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第97話 魔森連合
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建国宣言の熱狂は、数日間にわたってグラーヘイムを包み込んだ。
民は自分たちがもはやただの魔物の集まりではなく、一つの国家『魔森連合』の国民となったことを心から喜び、誇りに思っていた。
『総帥』。
それが俺の新たな肩書となった。王よりもさらに重く、そして広範な責任を伴う響き。
俺は祝祭の雰囲気に浮かれることなく、早速新たな国家体制の基盤固めに着手した。
まず、俺とガロン、リリア、そしてオークの長老衆数名からなる最高意思決定機関『円卓会議』を設置した。ここで国家の重要方針が議論され、最終的な決断を俺が下す。
将軍となったガロンは、これまでの軍を正式な国軍として再編成した。
オーク重装歩兵部隊は、『第一軍団(アイアンハーツ)』。
ゴブリン遊撃部隊は、『第二軍団(シャドウファング)』。
そして、ワイバーン部隊は、『竜翼騎士団(ドラグーン・ナイツ)』。
それぞれの軍団には独自の旗印が与えられ、兵士たちの士気はかつてないほどに高まっていた。
補佐官となったリリアは、内政部門の組織化を本格化させた。
生産、衛生、教育、そして法務。それぞれの分野に担当者を置き、官僚機構の原型を作り上げていく。彼女の持つ知識とオークの長老たちの経験が融合し、驚くほど効率的な行政システムが瞬く間に構築されていった。
俺はそうした実務のほとんどを、信頼する彼らに任せた。
そして俺自身は、総帥としてこの国がこれから進むべき大きな道筋を示すことに集中していた。
その日、俺は一人、王城の最上階にある俺の私室兼執務室で巨大な大陸地図を広げていた。
それは、ゾルガ長老の知識とリリアが解読した古文書、そして斥候たちがもたらした情報を統合して作られた、この世界で最も正確な地図の一つだった。
地図の上には大きく分けて三つの色が塗られている。
南半分を占める人間たちの連合国家。その中でも我々と隣接するアークライト王国は、特に巨大な領土を誇っていた。
北の過酷な大地を支配する魔王軍の領域。
そして、その二つの勢力の間に緩衝地帯のように広がる広大な未開の地。グラーヴェ大森林もその一部だ。
俺たちの国、魔森連合は、その地図の上ではまだほんの小さな一点に過ぎなかった。
だが、この一点がいずれこの三色に塗り分けられた世界地図を、全く新しい色に塗り替えることになる。
「……ゴブ様」
執務室の扉が控えめにノックされ、リリアが入ってきた。彼女の手には数枚の羊皮紙が握られている。
「どうした?」
「はい。先日、斥候が捕らえた人間の商人から得た情報です。アークライト王国で我々の建国宣言が大きな波紋を呼んでいる、と」
リリアが羊皮紙を俺の前に広げた。
そこには彼女が聞き取った情報が、美しい文字でまとめられている。
王国では、俺たち『魔森連合』を正式な脅威と認定し、大規模な軍備拡張を開始したらしい。国境の砦には次々と兵士が増派され、白銀騎士団も新たな団長の下で再編成が進められているという。
だが同時に、穏健派の貴族たちの中から「魔物の国との対話」を模索する声も上がり始めているらしい。
アラン・フォン・ヴァイスが持ち帰った情報が、彼らの凝り固まった価値観を少しずつ、しかし確実に変え始めているのだ。
「王国は一枚岩ではない。ということか」
「はい。強硬派と穏健派。二つの意見が王宮で激しく対立している、と」
面白い。
俺が投げ込んだ一石は、俺が思っていた以上に大きな波紋を広げているようだ。
「魔王軍の方はどうだ?」
「それが……」リリアは首を横に振った。「全く情報がありません。建国宣言の後も彼らの動きは完全に沈黙したままです。それが逆に不気味だと、斥候たちも警戒を強めています」
沈黙。
ザラキエルというあの狡猾な男のことだ。嵐の前の静けさと見るべきだろう。
俺は地図の上で、人間と魔王軍の領域を指でなぞった。
二つの巨大な脅威。
どちらもいずれは我々と衝突することになるだろう。
だが、今はまだその時ではない。
俺たちにはまだ力が足りない。
国としての地力が。
「リリア。ガロンを呼べ。そして長老たちもだ。円卓会議を開く」
俺の総帥としての最初の大きな命令。
それは戦争でも侵略でもなかった。
「議題は一つ。『教育制度の確立』と『通貨の発行』についてだ」
「……え?」
リリアはきょとんとした顔で俺を見つめた。
軍備拡張でも外交政策でもなく、教育と経済。
あまりにも地味で平和的な議題。
だが、俺には分かっていた。
真に強い国とはただ軍事力が強いだけの国ではない。
国民一人一人が知識を持ち、豊かさを享受し、そして自らの国を心の底から愛している国だ。
そのための最も重要な礎。
それが教育と経済なのだ。
俺たちの本当の国づくりはまだ始まったばかりだ。
武力による統一は終わった。
これからは文化と思想による、真の統合の時代が始まる。
俺は窓の外に広がる活気に満ちた我が都を見下ろした。
この平和を、この営みを守り抜く。
そのためなら俺は神にも魔王にもなってみせる。
総帥としての俺の長い長い戦いが、今、静かに幕を開けた。
民は自分たちがもはやただの魔物の集まりではなく、一つの国家『魔森連合』の国民となったことを心から喜び、誇りに思っていた。
『総帥』。
それが俺の新たな肩書となった。王よりもさらに重く、そして広範な責任を伴う響き。
俺は祝祭の雰囲気に浮かれることなく、早速新たな国家体制の基盤固めに着手した。
まず、俺とガロン、リリア、そしてオークの長老衆数名からなる最高意思決定機関『円卓会議』を設置した。ここで国家の重要方針が議論され、最終的な決断を俺が下す。
将軍となったガロンは、これまでの軍を正式な国軍として再編成した。
オーク重装歩兵部隊は、『第一軍団(アイアンハーツ)』。
ゴブリン遊撃部隊は、『第二軍団(シャドウファング)』。
そして、ワイバーン部隊は、『竜翼騎士団(ドラグーン・ナイツ)』。
それぞれの軍団には独自の旗印が与えられ、兵士たちの士気はかつてないほどに高まっていた。
補佐官となったリリアは、内政部門の組織化を本格化させた。
生産、衛生、教育、そして法務。それぞれの分野に担当者を置き、官僚機構の原型を作り上げていく。彼女の持つ知識とオークの長老たちの経験が融合し、驚くほど効率的な行政システムが瞬く間に構築されていった。
俺はそうした実務のほとんどを、信頼する彼らに任せた。
そして俺自身は、総帥としてこの国がこれから進むべき大きな道筋を示すことに集中していた。
その日、俺は一人、王城の最上階にある俺の私室兼執務室で巨大な大陸地図を広げていた。
それは、ゾルガ長老の知識とリリアが解読した古文書、そして斥候たちがもたらした情報を統合して作られた、この世界で最も正確な地図の一つだった。
地図の上には大きく分けて三つの色が塗られている。
南半分を占める人間たちの連合国家。その中でも我々と隣接するアークライト王国は、特に巨大な領土を誇っていた。
北の過酷な大地を支配する魔王軍の領域。
そして、その二つの勢力の間に緩衝地帯のように広がる広大な未開の地。グラーヴェ大森林もその一部だ。
俺たちの国、魔森連合は、その地図の上ではまだほんの小さな一点に過ぎなかった。
だが、この一点がいずれこの三色に塗り分けられた世界地図を、全く新しい色に塗り替えることになる。
「……ゴブ様」
執務室の扉が控えめにノックされ、リリアが入ってきた。彼女の手には数枚の羊皮紙が握られている。
「どうした?」
「はい。先日、斥候が捕らえた人間の商人から得た情報です。アークライト王国で我々の建国宣言が大きな波紋を呼んでいる、と」
リリアが羊皮紙を俺の前に広げた。
そこには彼女が聞き取った情報が、美しい文字でまとめられている。
王国では、俺たち『魔森連合』を正式な脅威と認定し、大規模な軍備拡張を開始したらしい。国境の砦には次々と兵士が増派され、白銀騎士団も新たな団長の下で再編成が進められているという。
だが同時に、穏健派の貴族たちの中から「魔物の国との対話」を模索する声も上がり始めているらしい。
アラン・フォン・ヴァイスが持ち帰った情報が、彼らの凝り固まった価値観を少しずつ、しかし確実に変え始めているのだ。
「王国は一枚岩ではない。ということか」
「はい。強硬派と穏健派。二つの意見が王宮で激しく対立している、と」
面白い。
俺が投げ込んだ一石は、俺が思っていた以上に大きな波紋を広げているようだ。
「魔王軍の方はどうだ?」
「それが……」リリアは首を横に振った。「全く情報がありません。建国宣言の後も彼らの動きは完全に沈黙したままです。それが逆に不気味だと、斥候たちも警戒を強めています」
沈黙。
ザラキエルというあの狡猾な男のことだ。嵐の前の静けさと見るべきだろう。
俺は地図の上で、人間と魔王軍の領域を指でなぞった。
二つの巨大な脅威。
どちらもいずれは我々と衝突することになるだろう。
だが、今はまだその時ではない。
俺たちにはまだ力が足りない。
国としての地力が。
「リリア。ガロンを呼べ。そして長老たちもだ。円卓会議を開く」
俺の総帥としての最初の大きな命令。
それは戦争でも侵略でもなかった。
「議題は一つ。『教育制度の確立』と『通貨の発行』についてだ」
「……え?」
リリアはきょとんとした顔で俺を見つめた。
軍備拡張でも外交政策でもなく、教育と経済。
あまりにも地味で平和的な議題。
だが、俺には分かっていた。
真に強い国とはただ軍事力が強いだけの国ではない。
国民一人一人が知識を持ち、豊かさを享受し、そして自らの国を心の底から愛している国だ。
そのための最も重要な礎。
それが教育と経済なのだ。
俺たちの本当の国づくりはまだ始まったばかりだ。
武力による統一は終わった。
これからは文化と思想による、真の統合の時代が始まる。
俺は窓の外に広がる活気に満ちた我が都を見下ろした。
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そのためなら俺は神にも魔王にもなってみせる。
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