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第11話 小さな工房の始まり
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翌朝、俺は鳥のさえずりで目を覚ました。
差し込む朝日が、昨夜の出来事が夢ではなかったと告げている。枕元に置いた神話級のナイフが、その証拠に静かな輝きを放っていた。
俺はそれをそっと手に取り、指先で刀身をなぞる。ひんやりとした感触。これが、俺の力。俺の未来。
もう、誰かのために無理をしてポーションを量産する必要はない。
誰かに蔑まれながら、矢尻を打ち続ける必要もない。
俺は、俺が作りたいものを作る。俺の力を必要としてくれる人のために、この腕を振るう。
「職人になろう」
決意は、固まった。
俺は宿を引き払い、なけなしの銅貨を懐に、改めてエルフリーデンの町を歩き始めた。目的は一つ。自分の工房を開くための場所を探すことだ。
町の中心部は、商店や食堂が並び、それなりに人通りがある。だが、家賃も高そうだし、何より鍛冶仕事をするには少し騒がしすぎる。俺は静かで、集中できる場所を探して、中心から少し離れた通りへと足を向けた。
しばらく歩くと、人通りがめっきり少なくなった一角に出た。メインストリートから一本外れた、古いが手入れの行き届いた家が並ぶ静かな場所だ。その通りの突き当りに、ぽつんと一軒、人の住んでいる気配のない小さな空き家があった。
木造二階建て。壁の塗装は剥げ、窓には埃が積もっているが、建物の造り自体はしっかりしているように見える。一階は土間になっていて、作業場にうってつけだ。裏手には小さな井戸もある。まさに理想的な物件だった。
「よし、ここにしよう」
俺は近所の家に声をかけ、この空き家の持ち主を尋ねた。すると、親切な奥さんが「ああ、あそこなら町長さんの持ち物だよ」と教えてくれた。
エルフリーデンの町長は、町の中心にあるこぢんまりとした役場で執務を行っていた。俺は意を決してその扉を叩く。
現れたのは、人の良さそうな髭をたくわえた初老の男性だった。
「君は……見ない顔だね。旅の方かな?」
「はい。アルトと申します。実は、この町で工房を開きたく、町長さんがお持ちだという空き家をお借りできないかと思い、参りました」
俺は単刀直入に用件を伝えた。町長は少し驚いた顔をしたが、すぐに興味深そうな表情になる。
「ほう、工房とな。君は職人なのかね?」
「はい、鍛冶や錬金術を少々。この町に根を下ろし、皆さんの役に立つ物を作っていきたいと思っています」
俺は嘘偽りなく、自分の意志を伝えた。ただし、ガイアスたちに追放されたことや、【神の涙】のことは伏せて。
そして、一番の問題である金銭面についても、正直に打ち明けた。
「大変恐縮なのですが、今はほとんど無一文でして……。ですが、腕には自信があります。必ず、家賃はお支払いしますので、どうか、あの家を貸していただけないでしょうか」
俺は深々と頭を下げた。これで断られたら、もう後はない。
町長はしばらく無言で俺を見ていたが、やがてふっと息を吐き、穏やかな声で言った。
「……君の目は、嘘をついている目ではないようだ。よし、わかった。信じてみよう」
「本当ですか!?」
「うむ。この町も、新しい風を必要としていたところだ。君のような若い職人が来てくれるのは歓迎だよ。家賃は、仕事が軌道に乗ってからで構わん。出世払いというやつだ」
町長はにこやかに笑い、古びた鍵束の中から一本の鍵を取り出して、俺の手に握らせてくれた。
信じられないほどの幸運だった。
俺は何度も頭を下げ、役場を後にした。手の中にある鍵の、ずしりとした重みが嬉しかった。
空き家の前に戻り、鍵穴に鍵を差し込む。
ぎ、と錆びた音を立てて、扉が開いた。
中は長年使われていなかったせいで埃っぽいが、日の光が差し込み、不思議と暗い印象はない。ここが、俺の城だ。俺の工房だ。
誰にも邪魔されず、自分の全てを物作りに注ぎ込める場所。
俺は工房の中心に立ち、大きく息を吸い込んだ。
埃と、古い木材の匂い。そして、微かな未来の匂いがした。
差し込む朝日が、昨夜の出来事が夢ではなかったと告げている。枕元に置いた神話級のナイフが、その証拠に静かな輝きを放っていた。
俺はそれをそっと手に取り、指先で刀身をなぞる。ひんやりとした感触。これが、俺の力。俺の未来。
もう、誰かのために無理をしてポーションを量産する必要はない。
誰かに蔑まれながら、矢尻を打ち続ける必要もない。
俺は、俺が作りたいものを作る。俺の力を必要としてくれる人のために、この腕を振るう。
「職人になろう」
決意は、固まった。
俺は宿を引き払い、なけなしの銅貨を懐に、改めてエルフリーデンの町を歩き始めた。目的は一つ。自分の工房を開くための場所を探すことだ。
町の中心部は、商店や食堂が並び、それなりに人通りがある。だが、家賃も高そうだし、何より鍛冶仕事をするには少し騒がしすぎる。俺は静かで、集中できる場所を探して、中心から少し離れた通りへと足を向けた。
しばらく歩くと、人通りがめっきり少なくなった一角に出た。メインストリートから一本外れた、古いが手入れの行き届いた家が並ぶ静かな場所だ。その通りの突き当りに、ぽつんと一軒、人の住んでいる気配のない小さな空き家があった。
木造二階建て。壁の塗装は剥げ、窓には埃が積もっているが、建物の造り自体はしっかりしているように見える。一階は土間になっていて、作業場にうってつけだ。裏手には小さな井戸もある。まさに理想的な物件だった。
「よし、ここにしよう」
俺は近所の家に声をかけ、この空き家の持ち主を尋ねた。すると、親切な奥さんが「ああ、あそこなら町長さんの持ち物だよ」と教えてくれた。
エルフリーデンの町長は、町の中心にあるこぢんまりとした役場で執務を行っていた。俺は意を決してその扉を叩く。
現れたのは、人の良さそうな髭をたくわえた初老の男性だった。
「君は……見ない顔だね。旅の方かな?」
「はい。アルトと申します。実は、この町で工房を開きたく、町長さんがお持ちだという空き家をお借りできないかと思い、参りました」
俺は単刀直入に用件を伝えた。町長は少し驚いた顔をしたが、すぐに興味深そうな表情になる。
「ほう、工房とな。君は職人なのかね?」
「はい、鍛冶や錬金術を少々。この町に根を下ろし、皆さんの役に立つ物を作っていきたいと思っています」
俺は嘘偽りなく、自分の意志を伝えた。ただし、ガイアスたちに追放されたことや、【神の涙】のことは伏せて。
そして、一番の問題である金銭面についても、正直に打ち明けた。
「大変恐縮なのですが、今はほとんど無一文でして……。ですが、腕には自信があります。必ず、家賃はお支払いしますので、どうか、あの家を貸していただけないでしょうか」
俺は深々と頭を下げた。これで断られたら、もう後はない。
町長はしばらく無言で俺を見ていたが、やがてふっと息を吐き、穏やかな声で言った。
「……君の目は、嘘をついている目ではないようだ。よし、わかった。信じてみよう」
「本当ですか!?」
「うむ。この町も、新しい風を必要としていたところだ。君のような若い職人が来てくれるのは歓迎だよ。家賃は、仕事が軌道に乗ってからで構わん。出世払いというやつだ」
町長はにこやかに笑い、古びた鍵束の中から一本の鍵を取り出して、俺の手に握らせてくれた。
信じられないほどの幸運だった。
俺は何度も頭を下げ、役場を後にした。手の中にある鍵の、ずしりとした重みが嬉しかった。
空き家の前に戻り、鍵穴に鍵を差し込む。
ぎ、と錆びた音を立てて、扉が開いた。
中は長年使われていなかったせいで埃っぽいが、日の光が差し込み、不思議と暗い印象はない。ここが、俺の城だ。俺の工房だ。
誰にも邪魔されず、自分の全てを物作りに注ぎ込める場所。
俺は工房の中心に立ち、大きく息を吸い込んだ。
埃と、古い木材の匂い。そして、微かな未来の匂いがした。
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