【鑑定不能】と捨てられた俺、実は《概念創造》スキルで万物創成!辺境で最強領主に成り上がる。

夏見ナイ

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第19話:ぎこちない歩みと才能の芽

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ミリアがリアムたちの拠点に加わってから、数日が過ぎた。最初のうちは、怯えた子猫のように常に周囲を警戒し、リアムやルナ、そして特にゴーレムたちの動きにびくびくしていたミリアだったが、少しずつ、本当に少しずつではあるが、この新しい環境に慣れ始めていた。

一番の変化は、ゴーレムたちに対する反応だった。最初は、動く石人形のアルフレッドや、巨大な金属の獣であるガルムを極度に恐れていた。アルフレッドが近づくと反射的に身構え、ガルムの低い唸り声には飛び上がるほど驚いていた。
しかし、リアムが何度も「彼らは仲間だ、君を傷つけない」と説明し、実際にゴーレムたちが自分に危害を加えず、むしろ黙々と生活を支えている様子を目の当たりにするうちに、恐怖心は徐々に薄れていったようだった。

最近では、アルフレッドが食事を運んできても、以前ほど身構えなくなった。むしろ、その無駄のない完璧な仕事ぶりに、感心したような、不思議そうな顔で見つめていることすらあった。ガルムに対しても、まだ少し距離は置いているものの、リアムがガルムの頭を撫でているのを見て、おずおずと「……かっこいい、かも……?」と呟いたりすることもあった。

ルナとの関係も、ゆっくりと変化していた。ルナは、ミリアにとって初めて出会う、優しく接してくれる年上の女性だった。ルナは、ミリアのぼさぼさになっていた虎柄の髪を、リアムが創った櫛で丁寧に梳かしてあげたり、簡単な洗濯や掃除の仕方を、根気よく教えてあげたりした。
ミリアは、最初こそ戸惑っていたものの、ルナの穏やかで優しい態度に、次第に心を開いていった。ルナに髪を結ってもらっている時の、少し照れたような、嬉しそうな表情は、リアムにとっても微笑ましい光景だった。女性同士、何か通じ合うものがあるのかもしれない。

一方、リアムに対しては、ミリアは深い恩義を感じているようで、態度は非常に恭しいものだった。それはそれで構わないのだが、一つだけ、リアムを困らせていることがあった。
「リアム様、お茶が入りました」
「リアム様、何かお手伝いすることはありますか?」
ミリアは、何かにつけてリアムを「様」付けで呼ぶのだ。さらに困ったことに、時々、奴隷時代の癖が抜けきらないのか、こう呼ぶことすらあった。
「ご主人様、お呼びでしょうか?」

「だから、その呼び方はやめてくれって言ってるだろう?」リアムは何度目か分からない注意をした。「俺たちは対等なんだ。リアム、でいい」
「で、でも……あなたは、私を助けてくださった命の恩人ですし……それに、私はずっとこう呼ばれて……」ミリアは、困ったように虎の耳をしゅんとさせて俯いてしまう。
「気持ちは嬉しいけど、ここでは誰も君を奴隷扱いしない。だから、『ご主人様』は絶対に禁止だ。『様』付けも、できればやめてほしいな」
「うぅ……わ、わかりました……り、リアム……さ……?」
なかなか癖は抜けないようだった。リアムは苦笑するしかなかったが、これも彼女が自由な環境に慣れていくための過程なのだろう、と気長に付き合うことにした。

そんな日常の中で、リアムとルナは、ミリアの持つ並外れた能力の片鱗を、何度か目の当たりにすることになった。

ある日、三人で森へ食料の採取に出かけた時のことだ。比較的安全なエリアを選んで歩いていたはずだったが、不意にミリアが足を止め、低い警戒音を発した。
「……っ、何か来る!」
彼女がそう言った直後、茂みの奥から、鋭い牙を持つ猪のような魔獣が、唸り声を上げて飛び出してきたのだ。リアムもルナも、その気配に気づくのが一瞬遅れた。
「危ない!」
リアムがミリアを庇おうとするよりも早く、ミリア自身が驚異的な俊敏さで後方へ跳躍し、同時にリアムとルナの服の裾を掴んで引っ張った。そのおかげで、二人は魔獣の突進をギリギリでかわすことができた。
魔獣は、現れた時と同じように、すぐに森の奥へと走り去っていった。おそらく、ガルムの縄張りに近い場所まで来てしまい、慌てて逃げたのだろう。
「……今の……」リアムは、ミリアの反応速度と危険察知能力に息をのんだ。ルナも驚いた表情でミリアを見ている。
「ミリア、よく気づいたわね。私たち、全然分からなかったわ」
「え……? う、うん……なんだか、イヤな感じがしたから……」ミリア本人は、自分が特別なことをしたという自覚はないようだった。ただ、本能的に危険を感じ取り、体が勝手に動いただけ、という風だった。

また別の日には、畑で作業をしている時、リアムが足を滑らせて、近くにあった農具の山に倒れ込みそうになった。
「わっ!」
その瞬間、少し離れた場所にいたミリアが、目にも止まらぬ速さで駆け寄り、リアムの体を支え、さらに崩れ落ちてきた農具を手際よく払い除けたのだ。その動きは、まるで熟練の戦士のようだった。
「だ、大丈夫……リアム……?」ミリアは、きょとんとした顔でリアムを見上げている。
「あ、ああ……助かったよ、ミリア。すごいな、今の動き……」
リアムは、彼女の潜在能力の高さを改めて感じずにはいられなかった。身体能力、反射神経、そしておそらく戦闘に関する直感のようなもの。彼女の中には、間違いなく何かが眠っている。

しかし、リアムもルナも、そのことをミリアに指摘したり、無理に引き出そうとしたりはしなかった。今はまだ、彼女がこの場所を安全だと感じ、安心して過ごせるようになることが何よりも大切だ。才能の開花は、彼女自身が望み、その準備ができた時に、自然と訪れるものだろう。

少しずつではあるが、ミリアの表情は確実に明るくなっていた。食事の時には笑顔を見せるようになり、ルナとの会話も増え、リアムに対しても、ぎこちなさは残るものの、信頼を寄せてくれているのが分かった。

温かい食事、安全な寝床、そして自分を気遣ってくれる仲間。ミリアがずっと心の奥底で求めていたものが、この辺境の地にはあった。彼女の心に凍りついていた氷が、ゆっくりと溶け始めている。その小さな変化を見守ることは、リアムとルナにとっても、大きな喜びとなっていた。
虎の少女ミリアの、新たな人生の第一歩。それは、決して平坦ではないかもしれないが、希望の光に照らされた、確かな一歩となりつつあった。彼女の未来が、どのような形で花開いていくのか、楽しみでもあり、少し心配でもありながら、リアムとルナは温かく見守り続けるのだった。
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