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第37話 解呪の首飾り作成・序
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朝日が工房の窓から差し込み、床に散らばった木炭の粉をキラキラと照らしていた。
俺とリリアは、ほとんど一睡もせずに描き上げた設計図を前に、疲労と、それ以上の高揚感に包まれていた。
「……やりましょう、アルトさん」
「ああ。必ず、成功させる」
俺たちが固い決意を交わした、その時だった。
「……随分と、騒がしい朝だな」
寝室から、かすれた声が聞こえた。イグナだ。
彼女はゆっくりと体を起こし、工房にいる俺たちと、テーブルの上の設計図に気づいた。そのルビー色の瞳が、訝しげに細められる。
俺は設計図を手に取り、イグナのベッドのそばまで歩み寄った。
そして、覚悟を決めて、彼女に全てを話した。
夜を徹して、彼女を救うための解呪の首飾りを設計したこと。
そのために、俺の【アイテム錬成】と、【神の涙】の力、そしてリリアの聖なる力が必要なこと。
俺の話を黙って聞いていたイグナは、やがてふん、と鼻を鳴らした。
「……馬鹿げたことを。人間の小僧と小娘が、我にかけられた大呪詛を解こうなどと。百年早いどころの話ではないわ」
その口調はいつも通り尊大だったが、どこか力がなかった。彼女自身、それがほとんど不可能な挑戦であるとわかっているのだ。
すると、俺の隣に立ったリリアが、イグナに向かって深々と頭を下げた。
「お願いします、イグナ様。どうか、わたくしたちにチャンスをください。あなたの苦しみを、このまま見過ごすことはできません。わたくしの全てを懸けて、あなたをお救いします」
聖女が、伝説の竜王に頭を下げている。それは、歴史の教科書のどこにも載っていない、不思議な光景だった。
俺も、イグナの目をまっすぐに見つめて言った。
「俺は、君を助けたい。ただ、それだけだ」
イグナは、俺とリリアの顔を交互に、しばらくの間、無言で見つめていた。
その赤い瞳の中で、竜王としての誇りと、救いを求める一人の少女としての心が、激しく揺れ動いているのがわかった。
やがて、彼女は大きなため息をつくと、ふいと顔をそむけた。
「……好きにせよ」
ぽつりと、そう呟いた。
「どうせ、このままでは我は消えるだけの運命。貴様らの戯れに、一興として付き合ってやるのも悪くはない。……だが、失敗は許さんぞ」
それは、彼女なりの最大限の信頼の言葉だった。
俺とリリアは、顔を見合わせて力強く頷いた。
計画は、いよいよ実行に移される。
「まず、素材だ」
俺は工房のテーブルに戻り、必要なものをリストアップしていく。
「核となる【神の涙】は、俺が出す。鎖に使う最高品質のミスリル銀、それと鎖を繋ぐ留め金に使うオリハルコンの小片は……」
「わたくしにお任せください」
リリアが即座に言った。
「教会のルートを使えば、明日にはこの工房へ届けさせます。王国の宝物庫に眠る、最高の素材を用意しましょう」
さすがは聖女。その調達力は、国家レベルだ。
「そして、イグナ」
俺は彼女に向き直る。
「君の協力も必要だ。この首飾りを君の魂と完全に同調させるために、『竜の血』が数滴だけ欲しい」
その言葉に、イグナの表情がわずかに強張った。
竜の血は、その存在の根源そのもの。それを他者に与えることは、竜にとって最大の禁忌であり、信頼の証でもある。
だが、彼女の迷いは一瞬だった。
「……くれてやる。我が血が必要とあらばな」
【神の涙】を扱う職人。
聖なる力を注ぐ聖女。
そして、魂の血を捧げる竜王。
役者は、揃った。
三つの異なる力が、今、一つの目的のために集結する。
俺は炉に火を入れながら、これから始まる前代未聞の共同作業に、武者震いを禁じ得なかった。
「よし、始めよう。まずは、核となる【神の涙】の加工からだ」
俺の言葉を合図に、奇跡のアイテム作りが、静かに幕を開けた。
俺とリリアは、ほとんど一睡もせずに描き上げた設計図を前に、疲労と、それ以上の高揚感に包まれていた。
「……やりましょう、アルトさん」
「ああ。必ず、成功させる」
俺たちが固い決意を交わした、その時だった。
「……随分と、騒がしい朝だな」
寝室から、かすれた声が聞こえた。イグナだ。
彼女はゆっくりと体を起こし、工房にいる俺たちと、テーブルの上の設計図に気づいた。そのルビー色の瞳が、訝しげに細められる。
俺は設計図を手に取り、イグナのベッドのそばまで歩み寄った。
そして、覚悟を決めて、彼女に全てを話した。
夜を徹して、彼女を救うための解呪の首飾りを設計したこと。
そのために、俺の【アイテム錬成】と、【神の涙】の力、そしてリリアの聖なる力が必要なこと。
俺の話を黙って聞いていたイグナは、やがてふん、と鼻を鳴らした。
「……馬鹿げたことを。人間の小僧と小娘が、我にかけられた大呪詛を解こうなどと。百年早いどころの話ではないわ」
その口調はいつも通り尊大だったが、どこか力がなかった。彼女自身、それがほとんど不可能な挑戦であるとわかっているのだ。
すると、俺の隣に立ったリリアが、イグナに向かって深々と頭を下げた。
「お願いします、イグナ様。どうか、わたくしたちにチャンスをください。あなたの苦しみを、このまま見過ごすことはできません。わたくしの全てを懸けて、あなたをお救いします」
聖女が、伝説の竜王に頭を下げている。それは、歴史の教科書のどこにも載っていない、不思議な光景だった。
俺も、イグナの目をまっすぐに見つめて言った。
「俺は、君を助けたい。ただ、それだけだ」
イグナは、俺とリリアの顔を交互に、しばらくの間、無言で見つめていた。
その赤い瞳の中で、竜王としての誇りと、救いを求める一人の少女としての心が、激しく揺れ動いているのがわかった。
やがて、彼女は大きなため息をつくと、ふいと顔をそむけた。
「……好きにせよ」
ぽつりと、そう呟いた。
「どうせ、このままでは我は消えるだけの運命。貴様らの戯れに、一興として付き合ってやるのも悪くはない。……だが、失敗は許さんぞ」
それは、彼女なりの最大限の信頼の言葉だった。
俺とリリアは、顔を見合わせて力強く頷いた。
計画は、いよいよ実行に移される。
「まず、素材だ」
俺は工房のテーブルに戻り、必要なものをリストアップしていく。
「核となる【神の涙】は、俺が出す。鎖に使う最高品質のミスリル銀、それと鎖を繋ぐ留め金に使うオリハルコンの小片は……」
「わたくしにお任せください」
リリアが即座に言った。
「教会のルートを使えば、明日にはこの工房へ届けさせます。王国の宝物庫に眠る、最高の素材を用意しましょう」
さすがは聖女。その調達力は、国家レベルだ。
「そして、イグナ」
俺は彼女に向き直る。
「君の協力も必要だ。この首飾りを君の魂と完全に同調させるために、『竜の血』が数滴だけ欲しい」
その言葉に、イグナの表情がわずかに強張った。
竜の血は、その存在の根源そのもの。それを他者に与えることは、竜にとって最大の禁忌であり、信頼の証でもある。
だが、彼女の迷いは一瞬だった。
「……くれてやる。我が血が必要とあらばな」
【神の涙】を扱う職人。
聖なる力を注ぐ聖女。
そして、魂の血を捧げる竜王。
役者は、揃った。
三つの異なる力が、今、一つの目的のために集結する。
俺は炉に火を入れながら、これから始まる前代未聞の共同作業に、武者震いを禁じ得なかった。
「よし、始めよう。まずは、核となる【神の涙】の加工からだ」
俺の言葉を合図に、奇跡のアイテム作りが、静かに幕を開けた。
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