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第12話 最初の依頼は「クワの修理」
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工房を手に入れたものの、すぐに仕事が始められるわけではなかった。
中は何年も放置されていたせいで埃だらけ。まずは大掃除からだ。俺は井戸で水を汲み、雑巾を絞って、床や壁をひたすら磨いた。陽の光が差し込むようになると、古びた建物も少しずつ活気を取り戻していくように見えた。
だが、掃除を終えて、がらんとした土間を見渡し、俺は根本的な問題に直面した。
「……道具が、何もない」
鍛冶仕事に不可欠な金床も、炉も、ふいごも、まともな槌すらない。以前使っていた道具は、全てガイアスに奪われたままだ。これでは仕事のしようがなかった。
「ないなら、作るしかないか」
幸い、俺には【アイテム錬-成・神級】がある。
俺は懐から【神の涙】を取り出した。まずは、作業の土台となる金床だ。
地面に転がっていた手頃な大きさの岩を土台にし、その上にありったけの鉄クズを乗せる。そして、【神の涙】から砂粒ほどの微粉末を削り取り、鉄クズに振りかけた。
「【アイテム錬成・神級】!」
スキルを発動すると、鉄クズがまばゆい光の中で溶け合い、みるみるうちに重厚な黒鉄の金床へと姿を変えていく。完成した金床は、表面が鏡のように滑らかで、指で弾くとキィンと澄んだ金属音を響かせた。神の素材を混ぜ込んだおかげで、どんな衝撃にもびくともしないだろう。
勢いに乗った俺は、同じ要領で火床を作り、燃料となる木炭を効率よく燃焼させるための簡易なふいごも錬成した。
最後に、大小さまざまな形の槌やペンチといった細かな道具一式を揃える。全ての道具に【神の涙】の粉末をほんの少しずつ混ぜ込んである。俺だけの、神聖な力と耐久性を秘めた、最高の仕事道具たちだ。
半日もすると、がらんとしていた工房は、立派な鍛冶場へと様変わりしていた。
「よし、これで準備は万端だ」
俺は工房の入り口に、ありあわせの木材で作った質素な看板を掲げた。
『アルトの工房 ―武具・農具の修理、作成承ります―』
これで、いつ客が来てもいい。
だが、現実はそう甘くはなかった。
町の中心から外れたこの場所に、わざわざ足を運ぶ者はいない。看板を掲げてから三日間、工房の前を通り過ぎる人影はまばらで、依頼どころか、中を覗き込む者すらいなかった。
さすがに少し焦りを感じ始めた、四日目の昼過ぎのことだった。
工房の入り口に、一つの人影が立った。
恐る恐る中を覗き込んでいるのは、腰の曲がった、人の良さそうな農夫のお爺さんだった。
「あ、あの……ここでは、修理を頼めるのかね?」
「はい! もちろんです!」
初めての客に、俺は思わず大きな声で返事をしてしまった。
お爺さんは少し驚いたようだったが、にこりと笑って工房に入ってきた。
「よかった。実は、こいつを見てほしくてな」
そう言って、彼が俺の前に差し出したのは、一本の使い古されたクワだった。
刃はあちこちが欠け、錆が浮いている。柄は長年の手垢で黒光りしているが、ひび割れて今にも折れそうだ。
お爺さんは、そのクワを愛おしそうに撫でながら、寂しげに言った。
「わしの親父の代から使ってきたもんでな。もう寿命かもしれんが、どうにも捨てる気になれんくて。……どうにかならんかのう」
その言葉と、クワに刻まれた無数の傷跡から、この農具がどれだけ大切にされてきたかが伝わってくる。
俺は、お爺さんの手からクワを丁重に受け取った。
ずしりと重い。それは金属の重さだけではなく、このクワに込められた時間の重みだった。
「任せてください」
俺はお爺さんの目をまっすぐに見て、力強く言った。
「新品同様に、いえ、それ以上にしてみせますよ」
中は何年も放置されていたせいで埃だらけ。まずは大掃除からだ。俺は井戸で水を汲み、雑巾を絞って、床や壁をひたすら磨いた。陽の光が差し込むようになると、古びた建物も少しずつ活気を取り戻していくように見えた。
だが、掃除を終えて、がらんとした土間を見渡し、俺は根本的な問題に直面した。
「……道具が、何もない」
鍛冶仕事に不可欠な金床も、炉も、ふいごも、まともな槌すらない。以前使っていた道具は、全てガイアスに奪われたままだ。これでは仕事のしようがなかった。
「ないなら、作るしかないか」
幸い、俺には【アイテム錬-成・神級】がある。
俺は懐から【神の涙】を取り出した。まずは、作業の土台となる金床だ。
地面に転がっていた手頃な大きさの岩を土台にし、その上にありったけの鉄クズを乗せる。そして、【神の涙】から砂粒ほどの微粉末を削り取り、鉄クズに振りかけた。
「【アイテム錬成・神級】!」
スキルを発動すると、鉄クズがまばゆい光の中で溶け合い、みるみるうちに重厚な黒鉄の金床へと姿を変えていく。完成した金床は、表面が鏡のように滑らかで、指で弾くとキィンと澄んだ金属音を響かせた。神の素材を混ぜ込んだおかげで、どんな衝撃にもびくともしないだろう。
勢いに乗った俺は、同じ要領で火床を作り、燃料となる木炭を効率よく燃焼させるための簡易なふいごも錬成した。
最後に、大小さまざまな形の槌やペンチといった細かな道具一式を揃える。全ての道具に【神の涙】の粉末をほんの少しずつ混ぜ込んである。俺だけの、神聖な力と耐久性を秘めた、最高の仕事道具たちだ。
半日もすると、がらんとしていた工房は、立派な鍛冶場へと様変わりしていた。
「よし、これで準備は万端だ」
俺は工房の入り口に、ありあわせの木材で作った質素な看板を掲げた。
『アルトの工房 ―武具・農具の修理、作成承ります―』
これで、いつ客が来てもいい。
だが、現実はそう甘くはなかった。
町の中心から外れたこの場所に、わざわざ足を運ぶ者はいない。看板を掲げてから三日間、工房の前を通り過ぎる人影はまばらで、依頼どころか、中を覗き込む者すらいなかった。
さすがに少し焦りを感じ始めた、四日目の昼過ぎのことだった。
工房の入り口に、一つの人影が立った。
恐る恐る中を覗き込んでいるのは、腰の曲がった、人の良さそうな農夫のお爺さんだった。
「あ、あの……ここでは、修理を頼めるのかね?」
「はい! もちろんです!」
初めての客に、俺は思わず大きな声で返事をしてしまった。
お爺さんは少し驚いたようだったが、にこりと笑って工房に入ってきた。
「よかった。実は、こいつを見てほしくてな」
そう言って、彼が俺の前に差し出したのは、一本の使い古されたクワだった。
刃はあちこちが欠け、錆が浮いている。柄は長年の手垢で黒光りしているが、ひび割れて今にも折れそうだ。
お爺さんは、そのクワを愛おしそうに撫でながら、寂しげに言った。
「わしの親父の代から使ってきたもんでな。もう寿命かもしれんが、どうにも捨てる気になれんくて。……どうにかならんかのう」
その言葉と、クワに刻まれた無数の傷跡から、この農具がどれだけ大切にされてきたかが伝わってくる。
俺は、お爺さんの手からクワを丁重に受け取った。
ずしりと重い。それは金属の重さだけではなく、このクワに込められた時間の重みだった。
「任せてください」
俺はお爺さんの目をまっすぐに見て、力強く言った。
「新品同様に、いえ、それ以上にしてみせますよ」
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