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第30話:親友(主人公)育成計画
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Sクラスでの最初の授業は、俺の胃に深刻なダメージを与えて終わった。
マクシim教授は俺を見るたびに何か言いたげな、しかし畏れ多くて話しかけられないといった複雑な表情を浮かべるようになり、授業の内容は当たり障りのないものに終始するようになった。実質的に、Sクラスの魔法学は機能不全に陥ったと言っていい。
その元凶であるルナは、そんなことにはお構いなしだ。彼女は授業そっちのけで、俺に古代魔法に関する質問を浴びせかけてくる。その瞳は日に日に輝きを増し、俺を「歩く古代図書館」か何かと勘違いしている節があった。
「このままではいかん……!」
俺は自室で一人、頭を抱えた。
ヒロインたちの興味は、依然として俺に集中したままだ。カイルが主人公として輝くための舞台が、全く整っていない。
むしろ、カイル本人は、俺の異常な能力を目の当たりにして、少し自信を失いかけているようにすら見えた。
「アレン様は、本当にすごいですね……。俺なんて、足元にも及ばないや」
訓練場でそう寂しそうに笑う彼の姿を見て、俺は強い危機感を覚えた。
まずい。主人公が、自己肯定感を失い始めている。これでは、ヒロインたちを押し付けるどころの話ではない。
ならば、俺がやるべきことは一つ。
カイルを、俺の手で最強の主人公に育て上げるのだ。
俺の持つゲーム知識と、この三年間で培った技術の全てを、彼に叩き込む。
題して、『親友(主人公)育成計画』。
俺は早速、カイルを訓練場に呼び出した。
「カイル。君の剣には、素晴らしい才能が眠っている。だが、いくつか改善すべき点がある」
俺は木剣を構え、カイルに向き合った。
彼は驚いたように目を見開いたが、すぐに真剣な表情で頷いた。
「はいっ!ご指導、お願いします!」
「まず、君の剣筋は力強いが、少し大振りすぎる。それでは、懐に入られた時に対応できない。もっと、手首のスナップを利かせて、コンパクトに振ることを意識しろ」
俺は実際にやってみせながら、丁寧にアドバイスを送る。
これは、ゲームの攻略サイトにあった、カイル専用の育成指南だ。彼の潜在能力を最大限に引き出すための、いわば公式チート情報である。
最初は戸惑っていたカイルも、その吸収力はさすが主人公と言うべきか、驚異的だった。
俺のアドバイスをスポンジのように吸収し、見る見るうちにその剣技を洗練させていく。
「すごい……!アレン様のアドバイス通りにしたら、剣がまるで自分の手足のように……!」
彼は目を輝かせ、夢中で木剣を振るい続けた。
俺は満足げに頷きながら、内心では(よしよし、これでどんどん強くなれ。そしてヒロインたちを魅了するんだぞ)と、邪な計算をしていた。
俺とカイルのマンツーマン稽古は、それから毎日続いた。
剣術だけではない。魔法の効率的な使い方、魔物との実戦における立ち回り、貴族社会での処世術に至るまで、俺は自分の持つ知識の全てを、彼に叩き込んだ。
俺が彼に稽古をつけるのは、もちろん二人きりの時だけだ。目立つのは避けたい。
だが、隠そうとしても、人の成長というものは隠しきれるものではない。
「おい、見たか?平民のカイルってやつ、最近めちゃくちゃ強くなってないか?」
「ああ。この前の模擬戦じゃ、上級生の騎士候補を三人抜きしたらしいぜ」
「一体、どんな修行をすれば、あんな短期間で……」
学園内で、カイルの急成長は瞬く間に噂になった。
彼は一躍、平民生徒たちの希望の星となり、貴族の生徒たちからも一目置かれる存在となっていった。
もちろん、ヒロインたちがその変化に気づかないはずがなかった。
「カイル、最近見違えたわね。その剣筋、まるでアレンの動きを写し取ったかのようだわ」
セレスティーナが、感心したようにカイルに声をかける。
「貴方の魔力の流れ、以前とは比べ物にならないほど安定しています。何か、特別な訓練でもしたのですか?」
ルナが、興味深そうにカイルを分析する。
「カイルさん、すごいです!なんだか、とっても頼もしくなられましたね!」
リリアーナが、純粋な称賛の言葉を送る。
その度に、カイルは満面の笑みで、そして誇らしげにこう答えるのだ。
「全部、アレン様のおかげなんです!あの方が、俺の師匠なんです!」
……やめてくれ。
俺のささやかな隠蔽工作は、カイル本人の善意によって、いとも容易く暴露された。
結果、俺の評判は、さらに奇妙な方向へと加速していった。
「アレン様は、ご自身の強さだけでなく、他者の才能を見出し、それを開花させる能力にも長けておられるのか……」
「平民であるカイル君を、分け隔てなく指導されるとは。なんと慈悲深いお方だ」
「まさに、人を導く者。王の器……いや、聖人の器そのものではないか」
俺がただ、ヒロインを押し付けるためにやっていたことが、周囲の目には「平民の隠れた才能を見出し、育てる聖人」という、新たな伝説として映ってしまったのだ。
「アレン様!今日も、ありがとうございます!」
稽古を終え、汗だくのカイルが、最高の笑顔で俺に頭を下げた。その瞳は、もはや尊敬を通り越して、信仰のそれに近い。
「……ああ。君が強くなるなら、安いものだ」
俺は引きつった笑みを浮かべながら、そう答えるしかなかった。
カイルは、確かに強くなっている。俺の育成計画は、彼の能力を向上させるという点においては、大成功だった。
だが、その結果として、ヒロインたちはカイルに惹かれるどころか、「アレン様が目をかけた、可愛い弟分」として、ますます彼を可愛がるようになってしまった。
そして、カイル自身は、俺への心酔をさらに深めていく。
計画が、根底から間違っていたのかもしれない。
俺は、夕日に照らされた訓練場で、一人静かに胃の痛みに耐えていた。
親友(主人公)育成計画は、俺の聖人伝説をさらに強固なものにし、俺の胃をさらに痛めつけるという、最悪の副作用をもたらしていたのだった。
マクシim教授は俺を見るたびに何か言いたげな、しかし畏れ多くて話しかけられないといった複雑な表情を浮かべるようになり、授業の内容は当たり障りのないものに終始するようになった。実質的に、Sクラスの魔法学は機能不全に陥ったと言っていい。
その元凶であるルナは、そんなことにはお構いなしだ。彼女は授業そっちのけで、俺に古代魔法に関する質問を浴びせかけてくる。その瞳は日に日に輝きを増し、俺を「歩く古代図書館」か何かと勘違いしている節があった。
「このままではいかん……!」
俺は自室で一人、頭を抱えた。
ヒロインたちの興味は、依然として俺に集中したままだ。カイルが主人公として輝くための舞台が、全く整っていない。
むしろ、カイル本人は、俺の異常な能力を目の当たりにして、少し自信を失いかけているようにすら見えた。
「アレン様は、本当にすごいですね……。俺なんて、足元にも及ばないや」
訓練場でそう寂しそうに笑う彼の姿を見て、俺は強い危機感を覚えた。
まずい。主人公が、自己肯定感を失い始めている。これでは、ヒロインたちを押し付けるどころの話ではない。
ならば、俺がやるべきことは一つ。
カイルを、俺の手で最強の主人公に育て上げるのだ。
俺の持つゲーム知識と、この三年間で培った技術の全てを、彼に叩き込む。
題して、『親友(主人公)育成計画』。
俺は早速、カイルを訓練場に呼び出した。
「カイル。君の剣には、素晴らしい才能が眠っている。だが、いくつか改善すべき点がある」
俺は木剣を構え、カイルに向き合った。
彼は驚いたように目を見開いたが、すぐに真剣な表情で頷いた。
「はいっ!ご指導、お願いします!」
「まず、君の剣筋は力強いが、少し大振りすぎる。それでは、懐に入られた時に対応できない。もっと、手首のスナップを利かせて、コンパクトに振ることを意識しろ」
俺は実際にやってみせながら、丁寧にアドバイスを送る。
これは、ゲームの攻略サイトにあった、カイル専用の育成指南だ。彼の潜在能力を最大限に引き出すための、いわば公式チート情報である。
最初は戸惑っていたカイルも、その吸収力はさすが主人公と言うべきか、驚異的だった。
俺のアドバイスをスポンジのように吸収し、見る見るうちにその剣技を洗練させていく。
「すごい……!アレン様のアドバイス通りにしたら、剣がまるで自分の手足のように……!」
彼は目を輝かせ、夢中で木剣を振るい続けた。
俺は満足げに頷きながら、内心では(よしよし、これでどんどん強くなれ。そしてヒロインたちを魅了するんだぞ)と、邪な計算をしていた。
俺とカイルのマンツーマン稽古は、それから毎日続いた。
剣術だけではない。魔法の効率的な使い方、魔物との実戦における立ち回り、貴族社会での処世術に至るまで、俺は自分の持つ知識の全てを、彼に叩き込んだ。
俺が彼に稽古をつけるのは、もちろん二人きりの時だけだ。目立つのは避けたい。
だが、隠そうとしても、人の成長というものは隠しきれるものではない。
「おい、見たか?平民のカイルってやつ、最近めちゃくちゃ強くなってないか?」
「ああ。この前の模擬戦じゃ、上級生の騎士候補を三人抜きしたらしいぜ」
「一体、どんな修行をすれば、あんな短期間で……」
学園内で、カイルの急成長は瞬く間に噂になった。
彼は一躍、平民生徒たちの希望の星となり、貴族の生徒たちからも一目置かれる存在となっていった。
もちろん、ヒロインたちがその変化に気づかないはずがなかった。
「カイル、最近見違えたわね。その剣筋、まるでアレンの動きを写し取ったかのようだわ」
セレスティーナが、感心したようにカイルに声をかける。
「貴方の魔力の流れ、以前とは比べ物にならないほど安定しています。何か、特別な訓練でもしたのですか?」
ルナが、興味深そうにカイルを分析する。
「カイルさん、すごいです!なんだか、とっても頼もしくなられましたね!」
リリアーナが、純粋な称賛の言葉を送る。
その度に、カイルは満面の笑みで、そして誇らしげにこう答えるのだ。
「全部、アレン様のおかげなんです!あの方が、俺の師匠なんです!」
……やめてくれ。
俺のささやかな隠蔽工作は、カイル本人の善意によって、いとも容易く暴露された。
結果、俺の評判は、さらに奇妙な方向へと加速していった。
「アレン様は、ご自身の強さだけでなく、他者の才能を見出し、それを開花させる能力にも長けておられるのか……」
「平民であるカイル君を、分け隔てなく指導されるとは。なんと慈悲深いお方だ」
「まさに、人を導く者。王の器……いや、聖人の器そのものではないか」
俺がただ、ヒロインを押し付けるためにやっていたことが、周囲の目には「平民の隠れた才能を見出し、育てる聖人」という、新たな伝説として映ってしまったのだ。
「アレン様!今日も、ありがとうございます!」
稽古を終え、汗だくのカイルが、最高の笑顔で俺に頭を下げた。その瞳は、もはや尊敬を通り越して、信仰のそれに近い。
「……ああ。君が強くなるなら、安いものだ」
俺は引きつった笑みを浮かべながら、そう答えるしかなかった。
カイルは、確かに強くなっている。俺の育成計画は、彼の能力を向上させるという点においては、大成功だった。
だが、その結果として、ヒロインたちはカイルに惹かれるどころか、「アレン様が目をかけた、可愛い弟分」として、ますます彼を可愛がるようになってしまった。
そして、カイル自身は、俺への心酔をさらに深めていく。
計画が、根底から間違っていたのかもしれない。
俺は、夕日に照らされた訓練場で、一人静かに胃の痛みに耐えていた。
親友(主人公)育成計画は、俺の聖人伝説をさらに強固なものにし、俺の胃をさらに痛めつけるという、最悪の副作用をもたらしていたのだった。
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