ゴブリンだって進化したい！～最弱モンスターに転生したけど、スキル【弱肉強食】で食って食って食いまくったら、気づけば魔王さえ喰らう神になってた

第96話 建国宣言

春の柔らかな日差しが、グラーヘイムの中央広場を照らしていた。
その広場は今日、この国が始まって以来の熱気と興奮に包まれていた。

広場の中央には、オークの技術の粋を集めて作られた即席の演台が設けられている。
その演台を囲むように、この国に住まう全ての民が集まっていた。

屈強なオークの戦士たち。
俊敏なゴブリンの兵士たち。
穏やかなエルフのリリアとルゥ。
そして、俺に臣従を誓った数体のワイバーンさえもが、城壁の上からその様子を見下ろしている。
さらには、森の秩序に従うことを選んだ他の小規模な魔物の種族たちの姿もあった。

彼らの視線は、ただ一点に注がれていた。
演台の上に立つ、俺の姿に。

俺はゆっくりと、集まった民を見渡した。
その顔、顔、顔。
種族も文化も生まれも違う、多種多様な者たち。
彼らが今、一つの意志の下にここに集っている。
その光景は、俺の胸を静かに熱くした。

俺の隣には、将軍ガロンと補佐官リリアが控えている。
ガロンは誇らしげに胸を張り、リリアは緊張と期待が入り混じった表情で俺を見つめていた。

俺は深く息を吸い込んだ。
そして、【魔王の覇気】を乗せた俺の声を、広場の隅々にまで響き渡らせた。

「――我が同胞たちよ！」

その一言で、広場のざわめきがぴたりと止んだ。
全ての者が、俺の次の言葉を固唾を飲んで待っている。

「我々はかつて弱き者だった。飢えに怯え、強い者に虐げられ、ただ生きるためだけに日々を過ごしていた」

俺は、自分がゴブリンとして転生したあの薄暗い洞窟を思い出していた。

「オークは人間に故郷を焼かれ、憎しみに囚われていた。エルフは安住の地を失い、孤独に震えていた。ワイバーンでさえ王を失い、拠り所なく彷徨っていた」

俺の言葉は、集まった民たちの心の琴線に触れていた。
誰もが、それぞれの辛い過去を思い出していた。

「だが、我々は出会った。そして手を取り合った。ゴブリンの知恵とオークの力。エルフの癒しとワイバーンの翼。異なる種族が互いの長所を認め合い、一つの大きな力となった！」

俺の言葉に熱がこもり始める。

「我々は、このグラーヘイムを築いた！ 狩猟に頼らずとも食料を生み出す豊かな大地を手に入れた！ そして、どんな外敵にも屈しない強大な軍隊を組織した！ もはや我々は、誰にも虐げられる弱き者ではない！」

そうだ！ と誰かが叫んだ。
その声はすぐに、大きなうねりとなっていった。

俺は天に拳を突き上げた。
そして、この歴史的な日の最も重要な宣言を、高らかに行った。

「――故に、我はここに宣言する！」

「我々は、本日ただいまを以て、新たなる国家の設立をこの天地に告げるものなり！」

その瞬間。
広場は爆発した。

ウォオオオオオオオオオオオ！
グルオオオオオオオオオオオ！
ギシャアアアアアアアアアアア！

ゴブリンの、オークの、そしてワイバーンの雄叫びが一つに溶け合い、天を衝くほどの歓喜の鬨の声となって、グラーヘイムの空に響き渡った。
彼らは武器を打ち鳴らし、抱き合い、涙を流して自分たちの国の誕生を祝っていた。

俺は、その熱狂の中心で静かに、しかし力強く続けた。

「我らが国の名は、『魔森連合（デモニック・フォレスト・ユニオン）』！」

「そして、我は全種族の総意に基づき、その初代『総帥』の座に就くことをここに誓う！」

その言葉はもはや宣言ではなかった。
民の熱狂が俺を王から国家元首へと押し上げたのだ。

「我が右腕には、軍事を司る将軍、ガロンを！」
「我が左腕には、内政を司る補佐官、リリアを！」

俺が二人の名を呼ぶと、民衆から彼らの名を呼ぶ割れんばかりの歓声が上がった。
ガロンは感極まったように涙を流しながら、深く頭を垂れた。
リリアもまた、信じられないといった表情で、しかしその大役を受け入れる覚悟をその瞳に宿していた。

新たな国が生まれた。
新たな統治体制が始まった。

それは、人間にも魔王軍にも属さない第三の勢力。
歴史の影に埋もれ、虐げられてきた者たちが自らの手で、自らの意志で築き上げた誇り高き独立国家。

俺は、歓喜に沸く民を見下ろしながら静かに空を見上げた。
この宣言は、ただの内輪向けの式典ではない。

俺が放った【魔王の覇気】に乗せて、この建国の宣言は魔力の波となり、この大陸の隅々にまで伝わっているはずだ。
アークライト王国の王城にも。
そして、遥か北の魔王城にも。

さあ、どう出る？
人間よ。
魔王よ。

お前たちの盤上に新たなプレイヤーが加わった。
そして、そのプレイヤーはお前たちが作ったルールでゲームをするつもりは毛頭ない。

俺たちの本当の戦いは、今日、この瞬間から始まるのだ。