彼が出陣するということは、この事態が国家の存亡を賭けた最大級の危機であると、王国が認定したことを意味していた。
数週間後。
グラーヴェ大森林とアークライト王国の国境地帯は様変わりしていた。
数千人もの兵士と技術者たちが動員され、急ピッチで前線基地の建設が進められていく。
森の木々は切り払われ、深い堀が掘られ、巨大な木の柵といくつもの見張り塔が瞬く間に組み上げられていった。
それはもはや砦というより、一つの町と呼べるほどの規模だった。
そして、その建設現場の中心で一人の騎士が静かに森を見据えていた。
陽光を反射して眩いばかりに輝く白銀の全身鎧。腰には精緻な装飾が施された美しい長剣。その立ち姿は、まるで伝説から抜け出してきた英雄の肖像画のようだった。
彼こそが、白銀騎士団長アラン・フォン・ヴァイス。
彼の蒼い瞳は、不気味なほどに静まり返った森のさらに奥深く、そこに潜むであろう未知の敵を見据えている。
「……オークの軍団、か」
アランは静かに呟いた。
「だが腑に落ちん。オークだけであれほどの組織的な行動が本当に可能なのか? まるでその背後に、全てを操る高度な知性を持つ『何か』がいるかのようだ……」
彼の騎士としての長年の勘が、この事件の裏に隠された単純ではない複雑な真実の匂いを嗅ぎ取っていた。
前線基地の建設。
それは人間側からの明確な敵対行動の開始だった。
俺たちの聖域である森が土足で踏み荒らされ、その入り口に敵意の象徴である砦が築かれていく。
その情報はすぐに俺の元へともたらされた。
俺は玉座の間で斥候からの報告を聞きながら、ただ黙って目を閉じていた。
俺が与えた警告。
俺が示したギリギリの慈悲。
それらは人間という国家の前には何の意味もなさなかった。
彼らは対話ではなく力を選んだ。
ならばこちらも力で応えるまでだ。
俺の心にあった人間に対するわずかな感傷や甘えは、この瞬間完全に消え去った。
「――ガロンを呼べ。全軍に迎撃準備を命じろ」
俺の低い声が、静かな玉-座の間に響き渡った。
それは魔森連合という新たな国家が初めて経験する、国家間の本格的な戦争の始まりの合図だった。
「オークの軍団だと? それも鋼鉄の鎧で武装し、統率の取れた動きをする、だと?」
王城の会議室で、国王アークライト三世はダリウス司令からの報告書を読み上げ、苦々しげに呟いた。
集まった大臣や将軍たちは皆、厳しい表情で押し黙っている。
「にわかには信じがたい話ですな」老齢の宰相が口を開いた。「オークなど知性の低い、ただの獣。彼らが軍隊を組織するなど……」
「だが事実だ」軍務大臣が腕を組んで反論した。「生き残った兵士たちの証言は一致している。そしてアルフレッド隊長をはじめとする三十名の精鋭が帰ってこなかった。これもまた事実だ」
会議室の空気は重く沈んでいた。
グラーヴェ大森林に、未知の、そして極めて危険な軍事勢力が誕生した。
その事実はもはや疑いようがなかった。
「問題は彼らの目的だ」国王が地図上の森を指差した。「今のところ彼らは森から出てきてはいない。だが、あれほどの軍団を組織したからには、いずれ我々の領土へ侵攻してくる可能性は極めて高いと見るべきだろう」
「先手を打つべきです!」
若手の将軍が拳を机に叩きつけた。
「奴らが力を蓄える前に、王国最強の白銀騎士団を派遣し森ごと焼き払うのです!」
「待て、早まるな」宰相がそれを制した。「敵の正体も正確な規模も分からぬまま、闇雲に大軍を送り込むのは危険すぎる。それに、あの広大な森を焼き払うなど現実的ではない」
議論は平行線を辿った。
だが王国として、この脅威を座視するわけにはいかない。
数日間にわたる議論の末、国王は一つの決断を下した。
「――白銀騎士団の派遣を正式に決定する」
その言葉に会議室に緊張が走る。
「だが目的は殲滅ではない。第一段階として、森の境界線、フォート・イーストンの前方に大規模な『前線基地』を建設する。そしてそこを拠点とし、敵勢力への牽制とさらなる情報収集を行う」
それは慎重でありながらも、断固とした王国としての意思表示だった。
我々は、お前たちの存在を認識している。そしてこれ以上の侵攻は決して許さない、と。
「基地の建設と防衛の全権は、白銀騎士団長アラン・フォン・ヴァイスに一任する。彼ならば必ずや、この難局を乗り切ってくれるだろう」
アラン・フォン・ヴァイス。
その名が出た瞬間、会議室にいた誰もが固唾を呑んだ。
王国最強の騎士にして生ける伝説。白銀の鎧をその身に纏い、聖剣デュランダルを振るう王国最高の英雄。
彼が出陣するということは、この事態が国家の存亡を賭けた最大級の危機であると、王国が認定したことを意味していた。
数週間後。
グラーヴェ大森林とアークライト王国の国境地帯は様変わりしていた。
数千人もの兵士と技術者たちが動員され、急ピッチで前線基地の建設が進められていく。
森の木々は切り払われ、深い堀が掘られ、巨大な木の柵といくつもの見張り塔が瞬く間に組み上げられていった。
それはもはや砦というより、一つの町と呼べるほどの規模だった。
そして、その建設現場の中心で一人の騎士が静かに森を見据えていた。
陽光を反射して眩いばかりに輝く白銀の全身鎧。腰には精緻な装飾が施された美しい長剣。その立ち姿は、まるで伝説から抜け出してきた英雄の肖像画のようだった。
彼こそが、白銀騎士団長アラン・フォン・ヴァイス。
彼の蒼い瞳は、不気味なほどに静まり返った森のさらに奥深く、そこに潜むであろう未知の敵を見据えている。
「……オークの軍団、か」
アランは静かに呟いた。
「だが腑に落ちん。オークだけであれほどの組織的な行動が本当に可能なのか? まるでその背後に、全てを操る高度な知性を持つ『何か』がいるかのようだ……」
彼の騎士としての長年の勘が、この事件の裏に隠された単純ではない複雑な真実の匂いを嗅ぎ取っていた。
前線基地の建設。
それは人間側からの明確な敵対行動の開始だった。
俺たちの聖域である森が土足で踏み荒らされ、その入り口に敵意の象徴である砦が築かれていく。
その情報はすぐに俺の元へともたらされた。
俺は玉座の間で斥候からの報告を聞きながら、ただ黙って目を閉じていた。
俺が与えた警告。
俺が示したギリギリの慈悲。
それらは人間という国家の前には何の意味もなさなかった。
彼らは対話ではなく力を選んだ。
ならばこちらも力で応えるまでだ。
俺の心にあった人間に対するわずかな感傷や甘えは、この瞬間完全に消え去った。
「――ガロンを呼べ。全軍に迎撃準備を命じろ」
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