【状態異常無効】の俺、呪われた秘境に捨てられたけど、毒沼はただの温泉だし、呪いの果実は極上の美味でした

夏見ナイ

文字の大きさ
43 / 65

第43話 呪いの防衛システムと賢者の悪戯

しおりを挟む
『暁の剣』の不穏な動きを知った、翌日から。
俺たちの『安らぎの庭』では、過去最大規模の、防衛システム構築プロジェクトが、秘密裏に、そして、着々と、進められていた。

「よし、エリナ、そこの『絞殺蔓』、もう少し、右に寄せてくれ。そこが、一番、効果的なキルゾーンになるはずだ」
「かしこまりました、主様。『森の腕(ウッデン・アーム)』!」

エリナが、呪文を唱えると、地面から、木の腕のようなものが、何本も生え、うねうねと動く『絞殺蔓』を、俺が指示した通りの、絶妙な位置へと、固定していく。

俺たちの、防衛計画の、第一段階は、物理的なトラップの設置だ。
拠点へと続く、森の小道。その、全てのルートに、様々な、呪いの罠を、仕掛けていく。

まずは、足元。
地面には、一見すると、ただの美しい花畑にしか見えない、『楽園の花』の地雷原を、広範囲にわたって、作り上げた。不用意に、この花畑に、足を踏み入れた者は、その花粉によって、幸福な幻覚の世界へと、永久に、閉じ込められることになるだろう。

次に、頭上。
木々の枝には、侵入者を感知すると、自動で、獲物を締め上げる、『絞殺蔓』の、ワイヤートラップを、無数に、張り巡らせた。まるで、巨大な、蜘蛛の巣のように。

そして、極めつけは、進路上に、点在させた、小さな沼だ。
この沼の水は、普段は、無色透明。だが、一定以上の、殺意や、敵意を持った生物が、近づくと、化学反応を起こし、瞬時に、超強力な、接着剤へと、変化する、『固着の沼』だ。一度、ハマってしまえば、二度と、抜け出すことはできない。

「ふっふっふ……。どうだ、この、鉄壁の布陣は」
俺は、自らが考案した、三重のトラップ網を、満足げに、眺めた。
これだけで、並の軍隊なら、完全に、無力化できるはずだ。

だが、俺たちの、防衛システムは、これだけでは、終わらない。
第二段階は、魔法的な、迎撃システムだ。

「エリナ。この辺りの、空間全体に、幻惑の魔法を、かけておいてくれ。俺たちの家が、ただの、朽ち果てた廃墟に見えるように」
「お任せください、主様。『偽りのヴェール(フォールス・ヴェール)』!」

エリナが、杖を、一振りすると、壮麗な黒鉄のログハウスが、幻の靄に包まれ、見る影もなく、みすぼらしい、今にも崩れそうな、ボロ屋へと、姿を変えた。
これなら、たとえ、トラップを、かいくぐってきたとしても、ここが、目的地だとは、気づかないだろう。

「さらに、この周囲に、警報結界を、張っておきますわ。許可なく、この領域に、侵入した者がいれば、即座に、私たちの、遠話鏡に、知らせが届くように、しておきましょう」

彼女の、古代魔法は、防衛においても、完璧な、性能を、発揮した。

そして、最後の、第三段階。
それは、俺と、フェンによる、直接的な、迎撃だ。

「フェン、お前の出番は、最後の、最後の、切り札だ」
俺は、すっかり、頼もしくなった、相棒の、大きな頭を、撫でた。
「もし、万が一、全ての罠と、結界を、突破してくるような、馬鹿者がいたら……。その時は、お前の、その牙と爪で、思いっきり、遊んでやれ。ただし、殺すなよ。半殺しで、十分だ」
「ぐるるる……わふん!」

フェンは、任せろ、と言わんばかりに、力強く、そして、嬉しそうに、吠えた。
彼も、自分の、大切な家族と、家を、守るための戦いに、血が騒いでいるのかもしれない。

こうして、数日間をかけて。
俺たちの『安らぎの庭』は、ただの、穏やかな楽園から、侵入者を、絶対に、許さない、鉄壁の要塞へと、生まれ変わった。
呪いの素材と、古代魔法、そして、神獣の力が、融合した、世界で、最も、厄介で、凶悪な、防衛システム。
その名も、『賢者の悪戯(ワイズマン・ジョーク)』。俺が、名付けた。

「これで、準備は、万端だな」
「はい、主様。いつ、いかなる、愚か者が、訪れようとも、万全ですわ」

俺たちは、自分たちの、完璧な仕事ぶりに、満足しきっていた。
もはや、ガイアスたちが、どんな、小細工をしてこようとも、恐れるものは、何もない。
むしろ、彼らが、この、トラップ地獄に、どんな顔で、はまってくれるのか、少しだけ、楽しみですら、あった。

「さて、と。あとは、ゆっくり、待つとしますか」

俺たちは、ログハウスの、暖かいリビングに戻り、いつものように、穏やかな日常へと、帰っていった。
遠話鏡の、警報が、鳴り響く、その時まで。
俺は、新しく手に入れた、錬金術の秘伝書を、読み解きながら、エリナが淹れてくれた、極上のハーブティーを、すする。

外の世界では、愚かな、過去の亡霊たちが、破滅へと向かう、最後の準備を、しているのだろう。
だが、そんなことは、俺たちの知ったことではない。

俺たちの、やるべきことは、ただ一つ。
この、かけがえのない、安らぎの庭を、守り抜くこと。
そして、この、穏やかで、幸せな、毎日を、心ゆくまで、楽しむことだ。

忍び寄る、脅威への、カウンターは、すでに、セットされている。
後は、獲物が、のこのこと、罠にかかるのを、待つだけ。
俺は、これから起こるであろう、滑稽な悲劇を、想像し、思わず、口の端を、歪めた。
悪趣味だと、言われようと、構わない。
やられたら、やり返す。いや、その、百倍にして、返してやる。
それが、俺の、流儀だった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

なんだって? 俺を追放したSS級パーティーが落ちぶれたと思ったら、拾ってくれたパーティーが超有名になったって?

名無し
ファンタジー
「ラウル、追放だ。今すぐ出ていけ!」 「えっ? ちょっと待ってくれ。理由を教えてくれないか?」 「それは貴様が無能だからだ!」 「そ、そんな。俺が無能だなんて。こんなに頑張ってるのに」 「黙れ、とっととここから消えるがいい!」  それは突然の出来事だった。  SSパーティーから総スカンに遭い、追放されてしまった治癒使いのラウル。  そんな彼だったが、とあるパーティーに拾われ、そこで認められることになる。 「治癒魔法でモンスターの群れを殲滅だと!?」 「え、嘘!? こんなものまで回復できるの!?」 「この男を追放したパーティー、いくらなんでも見る目がなさすぎだろう!」  ラウルの神がかった治癒力に驚愕するパーティーの面々。  その凄さに気が付かないのは本人のみなのであった。 「えっ? 俺の治癒魔法が凄いって? おいおい、冗談だろ。こんなの普段から当たり前にやってることなのに……」

才がないと伯爵家を追放された僕は、神様からのお詫びチートで、異世界のんびりスローライフ!!

にのまえ
ファンタジー
剣や魔法に才能がないカストール伯爵家の次男、ノエール・カストールは家族から追放され、辺境の別荘へ送られることになる。しかしノエールは追放を喜ぶ、それは彼に異世界の神様から、お詫びにとして貰ったチートスキルがあるから。 そう、ノエールは転生者だったのだ。 そのスキルを駆使して、彼の異世界のんびりスローライフが始まる。

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

A級パーティーを追放された黒魔導士、拾ってくれた低級パーティーを成功へと導く~この男、魔力は極小だが戦闘勘が異次元の鋭さだった~

名無し
ファンタジー
「モンド、ここから消えろ。てめえはもうパーティーに必要ねえ!」 「……え? ゴート、理由だけでも聴かせてくれ」 「黒魔導士のくせに魔力がゴミクズだからだ!」 「確かに俺の魔力はゴミ同然だが、その分を戦闘勘の鋭さで補ってきたつもりだ。それで何度も助けてやったことを忘れたのか……?」 「うるせえ、とっとと消えろ! あと、お前について悪い噂も流しておいてやったからな。役立たずの寄生虫ってよ!」 「くっ……」  問答無用でA級パーティーを追放されてしまったモンド。  彼は極小の魔力しか持たない黒魔導士だったが、持ち前の戦闘勘によってパーティーを支えてきた。しかし、地味であるがゆえに貢献を認められることは最後までなかった。  さらに悪い噂を流されたことで、冒険者としての道を諦めかけたモンドだったが、悪評高い最下級パーティーに拾われ、彼らを成功に導くことで自分の居場所や高い名声を得るようになっていく。 「魔力は低かったが、あの動きは只者ではなかった! 寄生虫なんて呼ばれてたのが信じられん……」 「地味に見えるけど、やってることはどう考えても尋常じゃなかった。こんな達人を追放するとかありえねえだろ……」 「方向性は意外ですが、これほどまでに優れた黒魔導士がいるとは……」  拾われたパーティーでその高い能力を絶賛されるモンド。  これは、様々な事情を抱える低級パーティーを、最高の戦闘勘を持つモンドが成功に導いていく物語である……。

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

ダンジョンに捨てられた私 奇跡的に不老不死になれたので村を捨てます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はファム 前世は日本人、とても幸せな最期を迎えてこの世界に転生した 記憶を持っていた私はいいように使われて5歳を迎えた 村の代表だった私を拾ったおじさんはダンジョンが枯渇していることに気が付く ダンジョンには栄養、マナが必要。人もそのマナを持っていた そう、おじさんは私を栄養としてダンジョンに捨てた 私は捨てられたので村をすてる

神様、ありがとう! 2度目の人生は破滅経験者として

たぬきち25番
ファンタジー
流されるままに生きたノルン伯爵家の領主レオナルドは貢いだ女性に捨てられ、領政に失敗、全てを失い26年の生涯を自らの手で終えたはずだった。 だが――気が付くと時間が巻き戻っていた。 一度目では騙されて振られた。 さらに自分の力不足で全てを失った。 だが過去を知っている今、もうみじめな思いはしたくない。 ※他サイト様にも公開しております。 ※※皆様、ありがとう! HOTランキング1位に!!読んで下さって本当にありがとうございます!!※※ ※※皆様、ありがとう! 完結ランキング(ファンタジー・SF部門)1位に!!読んで下さって本当にありがとうございます!!※※

ゴミ鑑定だと追放された元研究者、神眼と植物知識で異世界最高の商会を立ち上げます

黒崎隼人
ファンタジー
元植物学の研究者、相川慧(あいかわ けい)が転生して得たのは【素材鑑定】スキル。――しかし、その効果は素材の名前しか分からず「ゴミ鑑定」と蔑まれる日々。所属ギルド「紅蓮の牙」では、ギルドマスターの息子・ダリオに無能と罵られ、ついには濡れ衣を着せられて追放されてしまう。 だが、それは全ての始まりだった! 誰にも理解されなかったゴミスキルは、慧の知識と経験によって【神眼鑑定】へと進化! それは、素材に隠された真の効果や、奇跡の組み合わせ(レシピ)すら見抜く超チートスキルだったのだ! 捨てられていたガラクタ素材から伝説級ポーションを錬金し、瞬く間に大金持ちに! 慕ってくれる仲間と大商会を立ち上げ、追放された男が、今、圧倒的な知識と生産力で成り上がる! 一方、慧を追い出した元ギルドは、偽物の薬草のせいで自滅の道をたどり……? 無能と蔑まれた生産職の、痛快無比なざまぁ&成り上がりファンタジー、ここに開幕!

処理中です...