捨てられ王女ですが、もふもふ達と力を合わせて最強の農業国家を作ってしまいました

夏見ナイ

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第十四話 共同体の始まり

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「ここに、住んでも……よろしいのですか」
獣人の父親、ガルフは信じられないといった表情で、震える声で聞き返した。彼の隣で、妻のリーナも涙で濡れた瞳を大きく見開いている。

私は力強く頷いた。
「もちろんです。ここは誰のものでもない、新しい土地です。皆で一緒に、ここを私たちの故郷にしていきましょう」
私の言葉に、ガルフは膝から崩れ落ちるようにしてその場にひれ伏した。
「ああ……女神様……!この御恩は、生涯忘れません。我ら一家、この命尽きるまで、貴女様にお仕えいたします!」

「やめてください、顔を上げてください」
私は慌てて彼に駆け寄り、その肩に手を置いた。
「私は女神などではありません。皆さんは、私の大切な仲間です。これからは、一緒に力を合わせて生きていきましょう」
私の真摯な言葉に、ガルフとリーナは何度も何度も頷き、感謝の涙を流し続けた。幼い兄妹、レオとサラは、まだ状況がよく分かっていないようだったが、両親の安堵した表情を見て、不安そうだった顔にようやく笑顔が戻った。

こうして、私たちの共同体に最初の家族が加わった。
ガルフ一家は、驚くべき適応力と勤勉さを持っていた。父親のガルフは、熟練の狩人だった。彼はギルバートから弓矢を借りると、翌日には見事な野ウサギを数羽仕留めて帰ってきた。辺境の獣は警戒心が強いが、獣人ならではの鋭い嗅覚と優れた追跡技術が、それを補って余りある成果を上げたのだ。

「見事な腕だ」
ギルバートも、ガルフの狩りの腕前を素直に称賛した。二人の間には、男同士の信頼関係のようなものが芽生え始めていた。食料の確保は、これでさらに安定することになる。

母親のリーナは、穏やかで心優しい女性だった。彼女は薬草の知識こそなかったが、料理や裁縫が得意だった。私が畑仕事に集中している間に、彼女は私たちの食事を用意してくれたり、破れた衣服を綺麗に繕ってくれたりした。
「アリシア様は、どうか畑のことだけに集中なさってください。身の回りのことは、全てわたくしにお任せを」
彼女はそう言って微笑むが、私は彼女を侍女のように扱うつもりは毛頭なかった。

「リーナ。あなたは私の侍女ではありません。対等な仲間ですよ。だから、できることはお互いに助け合いましょう」
私がそう言うと、リーナは恐縮しながらも、とても嬉しそうな顔をした。

子供たちは、すぐにこの新しい環境に慣れた。特に、もふもふのフェンは彼らにとって最高の遊び相手だった。最初は聖獣としての威厳を保とうとしていたフェンも、レオとサラの無邪気な猛攻には敵わず、いつの間にか三匹で追いかけっこをしたり、草の上を転げ回ったりするようになった。その光景は、見ているだけで心が和む。

ただ一つ、問題があったとすれば、それは住居だった。私たち三人とガルフ一家、合わせて七人が洞窟で暮らすには、あまりにも手狭だったのだ。

その夜、私たちは焚き火を囲んでいた。火の周りには、ギルバート、私、そしてガルフとリーナが座っている。子供たちはフェンを枕代わりにして、もうすっかり寝入っていた。

「やはり、新しい家が必要ですね」
私が切り出すと、ガルフも深く頷いた。
「はい。このままアリシア様方に洞窟で生活させてしまうのは、あまりに心苦しい。我々で、簡単な小屋でも建てようかと思います」

「いや、どうせ建てるなら、頑丈なものがいい」
ギルバートが腕を組んで言った。
「この辺境の冬がどれほど厳しいか、まだ分かりませんからな。それに、今後も人が増える可能性を考えれば、しっかりとした家をいくつか建てておくべきでしょう」

彼の言葉には、この共同体がさらに大きくなる未来が当然のように見据えられていた。そのことが、私にはとても嬉しかった。

「木材なら、森の奥に行けば手に入るかもしれません。ですが、我々だけでは大木を切り出し、運ぶのは難しい…」
ガルフが腕を組んで唸る。

その時、私は土の友のことを思い出した。
「そうだわ。モグ族に相談してみませんか?彼らなら、何か良い知恵を貸してくれるかもしれません」
私の提案に、ガルフはきょとんとした顔をした。彼らはまだ、土の中から現れる不思議な獣人たちのことを知らないのだ。

翌日、私が畑で土に力を注いでいると、約束通りモグ族がひょっこりと顔を出した。
『女神サマ、オ呼ビデスカ!』
長老の元気な声に、初めてその姿を見たガルフ一家は腰を抜かさんばかりに驚いていた。

私たちが家のことで困っていると伝えると、長老は任せろとばかりに胸を叩いた。
『家ヲ建テルナラ、土台作リハ我々ニ任セルノダ!森ノ木ヲ運ブ手伝イモシテヤロウ!』

こうして、私たちの最初の村づくり計画が、頼もしい仲間たちの協力のもとで本格的に始動した。

夜、皆が寝静まった後、私は一人で洞窟の外に出て、満天の星を眺めていた。数週間前まで、私はたった一人でこの星空を見上げていた。それが今では、私の周りにはたくさんの温かい寝息が聞こえる。

「眠れませんか、アリシア様」
いつの間にか、ギルバートが隣に立っていた。彼は自分の外套を、そっと私の肩にかけてくれる。
「ううん。なんだか、嬉しくて」
私は星空を見上げたまま言った。
「ここに来た時は、絶望しかありませんでした。でも今は、明日が来るのが楽しみなんです。皆と一緒に、どんな場所を作っていけるんだろうって」

ギルバートは何も言わず、ただ静かに私の隣に立ち、同じように星空を見上げていた。しかし、その横顔には、とても優しい笑みが浮かんでいる。

たった二人と一匹で始まった辺境での生活は、こうして小さな共同体へと姿を変えた。それはまだ、荒野に灯った小さな灯火に過ぎない。しかし、この灯火がやがて大きな炎となり、この大地全体を照らすことになる未来を、私は確かに予感していた。
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