【鑑定不能】と捨てられた俺、実は《概念創造》スキルで万物創成!辺境で最強領主に成り上がる。

夏見ナイ

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第38話:賑わう日々、積み重なる課題

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ゴードン一家とヘンリー老が加わってから、アークライト共同体は目に見えて賑やかになった。畑仕事に精を出すゴードンの真面目な姿、工房でドルガンと熱心に木工に取り組むヘンリー老の頑固ながらも確かな技術、そして家事や糸紡ぎを手伝うサラの細やかな気配り。彼らはすぐに共同体の生活に溶け込み、それぞれの能力を発揮し始めた。特に、息子のトムは、ミリアにとって初めての「弟分」のような存在となり、いつも彼女の後ろを元気について回り、時にはミリアの戦闘訓練(の真似事)に付き合わされたりして、子供らしい明るい笑い声を響かせていた。

住民が増えたことで、共同体の生産活動もより活発になった。畑の管理はゴードンが中心となって行うようになり、収穫量はさらに安定した。工房では、ドルガンとヘンリー老が協力し、以前よりも質の高い家具や農具が作られるようになった。衣服生産も、サラが加わったことで、より多くの女性たちが参加しやすくなり、少しずつではあるが、住民たちの衣服が、リアムが最初に創造した画一的なものから、手作りの温かみのあるものへと置き換わり始めていた。

それは、まさにコミュニティが順調に発展している証だった。しかし、その一方で、セレスティアが予見していた通り、人の増加は新たな課題も浮き彫りにしていった。

まず、物資の需要増大だ。食料は安定しているものの、衣服の素材(綿花など)、生活道具の材料(木材、金属)、燃料(薪、工房で使う石炭のようなもの)など、消耗品の需要が確実に増えている。リアムが《概念創造》で補ってはいるが、彼の魔力にも限りがある。特に、ドルガンの工房が本格稼働し始めると、特殊な金属や燃料の消費量が跳ね上がり、リアムへの負担は無視できないレベルになりつつあった。

「リアム君、すまんが、またあのアダマンタイト(仮)のインゴットを頼めるか? 新しい工具の試作に使いたいんじゃ」
「リアムさん、木材が足りなくなってきた。もう少し硬くて、反りにくいやつをお願いできるかい?」
「リアム、悪いけど、綿花をもう少し……。サラさんたちが、新しい織り方に挑戦したいらしくて」
仲間たちからの依頼は、彼の能力への信頼の証でもあるが、それが続くと、どうしても魔力回復が追いつかなくなる時が出てくる。

次に、人間関係の複雑化。住民が増えれば、当然、考え方や価値観の違いから、小さな摩擦や誤解が生じることもある。例えば、ゴードンは真面目だが気が弱く、他の住民(特に気の強い元傭兵崩れなど)から仕事を押し付けられそうになることがあったり、ヘンリー老は頑固な性格ゆえに、ドルガンと技術的なことで意見がぶつかって口論になったりすることもあった。ミリアとトムが元気に遊びまわる声が、静かに過ごしたい住民にとっては騒音に感じられる、といった些細な問題も起き始めた。

これらの問題に対しては、主にセレスティアが対応にあたった。彼女は、持ち前の観察眼と冷静な判断力で、問題の本質を見抜き、公平かつ現実的な解決策を提示した。
「ゴードンさん、あなたはもっと自分の意見を主張すべきですわ。不当な要求には、はっきりと『できない』と言う勇気も必要ですことよ。他の皆さん、困っている人がいたら助け合うのが、この共同体のルールですわよね?」
「ドルガン殿、ヘンリー殿、技術的な議論は結構ですが、感情的になるのはおやめなさい。互いの意見を尊重し、より良いものを作り出すために協力するのが、職人としての矜持ではございませんこと?」
「ミリアさん、トム君、元気に遊ぶのは結構ですが、時間と場所をわきまえなさい。他の住民の方々への配慮も忘れてはなりませんわ」

彼女の介入は、時には厳しく、高慢に聞こえることもあったが、不思議と皆を納得させる説得力があった。それは、彼女が常に「共同体全体の利益と秩序」という視点から発言していること、そして、その指摘が的確であることを、住民たちが理解し始めていたからだろう。セレスティアは、意図せずして、コミュニティ内の「調停役」あるいは「風紀委員」のような役割も担い始めていた。

そして、もう一つの大きな課題が、外部からの注目度の高まりだった。行商人マルコが持ち帰った情報や、アークライトを出ていった者たちの噂話によって、「辺境の森の安全な開拓地」の存在は、徐々に、しかし確実に広まりつつあった。
時折、マルコのように噂を聞きつけてやってくる行商人や、あるいはゴードンたちのように安住の地を求める難民が、ポツリポツリと現れるようになったのだ。

リアムたちは、セレスティアの助言に従い、受け入れには慎重な姿勢をとっていた。まずセレスティアが面談を行い、その人物像や目的を見極める。共同体の規約を守り、貢献する意志のある者だけを、限られた人数だけ受け入れる。無条件に門戸を開けば、あっという間にキャパシティを超え、内部から崩壊しかねないからだ。

それでも、人の出入りがあるということは、アークライトの情報がさらに外部に漏れるリスクを高めることにも繋がる。今はまだ、辺境の噂話として扱われているかもしれない。だが、いつか、このコミュニティの存在が、より大きな力――例えば、リアムを追放した王国や、他の貴族たち――の耳に入らないとも限らない。

「……外部との接触は、避けられない流れかもしれませんわね」セレスティアが、厳しい表情で言った。「ならば、我々も備えが必要ですわ。第一に、防衛力の更なる強化。ガルムとミリアさんだけでは、いずれ限界が来るでしょう。第二に、外部との交渉窓口の確立。そして第三に、我々の存在を、外部世界にどのように認識させるか、という戦略ですわ」

彼女の指摘は、コミュニティが新たな段階――外部世界との関係性を意識せざるを得ない段階――に入ったことを示していた。
「防衛力か……」リアムは頷いた。「ガルムの強化はしたが、数が必要だな。あるいは、人間や亜人の住民の中から、警備隊のようなものを組織する必要があるかもしれない」
「交渉窓口は、当面はわたくしが担当いたしますわ。貴族としての経験が、少しは役に立つかもしれませんし」セレスティアが申し出た。「戦略については……今はまだ、目立たず、力を蓄える時期だと考えますわ。我々の持つ力――特にリアム、あなたの力――は、下手に知られれば、争いの火種になりかねませんことよ」

ルナも、セレスティアの意見に同意した。
「ええ、セレスティアの言う通りよ。特に、リアムの《概念創造》は、規格外すぎる力だわ。王国や他の勢力が知れば、黙ってはいないでしょう。今はまだ、力を隠し、内なる充実を図るべき時ね」

賑わう日々の中で、コミュニティは着実に成長していた。しかし、その成長は同時に、新たな課題と、外部からの潜在的な脅威をもたらし始めていた。食料、衣服、住居といった内的な問題に加え、防衛、外交、情報管理といった外的な問題にも、彼らは向き合っていかなければならない。

リアムは、仲間たちの言葉を聞きながら、改めて気を引き締めた。光の箱舟アークライトは、まだ大海原へと漕ぎ出したばかりの小さな船だ。嵐に備え、船体を強化し、羅針盤をしっかりと見据えて、慎重に進んでいかなければならない。

課題は山積みだ。しかし、彼には信頼できる仲間たちがいる。それぞれの能力を結集すれば、きっとどんな困難も乗り越えていけると、リアムは信じていた。賑やかな共同体の喧騒の中で、彼は静かに、次なる一手――防衛力の強化と、外部との最初の「公式な」接触となるかもしれない、交易の準備――について、思考を巡らせ始めた。物語は、内なる発展から、外なる世界との関わりへと、その舞台を広げようとしていた。
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