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第31話:クラス対抗戦、開幕
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カイル育成計画が思わぬ副作用を生み出してから、一月が過ぎた。
俺の胃はもはや、学園の始業の鐘と連動して痛むようになっていた。条件反射というやつだ。
そんなある日、学園全体がにわかに活気づく出来事が起こった。学園最初の大型イベント、『クラス対抗戦』の開催が告知されたのだ。
クラス対抗戦。それは、各クラスがチームを組み、魔法、剣術、戦術などを駆使してトーナメント形式で競い合う、学園最大の祭典だ。
その告知を見た瞬間、俺の脳裏に電流が走った。
これだ。
これこそが、俺の計画を軌道修正するための、絶好の機会だ。
この対抗戦で、カイルをヒーローとして華々しく活躍させる。彼のリーダーシップと実力を全校生徒に見せつけ、ヒロインたちの心を彼へと向けさせるのだ。俺はあくまで彼のサポート役、陰の功労者に徹する。
完璧なシナリオだった。俺の胃が、久しぶりに希望の光を感じて、わずかに痛みを和らげた。
放課後。Sクラスの教室に、俺たち五人が集まっていた。議題は、もちろんクラス対抗戦の作戦会議だ。
「さて、皆。対抗戦のリーダーを決めなければならない」
俺は司会役を買って出て、議論を切り出した。内心では、この瞬間のために完璧なプレゼンを準備してきている。
俺はカイルの方に向き直り、穏やかな笑みを浮かべた。
「私は、リーダーにはカイル・アークライト君を推薦したい」
その言葉に、カイル本人が一番驚いていた。
「ええっ!?お、俺ですか!?」
俺は慌てる彼を手で制し、流れるように推薦理由を述べ始めた。
「そうだ、君だ。君の最近の成長は、誰もが認めるところだろう。その剣技はすでに学園トップクラスであり、何より、君には人を惹きつける天性のカリスマ性がある。この対抗戦は、君がリーダーとしてその才能を存分に発揮する、最高の舞台になるはずだ」
俺はカイルを褒めちぎり、彼の自尊心をくすぐり、そしてヒロインたちに彼の魅力をアピールした。完璧なスピーチだ。これで皆、納得するだろう。
だが、俺の完璧なプレゼンは、一瞬にして打ち砕かれた。
最初に口火を切ったのは、セレスティーナだった。
「何を言っているの、アレン」
彼女は呆れたように、ふう、と息をついた。
「リーダーは、貴方がやるに決まっているでしょう。カイルは確かに成長したわ。でも、それは貴方の指導あってこそ。まだ、我々を率いる器ではないわ」
「そ、そんな……!」
カイルがショックを受けたように呟く。追い打ちをかけるように、ルナが冷静な分析を口にした。
「合理的ではありません。この五人の中で、最も戦術眼に優れ、総合的な戦闘能力も未知数なのはアレン、貴方です。勝利という目標を達成するための最適解は、貴方が総監督となり、我々四人をチェスの駒のように動かすこと。それ以外の選択肢は、勝率を著しく下げる愚かな判断です」
「駒……」
カイルの顔から、さらに血の気が引いていく。
そして、リリアーナが、おずおずと、しかし確固たる意志を込めて言った。
「わ、私も……アレン様がリーダーになってくださるのが、一番だと思います。アレン様が導いてくださるなら、私、どんな戦いでも、怖くありませんから……!」
その瞳は、絶対的な信頼と、わずかな熱を帯びて俺を見つめていた。
三人のヒロイン全員が、俺を支持している。
俺の計画は、開始わずか数分で暗礁に乗り上げた。
だが、まだだ。まだ、カイル本人がいる。彼が「俺にやらせてください!」と力強く宣言すれば、まだ流れは変えられるかもしれない。
俺は最後の望みを託し、カイルに視線を送った。
頼むぞ、親友。ここで主人公らしさを見せてくれ。
俺の祈るような視線を受けたカイルは、一度、固く唇を結んだ。
そして、勢いよく席から立ち上がると、力強く、はっきりと宣言した。
「俺も、アレン様がリーダーじゃなきゃ絶対に嫌です!」
……終わった。
俺の計画は、今、完全に頓挫した。
カイルは、俺への尊敬と心酔のあまり、自らがリーダーになるという選択肢を、微塵も考えていなかったのだ。彼は興奮した様子で、さらに言葉を続ける。
「アレン様の指揮の下で戦えるなんて、光栄じゃないですか!俺、アレン様の手足となって、どんな汚れ仕事でもやりますよ!」
その目は、一点の曇りもなくキラキラと輝いていた。
四対一。
いや、俺の意思など関係ないのだから、実質的には満場一致だ。
俺がSクラスのリーダー、いや、総監督を務めることが、有無を言わさず決定された。
カイルをヒーローにするはずが、俺が神輿に担ぎ上げられるという、最悪の展開。
希望の光を感じていたはずの俺の胃は、再び絶望の闇へと突き落とされ、猛烈な痛みをもって、俺の計画の失敗を告げていた。
こうして、俺の意思とは完全に裏腹に、Sクラスの運命は俺の双肩に重くのしかかることになった。
胃が、本気で割れそうだった。
俺の胃はもはや、学園の始業の鐘と連動して痛むようになっていた。条件反射というやつだ。
そんなある日、学園全体がにわかに活気づく出来事が起こった。学園最初の大型イベント、『クラス対抗戦』の開催が告知されたのだ。
クラス対抗戦。それは、各クラスがチームを組み、魔法、剣術、戦術などを駆使してトーナメント形式で競い合う、学園最大の祭典だ。
その告知を見た瞬間、俺の脳裏に電流が走った。
これだ。
これこそが、俺の計画を軌道修正するための、絶好の機会だ。
この対抗戦で、カイルをヒーローとして華々しく活躍させる。彼のリーダーシップと実力を全校生徒に見せつけ、ヒロインたちの心を彼へと向けさせるのだ。俺はあくまで彼のサポート役、陰の功労者に徹する。
完璧なシナリオだった。俺の胃が、久しぶりに希望の光を感じて、わずかに痛みを和らげた。
放課後。Sクラスの教室に、俺たち五人が集まっていた。議題は、もちろんクラス対抗戦の作戦会議だ。
「さて、皆。対抗戦のリーダーを決めなければならない」
俺は司会役を買って出て、議論を切り出した。内心では、この瞬間のために完璧なプレゼンを準備してきている。
俺はカイルの方に向き直り、穏やかな笑みを浮かべた。
「私は、リーダーにはカイル・アークライト君を推薦したい」
その言葉に、カイル本人が一番驚いていた。
「ええっ!?お、俺ですか!?」
俺は慌てる彼を手で制し、流れるように推薦理由を述べ始めた。
「そうだ、君だ。君の最近の成長は、誰もが認めるところだろう。その剣技はすでに学園トップクラスであり、何より、君には人を惹きつける天性のカリスマ性がある。この対抗戦は、君がリーダーとしてその才能を存分に発揮する、最高の舞台になるはずだ」
俺はカイルを褒めちぎり、彼の自尊心をくすぐり、そしてヒロインたちに彼の魅力をアピールした。完璧なスピーチだ。これで皆、納得するだろう。
だが、俺の完璧なプレゼンは、一瞬にして打ち砕かれた。
最初に口火を切ったのは、セレスティーナだった。
「何を言っているの、アレン」
彼女は呆れたように、ふう、と息をついた。
「リーダーは、貴方がやるに決まっているでしょう。カイルは確かに成長したわ。でも、それは貴方の指導あってこそ。まだ、我々を率いる器ではないわ」
「そ、そんな……!」
カイルがショックを受けたように呟く。追い打ちをかけるように、ルナが冷静な分析を口にした。
「合理的ではありません。この五人の中で、最も戦術眼に優れ、総合的な戦闘能力も未知数なのはアレン、貴方です。勝利という目標を達成するための最適解は、貴方が総監督となり、我々四人をチェスの駒のように動かすこと。それ以外の選択肢は、勝率を著しく下げる愚かな判断です」
「駒……」
カイルの顔から、さらに血の気が引いていく。
そして、リリアーナが、おずおずと、しかし確固たる意志を込めて言った。
「わ、私も……アレン様がリーダーになってくださるのが、一番だと思います。アレン様が導いてくださるなら、私、どんな戦いでも、怖くありませんから……!」
その瞳は、絶対的な信頼と、わずかな熱を帯びて俺を見つめていた。
三人のヒロイン全員が、俺を支持している。
俺の計画は、開始わずか数分で暗礁に乗り上げた。
だが、まだだ。まだ、カイル本人がいる。彼が「俺にやらせてください!」と力強く宣言すれば、まだ流れは変えられるかもしれない。
俺は最後の望みを託し、カイルに視線を送った。
頼むぞ、親友。ここで主人公らしさを見せてくれ。
俺の祈るような視線を受けたカイルは、一度、固く唇を結んだ。
そして、勢いよく席から立ち上がると、力強く、はっきりと宣言した。
「俺も、アレン様がリーダーじゃなきゃ絶対に嫌です!」
……終わった。
俺の計画は、今、完全に頓挫した。
カイルは、俺への尊敬と心酔のあまり、自らがリーダーになるという選択肢を、微塵も考えていなかったのだ。彼は興奮した様子で、さらに言葉を続ける。
「アレン様の指揮の下で戦えるなんて、光栄じゃないですか!俺、アレン様の手足となって、どんな汚れ仕事でもやりますよ!」
その目は、一点の曇りもなくキラキラと輝いていた。
四対一。
いや、俺の意思など関係ないのだから、実質的には満場一致だ。
俺がSクラスのリーダー、いや、総監督を務めることが、有無を言わさず決定された。
カイルをヒーローにするはずが、俺が神輿に担ぎ上げられるという、最悪の展開。
希望の光を感じていたはずの俺の胃は、再び絶望の闇へと突き落とされ、猛烈な痛みをもって、俺の計画の失敗を告げていた。
こうして、俺の意思とは完全に裏腹に、Sクラスの運命は俺の双肩に重くのしかかることになった。
胃が、本気で割れそうだった。
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