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第32話:必勝のシナリオ
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Sクラスの総監督という、最も避けたい役職に就任してしまった俺は、その夜、一睡もできなかった。
胃痛のあまり、ベッドの上を転げ回った。このままでは、対抗戦が始まる前に俺が戦闘不能になる。
だが、夜が明ける頃。俺の社畜根性が叩き出した一つの結論が、絶望の淵から俺を這い上がらせた。
「……そうだ。発想を転換すればいい」
リーダーが無理なら、総監督としてカイルをヒーローにすればいいだけの話だ。
俺が最高の脚本家となり、最高の演出家となる。そして、カイルという役者を、最高の舞台で輝かせる。俺は黒子に徹するのだ。
そうと決まれば、やることは一つ。
対抗戦の全対戦相手を分析し、カイルが最も輝ける必勝のシナリオを描き上げることだ。
数日後、クラス対抗戦のトーナメント組み合わせが発表された。
俺は掲示板に張り出された対戦表を、食い入るように見つめた。
一回戦の相手は、Cクラス。騎士見習いの脳筋どもが集まったクラスだ。
二回戦で当たると予想されるのは、Aクラス。貴族の子弟の中でも、特にエリート意識の高い連中が揃っている。
そして、決勝まで勝ち上がれば、おそらく相手はBクラス。平民と下級貴族の混成チームだが、チームワークに定評がある、侮れない相手だ。
俺の脳内で、前世の記憶が高速で検索される。
Cクラスのリーダー、猪突猛進のバルカン。Aクラスのリーダー、高慢ちきな魔術師クラウス。Bクラスのリーダー、狡猾な戦術家マリア。
彼らは全員、原作ゲームでカイルの前に立ちはだかったライバルキャラクターたちだ。
俺は、彼らの得意な戦術、使用する魔法、性格の癖、そして何より、その『弱点』を、全て知っている。
「……フフフ」
俺の口から、無意識のうちに乾いた笑いが漏れた。
掲示板の前で不気味に笑う俺の姿に、周囲の生徒たちがドン引きして距離を取っている。だが、そんなことはどうでもよかった。
勝てる。いや、勝たせる。
カイルを、最高のヒーローとして。
その日の放課後。俺はSクラスの教室にメンバー全員を集め、作戦会議を開いた。
テーブルの上には、俺が夜なべして書き上げた、分厚い作戦計画書が置かれている。
「皆、聞いてくれ。これが、我々Sクラスがクラス対抗戦を勝ち抜くための、完全なシナリオだ」
俺は自信満々に宣言した。
カイル、セレスティーナ、ルナ、リリアーナ。四人の視線が、俺に集中する。
「まず、一回戦。相手はCクラスだ。彼らは個々の戦闘能力は高いが、戦術は単純そのもの。力押ししか能がない」
俺は地図盤の上に駒を置きながら、説明を始めた。
「ここは、セレスティーナとルナ、君たち二人が前衛を務める。セレスティーナがその圧倒的な剣技で敵の注意を引きつけ、その隙にルナが広範囲魔法で一網打尽にする。カイルとリリアーナ、そして私は、後方で待機。一切、手を出すな」
「なんですって?私はともかく、カイルまで待機させるの?」
セレスティーナが不満げに眉をひそめる。
「そうだ。これは、相手に我々の戦力を誤認させるための布石だ。『Sクラスは、王女と天才魔導師だけのチームだ』と、全校生徒に思わせる。カイルという切り札は、まだ見せてはならない」
俺の言葉に、セレスティーナは渋々ながらも納得したようだった。
「次に、二回戦。Aクラス。彼らはプライドが高く、正攻法を好む。おそらく、リーダーのクラウスが強力な魔法で先制攻撃を仕掛けてくるだろう」
俺は駒を動かし、次の盤面を作る。
「ここで鍵となるのが、リリアーナだ。君の聖魔法による防御結界『ホーリー・ウォール』で、完全に防ぎ切る」
「は、はい!私に、そんな大役が……」
リリアーナが、不安と期待の入り混じった顔で俺を見る。
「君ならできる。そして、敵が最大火力を放ち、魔力が尽きたその一瞬。その隙を突いて、カイル、君が単騎で突撃し、リーダーのクラウスを仕留めるんだ」
「お、俺が!?」
カイルが、目を丸くした。
「そうだ。皆が君のために道を作る。君は、ヒーローになるんだ」
俺の言葉に、カイルの顔が奮い立ったように赤く染まった。
「そして、決勝戦。相手がおそらくBクラスだと仮定する。彼らの強みは、リーダーのマリアを中心とした、完璧な連携戦術だ」
俺の表情が、真剣みを帯びる。
「個々の力では、我々が上だ。だが、連携で来られると厄介だ。だから、こちらも連携で対抗する。セレスティーナ、ルナ、リリアーナ。君たち三人が、敵の連携を分断し、乱す。どんな手を使ってもいい。とにかく、時間を稼いでくれ」
「時間を稼ぐ?その間に、どうするの?」
「その間に、舞台を整える。カイルと、敵のリーダーであるマリア。二人だけの一騎打ちの舞台を」
俺は、盤上の中央に置かれたカイルの駒を、指で弾いた。
「最後の決着は、リーダー同士の戦いでつける。これ以上ない、最高の見せ場だ。カイル、君なら勝てるな?」
俺が問うと、カイルはゴクリと唾を飲み込み、そして力強く頷いた。
「……はい!アレン様の期待、絶対に裏切りません!」
作戦の説明が終わると、教室は静まり返っていた。
四人とも、俺が描いた完璧すぎる勝利へのシナリオに、完全に圧倒されていた。
その戦術の緻密さ、敵の動きの完全な予測、そして、各メンバーの能力を最大限に活かす役割分担。
彼らの目には、俺がもはや未来予知でもできる、神のごとき司令官に映っているらしかった。
「……すごい。アレン、貴方には、勝利までの道筋が全て見えているのね」
セレスティーナが、感嘆の声を漏らした。
「合理的です。この作戦の成功率は、限りなく百パーセントに近い」
ルナが、静かに分析する。
「アレン様……!私、頑張ります!」
リリアーナが、決意を新たにしたように拳を握った。
よし。皆、完全にその気になっている。
俺の真の目的が、「いかにしてカイルを目立たせるか」という一点にあることなど、誰も気づいていない。
俺は内心でガッツポーズをしながら、厳かに告げた。
「いいか、皆。この作戦は、誰か一人でも欠ければ成り立たない。我々五人で、初めて勝利を掴むことができる。全ては、私の指揮に従ってもらう」
「「「「はいっ!!」」」」
四人の声が、力強く教室に響いた。
その完璧なまでの信頼と団結力に、俺は計画の成功を確信した。
だが、その信頼が、俺の「聖人」としての評価をさらに不動のものにし、ヒロインたちの心を俺にさらに強く結びつけてしまうという、最悪の皮肉に気づくのは、もう少し先の話である。
胃痛のあまり、ベッドの上を転げ回った。このままでは、対抗戦が始まる前に俺が戦闘不能になる。
だが、夜が明ける頃。俺の社畜根性が叩き出した一つの結論が、絶望の淵から俺を這い上がらせた。
「……そうだ。発想を転換すればいい」
リーダーが無理なら、総監督としてカイルをヒーローにすればいいだけの話だ。
俺が最高の脚本家となり、最高の演出家となる。そして、カイルという役者を、最高の舞台で輝かせる。俺は黒子に徹するのだ。
そうと決まれば、やることは一つ。
対抗戦の全対戦相手を分析し、カイルが最も輝ける必勝のシナリオを描き上げることだ。
数日後、クラス対抗戦のトーナメント組み合わせが発表された。
俺は掲示板に張り出された対戦表を、食い入るように見つめた。
一回戦の相手は、Cクラス。騎士見習いの脳筋どもが集まったクラスだ。
二回戦で当たると予想されるのは、Aクラス。貴族の子弟の中でも、特にエリート意識の高い連中が揃っている。
そして、決勝まで勝ち上がれば、おそらく相手はBクラス。平民と下級貴族の混成チームだが、チームワークに定評がある、侮れない相手だ。
俺の脳内で、前世の記憶が高速で検索される。
Cクラスのリーダー、猪突猛進のバルカン。Aクラスのリーダー、高慢ちきな魔術師クラウス。Bクラスのリーダー、狡猾な戦術家マリア。
彼らは全員、原作ゲームでカイルの前に立ちはだかったライバルキャラクターたちだ。
俺は、彼らの得意な戦術、使用する魔法、性格の癖、そして何より、その『弱点』を、全て知っている。
「……フフフ」
俺の口から、無意識のうちに乾いた笑いが漏れた。
掲示板の前で不気味に笑う俺の姿に、周囲の生徒たちがドン引きして距離を取っている。だが、そんなことはどうでもよかった。
勝てる。いや、勝たせる。
カイルを、最高のヒーローとして。
その日の放課後。俺はSクラスの教室にメンバー全員を集め、作戦会議を開いた。
テーブルの上には、俺が夜なべして書き上げた、分厚い作戦計画書が置かれている。
「皆、聞いてくれ。これが、我々Sクラスがクラス対抗戦を勝ち抜くための、完全なシナリオだ」
俺は自信満々に宣言した。
カイル、セレスティーナ、ルナ、リリアーナ。四人の視線が、俺に集中する。
「まず、一回戦。相手はCクラスだ。彼らは個々の戦闘能力は高いが、戦術は単純そのもの。力押ししか能がない」
俺は地図盤の上に駒を置きながら、説明を始めた。
「ここは、セレスティーナとルナ、君たち二人が前衛を務める。セレスティーナがその圧倒的な剣技で敵の注意を引きつけ、その隙にルナが広範囲魔法で一網打尽にする。カイルとリリアーナ、そして私は、後方で待機。一切、手を出すな」
「なんですって?私はともかく、カイルまで待機させるの?」
セレスティーナが不満げに眉をひそめる。
「そうだ。これは、相手に我々の戦力を誤認させるための布石だ。『Sクラスは、王女と天才魔導師だけのチームだ』と、全校生徒に思わせる。カイルという切り札は、まだ見せてはならない」
俺の言葉に、セレスティーナは渋々ながらも納得したようだった。
「次に、二回戦。Aクラス。彼らはプライドが高く、正攻法を好む。おそらく、リーダーのクラウスが強力な魔法で先制攻撃を仕掛けてくるだろう」
俺は駒を動かし、次の盤面を作る。
「ここで鍵となるのが、リリアーナだ。君の聖魔法による防御結界『ホーリー・ウォール』で、完全に防ぎ切る」
「は、はい!私に、そんな大役が……」
リリアーナが、不安と期待の入り混じった顔で俺を見る。
「君ならできる。そして、敵が最大火力を放ち、魔力が尽きたその一瞬。その隙を突いて、カイル、君が単騎で突撃し、リーダーのクラウスを仕留めるんだ」
「お、俺が!?」
カイルが、目を丸くした。
「そうだ。皆が君のために道を作る。君は、ヒーローになるんだ」
俺の言葉に、カイルの顔が奮い立ったように赤く染まった。
「そして、決勝戦。相手がおそらくBクラスだと仮定する。彼らの強みは、リーダーのマリアを中心とした、完璧な連携戦術だ」
俺の表情が、真剣みを帯びる。
「個々の力では、我々が上だ。だが、連携で来られると厄介だ。だから、こちらも連携で対抗する。セレスティーナ、ルナ、リリアーナ。君たち三人が、敵の連携を分断し、乱す。どんな手を使ってもいい。とにかく、時間を稼いでくれ」
「時間を稼ぐ?その間に、どうするの?」
「その間に、舞台を整える。カイルと、敵のリーダーであるマリア。二人だけの一騎打ちの舞台を」
俺は、盤上の中央に置かれたカイルの駒を、指で弾いた。
「最後の決着は、リーダー同士の戦いでつける。これ以上ない、最高の見せ場だ。カイル、君なら勝てるな?」
俺が問うと、カイルはゴクリと唾を飲み込み、そして力強く頷いた。
「……はい!アレン様の期待、絶対に裏切りません!」
作戦の説明が終わると、教室は静まり返っていた。
四人とも、俺が描いた完璧すぎる勝利へのシナリオに、完全に圧倒されていた。
その戦術の緻密さ、敵の動きの完全な予測、そして、各メンバーの能力を最大限に活かす役割分担。
彼らの目には、俺がもはや未来予知でもできる、神のごとき司令官に映っているらしかった。
「……すごい。アレン、貴方には、勝利までの道筋が全て見えているのね」
セレスティーナが、感嘆の声を漏らした。
「合理的です。この作戦の成功率は、限りなく百パーセントに近い」
ルナが、静かに分析する。
「アレン様……!私、頑張ります!」
リリアーナが、決意を新たにしたように拳を握った。
よし。皆、完全にその気になっている。
俺の真の目的が、「いかにしてカイルを目立たせるか」という一点にあることなど、誰も気づいていない。
俺は内心でガッツポーズをしながら、厳かに告げた。
「いいか、皆。この作戦は、誰か一人でも欠ければ成り立たない。我々五人で、初めて勝利を掴むことができる。全ては、私の指揮に従ってもらう」
「「「「はいっ!!」」」」
四人の声が、力強く教室に響いた。
その完璧なまでの信頼と団結力に、俺は計画の成功を確信した。
だが、その信頼が、俺の「聖人」としての評価をさらに不動のものにし、ヒロインたちの心を俺にさらに強く結びつけてしまうという、最悪の皮肉に気づくのは、もう少し先の話である。
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