【鑑定不能】と捨てられた俺、実は《概念創造》スキルで万物創成!辺境で最強領主に成り上がる。

夏見ナイ

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第20話:虎の爪痕と守りたい想い

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ミリアが仲間になってから、一月ほどが過ぎた。彼女は驚くほどの速さで新しい生活に順応し始めていた。相変わらずリアムを「様」付けで呼ぶ癖は抜けきらないものの、以前のような怯えた様子はほとんど見られなくなり、ルナとは姉妹のように打ち解け、アルフレッドやガルムの存在にもすっかり慣れていた。食事の時間にはよく笑い、時には自分から話しかけてくることも増えた。その変化は、リアムとルナにとって何より嬉しいことだった。

しかし、穏やかな日々に潜む森の異変は、無視できないレベルになりつつあった。ルナが指摘した通り、以前は見かけなかったタイプの、より凶暴な魔物の目撃情報や痕跡が増えていたのだ。ガルムの警戒レベルも明らかに上がっており、夜間に遠吠えのような警戒音を発することもあった。

「やはり、森の奥で何か大きな変化が起きているのかもしれないわね……」ルナが、ガルムの報告(特定の唸り声や行動パターンで、リアムとルナはある程度の意思疎通ができるように訓練していた)を聞きながら、憂慮の表情を浮かべた。「強い魔物が、縄張りを追われてこちらに出てきている可能性もあるわ」
「だとすると、この拠点の防衛も、ガルム一体だけでは心許ないかもしれないな……」リアムも腕を組む。

そんな不安が現実のものとなったのは、ある日の午後だった。
リアムが《概念創造》で新しい道具の試作に集中し、ルナが小屋で魔法の研究をしていた時、突如、ガルムの激しい咆哮と、何かが激しくぶつかり合う轟音が外から響いてきたのだ。

「ガルム!?」
「何事!?」
リアムとルナは顔を見合わせ、急いで外に飛び出した。ミリアも、驚いた顔で二人の後を追う。

小屋の外では、信じられない光景が広がっていた。
黒鉄の巨躯を持つガルムが、見たこともない異形の魔物と激しく交戦していたのだ。その魔物は、巨大な熊のような体に、鋭い角とカマキリのような鎌状の前足を持つ、見るからに凶悪な姿をしていた。ガルムの装甲に、魔物の鎌状の前足が叩きつけられ、火花が散っている。

「あんな魔物、見たことがないわ!」ルナが息をのむ。
「ガルム!」リアムが叫ぶ。ガルムは奮戦していたが、相手のパワーと攻撃力は凄まじく、徐々に押されているのが分かった。ガルムの装甲にも、深い傷が刻まれ始めていた。このままでは、ガルムが破壊されてしまうかもしれない!

「ルナ、援護を!」
「ええ!」
ルナが呪文を唱え、【光弾(ライトバレット)】を魔物に放つ。しかし、光弾は魔物の硬い外皮に弾かれ、ほとんどダメージを与えられていないようだ。
リアムも《概念創造》で武器――今回は頑丈な金属製の槍を創造し、ガルムの援護に入ろうとする。

だが、魔物はリアムたちの介入に気づくと、ガルムを一時的に突き放し、その凶悪な赤い目をリアムとルナに向けた。そして、目標を変更したかのように、二人に向かって突進してきたのだ!

「危ない!」
リアムはルナを庇うように前に出たが、魔物の速度は想像以上だった。避けきれない!
ルナも咄嗟に防御魔法を張ろうとするが、間に合わないかもしれない!

絶体絶命かと思われた、その瞬間。

「――させないっ!!」

鋭い、しかしどこか切羽詰まったような叫び声と共に、目の前に小さな影が飛び込んできた。ミリアだ!

次の瞬間、信じられないことが起こった。ミリアの体が、淡いオレンジ色のオーラのようなものに包まれ、その姿がわずかに変化したのだ。虎の耳はより鋭く尖り、尻尾は力強く逆立つ。そして何より、彼女の両手の指先から、鋭く、長く、まるで本物の虎のような爪が伸びていた!

「グルルルァァァッ!!」

それは、もはや人間の少女の声ではなかった。獣の本能が覚醒したかのような、獰猛な咆哮。
ミリアは、信じられないほどの速度で突進してくる魔物の側面へと回り込み、その鋭い爪を魔物の脇腹へと深々と突き立てた!

ギャァァスッ!

金属を引き裂くような、嫌な音が響く。魔物の硬い外皮が、ミリアの爪によって切り裂かれたのだ。魔物は苦痛の叫び声を上げ、その巨体をよろめかせた。

「ミリア!?」リアムもルナも、その光景に呆然としていた。これが、ミリアの本当の力? 獣化――獣人のみが持つとされる、獣の力を解放する能力。

ミリアの攻撃は止まらない。魔物が体勢を立て直す前に、再び驚異的なスピードで動き、魔物の死角から次々と爪撃を叩き込んでいく。その動きは荒々しく、洗練されてはいない。だが、獣の本能に導かれるかのような鋭さと、驚異的な身体能力がそれを補っていた。

魔物は、予期せぬ反撃に混乱し、苦痛に呻きながら暴れ回る。ガルムも体勢を立て直し、再び魔物に飛びかかり、その動きを封じようとする。
リアムとルナも我に返り、援護に回った。ルナは、ミリアが作った傷口を狙って魔法を放ち、リアムは槍で魔物の注意を引きつけ、ミリアとガルムが攻撃しやすいように立ち回る。

連携攻撃が功を奏し、魔物は徐々に弱っていった。そして最後は、ガルムが渾身の力で押さえつけたところを、ミリアが再び咆哮と共に飛びかかり、その鋭い爪で首元を切り裂いた。

魔物は断末魔の叫び声を上げ、やがて動かなくなった。

森に、再び静寂が訪れる。残されたのは、激しい戦闘の跡と、荒い息をつくリアム、ルナ、ガルム、そして――ミリア。

ミリアは、魔物の亡骸の前で、まだ獣化の名残を見せたまま、呆然と立ち尽くしていた。伸びていた爪はゆっくりと元に戻り、体から発せられていたオーラも消えていく。彼女は、自分の血と魔物の体液で汚れた両手を見つめ、わなわなと震え始めた。

「……わ、わたし……なに、したの……?」
その瞳には、先ほどの獰猛さはなく、自分のしでかしたことへの恐怖と戸惑いの色が浮かんでいた。彼女は、自分の内に秘められた破壊的な力に怯えているようだった。

「ミリア!」
リアムとルナが駆け寄る。リアムは、震えるミリアの肩にそっと手を置いた。
「大丈夫か、ミリア? 怪我はないか?」
「……ううん……でも、わたし……こわい……。わたし、あんなこと……」ミリアは涙目でリアムを見上げる。

「怖かっただろう。でも、君のおかげで助かったんだ。ありがとう、ミリア」リアムは、できるだけ優しい声で言った。「君の力は、俺たちを守ってくれたんだよ」
「そうよ、ミリア」ルナも頷く。「あなたは、私たちを助けてくれた。その力は、恐ろしいものじゃない。大切な仲間を守るための、素晴らしい力よ」

二人の言葉に、ミリアは戸惑いながらも、少しだけ落ち着きを取り戻したようだった。彼女は、リアムとルナ、そして傷つきながらも隣に寄り添うガルムの姿を交互に見る。

(わたしが……みんなを……守った……?)

その事実は、彼女の中で、恐怖とは違う、別の感情を芽生えさせ始めていた。それは、誰かの役に立てたという、小さな誇りと、そして、この大切な仲間たちを、これからも自分の力で守りたいという、強い想い。

「……わたし……もっと……強く、なりたい……」
ぽつりと、ミリアが呟いた。それは、か細いながらも、確かな意志のこもった言葉だった。
「リアム……さん。ルナさん。わたしに、戦い方を教えてくれませんか? この力を、ちゃんと使えるようになりたい。みんなを守れるように」

彼女の瞳には、もう迷いはなかった。過去のトラウマと、自分の中に眠る力への恐怖を乗り越え、前を向こうと決意したのだ。そして、その言葉と共に、リアムへの呼び方が、ほんの少しだけ変化していた。「様」が「さん」に。小さな変化だが、それは彼女の心の成長を示す、大きな一歩だった。

リアムは、ミリアの決意を受け止め、力強く頷いた。
「ああ、もちろんだ。俺たちが知っていることなら、何でも教えよう。一緒に、強くなろう、ミリア」
ルナも、優しい笑顔で頷いた。

虎の少女が、その秘めたる力を自覚し、仲間を守るために戦うことを決意した瞬間だった。ミリアという新たな戦力の加入は、この辺境の地に築かれた小さなコミュニティにとって、大きな転換点となるだろう。脅威が増す森の中で、彼らは互いを支え合い、共に成長していく。その先に待つ未来がどのようなものであれ、彼らはきっと、力を合わせて立ち向かっていけるはずだ。リアムは、ミリアの瞳に宿る強い光を見つめながら、そう確信していた。
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