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第80話:最後の儀式
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第二階層の重苦しい扉を開けると、そこには異様な光景が広がっていた。
天井も壁も床も全てが生きた肉のように脈動し、紫色の血管のようなものが不気味な光を放ちながら張り巡らされている。空気は淀み、魂が腐るような濃密な邪気が満ちていた。
魔神ザルガードの復活が間近に迫っている。その影響で遺跡の最深部が異界そのものに変貌し始めているのだ。
そして、その空間の中央。
巨大な肉塊の中心に埋め込まれるようにして、一つの祭壇があった。
その祭壇の上で一人の老人が天へと両手を掲げ、狂ったように何かを詠唱し続けていた。
その身に纏うのは他の教団員とは比較にならないほど豪奢な、教皇だけが許される法衣。その顔には深い皺が刻まれているが、その瞳は狂信の炎で爛々と輝いている。
闇の教団の頂点に立つ教皇。
彼こそが、この全ての元凶だった。
祭壇の周囲には五つの台座があった。
そのうちの二つには闇の教団が手に入れたアーティファクト、『炎帝の心臓』と『月光の聖杯』が置かれ、禍々しい光を放っている。
教皇は残る三つのアーティファクトを、俺たちが持ってくることを確信していたのだ。
そしてその確信通り、祭壇へと続く道の途中で俺を待ち構えるようにカイルたちが立っていた。
「アレン様!」
俺の姿を認め、カイルが叫んだ。
彼らは第一階層の魔獣の群れを突破し、ここまでたどり着いたのだ。その体は傷つき疲弊しているが、その瞳の光は少しも衰えていなかった。
「……来たか、愚かなる者どもよ」
教皇が詠唱を止め、ゆっくりとこちらを振り返った。
「ご苦労だったな。最後のアーティファクトを、わざわざここまで運んできてくれるとは」
その声には絶対的な勝利を確信した、傲慢な響きがあった。
「させるか!」
カイルが勇者の力を解放し、金色のオーラを纏って教皇へと斬りかかろうとする。
だが、その動きを教皇の前に立ち塞がった巨大な壁が阻んだ。
それは脈打つ肉塊から生み出された、異形のガーディアンたちだった。
「無駄だ。この神聖なる儀式を、貴様らごときに邪魔はさせん」
教皇はせせら笑い、再び詠唱を再開した。
祭壇の魔法陣の輝きがさらにその勢いを増していく。
空間の歪みが臨界点に近づいていた。もはや一刻の猶予もない。
「――カイル!セレスティーナ!」
俺は叫んだ。
「お前たちはガーディアンを食い止めろ!教皇には俺が行く!」
「しかし、アレン様一人では!」
「いいから行け!」
俺の有無を言わせぬ命令。
二人は一瞬躊躇したが、すぐに頷いた。
「……御意!」
「死ぬんじゃないわよ、アレン!」
二人はそれぞれの武器を構え、肉のガーディアンたちの群れへと突っ込んでいった。
ルナが後方から援護魔法を放ち、リリアーナが二人に守りの聖光をかける。
Sクラスの最後の共同戦線。
彼らが命を懸けて、俺のための道を切り開いてくれていた。
俺はその横を一陣の風のように駆け抜けた。
目標はただ一つ、祭壇の上の教皇。
「小僧……!」
教皇が俺の接近に気づき、忌々しげに顔を歪めた。
彼は詠唱の片手間に、俺に向かって強力な闇の呪詛を放ってきた。
だが、俺はその全てを魔剣の一振りで切り裂き、霧散させる。
もはやこの程度の魔術では、俺の足止めにすらならない。
俺は祭壇の階段を駆け上がり、ついに教皇の目の前までたどり着いた。
「終わりだ、教皇」
俺は魔剣の切っ先を、彼の喉元に突きつけた。
だが、教皇は少しも怯んでいなかった。
その顔にはむしろ歓喜の笑みが浮かんでいた。
「……終わり?何を言うか小僧。むしろ、ここからが始まりなのだ」
その言葉と同時に、祭壇の魔法陣がひときわ強い光を放った。
ゴゴゴゴゴ……!
空間が悲鳴を上げた。
俺たちの足元が崩れ落ちていく。
祭壇が巨大な肉塊と共に、さらに地下深くへと落下し始めたのだ。
「アレン様!」
カイルたちの悲痛な叫び声が遠のいていく。
俺は教皇と共に、奈落の底へと引きずり込まれていった。
落下はすぐに止まった。
俺たちが落ちた先は、この地下遺跡の本当の最深部。
そこは巨大な空洞になっており、その中央にはおぞましいとしか言いようのない巨大な『心臓』が、ゆっくりと、しかし力強く脈打っていた。
魔神ザルガードの肉体の核。
そして教皇の詠唱は、その心臓を完全に目覚めさせるための最後のトリガーだった。
「ククク……。もう誰も邪魔はできん」
教皇は狂ったように笑った。
「見よ、小僧!神が目覚められるぞ!」
彼の最後の詠唱が響き渡る。
巨大な心臓の鼓動が早鐘のように激しくなっていく。
この空間全体が、一つの巨大な生命体として産声を上げようとしていた。
絶望的な光景。
儀式はもう止められない。
俺は静かに魔剣を構え直した。
そして教皇ではなく、その背後にある脈打つ魔法陣を睨みつけた。
儀式そのものを力で破壊することはもはや不可能だ。
だが、別の方法ならある。
俺はこの五年間、生き延びるためにあらゆる知識をその頭脳に叩き込んできた。
古代魔法、現代魔法、そして前世の科学技術。
その全ての知識を、今この瞬間に集約させる。
(――間に合え……!)
俺は目を閉じた。
そして自らの意識を魔力へと変換し、目の前の巨大な儀式の術式へと侵入させていった。
それはあまりにも無謀な試み。
神の領域に、人間の精神がハッキングを仕掛けるようなもの。
俺の最後の、そして最大の賭けが今、始まろうとしていた。
天井も壁も床も全てが生きた肉のように脈動し、紫色の血管のようなものが不気味な光を放ちながら張り巡らされている。空気は淀み、魂が腐るような濃密な邪気が満ちていた。
魔神ザルガードの復活が間近に迫っている。その影響で遺跡の最深部が異界そのものに変貌し始めているのだ。
そして、その空間の中央。
巨大な肉塊の中心に埋め込まれるようにして、一つの祭壇があった。
その祭壇の上で一人の老人が天へと両手を掲げ、狂ったように何かを詠唱し続けていた。
その身に纏うのは他の教団員とは比較にならないほど豪奢な、教皇だけが許される法衣。その顔には深い皺が刻まれているが、その瞳は狂信の炎で爛々と輝いている。
闇の教団の頂点に立つ教皇。
彼こそが、この全ての元凶だった。
祭壇の周囲には五つの台座があった。
そのうちの二つには闇の教団が手に入れたアーティファクト、『炎帝の心臓』と『月光の聖杯』が置かれ、禍々しい光を放っている。
教皇は残る三つのアーティファクトを、俺たちが持ってくることを確信していたのだ。
そしてその確信通り、祭壇へと続く道の途中で俺を待ち構えるようにカイルたちが立っていた。
「アレン様!」
俺の姿を認め、カイルが叫んだ。
彼らは第一階層の魔獣の群れを突破し、ここまでたどり着いたのだ。その体は傷つき疲弊しているが、その瞳の光は少しも衰えていなかった。
「……来たか、愚かなる者どもよ」
教皇が詠唱を止め、ゆっくりとこちらを振り返った。
「ご苦労だったな。最後のアーティファクトを、わざわざここまで運んできてくれるとは」
その声には絶対的な勝利を確信した、傲慢な響きがあった。
「させるか!」
カイルが勇者の力を解放し、金色のオーラを纏って教皇へと斬りかかろうとする。
だが、その動きを教皇の前に立ち塞がった巨大な壁が阻んだ。
それは脈打つ肉塊から生み出された、異形のガーディアンたちだった。
「無駄だ。この神聖なる儀式を、貴様らごときに邪魔はさせん」
教皇はせせら笑い、再び詠唱を再開した。
祭壇の魔法陣の輝きがさらにその勢いを増していく。
空間の歪みが臨界点に近づいていた。もはや一刻の猶予もない。
「――カイル!セレスティーナ!」
俺は叫んだ。
「お前たちはガーディアンを食い止めろ!教皇には俺が行く!」
「しかし、アレン様一人では!」
「いいから行け!」
俺の有無を言わせぬ命令。
二人は一瞬躊躇したが、すぐに頷いた。
「……御意!」
「死ぬんじゃないわよ、アレン!」
二人はそれぞれの武器を構え、肉のガーディアンたちの群れへと突っ込んでいった。
ルナが後方から援護魔法を放ち、リリアーナが二人に守りの聖光をかける。
Sクラスの最後の共同戦線。
彼らが命を懸けて、俺のための道を切り開いてくれていた。
俺はその横を一陣の風のように駆け抜けた。
目標はただ一つ、祭壇の上の教皇。
「小僧……!」
教皇が俺の接近に気づき、忌々しげに顔を歪めた。
彼は詠唱の片手間に、俺に向かって強力な闇の呪詛を放ってきた。
だが、俺はその全てを魔剣の一振りで切り裂き、霧散させる。
もはやこの程度の魔術では、俺の足止めにすらならない。
俺は祭壇の階段を駆け上がり、ついに教皇の目の前までたどり着いた。
「終わりだ、教皇」
俺は魔剣の切っ先を、彼の喉元に突きつけた。
だが、教皇は少しも怯んでいなかった。
その顔にはむしろ歓喜の笑みが浮かんでいた。
「……終わり?何を言うか小僧。むしろ、ここからが始まりなのだ」
その言葉と同時に、祭壇の魔法陣がひときわ強い光を放った。
ゴゴゴゴゴ……!
空間が悲鳴を上げた。
俺たちの足元が崩れ落ちていく。
祭壇が巨大な肉塊と共に、さらに地下深くへと落下し始めたのだ。
「アレン様!」
カイルたちの悲痛な叫び声が遠のいていく。
俺は教皇と共に、奈落の底へと引きずり込まれていった。
落下はすぐに止まった。
俺たちが落ちた先は、この地下遺跡の本当の最深部。
そこは巨大な空洞になっており、その中央にはおぞましいとしか言いようのない巨大な『心臓』が、ゆっくりと、しかし力強く脈打っていた。
魔神ザルガードの肉体の核。
そして教皇の詠唱は、その心臓を完全に目覚めさせるための最後のトリガーだった。
「ククク……。もう誰も邪魔はできん」
教皇は狂ったように笑った。
「見よ、小僧!神が目覚められるぞ!」
彼の最後の詠唱が響き渡る。
巨大な心臓の鼓動が早鐘のように激しくなっていく。
この空間全体が、一つの巨大な生命体として産声を上げようとしていた。
絶望的な光景。
儀式はもう止められない。
俺は静かに魔剣を構え直した。
そして教皇ではなく、その背後にある脈打つ魔法陣を睨みつけた。
儀式そのものを力で破壊することはもはや不可能だ。
だが、別の方法ならある。
俺はこの五年間、生き延びるためにあらゆる知識をその頭脳に叩き込んできた。
古代魔法、現代魔法、そして前世の科学技術。
その全ての知識を、今この瞬間に集約させる。
(――間に合え……!)
俺は目を閉じた。
そして自らの意識を魔力へと変換し、目の前の巨大な儀式の術式へと侵入させていった。
それはあまりにも無謀な試み。
神の領域に、人間の精神がハッキングを仕掛けるようなもの。
俺の最後の、そして最大の賭けが今、始まろうとしていた。
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