94 / 96
第98話 進化の果て
しおりを挟む
魔森連合の建国から一年が過ぎた。
俺が総帥として下した最初の命令――『教育制度の確立』と『通貨の発行』――は、この国に革命的な変化をもたらしていた。
リリアが中心となって設立した『グラーヘイム学府』では、もはや子供たちだけでなく、文字を学びたいと願う全ての国民が学ぶことができた。ゴブリンもオークも机を並べ、ペンを走らせる。その光景は当初こそ奇異の目で見られたが、今ではすっかり都の日常となっていた。
読み書き算盤が普及したことで国民全体の知的水準は飛躍的に向上した。それは軍事や生産の効率を劇的に改善させた。兵士たちは複雑な戦術図を理解できるようになり、職人たちは精密な設計図を元により高度な道具を作り出せるようになった。
そして、俺がゾルガの知識を元に鋳造させた独自の銅貨と銀貨。
それは物々交換が中心だったこの国の経済を一変させた。
貨幣経済の導入は専門職の分化を促し、都には様々な店が軒を連ねるようになった。武具屋、道具屋、そしてオークが作る豪快な串焼きと、ゴブリンが森で採ってきた珍しい木の実を出す小さな酒場まで。
グラーヘイムは軍事要塞から、活気に満ちた商業都市へとその姿を変えつつあった。
国は豊かになった。
民は明るくなった。
そして俺の支配はもはや【魔王の覇気】による強制力に頼らずとも、民からの絶大な信頼と敬愛によって盤石なものとなっていた。
建国一周年を祝う盛大な祝宴の夜。
王城の広間では全ての国民が集い、歌い、踊り、自分たちの国の繁栄を心から祝っていた。
俺は玉座からその光景を満足げに眺めていた。
ガロンが巨大な杯を片手に豪快に笑っている。
リリアがルゥと共に穏やかな笑みを浮かべて、民の輪に加わっている。
俺が創りたかった世界。
俺が守りたかった平和。
その全てが今、ここにあった。
だが。
俺の心の奥底で、一つの疑問がずっと燻り続けていた。
俺は、この先どこへ向かうのだろうか。
ゴブリンとして生まれ変わり、ただ生きるために戦い始めた。
群れの王となり、仲間を守るために組織を作った。
森の王となり、国を築き、民の平和を守るために法と秩序を定めた。
目標を達成するたびに俺は進化し、新たな力を手に入れてきた。
だが今、俺は一つの到達点に立っているように思えた。
森の王。
魔森連合の総帥。
これ以上の地位はあるのだろうか。
大陸の王か?
あるいは、魔王を倒し新たな魔王となることか?
それも違う気がした。
俺が求めているのは単なる支配領域の拡大ではない。
俺自身の『進化』の、その果て。
俺は祝宴の喧騒からそっと抜け出した。
そして一人、王城の最も高い塔の頂上へと登る。
眼下には宝石を散りばめたように、美しい都の夜景が広がっている。
そして頭上には手が届きそうなほど、満点の星空。
俺は夜空を見上げながら、自らの存在の根源へと意識を深く、深く沈めていった。
俺の本質はなんだ?
ゴブリンロードか?
魔物の王か?
いや、違う。
俺の本質はただ一つ。
ユニークスキル、【弱肉強食】。
喰らい、吸収し、自らの力へと変える、その飽くなき『渇望』。
これまで俺は外部のものを喰らってきた。
スライムを、百足を、オークを、ワイバーンを。
そして、そのスキルと知識を。
だが、本当に喰らうべきものはそれだけなのか?
俺はふと、一つの狂気じみた、しかし抗いがたいほど魅力的な考えに至った。
進化の行き着く先。
それはこの世界の理そのもの。
時間にも空間にも、そして死にさえも縛られない不滅の存在。
『神』。
神とは何だ?
それは世界を創造し、法(ルール)を定めた絶対的な存在。
ならば、俺が神になるためにはどうすればいい?
答えは、俺の中に既にある。
喰らうのだ。
この世界で最も強大で、最も不可解で、そして最も根根源的な『何か』を。
それは一体、何か。
俺はゆっくりと自分の胸に手を当てた。
俺の体内にはこれまで喰らってきた数多の魔物の魔力と生命エネルギーが、巨大な渦となって眠っている。
ゴブリンロードに進化したことで、そのエネルギーはもはや小規模な太陽にも匹敵するほど膨大なものとなっていた。
これこそが俺が最後に喰らうべき、究極の獲物。
俺が蓄積してきた、俺自身の『全て』。
俺は夜空に向かって静かに笑った。
それは狂気に満ちた、神への挑戦者の笑みだった。
「――面白い。やってやるじゃないか」
俺の進化の最終章。
その幕が今、静かに上がろうとしていた。
俺が人でも魔物でもない、全く新しい何かへと生まれ変わるための最後の儀式が。
俺が総帥として下した最初の命令――『教育制度の確立』と『通貨の発行』――は、この国に革命的な変化をもたらしていた。
リリアが中心となって設立した『グラーヘイム学府』では、もはや子供たちだけでなく、文字を学びたいと願う全ての国民が学ぶことができた。ゴブリンもオークも机を並べ、ペンを走らせる。その光景は当初こそ奇異の目で見られたが、今ではすっかり都の日常となっていた。
読み書き算盤が普及したことで国民全体の知的水準は飛躍的に向上した。それは軍事や生産の効率を劇的に改善させた。兵士たちは複雑な戦術図を理解できるようになり、職人たちは精密な設計図を元により高度な道具を作り出せるようになった。
そして、俺がゾルガの知識を元に鋳造させた独自の銅貨と銀貨。
それは物々交換が中心だったこの国の経済を一変させた。
貨幣経済の導入は専門職の分化を促し、都には様々な店が軒を連ねるようになった。武具屋、道具屋、そしてオークが作る豪快な串焼きと、ゴブリンが森で採ってきた珍しい木の実を出す小さな酒場まで。
グラーヘイムは軍事要塞から、活気に満ちた商業都市へとその姿を変えつつあった。
国は豊かになった。
民は明るくなった。
そして俺の支配はもはや【魔王の覇気】による強制力に頼らずとも、民からの絶大な信頼と敬愛によって盤石なものとなっていた。
建国一周年を祝う盛大な祝宴の夜。
王城の広間では全ての国民が集い、歌い、踊り、自分たちの国の繁栄を心から祝っていた。
俺は玉座からその光景を満足げに眺めていた。
ガロンが巨大な杯を片手に豪快に笑っている。
リリアがルゥと共に穏やかな笑みを浮かべて、民の輪に加わっている。
俺が創りたかった世界。
俺が守りたかった平和。
その全てが今、ここにあった。
だが。
俺の心の奥底で、一つの疑問がずっと燻り続けていた。
俺は、この先どこへ向かうのだろうか。
ゴブリンとして生まれ変わり、ただ生きるために戦い始めた。
群れの王となり、仲間を守るために組織を作った。
森の王となり、国を築き、民の平和を守るために法と秩序を定めた。
目標を達成するたびに俺は進化し、新たな力を手に入れてきた。
だが今、俺は一つの到達点に立っているように思えた。
森の王。
魔森連合の総帥。
これ以上の地位はあるのだろうか。
大陸の王か?
あるいは、魔王を倒し新たな魔王となることか?
それも違う気がした。
俺が求めているのは単なる支配領域の拡大ではない。
俺自身の『進化』の、その果て。
俺は祝宴の喧騒からそっと抜け出した。
そして一人、王城の最も高い塔の頂上へと登る。
眼下には宝石を散りばめたように、美しい都の夜景が広がっている。
そして頭上には手が届きそうなほど、満点の星空。
俺は夜空を見上げながら、自らの存在の根源へと意識を深く、深く沈めていった。
俺の本質はなんだ?
ゴブリンロードか?
魔物の王か?
いや、違う。
俺の本質はただ一つ。
ユニークスキル、【弱肉強食】。
喰らい、吸収し、自らの力へと変える、その飽くなき『渇望』。
これまで俺は外部のものを喰らってきた。
スライムを、百足を、オークを、ワイバーンを。
そして、そのスキルと知識を。
だが、本当に喰らうべきものはそれだけなのか?
俺はふと、一つの狂気じみた、しかし抗いがたいほど魅力的な考えに至った。
進化の行き着く先。
それはこの世界の理そのもの。
時間にも空間にも、そして死にさえも縛られない不滅の存在。
『神』。
神とは何だ?
それは世界を創造し、法(ルール)を定めた絶対的な存在。
ならば、俺が神になるためにはどうすればいい?
答えは、俺の中に既にある。
喰らうのだ。
この世界で最も強大で、最も不可解で、そして最も根根源的な『何か』を。
それは一体、何か。
俺はゆっくりと自分の胸に手を当てた。
俺の体内にはこれまで喰らってきた数多の魔物の魔力と生命エネルギーが、巨大な渦となって眠っている。
ゴブリンロードに進化したことで、そのエネルギーはもはや小規模な太陽にも匹敵するほど膨大なものとなっていた。
これこそが俺が最後に喰らうべき、究極の獲物。
俺が蓄積してきた、俺自身の『全て』。
俺は夜空に向かって静かに笑った。
それは狂気に満ちた、神への挑戦者の笑みだった。
「――面白い。やってやるじゃないか」
俺の進化の最終章。
その幕が今、静かに上がろうとしていた。
俺が人でも魔物でもない、全く新しい何かへと生まれ変わるための最後の儀式が。
23
あなたにおすすめの小説
俺の職業は【トラップ・マスター】。ダンジョンを経験値工場に作り変えたら、俺一人のせいでサーバー全体のレベルがインフレした件
夏見ナイ
SF
現実世界でシステムエンジニアとして働く神代蓮。彼が効率を求めVRMMORPG「エリュシオン・オンライン」で選んだのは、誰にも見向きもされない不遇職【トラップ・マスター】だった。
周囲の冷笑をよそに、蓮はプログラミング知識を応用してトラップを自動連携させる画期的な戦術を開発。さらに誰も見向きもしないダンジョンを丸ごと買い取り、24時間稼働の「全自動経験値工場」へと作り変えてしまう。
結果、彼のレベルと資産は異常な速度で膨れ上がり、サーバーの経済とランキングをたった一人で崩壊させた。この事態を危険視した最強ギルドは、彼のダンジョンに狙いを定める。これは、知恵と工夫で世界の常識を覆す、一人の男の伝説の始まり。
M.M.O. - Monster Maker Online
夏見ナイ
SF
現実世界に居場所を見出せない大学生、神代悠。彼が救いを求めたのは、モンスターを自由に創造できる新作VRMMO『M.M.O.』だった。
彼が選んだのは、戦闘能力ゼロの不遇職【モンスターメイカー】。周囲に笑われながらも、悠はゴミ同然の素材と無限の発想力を武器に、誰も見たことのないユニークなモンスターを次々と生み出していく。
その常識外れの力は、孤高の美少女聖騎士や抜け目のない商人少女といった仲間を引き寄せ、やがて彼の名はサーバーに轟く。しかし、それは同時にゲームの支配を目論む悪徳ギルドとの全面対決の始まりを意味していた。
これは、最弱の職から唯一無二の相棒を創り出し、仲間と世界を守るために戦う、創造と成り上がりの物語。
雑魚で貧乏な俺にゲームの悪役貴族が憑依した結果、ゲームヒロインのモデルとパーティーを組むことになった
ぐうのすけ
ファンタジー
無才・貧乏・底辺高校生の稲生アキラ(イナセアキラ)にゲームの悪役貴族が憑依した。
悪役貴族がアキラに話しかける。
「そうか、お前、魂の片割れだな? はははははは!喜べ!魂が1つになれば強さも、女も、名声も思うがままだ!」
アキラは悪役貴族を警戒するがあらゆる事件を通してお互いの境遇を知り、魂が融合し力を手に入れていく。
ある時はモンスターを無双し、ある時は配信で人気を得て、ヒロインとパーティーを組み、アキラの人生は好転し、自分の人生を切り開いていく。
癒し目的で始めたVRMMO、なぜか最強になっていた。
branche_noir
SF
<カクヨムSFジャンル週間1位>
<カクヨム週間総合ランキング最高3位>
<小説家になろうVRゲーム日間・週間1位>
現実に疲れたサラリーマン・ユウが始めたのは、超自由度の高いVRMMO《Everdawn Online》。
目的は“癒し”ただそれだけ。焚き火をし、魚を焼き、草の上で昼寝する。
モンスター討伐? レベル上げ? 知らん。俺はキャンプがしたいんだ。
ところが偶然懐いた“仔竜ルゥ”との出会いが、運命を変える。
テイムスキルなし、戦闘ログ0。それでもルゥは俺から離れない。
そして気づけば、森で焚き火してただけの俺が――
「魔物の軍勢を率いた魔王」と呼ばれていた……!?
癒し系VRMMO生活、誤認されながら進行中!
本人その気なし、でも周囲は大騒ぎ!
▶モフモフと焚き火と、ちょっとの冒険。
▶のんびり系異色VRMMOファンタジー、ここに開幕!
カクヨムで先行配信してます!
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
小国の若き王、ラスボスを拾う~何気なしに助けたラスボスたるダウナー系のヤンデレ魔女から愛され過ぎて辛い!~
リヒト
ファンタジー
人類を恐怖のどん底に陥れていた魔女が勇者の手によって倒され、世界は平和になった。そんなめでたしめでたしで終わったハッピーエンドから───それが、たった十年後のこと。
権力闘争に巻き込まれた勇者が処刑され、魔女が作った空白地帯を巡って世界各国が争い合う平和とは程遠い血みどろの世界。
そんな世界で吹けば飛ぶような小国の王子に転生し、父が若くして死んでしまった為に王となってしまった僕はある日、ゲームのラスボスであった封印され苦しむ魔女を拾った。
ゲーム知識から悪い人ではないことを知っていた僕はその魔女を助けるのだが───その魔女がヤンデレ化していた上に僕を世界の覇王にしようとしていて!?
備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。
異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。
異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。
せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。
そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。
これは天啓か。
俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる