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第43話 呪いの防衛システムと賢者の悪戯
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『暁の剣』の不穏な動きを知った、翌日から。
俺たちの『安らぎの庭』では、過去最大規模の、防衛システム構築プロジェクトが、秘密裏に、そして、着々と、進められていた。
「よし、エリナ、そこの『絞殺蔓』、もう少し、右に寄せてくれ。そこが、一番、効果的なキルゾーンになるはずだ」
「かしこまりました、主様。『森の腕(ウッデン・アーム)』!」
エリナが、呪文を唱えると、地面から、木の腕のようなものが、何本も生え、うねうねと動く『絞殺蔓』を、俺が指示した通りの、絶妙な位置へと、固定していく。
俺たちの、防衛計画の、第一段階は、物理的なトラップの設置だ。
拠点へと続く、森の小道。その、全てのルートに、様々な、呪いの罠を、仕掛けていく。
まずは、足元。
地面には、一見すると、ただの美しい花畑にしか見えない、『楽園の花』の地雷原を、広範囲にわたって、作り上げた。不用意に、この花畑に、足を踏み入れた者は、その花粉によって、幸福な幻覚の世界へと、永久に、閉じ込められることになるだろう。
次に、頭上。
木々の枝には、侵入者を感知すると、自動で、獲物を締め上げる、『絞殺蔓』の、ワイヤートラップを、無数に、張り巡らせた。まるで、巨大な、蜘蛛の巣のように。
そして、極めつけは、進路上に、点在させた、小さな沼だ。
この沼の水は、普段は、無色透明。だが、一定以上の、殺意や、敵意を持った生物が、近づくと、化学反応を起こし、瞬時に、超強力な、接着剤へと、変化する、『固着の沼』だ。一度、ハマってしまえば、二度と、抜け出すことはできない。
「ふっふっふ……。どうだ、この、鉄壁の布陣は」
俺は、自らが考案した、三重のトラップ網を、満足げに、眺めた。
これだけで、並の軍隊なら、完全に、無力化できるはずだ。
だが、俺たちの、防衛システムは、これだけでは、終わらない。
第二段階は、魔法的な、迎撃システムだ。
「エリナ。この辺りの、空間全体に、幻惑の魔法を、かけておいてくれ。俺たちの家が、ただの、朽ち果てた廃墟に見えるように」
「お任せください、主様。『偽りのヴェール(フォールス・ヴェール)』!」
エリナが、杖を、一振りすると、壮麗な黒鉄のログハウスが、幻の靄に包まれ、見る影もなく、みすぼらしい、今にも崩れそうな、ボロ屋へと、姿を変えた。
これなら、たとえ、トラップを、かいくぐってきたとしても、ここが、目的地だとは、気づかないだろう。
「さらに、この周囲に、警報結界を、張っておきますわ。許可なく、この領域に、侵入した者がいれば、即座に、私たちの、遠話鏡に、知らせが届くように、しておきましょう」
彼女の、古代魔法は、防衛においても、完璧な、性能を、発揮した。
そして、最後の、第三段階。
それは、俺と、フェンによる、直接的な、迎撃だ。
「フェン、お前の出番は、最後の、最後の、切り札だ」
俺は、すっかり、頼もしくなった、相棒の、大きな頭を、撫でた。
「もし、万が一、全ての罠と、結界を、突破してくるような、馬鹿者がいたら……。その時は、お前の、その牙と爪で、思いっきり、遊んでやれ。ただし、殺すなよ。半殺しで、十分だ」
「ぐるるる……わふん!」
フェンは、任せろ、と言わんばかりに、力強く、そして、嬉しそうに、吠えた。
彼も、自分の、大切な家族と、家を、守るための戦いに、血が騒いでいるのかもしれない。
こうして、数日間をかけて。
俺たちの『安らぎの庭』は、ただの、穏やかな楽園から、侵入者を、絶対に、許さない、鉄壁の要塞へと、生まれ変わった。
呪いの素材と、古代魔法、そして、神獣の力が、融合した、世界で、最も、厄介で、凶悪な、防衛システム。
その名も、『賢者の悪戯(ワイズマン・ジョーク)』。俺が、名付けた。
「これで、準備は、万端だな」
「はい、主様。いつ、いかなる、愚か者が、訪れようとも、万全ですわ」
俺たちは、自分たちの、完璧な仕事ぶりに、満足しきっていた。
もはや、ガイアスたちが、どんな、小細工をしてこようとも、恐れるものは、何もない。
むしろ、彼らが、この、トラップ地獄に、どんな顔で、はまってくれるのか、少しだけ、楽しみですら、あった。
「さて、と。あとは、ゆっくり、待つとしますか」
俺たちは、ログハウスの、暖かいリビングに戻り、いつものように、穏やかな日常へと、帰っていった。
遠話鏡の、警報が、鳴り響く、その時まで。
俺は、新しく手に入れた、錬金術の秘伝書を、読み解きながら、エリナが淹れてくれた、極上のハーブティーを、すする。
外の世界では、愚かな、過去の亡霊たちが、破滅へと向かう、最後の準備を、しているのだろう。
だが、そんなことは、俺たちの知ったことではない。
俺たちの、やるべきことは、ただ一つ。
この、かけがえのない、安らぎの庭を、守り抜くこと。
そして、この、穏やかで、幸せな、毎日を、心ゆくまで、楽しむことだ。
忍び寄る、脅威への、カウンターは、すでに、セットされている。
後は、獲物が、のこのこと、罠にかかるのを、待つだけ。
俺は、これから起こるであろう、滑稽な悲劇を、想像し、思わず、口の端を、歪めた。
悪趣味だと、言われようと、構わない。
やられたら、やり返す。いや、その、百倍にして、返してやる。
それが、俺の、流儀だった。
俺たちの『安らぎの庭』では、過去最大規模の、防衛システム構築プロジェクトが、秘密裏に、そして、着々と、進められていた。
「よし、エリナ、そこの『絞殺蔓』、もう少し、右に寄せてくれ。そこが、一番、効果的なキルゾーンになるはずだ」
「かしこまりました、主様。『森の腕(ウッデン・アーム)』!」
エリナが、呪文を唱えると、地面から、木の腕のようなものが、何本も生え、うねうねと動く『絞殺蔓』を、俺が指示した通りの、絶妙な位置へと、固定していく。
俺たちの、防衛計画の、第一段階は、物理的なトラップの設置だ。
拠点へと続く、森の小道。その、全てのルートに、様々な、呪いの罠を、仕掛けていく。
まずは、足元。
地面には、一見すると、ただの美しい花畑にしか見えない、『楽園の花』の地雷原を、広範囲にわたって、作り上げた。不用意に、この花畑に、足を踏み入れた者は、その花粉によって、幸福な幻覚の世界へと、永久に、閉じ込められることになるだろう。
次に、頭上。
木々の枝には、侵入者を感知すると、自動で、獲物を締め上げる、『絞殺蔓』の、ワイヤートラップを、無数に、張り巡らせた。まるで、巨大な、蜘蛛の巣のように。
そして、極めつけは、進路上に、点在させた、小さな沼だ。
この沼の水は、普段は、無色透明。だが、一定以上の、殺意や、敵意を持った生物が、近づくと、化学反応を起こし、瞬時に、超強力な、接着剤へと、変化する、『固着の沼』だ。一度、ハマってしまえば、二度と、抜け出すことはできない。
「ふっふっふ……。どうだ、この、鉄壁の布陣は」
俺は、自らが考案した、三重のトラップ網を、満足げに、眺めた。
これだけで、並の軍隊なら、完全に、無力化できるはずだ。
だが、俺たちの、防衛システムは、これだけでは、終わらない。
第二段階は、魔法的な、迎撃システムだ。
「エリナ。この辺りの、空間全体に、幻惑の魔法を、かけておいてくれ。俺たちの家が、ただの、朽ち果てた廃墟に見えるように」
「お任せください、主様。『偽りのヴェール(フォールス・ヴェール)』!」
エリナが、杖を、一振りすると、壮麗な黒鉄のログハウスが、幻の靄に包まれ、見る影もなく、みすぼらしい、今にも崩れそうな、ボロ屋へと、姿を変えた。
これなら、たとえ、トラップを、かいくぐってきたとしても、ここが、目的地だとは、気づかないだろう。
「さらに、この周囲に、警報結界を、張っておきますわ。許可なく、この領域に、侵入した者がいれば、即座に、私たちの、遠話鏡に、知らせが届くように、しておきましょう」
彼女の、古代魔法は、防衛においても、完璧な、性能を、発揮した。
そして、最後の、第三段階。
それは、俺と、フェンによる、直接的な、迎撃だ。
「フェン、お前の出番は、最後の、最後の、切り札だ」
俺は、すっかり、頼もしくなった、相棒の、大きな頭を、撫でた。
「もし、万が一、全ての罠と、結界を、突破してくるような、馬鹿者がいたら……。その時は、お前の、その牙と爪で、思いっきり、遊んでやれ。ただし、殺すなよ。半殺しで、十分だ」
「ぐるるる……わふん!」
フェンは、任せろ、と言わんばかりに、力強く、そして、嬉しそうに、吠えた。
彼も、自分の、大切な家族と、家を、守るための戦いに、血が騒いでいるのかもしれない。
こうして、数日間をかけて。
俺たちの『安らぎの庭』は、ただの、穏やかな楽園から、侵入者を、絶対に、許さない、鉄壁の要塞へと、生まれ変わった。
呪いの素材と、古代魔法、そして、神獣の力が、融合した、世界で、最も、厄介で、凶悪な、防衛システム。
その名も、『賢者の悪戯(ワイズマン・ジョーク)』。俺が、名付けた。
「これで、準備は、万端だな」
「はい、主様。いつ、いかなる、愚か者が、訪れようとも、万全ですわ」
俺たちは、自分たちの、完璧な仕事ぶりに、満足しきっていた。
もはや、ガイアスたちが、どんな、小細工をしてこようとも、恐れるものは、何もない。
むしろ、彼らが、この、トラップ地獄に、どんな顔で、はまってくれるのか、少しだけ、楽しみですら、あった。
「さて、と。あとは、ゆっくり、待つとしますか」
俺たちは、ログハウスの、暖かいリビングに戻り、いつものように、穏やかな日常へと、帰っていった。
遠話鏡の、警報が、鳴り響く、その時まで。
俺は、新しく手に入れた、錬金術の秘伝書を、読み解きながら、エリナが淹れてくれた、極上のハーブティーを、すする。
外の世界では、愚かな、過去の亡霊たちが、破滅へと向かう、最後の準備を、しているのだろう。
だが、そんなことは、俺たちの知ったことではない。
俺たちの、やるべきことは、ただ一つ。
この、かけがえのない、安らぎの庭を、守り抜くこと。
そして、この、穏やかで、幸せな、毎日を、心ゆくまで、楽しむことだ。
忍び寄る、脅威への、カウンターは、すでに、セットされている。
後は、獲物が、のこのこと、罠にかかるのを、待つだけ。
俺は、これから起こるであろう、滑稽な悲劇を、想像し、思わず、口の端を、歪めた。
悪趣味だと、言われようと、構わない。
やられたら、やり返す。いや、その、百倍にして、返してやる。
それが、俺の、流儀だった。
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