捨てられ王女ですが、もふもふ達と力を合わせて最強の農業国家を作ってしまいました

夏見ナイ

文字の大きさ
29 / 94

第二十九話 エデンの特産品

しおりを挟む
私たちが金貨の詰まった袋と共にエデンに帰還すると、村は割れんばかりの歓声に包まれた。自分たちの手で育てた作物が、これほどの価値になった。その事実は、人々の顔に誇りと自信を与え、労働への意欲をさらに燃え上がらせた。

「すげえ……本当に金貨だ!」
「これで、塩が買えるんだな!」
子供たちは、生まれて初めて見る金貨の輝きに目を丸くしている。

私たちは、手に入れた資金で早速ロックベルの町から必要な物資を買い付けた。待ち望んでいた塩が山のように運び込まれると、リーナをはじめとする女性陣から喜びの声が上がった。ガンツは、念願だった多種多様な金属を前に、まるで子供のようにはしゃいでいる。丈夫な布、良質な油、そして生活を豊かにする様々な道具。エデンの生活基盤は、この初めての交易によって、格段に強固なものとなった。

誰もがこの成功に満足し、浮き足立っていた。しかし、私はすでに次の手を考えていた。

その夜の集会で、私は皆に語りかけた。
「今回の交易は、大成功でした。しかし、私たちは幸運だっただけかもしれません。次も、悪徳商人のような相手と交渉しなければならないとしたら?」
私の言葉に、皆の表情が引き締まる。

「私たちは、ただ作物を売るだけではいけません。エデンでしか作れない、誰もが欲しがる特別な『商品』を作るのです。相手から『ぜひ売ってください』と頭を下げて頼まれるような、圧倒的な価値を持つ特産品を」
私の提案に、皆はごくりと喉を鳴らした。

「特産品、ですか」
バルトが、興味深そうに聞き返す。
「具体的には、どんなものを?」

「例えば、この果実です」
私は、陽だまりのドームで採れた、宝石のように赤い果実を一つ手に取った。
「このまま売るのも良いでしょう。しかし、これを加工すれば、その価値は何倍にも跳ね上がります。砂糖と煮詰めて、長期保存できる『ジャム』にするのです。あるいは、果汁を絞って、飲むだけで活力が湧き出る『ジュース』にすることも」

私のアイデアに、リーナがぱっと顔を輝かせた。
「ジャムですって!素敵だわ!パンに塗ったり、お肉料理のソースにしたり、色々使えますもの!」
彼女は料理人としての想像力を掻き立てられているようだった。

ガンツも、髭を撫でながら口を開いた。
「なるほどな。嬢ちゃんの言う通りだ。素材のまま売るのは素人のやることだ。職人の手で付加価値をつける。商売の基本だな。よし、それならワシが、そのジャムとやらを入れるための、とびっきりのガラス瓶を作ってやろう」

皆の目が、一気に輝き始めた。
「俺たちが育てた野菜を乾燥させて、ハーブと混ぜれば、最高のスープの素ができるんじゃねえか?」
「ガンツさんが作った農具も、立派な特産品になりますぜ!」
次々とアイデアが飛び出し、広場は熱気に包まれた。

私たちは、まず手始めに、私が提案したジャムとジュース作りから着手することにした。
リーナと女性陣が、厨房で試作品作りに取り掛かる。私は、王宮の書物で得た知識を元に、最適な果実の配合や煮詰める時間を彼女たちに伝えた。

厨房には、甘く芳醇な香りが立ち込める。大鍋の中では、真っ赤な果実が砂糖と共に煮詰められ、ルビーのような輝きを放つジャムへと姿を変えていた。別の樽では、丁寧に絞られた果汁が、私の力を受けてゆっくりと発酵し、生命力に満ちたジュースへと熟成していく。

その間、ガンツは鍛冶場でガラス瓶の製作に挑んでいた。彼は交易で手に入れた砂と、泉の近くで採れる特殊な鉱石を使い、驚くべき技術で美しい透明な瓶を次々と作り上げていく。その手際は、まさに伝説の職人芸だった。

数日後、エデン初の特産品が完成した。
完成したジャムとジュースは、ガンツの作ったガラス瓶に詰められ、皆の前に披露された。瓶は太陽の光を受けてきらきらと輝き、中のジャムは宝石のように、ジュースは黄金のように見えた。

「さあ、皆で試食してみましょう」
私の声で、試食会が始まった。焼きたてのパンにジャムを塗って一口食べた者は、皆、言葉を失った。
「……なんだ、これは!美味すぎる!」
「甘いだけじゃない!口の中に、花の香りと太陽の味が広がるようだ!」

ジュースを飲んだ者たちの反応は、さらに劇的だった。
「うおおっ!力が、体中にみなぎってくる!」
「一日の疲れが、全部吹き飛んじまった!」
それはただの飲み物ではなかった。私の力が凝縮された、まさに『飲むポーション』と呼ぶべき代物だった。

大成功だった。
私は、この特産品にふさわしい名前を考えた。
「このジュースは、エデンの奇跡の泉から生まれた恵み。だから『エデンの雫』。そして、このジャムは、私たちの頭上に輝く太陽の恵みそのものです。だから、『太陽のジャム』と名付けましょう」

その名前は、皆の心にすっと染み渡った。
最後に、私は木を薄く削った札に、簡単な果実の絵と『Eden』という文字を焼き付け、瓶の首に紐で結びつけた。ささやかなラベルだったが、それは確かに、私たちの村が初めて生み出したブランドの証だった。

完成した特産品を手に、私たちは次の交易への期待に胸を膨らませた。
ギルバートは、そんな私の横顔を誇らしげに見つめながらも、内心で静かに呟いていた。
――この品が世に出れば、アリシア様の、そしてエデンの名は、もはや誰にも隠し通せなくなるだろう。
それは、彼の喜びであると同時に、新たな憂鬱の始まりでもあった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

あ、すみません。私が見ていたのはあなたではなく、別の方です。

秋月一花
恋愛
「すまないね、レディ。僕には愛しい婚約者がいるんだ。そんなに見つめられても、君とデートすることすら出来ないんだ」 「え? 私、あなたのことを見つめていませんけれど……?」 「なにを言っているんだい、さっきから熱い視線をむけていたじゃないかっ」 「あ、すみません。私が見ていたのはあなたではなく、別の方です」  あなたの護衛を見つめていました。だって好きなのだもの。見つめるくらいは許して欲しい。恋人になりたいなんて身分違いのことを考えないから、それだけはどうか。 「……やっぱり今日も格好いいわ、ライナルト様」  うっとりと呟く私に、ライナルト様はぎょっとしたような表情を浮かべて――それから、 「――俺のことが怖くないのか?」  と話し掛けられちゃった! これはライナルト様とお話しするチャンスなのでは?  よーし、せめてお友達になれるようにがんばろう!

夫が愛人を離れに囲っているようなので、私も念願の猫様をお迎えいたします

葉柚
恋愛
ユフィリア・マーマレード伯爵令嬢は、婚約者であるルードヴィッヒ・コンフィチュール辺境伯と無事に結婚式を挙げ、コンフィチュール伯爵夫人となったはずであった。 しかし、ユフィリアの夫となったルードヴィッヒはユフィリアと結婚する前から離れの屋敷に愛人を住まわせていたことが使用人たちの口から知らされた。 ルードヴィッヒはユフィリアには目もくれず、離れの屋敷で毎日過ごすばかり。結婚したというのにユフィリアはルードヴィッヒと簡単な挨拶は交わしてもちゃんとした言葉を交わすことはなかった。 ユフィリアは決意するのであった。 ルードヴィッヒが愛人を離れに囲うなら、自分は前々からお迎えしたかった猫様を自室に迎えて愛でると。 だが、ユフィリアの決意をルードヴィッヒに伝えると思いもよらぬ事態に……。

使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。気長に待っててください。月2くらいで更新したいとは思ってます。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

【完結】「異世界に召喚されたら聖女を名乗る女に冤罪をかけられ森に捨てられました。特殊スキルで育てたリンゴを食べて生き抜きます」

まほりろ
恋愛
※小説家になろう「異世界転生ジャンル」日間ランキング9位!2022/09/05 仕事からの帰り道、近所に住むセレブ女子大生と一緒に異世界に召喚された。 私たちを呼び出したのは中世ヨーロッパ風の世界に住むイケメン王子。 王子は美人女子大生に夢中になり彼女を本物の聖女と認定した。 冴えない見た目の私は、故郷で女子大生を脅迫していた冤罪をかけられ追放されてしまう。 本物の聖女は私だったのに……。この国が困ったことになっても助けてあげないんだから。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※小説家になろう先行投稿。カクヨム、エブリスタにも投稿予定。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

完璧すぎると言われ婚約破棄された令嬢、冷徹公爵と白い結婚したら選ばれ続けました

鷹 綾
恋愛
「君は完璧すぎて、可愛げがない」  その理不尽な理由で、王都の名門令嬢エリーカは婚約を破棄された。  努力も実績も、すべてを否定された――はずだった。  だが彼女は、嘆かなかった。  なぜなら婚約破棄は、自由の始まりだったから。  行き場を失ったエリーカを迎え入れたのは、  “冷徹”と噂される隣国の公爵アンクレイブ。  条件はただ一つ――白い結婚。  感情を交えない、合理的な契約。  それが最善のはずだった。  しかし、エリーカの有能さは次第に国を変え、  彼女自身もまた「役割」ではなく「選択」で生きるようになる。  気づけば、冷徹だった公爵は彼女を誰よりも尊重し、  誰よりも守り、誰よりも――選び続けていた。  一方、彼女を捨てた元婚約者と王都は、  エリーカを失ったことで、静かに崩れていく。  婚約破棄ざまぁ×白い結婚×溺愛。  完璧すぎる令嬢が、“選ばれる側”から“選ぶ側”へ。  これは、復讐ではなく、  選ばれ続ける未来を手に入れた物語。 ---

覚えてないけど婚約者に嫌われて首を吊ってたみたいです。

kieiku
恋愛
いやいやいやいや、死ぬ前に婚約破棄! 婚約破棄しよう!

「何の取り柄もない姉より、妹をよこせ」と婚約破棄されましたが、妹を守るためなら私は「国一番の淑女」にでも這い上がってみせます

放浪人
恋愛
「何の取り柄もない姉はいらない。代わりに美しい妹をよこせ」 没落伯爵令嬢のアリアは、婚約者からそう告げられ、借金のカタに最愛の妹を奪われそうになる。 絶望の中、彼女が頼ったのは『氷の公爵』と恐れられる冷徹な男、クラウスだった。 「私の命、能力、生涯すべてを差し上げます。だから金を貸してください!」 妹を守るため、悪魔のような公爵と契約を結んだアリア。 彼女に課せられたのは、地獄のような淑女教育と、危険な陰謀が渦巻く社交界への潜入だった。 しかし、アリアは持ち前の『瞬間記憶能力』と『度胸』を武器に覚醒する。 自分を捨てた元婚約者を論破して地獄へ叩き落とし、意地悪なライバル令嬢を返り討ちにし、やがては国の危機さえも救う『国一番の淑女』へと駆け上がっていく! 一方、冷酷だと思われていた公爵は、泥の中でも強く咲くアリアの姿に心を奪われ――? 「お前がいない世界など不要だ」 契約から始まった関係が、やがて国中を巻き込む極上の溺愛へと変わる。 地味で無能と呼ばれた令嬢が、最強の旦那様と幸せを掴み取る、痛快・大逆転シンデレラストーリー!

処理中です...