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第六話 『万物育成』の覚醒
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ギルバートはすぐに辺りを偵察し、岩壁にぽっかりと口を開けた小さな洞窟を見つけてきた。ここなら、少なくとも夜風と獣の襲撃からは身を守れるだろう。
洞窟の中はひんやりと湿っぽく、岩肌を伝う雫が不規則な音を立てていた。ギルバートが手早く火をおこすと、オレンジ色の光が壁に揺らめき、わずかながら温もりが生まれた。
私は腕の中の子狼を、自分の外套の上にそっと寝かせた。彼の呼吸は浅く、時折けいれんするように体を震わせている。後ろ足の傷は深く、骨が見えそうなほどだった。
「ひどい傷だ…」
私はなけなしの綺麗な布を水で湿らせ、傷口の周りの汚れを優しく拭ってやった。子狼は苦痛に顔を歪め、弱々しく鼻を鳴らす。その姿が私の胸を締め付けた。
何かしてあげたい。でも、私には何もできない。薬草の知識はあるけれど、この死の大地に薬草など生えているはずもなかった。王宮で役立たずと蔑まれた自分の無力さを、今ほど痛感したことはない。
「ごめんね…。私には、あなたを助ける力がないの…」
涙がこぼれ落ち、子狼の銀色の毛皮を濡らした。
このまま、この小さな命は消えてしまうのだろうか。私と同じように、誰にも顧みられることなく。
そんなのは嫌だ。
絶対に、嫌だ。
生きてほしい。
どうか、生きて。
その強い願いが、私の心の奥底で燻っていた何かに火をつけた。体の芯から、今まで感じたことのない温かな力が、まるで泉のように湧き上がってくる。
「え……?」
私は自分の両手を見下ろした。手のひらから、柔らかな翠色の光が淡く放たれている。それは王宮で使っていた、植物を少し元気づけるだけの微弱な光とは全く違っていた。もっと力強く、もっと生命力に満ち溢れた光。
光は私の意思とは関係なく、どんどん輝きを増していく。そして、まるで導かれるように、横たわる子狼の体を優しく包み込んだ。
「アリシア様!?」
背後でギルバートが息を呑むのが分かった。しかし、私は目の前の光景から目を離すことができなかった。
奇跡が、起きていた。
翠色の光に照らされた子狼の傷口が、ゆっくりと塞がっていく。裂けていた皮膚が繋がり、血が止まり、新しい毛皮がみるみるうちに生えてくる。それはまるで、早送りの映像を見ているかのようだった。
やがて、苦しげだった子狼の呼吸は、すうすうという穏やかな寝息に変わっていた。傷は跡形もなく消え去り、汚れていた銀色の毛皮は、まるで月光を浴びた絹のように美しい輝きを取り戻していた。
「あ……」
私は呆然と、自分の手を見つめた。光はもう消えている。しかし、手のひらに残る温かな感覚が、これが幻ではないと告げていた。
私の手からあふれた光の雫が、洞窟の入り口近く、ひび割れた乾いた大地にぽつりと落ちた。
すると、信じられないことが起こった。
光が染み込んだその一点から、土を押し上げるようにして、小さな緑色の双葉が顔を出したのだ。それは、この死の大地には決して存在するはずのない、鮮やかで力強い生命の色だった。
「芽が……」
ギルバートが、言葉を失ってその双葉を見つめている。彼の黄金の瞳は、驚愕と、そして畏敬の念に揺れていた。
私も、その小さな双葉から目が離せなかった。
これが、私の力?
『雑草王女』と蔑まれ、何の役にも立たないと罵られた、私の本当の力だというの?
絶望しかなかったこの場所で、私は希望の光を見つけた。それは天から与えられたものでも、誰かに授けられたものでもない。私自身の内側に、ずっと眠っていた力だったのだ。
腕の中の子狼が、もぞもぞと身じろぎした。彼はゆっくりと目を開けると、大きなあくびを一つした。そして、私の顔をぺろりと舐めると、安心しきった様子で再び私の腕に顔をうずめて眠り始めた。その温もりが、私の心をじんわりと満たしていく。
「アリシア様。今の光は、一体……」
ギルバートが、感動を押し殺したような声で尋ねた。
私は腕の中の温もりと、洞窟の入り口で風にそよぐ小さな双葉を交互に見た。涙が頬を伝ったが、それはもう絶望の涙ではなかった。
私は力強く頷き、隣にいる忠実な騎士に微笑みかけた。
「ええ。私たち、ここで生きていけます」
不毛の大地。傷ついた小さな命。そして、覚醒したばかりの未知なる力。
私の新しい人生は、この絶望の地で、確かな希望と共に幕を開けた。
洞窟の中はひんやりと湿っぽく、岩肌を伝う雫が不規則な音を立てていた。ギルバートが手早く火をおこすと、オレンジ色の光が壁に揺らめき、わずかながら温もりが生まれた。
私は腕の中の子狼を、自分の外套の上にそっと寝かせた。彼の呼吸は浅く、時折けいれんするように体を震わせている。後ろ足の傷は深く、骨が見えそうなほどだった。
「ひどい傷だ…」
私はなけなしの綺麗な布を水で湿らせ、傷口の周りの汚れを優しく拭ってやった。子狼は苦痛に顔を歪め、弱々しく鼻を鳴らす。その姿が私の胸を締め付けた。
何かしてあげたい。でも、私には何もできない。薬草の知識はあるけれど、この死の大地に薬草など生えているはずもなかった。王宮で役立たずと蔑まれた自分の無力さを、今ほど痛感したことはない。
「ごめんね…。私には、あなたを助ける力がないの…」
涙がこぼれ落ち、子狼の銀色の毛皮を濡らした。
このまま、この小さな命は消えてしまうのだろうか。私と同じように、誰にも顧みられることなく。
そんなのは嫌だ。
絶対に、嫌だ。
生きてほしい。
どうか、生きて。
その強い願いが、私の心の奥底で燻っていた何かに火をつけた。体の芯から、今まで感じたことのない温かな力が、まるで泉のように湧き上がってくる。
「え……?」
私は自分の両手を見下ろした。手のひらから、柔らかな翠色の光が淡く放たれている。それは王宮で使っていた、植物を少し元気づけるだけの微弱な光とは全く違っていた。もっと力強く、もっと生命力に満ち溢れた光。
光は私の意思とは関係なく、どんどん輝きを増していく。そして、まるで導かれるように、横たわる子狼の体を優しく包み込んだ。
「アリシア様!?」
背後でギルバートが息を呑むのが分かった。しかし、私は目の前の光景から目を離すことができなかった。
奇跡が、起きていた。
翠色の光に照らされた子狼の傷口が、ゆっくりと塞がっていく。裂けていた皮膚が繋がり、血が止まり、新しい毛皮がみるみるうちに生えてくる。それはまるで、早送りの映像を見ているかのようだった。
やがて、苦しげだった子狼の呼吸は、すうすうという穏やかな寝息に変わっていた。傷は跡形もなく消え去り、汚れていた銀色の毛皮は、まるで月光を浴びた絹のように美しい輝きを取り戻していた。
「あ……」
私は呆然と、自分の手を見つめた。光はもう消えている。しかし、手のひらに残る温かな感覚が、これが幻ではないと告げていた。
私の手からあふれた光の雫が、洞窟の入り口近く、ひび割れた乾いた大地にぽつりと落ちた。
すると、信じられないことが起こった。
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「芽が……」
ギルバートが、言葉を失ってその双葉を見つめている。彼の黄金の瞳は、驚愕と、そして畏敬の念に揺れていた。
私も、その小さな双葉から目が離せなかった。
これが、私の力?
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