外れスキル【アイテム錬成】でSランクパーティを追放された俺、実は神の素材で最強装備を創り放題だったので、辺境で気ままな工房を開きます

夏見ナイ

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第10話 神話級のナイフ

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涙が乾いた頃、俺はゆっくりと立ち上がった。
まだ心臓が早鐘を打っている。右手の甲に宿った新しいスキルの紋様が、確かな熱を持って存在を主張していた。

【アイテム錬成・神級】

これが、今の俺の力。
しかし、まだ実感がない。手の中にある【神の涙】が、粘土のように柔らかくなっているのは確かだが、これが本当にどれほどの可能性を秘めているのか、確かめる必要があった。

「何か……何か作ってみよう」

一番単純で、結果が分かりやすいものがいい。
俺は【神の涙】から、米粒ほどの本当に小さな欠片を指でちぎり取った。あれだけ硬かった鉱石が、何の抵抗もなく分離する。その光景だけでも、常軌を逸していた。
そして、荷物の底から、ガイアスに装備を剥ぎ取られた後、道端で拾っておいた錆びた鉄クズを取り出す。今は、これが俺の唯一の素材だ。

俺は鉄クズの上に【神の涙】の欠片を乗せ、両手で包み込むようにして、再びスキルを発動した。
「【アイテム錬成・神級】」

その瞬間、これまでの錬成とは全く異なる感覚が俺を襲った。
今までは、硬い鉄に無理やり魔力を注ぎ込み、力ずくで形を変えていくような感覚だった。だが、今は違う。
鉄と【神の涙】が、まるで水と油ではなく、水と水のように自然に溶け合い、混ざり合っていく。俺の意思のままに、まるで自分の手足を動かすかのように、素材が形を変えていくのだ。

俺は、護身用の小さなナイフをイメージした。
すると、手の中の素材は滑らかに変形し、あっという間に一本のナイフの形を成した。
光が収まり、そっと手を開く。

そこには、一振りのナイフが静かに横たわっていた。
全長は手のひらほど。柄も刀身も、元が鉄クズだったとは思えないほど滑らかに磨き上げられている。ただ、刀身に走る刃文だけが、月光をそのまま溶かし込んだかのように、淡い青白い光を帯びていた。
見た目は質素だが、手に取っただけでわかる。これは、ただのナイフではない。尋常ではない力が、この小さな刀身に凝縮されていた。

切れ味を試してみたい。
俺は部屋を見渡し、先ほど【神の涙】を叩いて刃こぼれした、あの錬成用の槌を手に取った。俺のなけなしの道具であり、同時に、この世界の常識的な硬さの象徴だ。

ナイフを構え、槌の金属部分にそっと刃を当てる。
力を込めるまでもない。ただ、ナイフの自重だけで、刃が槌に吸い込まれていく。
音も、抵抗も、手応えすらもない。
まるで熱したナイフでバターを切るように、するり、と鉄の槌が真っ二つに分かれ、カラン、と乾いた音を立てて床に落ちた。

「…………」

言葉が出なかった。
切断面は、鏡のように滑らかだった。
これが、俺のスキルが生み出したもの。
これが、【神の涙】の力。

今まで、俺がどれだけ時間をかけても作れたのは、少し硬いだけの矢尻だった。少し効能の高いポーションだった。ガイアスに「鉄クズ」と罵られ、指で捻じ曲げられた、あの程度の物しか作れなかった。

だが、今は違う。
俺の手には、どんな名工が一生をかけても到達できないであろう、神話級の業物がある。

その事実が、ようやく俺の心に染み渡っていく。
追放された夜の雨の冷たさ。路地裏での孤独。ガイアスの蔑みの目。それら全てが、このナイフの輝きの前では、遠い過去の出来事のように色褪せていく。

「これがあれば……」

俺は、もう誰かに媚びへつらう必要はない。
自分の力で、自分の足で、生きていくことができる。

再び、熱いものが目頭に込み上げてきた。
だが、それはもう絶望の涙ではなかった。
床に落ちた槌の残骸と、手の中にある小さな希望の輝きを、俺はただじっと見つめていた。
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