元・異世界一般人(Lv.1)、現代にて全ステータスカンストで転生したので、好き放題やらせていただきます

夏見ナイ

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第三話:選択肢は無限大 - 退屈なんて、ぶっ壊してやる

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体力測定の翌日、俺、神崎蓮を取り巻く状況は、さらに加熱していた。
登校すると、下駄箱には昨日以上の手紙が詰め込まれていた。内容は様々で、ラブレターらしきものもあれば、やはり運動部からの熱烈な勧誘が多い。中には、文化部からの勧誘や、よく分からない同好会からの誘いまであった。

「……すごい量だね、神崎君」
隣で靴を履き替えていた橘葵が、呆れたように呟いた。彼女の周りにも、数通の手紙が見える。おそらく、彼女も運動部から注目されているのだろう。

「まあ、予想はしていたが」
手紙の束を無造作に鞄にしまいながら答える。一枚一枚に目を通す気にもなれない。どうせ、似たような内容だろう。

「昨日、本当にすごかったもんね……。特に50m走と走り幅跳び! あれ、本当に人間技?」
葵は興奮気味に、昨日の測定のことを振り返る。その瞳には、疑いよりも純粋な驚きと賞賛の色が濃い。単純で素直な性格なのだろう。

「あれくらい、普通だろう」
「普通じゃないよ! 絶対! ねぇ、神崎君、何か部活入るの? あれだけの才能、勿体ないよ!」
「さて、どうしようかな。選択肢が多すぎて、逆に迷うな」
わざとらしく肩を竦めて見せる。

「むー……。もしよかったら、陸上部、見学に来ない? きっと、神崎君ならすぐにエースだよ!」
葵が、少し期待するような目で俺を見る。彼女自身が陸上部に入るつもりなのだろう。

「陸上部か。悪くないかもしれないな。まあ、気が向いたら覗いてみるよ」
曖昧に返事をすると、葵は少し残念そうな顔をしたが、「うん、待ってる!」とすぐに笑顔になった。

教室に入ると、やはり視線が集まる。昨日までは遠巻きに見ていた生徒たちも、今日は何人かが直接話しかけてきた。
「神崎、昨日のアレ、マジかよ?」
「どんなトレーニングしてるんだ?」
「どこの部活入るか決めたのか?」
質問攻めにあうが、適当にはぐらかしておく。今のところ、特定の部活に肩入れするつもりはない。

昼休み。
昼食は、神崎家専属のシェフが作った特製弁当を持参している。それを教室で食べていると、またしても人だかりができた。中身に興味があるのか、あるいは単に俺と話したいだけなのか。

「神崎君のお弁当、すごい豪華……」
「毎日これ食べてるの?」
「一口くれない?」
女子生徒たちが、きゃっきゃと騒いでいる。エルヴィンだった頃には考えられなかった状況だ。これもまた、神崎蓮というスペックの一部なのだろう。

「悪いが、これは俺のだ」
きっぱりと断ると、彼女たちは「ケチー」とか言いながらも、どこか嬉しそうだ。よく分からない感覚だが、これも現代日本のコミュニケーションの一環なのかもしれない。

午後の授業が始まる前、少し時間があったので、昨日勧誘を受けた部活動のいくつかを冷やかし半分で覗いてみることにした。

まずは、体育館で行われていたバスケットボール部の練習。
ちょうど新入生向けのミニゲームをやっていた。飛び入りで参加させてもらう。

ボールを受け取る。ドリブルをつく。その感覚が、手に取るように分かる。身体が、次にどう動けば最適なのかを瞬時に理解している。
軽々と相手ディフェンスを抜き去り、ゴール下へ。そして、跳躍。
リングが、思ったよりもずっと近くに見えた。

ダンクシュート。

ボールがリングに叩きつけられ、体育館に派手な音が響き渡る。
一瞬の静寂の後、体育館中からどよめきが起こった。

「おいおい、ダンクだと!?」
「新入生が!?」
「しかも、あの高さ……!」
上級生も、顧問の教師も、信じられないといった表情で俺を見ている。

「なかなか面白いな、バスケットボールも」
涼しい顔で呟き、ボールを近くにいた部員に返す。
「また気が向いたら来るよ」
そう言い残し、唖然とする彼らを尻目に体育館を後にした。

次に訪れたのは、音楽室。吹奏楽部と軽音楽部が活動しているようだ。
ピアノが置いてあったので、少し借りることにした。

鍵盤に指を置く。
エルヴィンの記憶には、村祭りで聞いた素朴な笛の音くらいしかない。だが、神崎蓮の記憶と、転生時に与えられた才能には、あらゆる音楽理論と演奏技術が含まれていた。

指が、勝手に動き出すように滑らかに鍵盤の上を舞う。
ショパンの『英雄ポロネーズ』。超絶技巧が要求される難曲だが、俺にとっては赤子の手をひねるようなものだった。
完璧なタッチ、完璧なリズム、完璧な表現力。ホールで聴くプロの演奏と何ら遜色ない、いや、それ以上の演奏が、古びたアップライトピアノから紡ぎ出されていく。

音楽室にいた部員たちは、完全に演奏に聴き入っていた。曲が終わると、拍手さえ忘れ、ただ呆然と俺を見つめている。
「……君は、一体……?」
吹奏楽部の顧問らしき女性教師が、震える声で尋ねてきた。

「通りすがりの音楽愛好家ですよ」
にこやかに答え、ピアノの蓋を閉める。
「素晴らしいピアノでした。ありがとう」
一礼して、音楽室を後にする。背後で、誰かが「天才だ……」と呟くのが聞こえた。

美術室も覗いてみた。
イーゼルに立てかけられた描きかけのキャンバスと、油絵の具の匂い。
隅にあったスケッチブックと鉛筆を借り、窓の外に見える中庭の風景を描き始める。

完全記憶能力と、芸術的才能の融合。
見たままの風景が、寸分の狂いもなく、しかし単なる写実を超えた芸術性を持って、紙の上に再現されていく。光と影の表現、遠近法、繊icitsuの質感。全てが完璧だ。

十分も経たないうちに、写真と見紛うほどの精密な風景画が完成した。
「……信じられない……」
美術部の生徒の一人が、息を呑んで呟く。
「これ、本当に鉛筆だけで描いたの……?」

「ああ。少し、手慰みにね」
スケッチブックを返し、美術室を後にする。ここでも、俺は伝説を残してしまったようだ。

(ふむ、どの分野でもトップレベル、か。まさに全ステータス・カンストだな)

いくつかの部活を回った結果、自分の才能の汎用性と高さを再認識した。
どの道を選んでも、頂点に立てるだろう。だが、だからこそ、一つに絞るのが勿体なく感じる。

(まあ、焦る必要はないか)

学園生活はまだ始まったばかりだ。
部活動に精を出すのもいいが、もっと他にやるべきこと、やりたいこともある。

例えば、知識の探求。
この世界の科学技術は、エルヴィンのいた世界とは比べ物にならないほど進んでいる。だが、それでもまだ、俺の頭脳から見れば、発展の余地はいくらでもあるように思える。
完全記憶能力で得た膨大な知識と、異世界での経験(例えば、魔法の概念など)を組み合わせれば、何か面白いことができるかもしれない。

例えば、資産形成。
神崎グループの御曹司という立場は、既に莫大なアドバンテージだ。だが、自分の力だけで富を築くというのも、それはそれで面白い挑戦だろう。株式投資、起業……やり方はいくらでもある。前世では日々の食費にも困窮していたのだ。金の力というものを、存分に味わってみたい。

(まずは、手始めに……ネットの世界でも覗いてみるか)

現代日本の情報網。これもまた、有効なツールになるはずだ。

放課後。
部活動には参加せず、俺は学園の図書室へと向かった。
帝聖学園の図書室は、大学の図書館にも匹敵するほどの規模と蔵書数を誇る。静かで、知識を得るには最適な場所だ。

様々な分野の本棚を眺めながら歩く。物理学、化学、生物学、情報工学、経済学、歴史、哲学……どの本も、一度目を通せば完全に内容を記憶し、理解できる。この能力は、まさに知識の探求のためにあるようなものだ。

ふと、窓際の席で静かに本を読んでいる女子生徒に目が留まった。
腰まで届く長い黒髪。透き通るように白い肌。伏せられた睫毛が長く、儚げな雰囲気を醸し出している。まるで、物語の中から抜け出してきたような美少女だった。
確か、クラス名簿で見た名前は、白鳥 栞(しらとり しおり)。ホームルームでの自己紹介では、ほとんど声を発さず、読書が好きだとだけ言っていた、ミステリアスな印象の生徒だ。

彼女が読んでいるのは、難解そうな哲学書のようだった。
俺が近くの席に座っても、彼女は全く気づく様子がない。本の世界に深く没入しているのだろう。

(彼女もまた、面白い存在かもしれないな)

しばらくの間、俺も適当な専門書を手に取り、読書に没頭した。
驚異的なスピードでページをめくり、内容を吸収していく。数時間もあれば、この図書室の蔵書の大部分を記憶することも可能だろう。

日が傾き、閉館時間が近づいてきた頃、俺は図書室を後にした。
白鳥栞は、まだ同じ場所で本を読み続けていた。

帰り道、スマートフォンを取り出し、ネットニュースやSNSをチェックする。
世の中の動き、トレンド、人々の関心事。それらを把握しておくことは重要だ。

(さて、そろそろ仕掛けてみるか)

前世では持ち得なかった知識と、現世で手に入れた最高の頭脳。
これらを組み合わせれば、この現代社会でさえ、俺の意のままに動かすことができるかもしれない。

まずは小手調べだ。
匿名で、いくつかの技術系フォーラムや投資家向けのSNSに、意図的に高度な情報や、未来を示唆するような予測を書き込んでみる。荒唐無稽に聞こえるかもしれないが、その中には、紛れもない「真実」を混ぜ込んでおく。

これが、どんな波紋を呼ぶか。
退屈な日常に、最初の石を投じてみる。

(さあ、ショータイムの始まりだ)

夜空に輝き始めた星々を見上げながら、神崎蓮は不敵な笑みを浮かべた。
彼の「好き放題」な人生は、まだ始まったばかり。学園という小さな箱庭だけでなく、より広大な世界へと、その影響力を広げようとしていた。
明日は、どんな「普通じゃない」一日になるだろうか。想像するだけで、胸が躍った。
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