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第二十九話 箱舟の前に立つ過去
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勇者パーティが街に到着したという知らせは、まるで嵐の前の静けさのように、【ノアの箱舟】に重たい沈黙をもたらした。
「ノア様、大丈夫ですか……?」
クロエが、心配そうにノアの顔を覗き込む。彼の顔は蒼白で、指先が微かに震えていた。追放された時の屈辱と絶望が、鮮明な悪夢のように蘇ってくる。
「……大丈夫だ」
ノアはかろうじて声を絞り出した。だが、その声は自分自身に言い聞かせているかのようだった。
「来るなら来ればいい。今のノアは、もう昔のノアじゃない」
エリオが、静かだが力強い口調で言った。彼の言葉に、クロエもアンナも力強く頷く。
「そうです! 今のノア様には、私たちがついています!」
「どんな人たちかは存じませんが、ノア様を傷つけるようなら、私が許しません」
仲間たちの温かい言葉が、ノアの凍りついた心を少しずつ溶かしていく。そうだ。自分はもう、一人じゃない。
「皆……ありがとう」
ノアがそう言った時、店の扉が乱暴に開かれた。
そこに立っていたのは、紛れもなく勇者アレスだった。その後ろには、気まずそうな顔をしたライオネルとアイザック、そして悲痛な表情を浮かべたオリヴィアが控えている。
アレスは、店の中を見渡し、その豪華な内装に一瞬目を見開いたが、すぐに嘲るような笑みを浮かべた。
「ほう。ずいぶんと立派な店を構えたじゃないか、ノア。追放された支援術師が、どうやってこんな大金を?」
その声は、昔と変わらない。傲慢で、他人を見下す響きを持っていた。
「……アレス」
ノアは、かつてのリーダーの名を静かに呼んだ。
アレスはノアの前にずかずかと歩み寄ると、陳列された商品を一瞥し、鼻で笑った。
「呪いの道具屋、ねえ。相変わらず、不吉で気味の悪いことばかりやっているんだな。だが、お前のそのくだらない力が、少しは役に立つという噂を耳にした」
彼は、まるで施しを与えるかのような口調で言った。
「ノア。俺たちと一緒に来い。お前のその道具で、俺たちの戦いを支援しろ。そうすれば、お前の過去の罪を許し、再び勇者パーティに加えてやらんでもない」
罪。その言葉に、ノアの中で何かがぷつりと切れた。自分は、一体どんな罪を犯したというのか。パーティのために、必死に貢献しようとしたことが、罪だというのか。
ノアが何かを言う前に、彼の前に一人の少女が立ちはだかった。
「お断りします」
凛とした声で言い放ったのは、ルナだった。
「ここは【ノアの箱舟】。我々の店です。そしてノアは、この店の主。誰かの下につくことなど、ありえません」
「なんだ、お前は」
アレスは、初めてルナの存在に気づいたかのように、不愉快そうに眉をひそめた。
「この店の経営者、ルナ・アステリオと申します。勇者様、あなた方がお求めなのは、こちらの『商品』でしょうか? でしたら、他のお客様と同じように、対価をお支払いいただきます」
ルナは、アレスの傲慢な態度に一歩も引かなかった。その毅然とした態度に、アレスは苛立ちを募らせる。
「黙れ! 俺は勇者だぞ! 人類のために戦っている俺が、なぜこんなガラクタに金を払わねばならんのだ!」
「ガラクタ、ですって……?」
その言葉に、今まで黙っていたクロエの纏う空気が変わった。彼女の瞳に、冷たい怒りの炎が宿る。
「ノア様の作る道具を、ガラクタですって……? 取り消しなさい。今すぐ、その言葉を」
クロエが一歩前に出ると、その体から放たれる圧倒的な剣気が、店内の空気を圧迫した。ライオネルとアイザックは、その凄まじいプレッシャーに息を呑む。目の前の赤髪の少女が、あの「赤髪の剣姫」だと、彼らはまだ気づいていない。
「なんだ、この女……」
アレスも、クロエのただならぬ気配に一瞬たじろいだが、すぐにプライドがそれを許さなかった。
「やかましい! ノア、お前が決めるんだ! こいつらを黙らせて、俺と来い!」
アレスは、全てが自分の思い通りになると思っていた。ノアは気弱で、逆らうことなどできないと。
しかし、今のノアは違った。
彼は、自分を守るように立つ仲間たちの背中を見つめ、そして、アレスに向き直った。その瞳には、かつての卑屈な色はもうない。静かで、しかし揺るぎない決意の光が宿っていた。
「断るよ、アレス」
ノアは、はっきりと言った。
「俺の居場所は、ここだ。君たちと行く気は、もうない」
その言葉は、アレスにとって予想外の答えだった。追放したお荷物が、自分に逆らう。その事実が、彼のプライドを激しく揺さぶった。
「……なんだと?」
アレスの顔から笑みが消え、怒りがその表情を支配した。彼の右手は、ゆっくりと腰の聖剣へと伸びていく。過去との決別は、避けられない衝突へと発展しようとしていた。
「ノア様、大丈夫ですか……?」
クロエが、心配そうにノアの顔を覗き込む。彼の顔は蒼白で、指先が微かに震えていた。追放された時の屈辱と絶望が、鮮明な悪夢のように蘇ってくる。
「……大丈夫だ」
ノアはかろうじて声を絞り出した。だが、その声は自分自身に言い聞かせているかのようだった。
「来るなら来ればいい。今のノアは、もう昔のノアじゃない」
エリオが、静かだが力強い口調で言った。彼の言葉に、クロエもアンナも力強く頷く。
「そうです! 今のノア様には、私たちがついています!」
「どんな人たちかは存じませんが、ノア様を傷つけるようなら、私が許しません」
仲間たちの温かい言葉が、ノアの凍りついた心を少しずつ溶かしていく。そうだ。自分はもう、一人じゃない。
「皆……ありがとう」
ノアがそう言った時、店の扉が乱暴に開かれた。
そこに立っていたのは、紛れもなく勇者アレスだった。その後ろには、気まずそうな顔をしたライオネルとアイザック、そして悲痛な表情を浮かべたオリヴィアが控えている。
アレスは、店の中を見渡し、その豪華な内装に一瞬目を見開いたが、すぐに嘲るような笑みを浮かべた。
「ほう。ずいぶんと立派な店を構えたじゃないか、ノア。追放された支援術師が、どうやってこんな大金を?」
その声は、昔と変わらない。傲慢で、他人を見下す響きを持っていた。
「……アレス」
ノアは、かつてのリーダーの名を静かに呼んだ。
アレスはノアの前にずかずかと歩み寄ると、陳列された商品を一瞥し、鼻で笑った。
「呪いの道具屋、ねえ。相変わらず、不吉で気味の悪いことばかりやっているんだな。だが、お前のそのくだらない力が、少しは役に立つという噂を耳にした」
彼は、まるで施しを与えるかのような口調で言った。
「ノア。俺たちと一緒に来い。お前のその道具で、俺たちの戦いを支援しろ。そうすれば、お前の過去の罪を許し、再び勇者パーティに加えてやらんでもない」
罪。その言葉に、ノアの中で何かがぷつりと切れた。自分は、一体どんな罪を犯したというのか。パーティのために、必死に貢献しようとしたことが、罪だというのか。
ノアが何かを言う前に、彼の前に一人の少女が立ちはだかった。
「お断りします」
凛とした声で言い放ったのは、ルナだった。
「ここは【ノアの箱舟】。我々の店です。そしてノアは、この店の主。誰かの下につくことなど、ありえません」
「なんだ、お前は」
アレスは、初めてルナの存在に気づいたかのように、不愉快そうに眉をひそめた。
「この店の経営者、ルナ・アステリオと申します。勇者様、あなた方がお求めなのは、こちらの『商品』でしょうか? でしたら、他のお客様と同じように、対価をお支払いいただきます」
ルナは、アレスの傲慢な態度に一歩も引かなかった。その毅然とした態度に、アレスは苛立ちを募らせる。
「黙れ! 俺は勇者だぞ! 人類のために戦っている俺が、なぜこんなガラクタに金を払わねばならんのだ!」
「ガラクタ、ですって……?」
その言葉に、今まで黙っていたクロエの纏う空気が変わった。彼女の瞳に、冷たい怒りの炎が宿る。
「ノア様の作る道具を、ガラクタですって……? 取り消しなさい。今すぐ、その言葉を」
クロエが一歩前に出ると、その体から放たれる圧倒的な剣気が、店内の空気を圧迫した。ライオネルとアイザックは、その凄まじいプレッシャーに息を呑む。目の前の赤髪の少女が、あの「赤髪の剣姫」だと、彼らはまだ気づいていない。
「なんだ、この女……」
アレスも、クロエのただならぬ気配に一瞬たじろいだが、すぐにプライドがそれを許さなかった。
「やかましい! ノア、お前が決めるんだ! こいつらを黙らせて、俺と来い!」
アレスは、全てが自分の思い通りになると思っていた。ノアは気弱で、逆らうことなどできないと。
しかし、今のノアは違った。
彼は、自分を守るように立つ仲間たちの背中を見つめ、そして、アレスに向き直った。その瞳には、かつての卑屈な色はもうない。静かで、しかし揺るぎない決意の光が宿っていた。
「断るよ、アレス」
ノアは、はっきりと言った。
「俺の居場所は、ここだ。君たちと行く気は、もうない」
その言葉は、アレスにとって予想外の答えだった。追放したお荷物が、自分に逆らう。その事実が、彼のプライドを激しく揺さぶった。
「……なんだと?」
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