【鑑定不能】と捨てられた俺、実は《概念創造》スキルで万物創成!辺境で最強領主に成り上がる。

夏見ナイ

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第39話:芽吹く産業、最初の交易

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アークライト共同体が直面する課題――物資の安定供給、防衛力の強化、そして外部との関係構築――に対し、リアムと仲間たちは具体的な行動を起こし始めていた。特に、セレスティアが指摘した「外部との交易」は、いくつかの課題を同時に解決する可能性を秘めていた。

交易によって、共同体内部では生産できない物資(塩、特定の金属、薬の原料など)を入手できる。また、アークライトで生産したものを売ることで、貨幣を得て、さらなる発展の資金とすることも可能になるかもしれない。そして何より、管理された形での外部との接触は、アークライトの存在をコントロールしつつ、有益な情報を得る機会にもなり得る。

「交易を行うにしても、まず我々が提供できる『独自の価値』を持つ産品が必要ですわ」
定例会議で、セレスティアが改めて強調した。
「ただの野菜や木材では、足元を見られるだけ。何か、アークライトならではの、他では手に入らないようなものを」

「独自の価値、か……」リアムは考え込んだ。彼らの強みは何だろうか?
「やはり、リアム君の《概念創造》と、ワシらの技術を組み合わせた産品じゃろうな」ドルガンが口を開いた。「例えば、あの青銀色の合金で作った、高品質な工具や、あるいは武器防具とかかのう?」
「武器防具は、まだ目立ちすぎるかもしれませんわ」セレスティアが慎重な意見を述べる。「それに、高度なものは、我々の技術力が外部に漏れるリスクもありますわ。もっと、生活に密着したもので、かつ他にはない付加価値を持つものが望ましいですわね」

「……そうだ!」リアムが、ふと思いついた。「あの『魔力野菜』はどうだろうか?」
以前、ルナが気づいた、リアムが改良した畑で育つ野菜が微弱な魔力を帯びているという事実。
「あれは、確かに普通の野菜とは違う。食べると、少しだけ体が軽くなるような気もするし……」
「ええ」ルナも頷く。「詳しく調べてみたのですが、あの中に含まれる魔力は、生命力をわずかに活性化させる効果があるようですわ。薬効とまでは言えませんが、滋養強壮には良いかもしれません。それに、味も普通の野菜より格段に美味しいですし」

「魔力野菜……! それは面白いかもしれん!」ドルガンも興味を示した。「珍しい食材として、貴族や富裕層に高く売れるかもしれんぞ?」
「確かに、魅力的ですわね」セレスティアも乗り気になってきた。「『アークライト産の滋養野菜』として売り出せば、独自の価値を示せるかもしれません。ただし、その効果を過剰に宣伝するのは避けるべきですわ。あくまで『美味しくて、少し体に良い野菜』という程度に留めておくのが賢明でしょう」

方針は決まった。アークライトの最初の交易品は、「魔力野菜」とする。そして、その野菜をより魅力的に見せるために、見た目も美しい、特別な品種をリアムが《概念創造》で新たに生み出すことになった。彼は、「宝石のように輝き、芳醇な香りと甘美な味を持ち、微弱な生命活性化魔力を含む、特別な果実」という概念で、いくつかの新品種を創造した。ルビーのように赤いベリー、エメラルドのように緑色に輝くメロン、サファイアのような深い青色をしたブドウなど、見た目も味も、そして微かな効果も、これまでにない特別な果実だった。

これらの特別な野菜や果物を栽培するための、専用の畑エリアも新たに設けられた。栽培管理は、農業経験豊富なゴードンと、植物の知識が豊富なルナが担当することになった。

並行して、交易の相手となる行商人との接触も進められた。何度かアークライトを訪れていた行商人マルコは、口は軽いが、比較的信用できると判断され、最初の交易パートナーとして選ばれた。
セレスティアが、マルコとの交渉を担当した。彼女は、元貴族令嬢としての交渉術(と、相手を見透かすような鑑定眼)を駆使し、アークライトの情報を守りつつ、有利な条件を引き出すことに成功した。

マルコは、リアムたちが栽培した「魔力野菜」や「宝石果実」を試食し、その見た目の美しさと味、そして微かな効果に驚嘆した。
「こ、これは……!? こんな野菜や果物は、王都の高級店でも見たことがない! きっと高く売れますぜ!」
彼は、アークライト産の特別な農産物を独占的に扱えるという条件に飛びつき、代わりにアークライトが必要とする物資――塩、砂糖、香辛料、良質な布地、薬の原料、そしてドルガンが必要とする特定の金属(工房で加工が難しいもの)などを、適正な価格で供給することを約束した。

そして、ついに最初の交易の日がやってきた。マルコは、約束通り、荷馬車いっぱいにアークライトが必要とする物資を積んでやってきた。一方、アークライト側も、収穫されたばかりの新鮮な「魔力野菜」と「宝石果実」を、綺麗に荷造りして用意した。
交換は、セレスティアとアルフレッドが厳密に管理し、滞りなく行われた。

マルコは、貴重な商品を手にし、満面の笑みで帰っていった。彼は、この取引で大きな利益を得ることを確信しているようだった。そして、アークライトの住民たちも、交易によって得られた様々な物資を手に、生活がより豊かになることを実感していた。特に、塩や砂糖といった調味料の入手は、ミリア(料理が得意)を大喜びさせた。

最初の交易の成功は、アークライト共同体にとって、大きな意味を持つ出来事だった。
それは、単に物資を得たということだけではない。自分たちの力で生み出したものが、外部世界で価値を持つことを証明し、経済的な自立への第一歩を踏み出したということだ。そして、管理された形での外部との繋がりが、情報収集や将来的な関係構築への道を開いたということでもある。

共同体には、新たな産業――特殊な農産物の生産と交易――が芽生えた。それは、リアムの《概念創造》、ルナの魔法、ドルガンの技術、セレスティアの知恵、そして住民たちの労働が結実した、アークライトならではの産業だった。

「次は、この『魔力野菜』を使った加工品――例えば、保存食や、あるいはルナの知識を活かした簡易的なポーションのようなものも開発できるかもしれませんわね」セレスティアは、早くも次の展開を見据えている。
「うむ、ワシの工房でも、交易で得た新しい金属を使って、さらに高性能な道具や、あるいは……防衛のための仕掛けなども作れるようになるかもしれんわい」ドルガンも意欲を見せる。

交易の成功は、アークライト共同体に新たな可能性と、さらなる発展への意欲をもたらした。賑わいは増し、人々の顔には自信が満ち溢れている。
しかし、その輝きは、同時に外部からの注目をさらに集めることにも繋がるだろう。光が強くなれば、影もまた濃くなる。リアムは、共同体の発展を喜びつつも、そのことを忘れずに、常に警戒を怠らないようにと、改めて心に誓うのだった。

アークライト共同体の物語は、内なる充実から、外なる世界との関わり、そして新たな産業の創出へと、その裾野を広げ始めていた。彼らの「光の箱舟」は、ゆっくりと、しかし確実に、未来へと向かう大海原を進み始めていた。
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