外れスキル【アイテム錬成】でSランクパーティを追放された俺、実は神の素材で最強装備を創り放題だったので、辺境で気ままな工房を開きます

夏見ナイ

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第44話 聖女と竜王と、時々俺

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竜王が用心棒を宣言した、嵐のような夜が明けた。
工房に差し込む朝の光は、いつもと何も変わらない。だが、俺を取り巻く環境は、劇的に、そして騒がしく変化していた。

「アルト、腹が減ったぞ。朝餉はまだか」
工房の椅子にふんぞり返り、足をぷらぷらさせながら俺にそう命じるのは、用心棒になったばかりの竜王イグナだ。呪いから解放された彼女は、肌の艶も声の張りも、以前とは比べ物にならないほど良い。機嫌もすこぶる良さそうだった。
「今作ってるところだから、静かに待っててくれ」
「うむ。今日の我が気分は、卵をふわふわにしたものがいい。心得たな?」
「はいはい、特製オムレツですね」

俺が手際よくフライパンを温めていると、工房の扉が軽やかに開いた。
「アルトさん、おはようございます!」
やってきたのは、もちろん聖女リリアだ。昨夜の衝撃的な出来事があったというのに、彼女はもういつもの笑顔を取り戻している。その手には、ベッカーさんの店で買ったばかりであろう、焼きたてのパンが入った籠が提げられていた。

そのリリアの姿を認めた途端、イグナの機嫌が急降下したのがわかった。
「……貴様、また来たのか。懲りぬ小娘だな」
「わたくしは、アルトさんの友人とて、毎日顔を見に来るのは当然ですわ! あなたこそ、用心棒という名のただの居候でしょう!」
リリアも、一歩も引かない。朝の挨拶もそこそこに、二人の間には早くもバチバチと火花が散り始める。

「アルトの世話は、この我がすると決めたのだ。貴様のような手のかかる小娘の出る幕ではない」
「まあ、失礼な! わたくしの方が、アルトさんの栄養バランスを考えて、こうして差し入れを持ってきているのです! あなたはただ、食べて寝ているだけではありませんか!」
「なんだと!?」
「なんですの!?」

俺はフライパンの上で完璧な半熟具合になっていく卵に集中しながら、背後で繰り広げられる口論に大きなため息をついた。これが、これからの日常になるのか。

やがて、香ばしいバターの匂いに誘われて、二人は一旦休戦し、テーブルについた。
俺は、完璧な焼き加減のオムレツを二つ、皿に盛り付ける。ケチャップで何か絵でも描いてやろうかと思ったが、そんなことをすれば新たな火種になりそうなのでやめておいた。

「アルト、我にはこっちの、少し大きい方を寄越せ。用心棒は体力を使うのだ」
「アルトさん、わたくしはこちらの、焼き色が完璧な方をいただきますわ。繊細な聖なる力を使うには、完璧な食事が必要ですもの」
二人が、同時に皿を指さす。
俺は無言で、二つの皿をテーブルの真ん中に置き、二人を交互に見た。
「どっちも、同じ大きさで、同じ焼き加減だ」

俺の言葉に、二人はむすっとした顔をしながらも、しぶしぶ自分の前に皿を引き寄せる。
そして、一口食べた瞬間、二人の表情がぱっと輝いた。
「……うむ。まあ、悪くない腕だ」
「……おいしいです。毎日でも、食べたいくらい」
素直じゃない賛辞と、素直すぎる賛辞。

二人は、美味しいオムレツを頬張りながらも、テーブルの下では互いを牽制するように足を組み替えたり、ナイフとフォークをカチャカチャと鳴らしたりしている。
その光景は、まるで姉妹喧嘩のようで、どこか微笑ましかった。

聖女と、竜王。
普通に生きていれば、決して交わることのなかったであろう二つの存在。その中心に、なぜか俺がいる。
追放された時は、こんな未来が待っているなんて、想像もしていなかった。

「アルト、我はおかわりだ!」
「まあ、卑しい! アルトさん、わたくしも、もう一つだけなら……」
「二人とも、食べ過ぎだ!」

俺は呆れながらも、新しい卵を手に取った。
騒がしくて、手がかかって、どうしようもない。
だけど、この賑やかな食卓を、俺は心の底から、愛おしいと思っていた。
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