外れスキル【アイテム錬成】でSランクパーティを追放された俺、実は神の素材で最強装備を創り放題だったので、辺境で気ままな工房を開きます

夏見ナイ

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第13話 決して壊れないクワ

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「それじゃあ、一日お預かりしますね」
俺の言葉に、お爺さんは何度も頭を下げて帰っていった。
一人になった工房で、俺は改めてクワを観察する。長年の使用で歪み、無数の傷が刻まれた刃。ひび割れ、ささくれた木の柄。だが、これらは欠点ではなく、この道具が重ねてきた歴史そのものだ。

「よし、やるか」

まずは刃を柄から丁寧に取り外す。次に、自作の炉に火を入れ、刃が赤く染まるまで熱した。
カン、カン、と真新しい金床にリズミカルな槌音が響く。歪みを直し、形を整えていく。ただの鉄を打つ作業だが、俺の心は不思議と満たされていた。誰かに強制されるのではなく、自分の意志で、誰かのために槌を振るう。その行為が、ひどく尊いものに感じられた。

形を整えた刃に、いよいよ仕上げを施す。
俺は懐から【神の涙】を取り出し、その表面をヤスリでごくわずかに削った。キラキラと輝く、まるでダイヤモンドダストのような粉末が手のひらに溜まる。
その粉末を、真っ赤に焼けた刃の上に振りかけた。

「【アイテム錬成・神級】」

スキルを発動すると、神の粉末が刃にすっと溶け込み、一体化していく。刃こぼれしていた箇所は完全に修復され、表面を覆っていた錆は跡形もなく消え去った。
だが、俺が目指したのはただの修復ではない。
刃の強度、耐久性、そして土を掘り返す際の抵抗を極限まで減らすための構造。それら全てをイメージし、魔力を注ぎ込む。
光が収まった時、そこにあったのは黒光りする、凄まじい切れ味を秘めた刃だった。

次は柄だ。ひび割れを特殊な樹脂で埋め、表面を滑らかに磨き上げる。仕上げに、【神の涙】を溶かした油を薄く塗り込んだ。これにより、木の繊維そのものが強化され、もう二度と折れたりささくれたりすることはないだろう。
最後に、生まれ変わった刃と柄をしっかりと組み合わせる。

完成したクワは、一見すると古びた農具のままだった。俺は、お爺さんが愛したであろう、その歴史の風合いを消したくなかったのだ。
しかし、手に取ればわかる。驚くほど軽く、重心のバランスも完璧だ。そして何より、その刃は尋常ではないオーラを放っていた。

翌日、お爺さんが約束の時間にやってきた。
「おお……どうじゃな?」
「はい。こちらです」
俺が差し出したクワを見て、お爺さんは目を丸くした。
「こ、これは……わしのクワか? 刃が、新品みたいになっとる……!」
「ええ。でも、長年使われた風合いは残しておきました」
「ありがとう、ありがとう……!」

お爺さんは何度も礼を言い、震える手でクワを受け取った。そして、その軽さに再び驚きの声を上げる。
「せっかくだから、切れ味を試してみませんか?」
俺は工房の裏庭へお爺さんを案内した。そこには、俺が金床の土台にしようとしてやめた、手頃な大きさの岩が転がっている。

「まさか、これで……?」
「ええ、どうぞ」
お爺さんは半信半疑といった様子でクワを振りかぶった。そして、えい、と気合を入れて岩に叩きつける。
次の瞬間、信じられないことが起こった。

パリンッ!
クワが岩に当たったかと思うと、甲高い音を立てて岩のほうが真っ二つに砕け散ったのだ。
お爺さんは呆然と、手の中のクワと、砕けた岩を交互に見ている。
クワの刃には、傷一つ、刃こぼれ一つついていなかった。

「な……なんじゃこりゃあ!?」
「これなら、どんなに硬い地面でも楽に耕せると思いますよ」
俺がにこやかに言うと、お爺さんは我に返り、わなわなと震えながら俺の手を握った。
「兄ちゃん……あんた、神様か!?」
「いえいえ、ただの職人です」

お爺さんは修理代だと言って、相場よりずっと多い銅貨を俺の手に握らせると、生まれ変わった相棒を大事そうに抱え、スキップでもしそうな足取りで帰っていった。

初めて自分の力で稼いだ銅貨。
それは、かつてガイアスから屑のように投げ与えられた金貨よりも、ずっと温かく、重く感じられた。
俺は工房の入り口に立ち、夕日に染まる町を眺める。
ここからだ。俺の本当の人生が、今、ここから始まる。
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