ゲームの悪役貴族に転生した俺、断罪されて処刑される未来を回避するため死ぬ気で努力したら、いつの間にか“救国の聖人”と呼ばれてたんだが

夏見ナイ

文字の大きさ
31 / 97

第31話:クラス対抗戦、開幕

しおりを挟む
カイル育成計画が思わぬ副作用を生み出してから、一月が過ぎた。
俺の胃はもはや、学園の始業の鐘と連動して痛むようになっていた。条件反射というやつだ。
そんなある日、学園全体がにわかに活気づく出来事が起こった。学園最初の大型イベント、『クラス対抗戦』の開催が告知されたのだ。

クラス対抗戦。それは、各クラスがチームを組み、魔法、剣術、戦術などを駆使してトーナメント形式で競い合う、学園最大の祭典だ。
その告知を見た瞬間、俺の脳裏に電流が走った。
これだ。
これこそが、俺の計画を軌道修正するための、絶好の機会だ。
この対抗戦で、カイルをヒーローとして華々しく活躍させる。彼のリーダーシップと実力を全校生徒に見せつけ、ヒロインたちの心を彼へと向けさせるのだ。俺はあくまで彼のサポート役、陰の功労者に徹する。
完璧なシナリオだった。俺の胃が、久しぶりに希望の光を感じて、わずかに痛みを和らげた。

放課後。Sクラスの教室に、俺たち五人が集まっていた。議題は、もちろんクラス対抗戦の作戦会議だ。
「さて、皆。対抗戦のリーダーを決めなければならない」
俺は司会役を買って出て、議論を切り出した。内心では、この瞬間のために完璧なプレゼンを準備してきている。
俺はカイルの方に向き直り、穏やかな笑みを浮かべた。
「私は、リーダーにはカイル・アークライト君を推薦したい」

その言葉に、カイル本人が一番驚いていた。
「ええっ!?お、俺ですか!?」
俺は慌てる彼を手で制し、流れるように推薦理由を述べ始めた。
「そうだ、君だ。君の最近の成長は、誰もが認めるところだろう。その剣技はすでに学園トップクラスであり、何より、君には人を惹きつける天性のカリスマ性がある。この対抗戦は、君がリーダーとしてその才能を存分に発揮する、最高の舞台になるはずだ」
俺はカイルを褒めちぎり、彼の自尊心をくすぐり、そしてヒロインたちに彼の魅力をアピールした。完璧なスピーチだ。これで皆、納得するだろう。

だが、俺の完璧なプレゼンは、一瞬にして打ち砕かれた。
最初に口火を切ったのは、セレスティーナだった。
「何を言っているの、アレン」
彼女は呆れたように、ふう、と息をついた。
「リーダーは、貴方がやるに決まっているでしょう。カイルは確かに成長したわ。でも、それは貴方の指導あってこそ。まだ、我々を率いる器ではないわ」
「そ、そんな……!」
カイルがショックを受けたように呟く。追い打ちをかけるように、ルナが冷静な分析を口にした。

「合理的ではありません。この五人の中で、最も戦術眼に優れ、総合的な戦闘能力も未知数なのはアレン、貴方です。勝利という目標を達成するための最適解は、貴方が総監督となり、我々四人をチェスの駒のように動かすこと。それ以外の選択肢は、勝率を著しく下げる愚かな判断です」
「駒……」
カイルの顔から、さらに血の気が引いていく。
そして、リリアーナが、おずおずと、しかし確固たる意志を込めて言った。
「わ、私も……アレン様がリーダーになってくださるのが、一番だと思います。アレン様が導いてくださるなら、私、どんな戦いでも、怖くありませんから……!」
その瞳は、絶対的な信頼と、わずかな熱を帯びて俺を見つめていた。

三人のヒロイン全員が、俺を支持している。
俺の計画は、開始わずか数分で暗礁に乗り上げた。
だが、まだだ。まだ、カイル本人がいる。彼が「俺にやらせてください!」と力強く宣言すれば、まだ流れは変えられるかもしれない。
俺は最後の望みを託し、カイルに視線を送った。
頼むぞ、親友。ここで主人公らしさを見せてくれ。

俺の祈るような視線を受けたカイルは、一度、固く唇を結んだ。
そして、勢いよく席から立ち上がると、力強く、はっきりと宣言した。

「俺も、アレン様がリーダーじゃなきゃ絶対に嫌です!」

……終わった。
俺の計画は、今、完全に頓挫した。
カイルは、俺への尊敬と心酔のあまり、自らがリーダーになるという選択肢を、微塵も考えていなかったのだ。彼は興奮した様子で、さらに言葉を続ける。
「アレン様の指揮の下で戦えるなんて、光栄じゃないですか!俺、アレン様の手足となって、どんな汚れ仕事でもやりますよ!」
その目は、一点の曇りもなくキラキラと輝いていた。

四対一。
いや、俺の意思など関係ないのだから、実質的には満場一致だ。
俺がSクラスのリーダー、いや、総監督を務めることが、有無を言わさず決定された。
カイルをヒーローにするはずが、俺が神輿に担ぎ上げられるという、最悪の展開。
希望の光を感じていたはずの俺の胃は、再び絶望の闇へと突き落とされ、猛烈な痛みをもって、俺の計画の失敗を告げていた。
こうして、俺の意思とは完全に裏腹に、Sクラスの運命は俺の双肩に重くのしかかることになった。
胃が、本気で割れそうだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~

エース皇命
ファンタジー
 学校では正体を隠し、普通の男子高校生を演じている黒瀬才斗。実は仕事でダンジョンに潜っている、最近話題のAランク冒険者だった。  そんな黒瀬の通う高校に突如転校してきた白桃楓香。初対面なのにも関わらず、なぜかいきなり黒瀬に抱きつくという奇行に出る。 「才斗くん、これからよろしくお願いしますねっ」  なんと白桃は黒瀬の直属の部下として派遣された冒険者であり、以後、同じ家で生活を共にし、ダンジョンでの仕事も一緒にすることになるという。  これは、上級冒険者の黒瀬と、美少女転校生の純愛ラブコメディ――ではなく、ちゃんとしたダンジョン・ファンタジー(多分)。 ※小説家になろう、カクヨムでも連載しています。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

異世界帰還者の気苦労無双録~チートスキルまで手に入れたのに幼馴染のお世話でダンジョン攻略が捗らない~

虎柄トラ
ファンタジー
 下校帰りに不慮の事故に遭い命を落とした桜川凪は、女神から開口一番に異世界転生しないかと勧誘を受ける。  意味が分からず凪が聞き返すと、女神は涙ながらに異世界の現状について語り出す。  女神が管理する世界ではいま魔族と人類とで戦争をしているが、このままだと人類が負けて世界は滅亡してしまう。  敗色濃厚なその理由は、魔族側には魔王がいるのに対して、人類側には勇者がいないからだという。  剣と魔法が存在するファンタジー世界は大好物だが、そんな物騒な世界で勇者になんてなりたくない凪は断るが、女神は聞き入れようとしない。  一歩も引かない女神に対して凪は、「魔王を倒せたら、俺を元の身体で元いた世界に帰還転生させろ」と交換条件を提示する。  快諾した女神と契約を交わし転生した凪は、見事に魔王を打ち倒して元の世界に帰還するが――。

ブラック企業で心身ボロボロの社畜だった俺が少年の姿で異世界に転生!? ~鑑定スキルと無限収納を駆使して錬金術師として第二の人生を謳歌します~

楠富 つかさ
ファンタジー
 ブラック企業で働いていた小坂直人は、ある日、仕事中の過労で意識を失い、気がつくと異世界の森の中で少年の姿になっていた。しかも、【錬金術】という強力なスキルを持っており、物質を分解・合成・強化できる能力を手にしていた。  そんなナオが出会ったのは、森で冒険者として活動する巨乳の美少女・エルフィーナ(エル)。彼女は魔物討伐の依頼をこなしていたが、強敵との戦闘で深手を負ってしまう。 「やばい……これ、動けない……」  怪我人のエルを目の当たりにしたナオは、錬金術で作成していたポーションを与え彼女を助ける。 「す、すごい……ナオのおかげで助かった……!」  異世界で自由気ままに錬金術を駆使するナオと、彼に惚れた美少女冒険者エルとのスローライフ&冒険ファンタジーが今、始まる!

元・異世界一般人(Lv.1)、現代にて全ステータスカンストで転生したので、好き放題やらせていただきます

夏見ナイ
ファンタジー
剣と魔法の異世界で、何の才能もなくモンスターに殺された青年エルヴィン。死の間際に抱いたのは、無力感と後悔。「もし違う人生だったら――」その願いが通じたのか、彼は現代日本の大富豪の息子・神崎蓮(16)として転生を果たす。しかも、前世の記憶と共に授かったのは、容姿端麗、頭脳明晰、運動万能……ありとあらゆる才能がカンストした【全ステータスMAX】のチート能力だった! 超名門・帝聖学園に入学した蓮は、学業、スポーツ、果ては株や起業まで、その完璧すぎる才能で周囲を圧倒し、美少女たちの注目も一身に集めていく。 前世でLv.1だった男が、現代社会を舞台に繰り広げる、痛快無双サクセスストーリー! 今度こそ、最高に「好き放題」な人生を掴み取る!

処理中です...