ゴブリンだって進化したい!~最弱モンスターに転生したけど、スキル【弱肉強食】で食って食って食いまくったら、気づけば魔王さえ喰らう神になってた

夏見ナイ

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第98話 進化の果て

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魔森連合の建国から一年が過ぎた。
俺が総帥として下した最初の命令――『教育制度の確立』と『通貨の発行』――は、この国に革命的な変化をもたらしていた。

リリアが中心となって設立した『グラーヘイム学府』では、もはや子供たちだけでなく、文字を学びたいと願う全ての国民が学ぶことができた。ゴブリンもオークも机を並べ、ペンを走らせる。その光景は当初こそ奇異の目で見られたが、今ではすっかり都の日常となっていた。

読み書き算盤が普及したことで国民全体の知的水準は飛躍的に向上した。それは軍事や生産の効率を劇的に改善させた。兵士たちは複雑な戦術図を理解できるようになり、職人たちは精密な設計図を元により高度な道具を作り出せるようになった。

そして、俺がゾルガの知識を元に鋳造させた独自の銅貨と銀貨。
それは物々交換が中心だったこの国の経済を一変させた。
貨幣経済の導入は専門職の分化を促し、都には様々な店が軒を連ねるようになった。武具屋、道具屋、そしてオークが作る豪快な串焼きと、ゴブリンが森で採ってきた珍しい木の実を出す小さな酒場まで。
グラーヘイムは軍事要塞から、活気に満ちた商業都市へとその姿を変えつつあった。

国は豊かになった。
民は明るくなった。
そして俺の支配はもはや【魔王の覇気】による強制力に頼らずとも、民からの絶大な信頼と敬愛によって盤石なものとなっていた。

建国一周年を祝う盛大な祝宴の夜。
王城の広間では全ての国民が集い、歌い、踊り、自分たちの国の繁栄を心から祝っていた。

俺は玉座からその光景を満足げに眺めていた。
ガロンが巨大な杯を片手に豪快に笑っている。
リリアがルゥと共に穏やかな笑みを浮かべて、民の輪に加わっている。

俺が創りたかった世界。
俺が守りたかった平和。
その全てが今、ここにあった。

だが。
俺の心の奥底で、一つの疑問がずっと燻り続けていた。

俺は、この先どこへ向かうのだろうか。

ゴブリンとして生まれ変わり、ただ生きるために戦い始めた。
群れの王となり、仲間を守るために組織を作った。
森の王となり、国を築き、民の平和を守るために法と秩序を定めた。

目標を達成するたびに俺は進化し、新たな力を手に入れてきた。
だが今、俺は一つの到達点に立っているように思えた。

森の王。
魔森連合の総帥。
これ以上の地位はあるのだろうか。

大陸の王か?
あるいは、魔王を倒し新たな魔王となることか?

それも違う気がした。
俺が求めているのは単なる支配領域の拡大ではない。
俺自身の『進化』の、その果て。

俺は祝宴の喧騒からそっと抜け出した。
そして一人、王城の最も高い塔の頂上へと登る。

眼下には宝石を散りばめたように、美しい都の夜景が広がっている。
そして頭上には手が届きそうなほど、満点の星空。

俺は夜空を見上げながら、自らの存在の根源へと意識を深く、深く沈めていった。

俺の本質はなんだ?
ゴブリンロードか?
魔物の王か?
いや、違う。

俺の本質はただ一つ。
ユニークスキル、【弱肉強食】。
喰らい、吸収し、自らの力へと変える、その飽くなき『渇望』。

これまで俺は外部のものを喰らってきた。
スライムを、百足を、オークを、ワイバーンを。
そして、そのスキルと知識を。

だが、本当に喰らうべきものはそれだけなのか?

俺はふと、一つの狂気じみた、しかし抗いがたいほど魅力的な考えに至った。

進化の行き着く先。
それはこの世界の理そのもの。
時間にも空間にも、そして死にさえも縛られない不滅の存在。

『神』。

神とは何だ?
それは世界を創造し、法(ルール)を定めた絶対的な存在。
ならば、俺が神になるためにはどうすればいい?

答えは、俺の中に既にある。

喰らうのだ。
この世界で最も強大で、最も不可解で、そして最も根根源的な『何か』を。

それは一体、何か。

俺はゆっくりと自分の胸に手を当てた。
俺の体内にはこれまで喰らってきた数多の魔物の魔力と生命エネルギーが、巨大な渦となって眠っている。
ゴブリンロードに進化したことで、そのエネルギーはもはや小規模な太陽にも匹敵するほど膨大なものとなっていた。

これこそが俺が最後に喰らうべき、究極の獲物。
俺が蓄積してきた、俺自身の『全て』。

俺は夜空に向かって静かに笑った。
それは狂気に満ちた、神への挑戦者の笑みだった。

「――面白い。やってやるじゃないか」

俺の進化の最終章。
その幕が今、静かに上がろうとしていた。
俺が人でも魔物でもない、全く新しい何かへと生まれ変わるための最後の儀式が。
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