ゲームの悪役貴族に転生した俺、断罪されて処刑される未来を回避するため死ぬ気で努力したら、いつの間にか“救国の聖人”と呼ばれてたんだが

夏見ナイ

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第33話:完璧すぎる指揮

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クラス対抗戦の当日。闘技場は、学園中の生徒と教師たちの熱気で満ち溢れていた。
俺たちSクラスのメンバーは、選手控え室で静かに出番を待っていた。セレスティーナは愛剣の手入れをし、ルナは魔術書を読み、リリアーナは祈りを捧げている。そしてカイルは、緊張と興奮が入り混じった顔で、何度も深呼吸を繰り返していた。
俺の胃は、緊張でねじ切れそうだった。俺の描いた必勝のシナリオが、今、試される。

「Sクラス対Cクラス、試合開始!」
アナウンスと共に、俺たちは闘技場のフィールドへと足を踏み入れた。
対するCクラスのメンバーは、全員が屈強な騎士見習いだ。そのリーダーであるバルカンが、雄牛のような唸り声を上げて俺たちを睨みつけてくる。
「総監督のアレン様は、後方で優雅に見物といくか!上等だ!お前ら、あの女二人を先に潰すぞ!」
作戦通りだ。敵は、後方にいる俺とカイル、リリアーナを完全に無視している。

「セレスティーナ、ルナ。頼む」
俺の静かな声に、二人は頷いた。
試合開始の号令と共に、Cクラスの五人が鬨の声を上げて突撃してくる。単純だが、重戦車のような凄まじい突進力だ。
だが、セレスティーナは一歩も引かなかった。彼女はしなやかな動きでその突撃をいなし、華麗な剣技で五人の注意を一身に引きつける。まるで、猛牛をあしらうマタドールのようだ。
「今だ、ルナ!」
俺は、Cクラスの陣形が完全にセレスティーティーナに集中した、その一瞬を見逃さなかった。
俺の合図に、待機していたルナが静かに杖を掲げる。
「――『サンダー・バインド』」
詠唱と共に、Cクラスの騎士たちの足元から、無数の雷の鎖が伸び、彼らの動きを完全に封じ込めた。
「なっ!?体が……!」
身動きが取れなくなった彼らに、セレスティーナが容赦なく木剣の峰を叩き込んでいく。数秒後、Cクラスの全員が、闘技場に折り重なるようにして倒れていた。
圧勝だった。

「しょ、勝者、Sクラス!」
審判の呆気にとられたような声が響く。会場は、一瞬の静寂の後、爆発的な歓声に包まれた。
「す、すげえ……!なんだ今の連携は!」
「クラインフェルト卿の指示一つで、あの脳筋軍団が一瞬で……」
計画は完璧だった。カイルという切り札を隠したまま、圧倒的な勝利を飾ることができた。
俺は安堵のため息をつきながら、次の試合へと意識を切り替えた。

二回戦の相手は、エリート集団のAクラス。
試合開始直後、リーダーのクラウスが、俺の予測通り、最大火力の炎魔法を詠唱し始めた。プライドの高い彼らしい、派手な先制攻撃だ。
「リリアーナ!」
「はいっ!」
俺の指示に、リリアーナが前に出る。彼女の全身から、柔らかな聖なる光が溢れ出し、俺たちの前に巨大な光の壁を形成した。
『ホーリー・ウォール』。
直後、クラウスが放った巨大な火球が、その壁に激突した。轟音と共に炎が渦を巻くが、リリアーナの結界はびくともしない。
「馬鹿な!?俺の最強魔法が……!」
クラウスが愕然とする。魔力を使い果たし、彼の動きが一瞬だけ止まった。
その隙を、俺は見逃さない。
「行け、カイル!」
俺の声が、カイルの背中を押した。
待機していた彼は、まるで弾丸のように飛び出した。その速度は、一回戦では見せなかった、彼の全力。
Aクラスの生徒たちが反応するより早く、カイルは敵陣の懐に飛び込み、リーダーであるクラウスの喉元に、木剣を突きつけていた。
「……そこまで!」
審判の声が響き、Aクラスは戦意を喪失した。
またしても、Sクラスの圧勝だった。

今度こそ、カイルがヒーローになるはずだった。
会場は、彼の稲妻のような一撃に、確かにどよめいた。
だが、戦術に詳しい教師や上級生たちは、別の点に戦慄していた。
「……おかしい。なぜクラインフェルト卿は、クラウスが魔法を放つタイミングを完璧に予測できたんだ?」
「リリアーナ嬢の結界展開も、早すぎず、遅すぎず、完璧なタイミングだった……」
「まるで、全てが決められていたかのような……神の脚本か、これは」
賞賛の声は、カイルではなく、後方で静かに佇む俺へと、徐々に集まり始めていた。

そして、運命の決勝戦。相手は、Bクラス。
リーダーのマリアは、狡猾な笑みを浮かべてこちらを見ている。
試合開始と同時に、彼らは予想通り、完璧な連携で俺たちを包囲しようと動いた。
だが、その動きは、全て俺の掌の上だった。
「セレスティーナ、敵の右翼を崩せ!ルナ、中央に足止めの氷結魔法!リリアーナ、後方の奇襲に備えろ!」
俺の指示が、矢継ぎ早に飛ぶ。
三人は、俺の言葉を寸分の狂いもなく実行する。まるで、俺という一つの脳で動く、四つの手足のように。
Bクラスの連携は、ことごとく俺の先読みによって分断され、機能不全に陥っていく。
「なんなのよ、あいつ……!私たちの動きが、全部読まれてる……!」
マリアが、信じられないといった表情で歯噛みする。

そして、俺のシナリオ通り、カイルとマリアの一騎打ちの状況が作り出された。
二人の剣が、激しく火花を散らす。カイルは俺の指導で磨き上げた剣技で優位に立つが、マリアも巧みな罠とフェイントで食い下がる。
一進一退の攻防。その均衡が破れたのは、マリアが仕掛けた見えざる罠だった。
彼女が後退した先に、微かな魔力の罠が仕掛けられているのを、俺の魔力探知は見抜いていた。
「カイル、そこから動くな!三歩下がって、右に跳べ!」
俺の叫び声が、闘技場に響く。
カイルは、一瞬の躊躇もなく、その指示に反射的に従った。
彼が跳んだ直後、元のいた場所の地面から、鋭い岩の槍が突き出した。間一髪だった。
カイルは冷や汗を流しながらも、俺への絶対的な信頼から、すぐに体勢を立て直す。
罠を破られ、動揺したマリア。その一瞬の隙を、カイルは見逃さなかった。
彼の木剣が、マリアのそれを弾き飛ばし、その首筋にぴたりと添えられた。
勝負、あり。

Sクラスの優勝が決まった。
会場は、この日一番の歓声に包まれた。
カイルは、確かにヒーローだった。決勝打を決めたのは、彼だ。
だが、観客の、教師の、そして仲間たちの視線は、彼を通り越し、その後ろに立つ俺に集中していた。
誰もが理解していた。この完璧すぎる勝利は、全て俺の神がかり的な采配によってもたらされたものだと。
解説席の教師が、マイクを通して興奮気味に叫んでいる。
「信じられません!これはもはや戦術ではない!予言です!クラインフェルト卿は、この対抗戦の全てを、試合が始まる前から見通しておられたのです!」

その言葉が、とどめだった。
万雷の拍手と、畏敬の念のこもった視線が、俺一人に降り注ぐ。
カイルは、ヒーローになったというより、「神に選ばれし使徒」のような顔で、俺に駆け寄ってきた。
「アレン様!全て、アレン様のおかげです!」
ヒロインたちも、恍惚とした表情で俺を見つめている。
俺は、優勝の栄誉に輝く壇上で、一人だけ、顔面蒼白になっていた。
どうしてこうなった。
俺はただ、カイルを目立たせたかっただけなのに。
俺の胃は、勝利のファンファーレと、民衆の歓声と、仲間からの絶対的な信頼をBGMに、壮絶な断末魔の叫びを上げていた。
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