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第97話:壇上のプロポーズ
しおりを挟む運命の日が来た。
王城の大広間は王国の全ての有力者が集い、目も眩むほどの熱気と栄光に包まれていた。シャンデリアの光がきらきらと輝き、楽団が高らかな勝利のファンファーレを奏でている。
その最も華やかな場所の中心に、俺はいた。
戦勝の最大の功労者として。
『救国の聖人』として。
俺は壇上に立ち、国王アルベルトの隣で居並ぶ貴族たちの賞賛と祝福の視線を一身に浴びていた。
処刑台ではなく、栄誉の壇上に。
罵声ではなく、歓声の中に。
俺の立ち位置は原作とは百八十度違っていた。
(……やったんだ。俺は本当に運命を変えたんだ)
俺の胸に静かな、しかし深い感動が込み上げてきた。長かった戦いがようやく本当に終わったのだと。
国王が高らかに俺の功績を読み上げる。
「――よって、改めてここに宣言する!アレン・フォン・クラインフェルト大公こそ、我がエルドラド王国千年の歴史における、最高最大の英雄である!」
国王の宣言に、会場は割れんばかりの拍手と地鳴りのような歓声に包まれた。俺はその光景を夢見心地で眺めていた。これで終わる。俺の物語は最高のハッピーエンドで幕を下ろすのだ。
俺がそんな甘い期待を胸に抱いた、その時だった。
「――お待ちください、陛下!」
凛とした、しかしどこか切羽詰まった声が会場に響き渡った。
全ての視線が声の主へと集中する。
そこに立っていたのは息を呑むほど美しい真紅のドレスを纏ったセレスティーナだった。彼女は真っ直ぐに壇上の俺だけを見つめると、驚くべき行動に出た。
ゆっくりと俺の前に進み出て、その場で片膝をついたのだ。
まるで騎士が王に忠誠を誓うかのように。
そして彼女は震える声で、しかし会場の全ての者に聞こえるようにはっきりと叫んだ。
「アレン・フォン・クラインフェルト様!どうか、この私と結婚してください!」
そのあまりにも衝撃的な壇上での公開プロポーズ。
会場は水を打ったように静まり返った。
国王は口をあんぐりと開けて固まっている。
俺もまた何が起こったのか理解できずに、ただ目の前の元王女を見つめるだけだった。
だが、地獄はまだ序章に過ぎなかった。
「――抜け駆けは許しませんわ、セレスティー-naさん!」
「――その提案、非合理的です!」
静寂を破り、二つの声が同時に響き渡った。
セレスティーナの背後から純白のドレスを纏ったリリアーナと、黒のドレスを纏ったルナが姿を現したのだ。
そして彼女たちもまたセレスティーナに倣い、俺の前に進み出ると同時に片膝をついた。
「アレン様!私こそが貴方様の生涯の伴侶にふさわしいはずです!」
「アレン。私と結婚するというのが、貴方にとっての最も幸福な選択です。データがそう示しています」
三者三様の愛の告白。
そして三方向からの同時プロポーズ。
運命の日。
俺は断罪されるはずだったその日に。
処刑台ではなく栄誉の壇上で。
俺を断罪するはずだった三人のヒロインたちから。
同時に求婚されるという、前代未聞の究極のエンディングを迎えていた。
俺の脳は完全にフリーズした。
だが、その混沌をさらにかき混ぜる人物がいた。国王アルベルトだ。
ひとしきり大爆笑し終えた彼は、悪戯っぽく笑うと高らかに宣言した。
「良い機会だ!ここに、新たな王家の法を制定する!我が国に多大なる貢献を果たした英雄は、その功績に鑑み複数の伴侶を持つことを、特別に許可する!」
そのあまりにもトンデモない宣言に、会場は今日一番の衝撃とどよめきに包まれた。
跪いていた三人のヒロインたちは一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐにその言葉の意味を理解し、互いの顔を見合わせ、そしてバチバチと新たな火花を散らし始めた。
選ばれない、という選択肢が消えた。
ならば次は、誰が正妻の座に就くのか。
彼女たちの戦いは、新たな、そしてより熾烈なステージへと移行したのだ。
俺は、その光景をただ呆然と見つめるだけだった。
俺の意思は完全に無視されていた。俺の人生はもはや俺のものではなかった。
俺は壇上の上で、栄光の頂点で、完璧な、しかし魂の抜けた笑顔を浮かべていた。
そして心の底から思った。
(……誰か、俺を、断罪してくれ……)
俺の物語はハッピーエンドではなかった。
それは新たな、そしておそらくは永遠に続くであろう地獄の始まりを告げるファンファーレだったのだ。
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