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第82話:不完全な神
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『……グ……オオオ……』
不完全な魔神が産声を上げた。
それは言葉ではなかった。ただ、世界そのものを否定するかのようなおぞましい音の塊だった。
その巨体からは俺が施した術式ハッキングの影響で、絶えず紫色の魔力が蒸気のように漏れ出している。だが、それでもなおその存在が放つ威圧感は、俺がこれまで対峙してきた、いかなる脅威とも比較にならなかった。
それはまさしく『神』の領域に立つ者だけが持つ、絶対的なプレッシャーだった。
「ああ……。ああ……!我が神、ザルガード様……!」
教皇はその歪な姿を前にして、狂喜の涙を流していた。
たとえ不完全であろうと、彼にとっては待ち望んだ神の降臨に違いなかった。
「ご覧ください!不敬なる者どもが、貴方様の降誕を阻もうとしております!どうかその神の力で、彼奴らに鉄槌を!」
教皇の言葉に、魔神がゆっくりとその顔を上げた。
その顔には目も鼻も口もない。ただ、無数の紫色の結晶体が不気味に蠢いているだけだった。
だが、その視線が確かに俺を捉えたのが分かった。
そして、その瞳(と呼ぶべき何か)に、純粋な、そして絶対的な『敵意』が宿った。
『……キ……サ……マ……』
魔神が初めて意味のある言葉を発した。
それは地殻が擦れ合うような、おぞましい音だった。
『ワガ……タマシイ……ニ……ゴミを……マゼタ……ノは……キサマか……!』
その言葉と共に魔神の巨大な腕が、俺めがけて振り下ろされた。
それはもはや物理的な攻撃ではなかった。
空間そのものを捻じ曲げ、圧殺しようとする純粋な魔力の奔流。
俺は咄嗟に魔剣を構え、自らの魔力を最大まで解放した。
「――『無』の領域(ヴォイド・フィールド)!」
俺の周囲の空間が黒く歪む。
魔神の一撃は俺の作り出した虚無の空間に吸い込まれ、霧散した。
だが、その衝撃は完全に相殺できたわけではない。
「ぐっ……!」
俺の体は吹き飛ばされ、遺跡の壁に強く叩きつけられた。
「アレン様!」
頭上からカイルの悲痛な叫び声が聞こえる。
彼らは俺が落下した穴の縁から、この絶望的な光景をただ見下ろすことしかできずにいた。
「来るな!お前たちが降りてきても、足手まといになるだけだ!」
俺は瓦礫の中から身を起こしながら叫んだ。
その通りだった。覚醒した彼らですら、この不完全な神の前では赤子同然だった。
「ハハハハハ!そうだ、そうだ!もっとやれ、我が神よ!」
教皇が狂ったように高笑いを上げる。
「その小生意気な小僧を、塵も残さず消し去ってしまえ!」
魔神は再び俺に向き直った。
その歪な体からさらに多くの腕が、触手のように生えてくる。
その一つ一つが異なる属性の、超高密度の魔力球を練り上げ始めた。
炎、氷、雷、風、土、そして闇。
六つの属性が同時に俺へと放たれる。
それはもはや回避不能の、全方位からの飽和攻撃だった。
俺は奥歯を強く噛み締めた。
(……ここまでか)
ルナが作ってくれた防御の腕輪は、すでに最初の衝撃で砕け散っている。
俺の『無』の力も、これだけの規模の攻撃を全て無効化することはできない。
直撃すれば即死。
俺の二度目の人生もここで終わりを迎えるのか。
平穏な老後。
そのささやかな夢は、やはり俺には許されないものだったらしい。
俺の脳裏に仲間たちの顔が走馬灯のように駆け巡った。
カイルの太陽のような笑顔。
セレスティーナの気高く美しい横顔。
ルナの感情の読めない、しかしどこか優しい瞳。
リリアーナの慈愛に満ちた温かい微笑み。
(……すまない、皆)
俺は心の中で謝った。
そして迫り来る六つの死の光を、静かに見据えた。
だが、その時だった。
俺の頭上に、俺の仲間たちがいた穴の縁から、四つの眩い光が同時に降り注いできたのだ。
金色の太陽の光。
真紅の炎の光。
瑠璃色の星の光。
そして、純白の聖なる光。
金色の光は雷の魔力球を打ち砕いた。
真紅の光は氷の魔力球を蒸発させた。
瑠璃色の光は風と土の魔力球の軌道を捻じ曲げた。
そして純白の光は、炎と闇の魔力球を優しく包み込み、浄化し霧散させた。
四人の渾身の一撃。
それは俺を襲うはずだった六つの死の光を、完璧に相殺していた。
「……お前たち……!」
俺は信じられないといった顔で頭上を見上げた。
そこにはボロボロになりながらも、決して諦めてはいない仲間たちの姿があった。
「アレン様を一人にはさせません!」
「当たり前でしょ!私の婚約者を、みすみす死なせるわけないじゃない!」
「……非合理的です。最高の研究対象を、ここで失うわけにはいきませんから」
「アレン様は……!私たちが必ずお守りします!」
彼らの声が俺の心に届く。
俺は一人ではなかった。
俺の背後には常に彼らがいてくれたのだ。
俺は立ち上がった。
瓦礫の中から傷ついた体を引きずりながら、再び魔神の前に立った。
「……そうか」
俺の口元に笑みが浮かんだ。
それは絶望の笑みではなかった。
それは最強の仲間たちを得た、王者の不敵な笑みだった。
「まだだ。まだ終わっていない」
俺は不完全な神を真っ直ぐに睨みつけた。
「お前を倒す策は、ある」
その言葉はハッタリではなかった。
俺の脳裏に、最後の、そして唯一の逆転のシナリオが閃光のように煌めいていた。
それは俺一人では決して成し得ない。
だが、この最高の仲間たちとなら必ず成し遂げられる。
俺は静かに魔剣を構え直した。
本当の最終決戦の幕が、今上がろうとしていた。
不完全な魔神が産声を上げた。
それは言葉ではなかった。ただ、世界そのものを否定するかのようなおぞましい音の塊だった。
その巨体からは俺が施した術式ハッキングの影響で、絶えず紫色の魔力が蒸気のように漏れ出している。だが、それでもなおその存在が放つ威圧感は、俺がこれまで対峙してきた、いかなる脅威とも比較にならなかった。
それはまさしく『神』の領域に立つ者だけが持つ、絶対的なプレッシャーだった。
「ああ……。ああ……!我が神、ザルガード様……!」
教皇はその歪な姿を前にして、狂喜の涙を流していた。
たとえ不完全であろうと、彼にとっては待ち望んだ神の降臨に違いなかった。
「ご覧ください!不敬なる者どもが、貴方様の降誕を阻もうとしております!どうかその神の力で、彼奴らに鉄槌を!」
教皇の言葉に、魔神がゆっくりとその顔を上げた。
その顔には目も鼻も口もない。ただ、無数の紫色の結晶体が不気味に蠢いているだけだった。
だが、その視線が確かに俺を捉えたのが分かった。
そして、その瞳(と呼ぶべき何か)に、純粋な、そして絶対的な『敵意』が宿った。
『……キ……サ……マ……』
魔神が初めて意味のある言葉を発した。
それは地殻が擦れ合うような、おぞましい音だった。
『ワガ……タマシイ……ニ……ゴミを……マゼタ……ノは……キサマか……!』
その言葉と共に魔神の巨大な腕が、俺めがけて振り下ろされた。
それはもはや物理的な攻撃ではなかった。
空間そのものを捻じ曲げ、圧殺しようとする純粋な魔力の奔流。
俺は咄嗟に魔剣を構え、自らの魔力を最大まで解放した。
「――『無』の領域(ヴォイド・フィールド)!」
俺の周囲の空間が黒く歪む。
魔神の一撃は俺の作り出した虚無の空間に吸い込まれ、霧散した。
だが、その衝撃は完全に相殺できたわけではない。
「ぐっ……!」
俺の体は吹き飛ばされ、遺跡の壁に強く叩きつけられた。
「アレン様!」
頭上からカイルの悲痛な叫び声が聞こえる。
彼らは俺が落下した穴の縁から、この絶望的な光景をただ見下ろすことしかできずにいた。
「来るな!お前たちが降りてきても、足手まといになるだけだ!」
俺は瓦礫の中から身を起こしながら叫んだ。
その通りだった。覚醒した彼らですら、この不完全な神の前では赤子同然だった。
「ハハハハハ!そうだ、そうだ!もっとやれ、我が神よ!」
教皇が狂ったように高笑いを上げる。
「その小生意気な小僧を、塵も残さず消し去ってしまえ!」
魔神は再び俺に向き直った。
その歪な体からさらに多くの腕が、触手のように生えてくる。
その一つ一つが異なる属性の、超高密度の魔力球を練り上げ始めた。
炎、氷、雷、風、土、そして闇。
六つの属性が同時に俺へと放たれる。
それはもはや回避不能の、全方位からの飽和攻撃だった。
俺は奥歯を強く噛み締めた。
(……ここまでか)
ルナが作ってくれた防御の腕輪は、すでに最初の衝撃で砕け散っている。
俺の『無』の力も、これだけの規模の攻撃を全て無効化することはできない。
直撃すれば即死。
俺の二度目の人生もここで終わりを迎えるのか。
平穏な老後。
そのささやかな夢は、やはり俺には許されないものだったらしい。
俺の脳裏に仲間たちの顔が走馬灯のように駆け巡った。
カイルの太陽のような笑顔。
セレスティーナの気高く美しい横顔。
ルナの感情の読めない、しかしどこか優しい瞳。
リリアーナの慈愛に満ちた温かい微笑み。
(……すまない、皆)
俺は心の中で謝った。
そして迫り来る六つの死の光を、静かに見据えた。
だが、その時だった。
俺の頭上に、俺の仲間たちがいた穴の縁から、四つの眩い光が同時に降り注いできたのだ。
金色の太陽の光。
真紅の炎の光。
瑠璃色の星の光。
そして、純白の聖なる光。
金色の光は雷の魔力球を打ち砕いた。
真紅の光は氷の魔力球を蒸発させた。
瑠璃色の光は風と土の魔力球の軌道を捻じ曲げた。
そして純白の光は、炎と闇の魔力球を優しく包み込み、浄化し霧散させた。
四人の渾身の一撃。
それは俺を襲うはずだった六つの死の光を、完璧に相殺していた。
「……お前たち……!」
俺は信じられないといった顔で頭上を見上げた。
そこにはボロボロになりながらも、決して諦めてはいない仲間たちの姿があった。
「アレン様を一人にはさせません!」
「当たり前でしょ!私の婚約者を、みすみす死なせるわけないじゃない!」
「……非合理的です。最高の研究対象を、ここで失うわけにはいきませんから」
「アレン様は……!私たちが必ずお守りします!」
彼らの声が俺の心に届く。
俺は一人ではなかった。
俺の背後には常に彼らがいてくれたのだ。
俺は立ち上がった。
瓦礫の中から傷ついた体を引きずりながら、再び魔神の前に立った。
「……そうか」
俺の口元に笑みが浮かんだ。
それは絶望の笑みではなかった。
それは最強の仲間たちを得た、王者の不敵な笑みだった。
「まだだ。まだ終わっていない」
俺は不完全な神を真っ直ぐに睨みつけた。
「お前を倒す策は、ある」
その言葉はハッタリではなかった。
俺の脳裏に、最後の、そして唯一の逆転のシナリオが閃光のように煌めいていた。
それは俺一人では決して成し得ない。
だが、この最高の仲間たちとなら必ず成し遂げられる。
俺は静かに魔剣を構え直した。
本当の最終決戦の幕が、今上がろうとしていた。
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