デバフ専門の支援術師は勇者パーティを追放されたので、呪いのアイテム専門店を開きます

夏見ナイ

文字の大きさ
31 / 89

第三十話 決別、そして未来へ

しおりを挟む
「俺の居場所は、ここだ」

ノアの静かな、しかしきっぱりとした拒絶の言葉が、店内に響き渡る。その瞬間、アレスの表情から全ての余裕が消え去り、屈辱と怒りに染まった。

「貴様……。俺に逆らうというのか。誰のおかげで、今まで生きてこられたと思っているんだ!」
「もう、昔の俺じゃないんだ。アレス」

ノアの瞳は、真っ直ぐにアレスを見据えている。その視線に、アレスは自分が完全に見下されているかのような錯覚を覚え、怒りで我を忘れた。

「いいだろう。ならば力づくで分からせてやる! 役立たずは、黙って勇者の言うことを聞いていればいいんだ!」

アレスは聖剣を引き抜き、その切っ先をノアへと向けた。聖剣がまばゆい光を放ち、店内の空気が緊張で張り詰める。

「ノア様!」

オリヴィアの悲痛な声が響く。だが、その声は誰にも届かない。

アレスが踏み込もうとした、その瞬間。彼の目の前に、赤い残像が閃いた。

キィン!

甲高い金属音と共に、アレスの聖剣は、クロエが抜き放った黒い大剣によって寸前で受け止められていた。

「なっ……!?」

アレスは、自分の渾身の一撃が、いともたやすく止められたことに驚愕する。それだけではない。剣を合わせた腕に、凄まじい圧力がかかり、ミシミシと音を立てていた。

「ノア様に剣を向けるなど、万死に値する」

クロエの声は、氷のように冷たい。その瞳には、絶対的な殺意が宿っている。彼女の体から放たれる剣気は、アレスたち勇者パーティが今まで対峙してきたどんな魔物よりも、濃密で、そして恐ろしかった。

「この女……強い……!」

盾役のライオネルが、冷や汗を流しながら呟く。彼には分かった。目の前の少女の実力は、自分たちとは次元が違う。

「邪魔をするな!」

アレスはプライドをかけて聖剣にさらに力を込める。だが、クロエはびくともしない。彼女はむしろ、つまらなそうに眉をひそめた。

「その程度か、勇者。ノア様から聞いていた通りの、見掛け倒しだな」

その言葉が、アレスの最後の理性を吹き飛ばした。

「うおおおお!」

アレスは雄叫びを上げ、聖剣の光を最大限に高める。だが、クロエはそれを鼻で笑うと、大剣をわずかに捻った。それだけで、アレスの体勢は大きく崩れる。がら空きになった胴体に、クロエの蹴りがめり込んだ。

「ぐはっ……!」

アレスは短い悲鳴を上げ、店の壁まで吹き飛ばされた。聖剣が手から離れ、カランと虚しい音を立てて床に転がる。

静寂。

誰もが、目の前の光景を信じられないといった顔で見つめていた。人類の希望である勇者が、たった一人の少女に、一撃で沈められたのだ。

「……アレス様!?」

アイザックとライオネルが、慌ててアレスに駆け寄る。オリヴィアは、ただ立ち尽くすことしかできなかった。

クロエは冷然とした目で倒れたアレスを見下ろすと、大剣を振り上げ、とどめを刺そうとする。

「待って、クロエ」

その手を、ノアが静かに止めた。

「もう、十分だ」

ノアはクロエを下がらせると、倒れたアレスの前に立った。

「アレス。俺は君を恨んではいない。むしろ、感謝している。君に追放されたおかげで、俺は自分の本当の居場所と、大切な仲間を見つけることができたんだから」

その言葉は、アレスにとって何よりの屈辱だった。

「だから、もう俺たちに関わらないでくれ。これが、最後のお願いだ」

ノアはそう言うと、彼らに背を向けた。それは、過去との完全な決別を意味していた。

アレスは、仲間に肩を貸されながら、屈辱に震える声で吐き捨てた。

「……覚えていろ、ノア。俺は、必ずお前を……」

だが、その言葉は最後まで続かなかった。ルナが、冷たく言い放ったからだ。

「負け犬の遠吠えは、聞き苦しいですよ、勇者様。さっさとお帰りください。あなた方がいると、店の空気が澱みますので」

ぐうの音も出ないとは、このことだった。

勇者パーティは、身も心もずたずたに引き裂かれ、逃げるように店を後にした。オリヴィアだけが、最後に一度だけ振り返り、ノアに申し訳なさそうな、そしてどこか羨むような視線を向けた。

嵐は、去った。

店には、いつもの穏やかな空気が戻ってくる。

「……ありがとう、みんな」

ノアが仲間たちに向かって言うと、皆、それぞれのやり方で応えた。クロエは誇らしげに胸を張り、ルナは「当然だ」と鼻を鳴らす。エリオとアンナは、優しく微笑んだ。

【ノアの箱舟】の船出は、決して平穏なだけではなかった。だが、どんな嵐が来ようとも、この船に乗る仲間たちがいれば、乗り越えていける。ノアは、そう確信していた。

彼の物語は、まだ始まったばかり。辺境の小さな店から始まった奇跡は、やがてこの世界の運命そのものを大きく揺り動かしていくことになる。

その輝かしい未来に向かって、箱舟は今、新たな航海へと乗り出したのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

外れスキル【アイテム錬成】でSランクパーティを追放された俺、実は神の素材で最強装備を創り放題だったので、辺境で気ままな工房を開きます

夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティで「外れスキル」と蔑まれ、雑用係としてこき使われていた錬金術師のアルト。ある日、リーダーの身勝手な失敗の責任を全て押し付けられ、無一文でパーティから追放されてしまう。 絶望の中、流れ着いた辺境の町で、彼は偶然にも伝説の素材【神の涙】を発見。これまで役立たずと言われたスキル【アイテム錬成】が、実は神の素材を扱える唯一無二のチート能力だと知る。 辺境で小さな工房を開いたアルトの元には、彼の作る規格外のアイテムを求めて、なぜか聖女や竜王(美少女の姿)まで訪れるようになり、賑やかで幸せな日々が始まる。 一方、アルトを失った元パーティは没落の一途を辿り、今更になって彼に復帰を懇願してくるが――。「もう、遅いんです」 これは、不遇だった青年が本当の居場所を見つける、ほのぼの工房ライフ&ときどき追放ざまぁファンタジー!

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~

みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった! 無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。 追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

《レベル∞》の万物創造スキルで追放された俺、辺境を開拓してたら気づけば神々の箱庭になっていた

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティーの雑用係だったカイは、魔王討伐後「無能」の烙印を押され追放される。全てを失い、死を覚悟して流れ着いた「忘れられた辺境」。そこで彼のハズレスキルは真の姿《万物創造》へと覚醒した。 無から有を生み、世界の理すら書き換える神の如き力。カイはまず、生きるために快適な家を、豊かな畑を、そして清らかな川を創造する。荒れ果てた土地は、みるみるうちに楽園へと姿を変えていった。 やがて、彼の元には行き場を失った獣人の少女やエルフの賢者、ドワーフの鍛冶師など、心優しき仲間たちが集い始める。これは、追放された一人の青年が、大切な仲間たちと共に理想郷を築き、やがてその地が「神々の箱庭」と呼ばれるまでの物語。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

処理中です...