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第14話 口コミと評判
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腰の曲がった農夫、名をゴードンという。
彼はその日、生まれ変わった愛用のクワを手に、自分の畑で一人、笑いが止まらなかった。
長年、開墾を諦めていた硬い岩盤混じりの土地。そこにクワを振り下ろすと、まるで柔らかな腐葉土でも耕しているかのように、ザクザクと刃が入っていくのだ。時折、刃先に当たる硬い石も、小気味よい音を立てて砕け散る。
「はっはっは! こりゃあ、たまげたわい!」
いつもなら一日がかりの作業が、わずか半日で終わってしまった。汗一つかいていない。信じられないほどの効率に、ゴードンはアルトという青年の顔を思い浮かべ、何度も手を合わせた。
その日の夕暮れ。
町の唯一の酒場は、一日の仕事を終えた男たちで賑わっていた。ゴードンもその一人だ。エールを片手に、彼は早速、捕まえた友人たちに自慢話を始めた。
「聞いたか、お前たち! 町の外れに、神の手を持つ職人が現れたんじゃ!」
「なんだいゴードン爺さん、また酔っ払ってホラ話か?」
馴染みの農夫仲間が、からかうように笑う。
「ホラじゃないわい! わしのあのボロボロのクワがどうなったと思う? 岩なんぞ、まるで豆腐を切るようにスッパリじゃ!」
ゴードンの大げさな身振りを交えた話に、酒場は笑いに包まれた。誰もが、彼のいつもの与太話だと思っている。
業を煮やしたゴードンは、酒場の隅に立てかけておいた自慢のクワを、ドン!とテーブルの上に置いた。
「これを見ても、まだホラだと言えるか!」
黒光りする刃に、酒場のランプの光が反射して、怪しい輝きを放つ。そのただならぬ雰囲気に、一番近くに座っていた男がおそるおそる手を伸ばし、刃に触れようとした。
「馬鹿、やめろ! 指が落ちるぞ!」
ゴードンの真剣な声に、男は慌てて手を引っ込める。
興味を惹かれた酒場の主人が、店の裏から拾ってきた硬い薪を一本持ってきた。
「なら爺さん、これで試させてくれや」
「よかろう!」
ゴードンはクワを構え、薪に軽く振り下ろす。
スパァン!
乾いた音と共に、硬い樫の木の薪が、まるで紙束のように綺麗に両断された。切断面は、ヤスリをかけたかのように滑らかだ。
酒場から、どよめきが起こった。
「う、嘘だろ……」
「あの爺さんのクワが……?」
噂は、火がついたように一気に町中を駆け巡った。
『ゴードン爺さんのクワが、岩をも砕く伝説の農具になったらしい』
『町の外れに来た若い職人は、魔法使いなんじゃないか』
『いや、ドワーフの神様の化身だという話だ』
尾ひれがつき、話はどんどん大きくなっていく。
翌日から、アルトの工房の前を、遠巻きに眺めたり、こそこそと通り過ぎたりする町の人々の姿が増えた。誰もが興味津々だが、あまりに突飛な噂のせいで、逆に依頼に訪れる勇気を持てずにいるようだった。
一方、その渦中にいるアルト本人は、そんな町の変化に全く気づいていなかった。
彼は一人、静かな工房の中で、自作の道具の手入れをしながら、満ち足りた時間を過ごしていた。
新しい依頼はまだ来ない。だが、焦りはなかった。
自分の手で最高の道具を生み出し、それが誰かの役に立つ。その喜びを知ってしまった今、彼はただ、次の依頼を心待ちにしながら、黙々と金床に向かう準備を整えていた。
町の小さなざわめきが、やがて大きなうねりとなって彼の工房に押し寄せることを、アルトはまだ知らない。
彼はその日、生まれ変わった愛用のクワを手に、自分の畑で一人、笑いが止まらなかった。
長年、開墾を諦めていた硬い岩盤混じりの土地。そこにクワを振り下ろすと、まるで柔らかな腐葉土でも耕しているかのように、ザクザクと刃が入っていくのだ。時折、刃先に当たる硬い石も、小気味よい音を立てて砕け散る。
「はっはっは! こりゃあ、たまげたわい!」
いつもなら一日がかりの作業が、わずか半日で終わってしまった。汗一つかいていない。信じられないほどの効率に、ゴードンはアルトという青年の顔を思い浮かべ、何度も手を合わせた。
その日の夕暮れ。
町の唯一の酒場は、一日の仕事を終えた男たちで賑わっていた。ゴードンもその一人だ。エールを片手に、彼は早速、捕まえた友人たちに自慢話を始めた。
「聞いたか、お前たち! 町の外れに、神の手を持つ職人が現れたんじゃ!」
「なんだいゴードン爺さん、また酔っ払ってホラ話か?」
馴染みの農夫仲間が、からかうように笑う。
「ホラじゃないわい! わしのあのボロボロのクワがどうなったと思う? 岩なんぞ、まるで豆腐を切るようにスッパリじゃ!」
ゴードンの大げさな身振りを交えた話に、酒場は笑いに包まれた。誰もが、彼のいつもの与太話だと思っている。
業を煮やしたゴードンは、酒場の隅に立てかけておいた自慢のクワを、ドン!とテーブルの上に置いた。
「これを見ても、まだホラだと言えるか!」
黒光りする刃に、酒場のランプの光が反射して、怪しい輝きを放つ。そのただならぬ雰囲気に、一番近くに座っていた男がおそるおそる手を伸ばし、刃に触れようとした。
「馬鹿、やめろ! 指が落ちるぞ!」
ゴードンの真剣な声に、男は慌てて手を引っ込める。
興味を惹かれた酒場の主人が、店の裏から拾ってきた硬い薪を一本持ってきた。
「なら爺さん、これで試させてくれや」
「よかろう!」
ゴードンはクワを構え、薪に軽く振り下ろす。
スパァン!
乾いた音と共に、硬い樫の木の薪が、まるで紙束のように綺麗に両断された。切断面は、ヤスリをかけたかのように滑らかだ。
酒場から、どよめきが起こった。
「う、嘘だろ……」
「あの爺さんのクワが……?」
噂は、火がついたように一気に町中を駆け巡った。
『ゴードン爺さんのクワが、岩をも砕く伝説の農具になったらしい』
『町の外れに来た若い職人は、魔法使いなんじゃないか』
『いや、ドワーフの神様の化身だという話だ』
尾ひれがつき、話はどんどん大きくなっていく。
翌日から、アルトの工房の前を、遠巻きに眺めたり、こそこそと通り過ぎたりする町の人々の姿が増えた。誰もが興味津々だが、あまりに突飛な噂のせいで、逆に依頼に訪れる勇気を持てずにいるようだった。
一方、その渦中にいるアルト本人は、そんな町の変化に全く気づいていなかった。
彼は一人、静かな工房の中で、自作の道具の手入れをしながら、満ち足りた時間を過ごしていた。
新しい依頼はまだ来ない。だが、焦りはなかった。
自分の手で最高の道具を生み出し、それが誰かの役に立つ。その喜びを知ってしまった今、彼はただ、次の依頼を心待ちにしながら、黙々と金床に向かう準備を整えていた。
町の小さなざわめきが、やがて大きなうねりとなって彼の工房に押し寄せることを、アルトはまだ知らない。
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