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第2話:ファースト・モンスターは最弱スライム? いいえ、最適化対象です。
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がらんとした石造りの空間。これが俺の城であり、仕事場であり、そしておそらく家にもなる場所だ。広さは10メートル四方、高さ3メートルほど。壁、床、天井は灰色がかった石材で、継ぎ目のようなものは見当たらない。魔法で作られただけあって、妙に滑らかな表面をしている。
「さて、コア。まずはこの部屋の仕様を確認したい。材質、強度、魔力的な特性など、分かる範囲で教えてくれ。」
『了解しました、マスター。現在のダンジョン壁面は、周辺の土壌と魔力を圧縮・硬化させた複合素材で構成されています。強度は一般的な岩盤程度。魔力伝導性は低く、外部からの魔力干渉をある程度遮断します。ただし、強力な物理攻撃や高密度の魔力攻撃には耐えられません。』
「ふむ…岩盤程度か。当面の防御壁としては十分だが、将来的には強化が必要だな。魔力伝導性が低いのは、コアの隠匿には都合がいいか。」
俺は壁をコンコンと叩いてみる。硬質な感触。ひんやりとしている。
「次に、この部屋のレイアウトだが…現状、入口はどこになるんだ?」
『マスターが地上から降りてきた地点が、仮設の入口となります。現在は階段状になっていますが、形状変更や不可視化設定も可能です。』
「コア安置室は、この部屋そのもの、ということでいいのか?」
『はい。ダンジョンコアである私は、ダンジョン内の任意の場所に移動可能ですが、初期状態ではこの最初の部屋がコアのデフォルト位置となります。マスターの指示があれば、専用のコア室を別途作成することも可能です。』
「なるほどな…」
現状は、地上からの入口 → コア安置室(この部屋)という、一直線のシンプルな構造だ。これは防衛上、非常によろしくない。侵入者が一直線にコアまで到達できてしまう。
(コアはダンジョンの心臓部だ。最優先で保護しなければならない。システムで言えば、最も重要なデータベースサーバーだな。アクセス経路は限定し、多重のファイアウォールで守るべきだ。)
最低でも、コア安置室はこの部屋の奥に別途設け、そこに至る通路は複数に分岐させたり、罠を集中させたりする必要があるだろう。だが、それにはDPが必要だ。
「現状のDPは…残り950か。部屋を作っただけで50消費したからな。」
初期DP1000は、あっという間に消えてしまいそうだ。無駄遣いはできない。
(優先順位を考えよう。現状の課題は…)
1. **情報収集:** 周辺状況、特に潜在的な脅威(モンスター、冒険者)に関する情報が不足している。
2. **防衛力強化:** 最低限の迎撃能力がないと、コアが危険に晒される。
3. **DP獲得手段の確立:** 安定してDPを稼ぐ仕組みが必要。
(情報収集は…コアの索敵範囲を広げるか、斥候役のモンスターが必要か。防衛力強化には、罠とモンスター。DP獲得は、自然吸収だけでは心許ない。やはり侵入者を撃退する必要がある。)
どれも重要だが、相互に関連している。罠やモンスターを配置するにはDPが必要で、そのDPを稼ぐためには侵入者を撃退する必要がある。だが、迎撃能力がないと侵入者にコアをやられてしまう。鶏が先か、卵が先か、という状況に近い。
(いや、違うな。これはリソース配分の問題だ。初期投資として、まず最低限の防衛力を確保するのが先決だろう。プロジェクト開始時に、まず開発環境とバージョン管理システムを整えるようなものだ。)
最低限の防衛力…となると、やはりモンスターか。
「コア、モンスター召喚について詳細を教えてくれ。現在召喚可能なモンスターとそのコスト、維持費は?」
『了解しました。現在、マスターが召喚可能なモンスターは「スライム」のみです。召喚コストは1体あたり10DP。維持費は、ダンジョン内にいる限り基本的に不要ですが、活発に活動させる場合は微量の魔力(DP換算で1日あたり0.1DP程度)を消費します。』
「スライム…1体10DPか。安いな。能力は?」
『スライム:最弱級モンスター。ゲル状の身体を持ち、物理攻撃はほぼ無効。ただし、攻撃力、防御力、移動速度ともに極めて低い。特殊能力として「溶解液(微弱)」「体分裂(低確率)」を持ちますが、制御は困難です。知性はほとんどありません。』
コアの説明を聞きながら、俺は眉間に皺を寄せた。
最弱。攻撃力、防御力、移動速度、全て低い。知性もない。…正直、戦力としては全く期待できそうにない。まさにシステム開発における「Hello World」レベルの存在か。
(だが、10DPというコストは魅力だ。950DPあれば、95体召喚できる計算になる。数で押す…いや、弱いものをいくら集めても、効率が悪い。)
普通のダンジョンマスターなら、ここでDPを貯めて、もっと強いモンスターを召喚できるようにダンジョンレベルを上げることを考えるだろう。だが、俺は違うアプローチを試してみたくなった。
(どんなシステムにも、どんなツールにも、必ず使い道はあるはずだ。問題は、その特性を理解し、最適な役割を与えることだ。)
「コア、スライムを1体、召喚してくれ。」
『承知いたしました。スライムを1体召喚します。コスト10DP。』
コアが再び淡く光ると、部屋の中央の床に、ぶるぶると震える半透明のゼリー状の塊が出現した。大きさはバスケットボールくらいだろうか。色は無色透明に近い。時折、表面がぷるんと揺れる。
これが、スライムか。確かに、強そうには見えない。むしろ、か弱さすら感じる。
俺はゆっくりと近づき、しゃがみこんで観察する。
スライムは、俺の接近に気づいたのか、わずかに身を震わせた。敵意は感じられない。ただ、そこに存在している、というだけだ。
(物理攻撃ほぼ無効…これは使い方によってはメリットになるな。溶解液(微弱)…掃除くらいには使えるか? 体分裂…勝手に増えられても管理が面倒だが、コントロールできれば面白いかもしれない。)
じっと見つめていると、スライムがゆっくりと、本当にゆっくりと、俺の方に滲り寄ってきた。まるで、生まれたての雛鳥が親を求めるかのように。
(…知性はほとんどない、とコアは言ったが、全くゼロというわけでもなさそうだ。簡単な命令なら理解できるかもしれない。)
俺は試しに、指で床の隅を指差してみた。
「おい、あっちへ行ってみろ。」
スライムは、ぴたりと動きを止めた。数秒の沈黙の後、俺が指差した方向へ、のそりのそりと移動を始めた。驚くほど遅いが、確かに指示に従っている。
(なるほど。単純な指示なら通るか。)
次に、俺は自分の足元を指差した。
「今度はこっちだ。」
スライムは再び方向転換し、ゆっくりと戻ってくる。健気というか、なんというか…。
(この動きの遅さは致命的だが…戦闘以外ならどうだ?)
俺は、ダンジョン作成時に飛び散った微細な土埃が溜まっている壁際を指差した。
「あそこを、綺麗にしてみてくれ。」
スライムは、また少しの間を置いてから、壁際へ移動し、土埃に体当たりするように、もぞもぞと動き始めた。すると、どうだろう。スライムが通過した後の床は、土埃が綺麗に取り除かれ、僅かに湿り気を帯びている。溶解液の効果だろうか。
(これは…使える!)
俺の脳内で、一つの活用案が形になり始めた。
(このスライムに、ダンジョン内の清掃を担当させるのはどうだ? ダンジョン内が清潔に保たれれば、不潔な環境を好む害虫のようなモンスターの侵入を防げるかもしれないし、何より精神衛生上良い。床が綺麗なら、罠の作動にも影響が出にくいだろう。)
さらに、思考を巡らせる。
(移動は遅いが、特定の場所まで物を運ぶことはできるかもしれない。例えば、侵入者が落としたアイテムや、ダンジョン内で採取した素材を、特定の保管場所まで運ばせる…とか。)
(物理攻撃無効という特性は、罠の補助にも使えそうだ。例えば、落とし穴の底に配置しておけば、落下ダメージはないが、粘着性のある体で侵入者の動きを阻害できるかもしれない。潤滑油のように働かせて、特定の床を滑りやすくすることも…?)
(警報システムとしても使えるかもしれない。特定の通路に配置しておき、侵入者が通過したら、コアを通じて俺に知らせるように設定するとか…。)
考えれば考えるほど、スライムの可能性が広がっていく。最弱モンスター? とんでもない。こいつは、ダンジョン運営におけるマルチツールになり得る逸材だ。
「よし、お前、今日から『スラきち』だ。」
俺は、目の前のスライムに声をかけた。
『…?』
スライムは、ぷるんと体を揺らした。理解したのかどうかは分からないが、悪い気はしていないように見えた。
「コア、この個体…スラきちに、清掃タスクを割り当てる。まずはこの部屋全体を綺麗にするように指示してくれ。隅々までだぞ。」
『了解しました、マスター。スライム個体識別名「スラきち」に、現区画の清掃タスクを付与します。』
コアが指示を伝えると、スラきちは早速、部屋の隅から順に、ゆっくりとだが着実に床を舐めるように移動し始めた。その姿は、まるで自動清掃ロボットのようだ。いや、生物だからバイオクリーナーと呼ぶべきか。
(動きは遅いが、文句も言わず、黙々と作業をこなす。維持費も安い。素晴らしいじゃないか。)
前世で、深夜のオフィスで一人、空調の止まったサーバー室の床掃除をした経験を思い出す。あの時、スラきちがいれば…いや、考えるのはやめよう。
「さて、スラきちが掃除してくれている間に、次の手を打つか。」
残るDPは940。
防衛力の要となる、罠の設置だ。
「コア、現在設置可能な罠は落とし穴だけだったな。コストと効果は?」
『罠設置(落とし穴)Lv.1:コスト50DP。指定した床に、深さ3メートル、1メートル四方の穴を生成します。落下によるダメージと、一時的な行動阻害効果が期待できます。』
「50DPか…思ったより高いな。まあ、床をくり抜くんだから、そんなものか。」
深さ3メートル。落ちればそれなりのダメージにはなるだろうが、致命傷にはならないかもしれない。這い上がることも可能だろう。
(これ単体では、効果が薄いな。やはり、他の要素と組み合わせるべきだ。例えば、穴の底に毒針を仕込んだり、今のスラきちのように、粘着性のあるモンスターを配置したり…)
だが、それらも追加のDPや、別のモンスターが必要になる。今は、シンプルに落とし穴を設置するしかない。
(問題は、どこに設置するかだ。)
コア安置室(この部屋)への入口通路に設置するのがセオリーだろう。だが、現状は入口からこの部屋まで一直線だ。どこに設置しても、警戒されれば簡単に見破られてしまう可能性がある。
(いや、待てよ。見破られてもいいのかもしれない。)
SE的な思考が働く。
罠の目的は、必ずしも侵入者を完全に排除することだけではない。
* **遅延:** 侵入者の進行速度を遅らせる。
* **分断:** パーティを組んでいる場合、メンバーを分断する。
* **消耗:** 体力や精神力を削る。
* **情報:** 罠にかかった時の反応を見ることで、侵入者の能力や警戒レベルを探る。
* **誘導:** 罠を避けるように動かすことで、別の罠やモンスターがいるエリアへ誘導する。
(そうだ。落とし穴は、あくまで一次的な障害物、あるいはデバフ効果として考えよう。これをトリガーとして、別の何かを発動させる…そういう設計思想が必要だ。)
「コア、入口からこの部屋に至る通路を、少しだけ長くして、緩やかなカーブをつけられるか? コストは?」
『通路の延長(5メートル)と形状変更(緩カーブ)ですね。コストは20DPです。』
「よし、実行してくれ。そして、そのカーブの死角になるあたりに、落とし穴を設置する。」
『承知いたしました。通路の改修、及び落とし穴の設置を実行します。合計コスト70DP。』
コアの指示で、ダンジョンの構造が再び変化していく。入口からこの部屋までの距離が少し伸び、緩やかに左へカーブする通路が形成された。そして、そのカーブを曲がった直後の床に、落とし穴が設置された。巧妙に隠蔽されており、注意深く見なければ気づかないだろう。
これで、残りのDPは870。
通路を改修し、罠を一つ設置した。スラきちが掃除をしている。
少しだけ、ダンジョンらしくなってきた気がする。
「ふぅ…」
一息ついて、床にあぐらをかく。コアは変わらず俺の近くに浮かび、スラきちは黙々と床を磨いている。静かで、平和な時間だ。
(だが、これで終わりじゃない。むしろ、始まりだ。)
罠はまだ一つだけ。モンスターもスラきち一体。これでは、ちょっと腕の立つゴブリンにすら突破されかねない。
(次は、どうする? もっと罠を増やすか? スライムを増やすか? いや、やはりもう少し攻撃力のあるモンスターが欲しいところだが…)
スライム以外のモンスターを召喚するには、ダンジョンレベルを上げる必要があるのかもしれない。レベルアップの条件は何だろうか?
「コア、ダンジョンレベルについて教えてくれ。レベルアップの条件と、メリットは?」
『ダンジョンレベルは、ダンジョンの総合的な規模や発展度を示す指標です。レベルアップの条件は、一定量のDP蓄積、特定の施設の設置、または特定の試練の達成など、複数存在すると考えられますが、現時点では詳細不明です。レベルアップによるメリットは、召喚可能なモンスターや設置可能な罠の種類が増加、ダンジョン拡張可能範囲の拡大、コアの機能向上などが期待されます。』
「詳細不明、か。まあ、そうだろうな。手探りで進めるしかないか。」
まずはDPを貯めるのが近道だろう。それには、侵入者を待つしかない。
「コア、地上への入口は、念のため不可視化設定にしておいてくれ。」
『了解しました。ダンジョン入口を不可視化します。ただし、魔力感知能力の高い存在には看破される可能性があります。』
「ないよりはマシだろう。」
これで、できる限りの準備はした。あとは、最初の「顧客」――つまり侵入者を待つだけだ。
俺は壁に背を預け、目を閉じた。
前世の過酷な日々が嘘のように、今は静かで穏やかな時間が流れている。だが、これは嵐の前の静けさなのかもしれない。
(まあ、どんな問題が発生しても、分析して、仮説を立てて、検証して、修正すればいい。デバッグ作業だと思えば、慣れたものだ。)
そんなことを考えていると、不意にコアが声をかけてきた。
『マスター。スラきちの清掃タスクが完了しました。非常に綺麗になりました。』
目を開けると、部屋の床が文字通りピカピカに輝いていた。スラきちが、俺の足元で満足げに(?)ぷるぷると震えている。
「おお、ご苦労、スラきち。」
俺は、つい、スラきちの頭(?)を撫でていた。ひんやりとして、弾力のある感触。悪くない。
『…マスター、次の指示を。』
コアが促す。
そうだ。休んでばかりもいられない。やるべきことは、まだある。
「よし、コア。索敵範囲を最大にして、周辺の警戒を頼む。何か動きがあれば、すぐに知らせてくれ。」
『承知いたしました。索敵を開始します。』
コアの輝きがわずかに強くなる。ダンジョンマスターとしての、本当の仕事が、いよいよ始まろうとしていた。
「さて、コア。まずはこの部屋の仕様を確認したい。材質、強度、魔力的な特性など、分かる範囲で教えてくれ。」
『了解しました、マスター。現在のダンジョン壁面は、周辺の土壌と魔力を圧縮・硬化させた複合素材で構成されています。強度は一般的な岩盤程度。魔力伝導性は低く、外部からの魔力干渉をある程度遮断します。ただし、強力な物理攻撃や高密度の魔力攻撃には耐えられません。』
「ふむ…岩盤程度か。当面の防御壁としては十分だが、将来的には強化が必要だな。魔力伝導性が低いのは、コアの隠匿には都合がいいか。」
俺は壁をコンコンと叩いてみる。硬質な感触。ひんやりとしている。
「次に、この部屋のレイアウトだが…現状、入口はどこになるんだ?」
『マスターが地上から降りてきた地点が、仮設の入口となります。現在は階段状になっていますが、形状変更や不可視化設定も可能です。』
「コア安置室は、この部屋そのもの、ということでいいのか?」
『はい。ダンジョンコアである私は、ダンジョン内の任意の場所に移動可能ですが、初期状態ではこの最初の部屋がコアのデフォルト位置となります。マスターの指示があれば、専用のコア室を別途作成することも可能です。』
「なるほどな…」
現状は、地上からの入口 → コア安置室(この部屋)という、一直線のシンプルな構造だ。これは防衛上、非常によろしくない。侵入者が一直線にコアまで到達できてしまう。
(コアはダンジョンの心臓部だ。最優先で保護しなければならない。システムで言えば、最も重要なデータベースサーバーだな。アクセス経路は限定し、多重のファイアウォールで守るべきだ。)
最低でも、コア安置室はこの部屋の奥に別途設け、そこに至る通路は複数に分岐させたり、罠を集中させたりする必要があるだろう。だが、それにはDPが必要だ。
「現状のDPは…残り950か。部屋を作っただけで50消費したからな。」
初期DP1000は、あっという間に消えてしまいそうだ。無駄遣いはできない。
(優先順位を考えよう。現状の課題は…)
1. **情報収集:** 周辺状況、特に潜在的な脅威(モンスター、冒険者)に関する情報が不足している。
2. **防衛力強化:** 最低限の迎撃能力がないと、コアが危険に晒される。
3. **DP獲得手段の確立:** 安定してDPを稼ぐ仕組みが必要。
(情報収集は…コアの索敵範囲を広げるか、斥候役のモンスターが必要か。防衛力強化には、罠とモンスター。DP獲得は、自然吸収だけでは心許ない。やはり侵入者を撃退する必要がある。)
どれも重要だが、相互に関連している。罠やモンスターを配置するにはDPが必要で、そのDPを稼ぐためには侵入者を撃退する必要がある。だが、迎撃能力がないと侵入者にコアをやられてしまう。鶏が先か、卵が先か、という状況に近い。
(いや、違うな。これはリソース配分の問題だ。初期投資として、まず最低限の防衛力を確保するのが先決だろう。プロジェクト開始時に、まず開発環境とバージョン管理システムを整えるようなものだ。)
最低限の防衛力…となると、やはりモンスターか。
「コア、モンスター召喚について詳細を教えてくれ。現在召喚可能なモンスターとそのコスト、維持費は?」
『了解しました。現在、マスターが召喚可能なモンスターは「スライム」のみです。召喚コストは1体あたり10DP。維持費は、ダンジョン内にいる限り基本的に不要ですが、活発に活動させる場合は微量の魔力(DP換算で1日あたり0.1DP程度)を消費します。』
「スライム…1体10DPか。安いな。能力は?」
『スライム:最弱級モンスター。ゲル状の身体を持ち、物理攻撃はほぼ無効。ただし、攻撃力、防御力、移動速度ともに極めて低い。特殊能力として「溶解液(微弱)」「体分裂(低確率)」を持ちますが、制御は困難です。知性はほとんどありません。』
コアの説明を聞きながら、俺は眉間に皺を寄せた。
最弱。攻撃力、防御力、移動速度、全て低い。知性もない。…正直、戦力としては全く期待できそうにない。まさにシステム開発における「Hello World」レベルの存在か。
(だが、10DPというコストは魅力だ。950DPあれば、95体召喚できる計算になる。数で押す…いや、弱いものをいくら集めても、効率が悪い。)
普通のダンジョンマスターなら、ここでDPを貯めて、もっと強いモンスターを召喚できるようにダンジョンレベルを上げることを考えるだろう。だが、俺は違うアプローチを試してみたくなった。
(どんなシステムにも、どんなツールにも、必ず使い道はあるはずだ。問題は、その特性を理解し、最適な役割を与えることだ。)
「コア、スライムを1体、召喚してくれ。」
『承知いたしました。スライムを1体召喚します。コスト10DP。』
コアが再び淡く光ると、部屋の中央の床に、ぶるぶると震える半透明のゼリー状の塊が出現した。大きさはバスケットボールくらいだろうか。色は無色透明に近い。時折、表面がぷるんと揺れる。
これが、スライムか。確かに、強そうには見えない。むしろ、か弱さすら感じる。
俺はゆっくりと近づき、しゃがみこんで観察する。
スライムは、俺の接近に気づいたのか、わずかに身を震わせた。敵意は感じられない。ただ、そこに存在している、というだけだ。
(物理攻撃ほぼ無効…これは使い方によってはメリットになるな。溶解液(微弱)…掃除くらいには使えるか? 体分裂…勝手に増えられても管理が面倒だが、コントロールできれば面白いかもしれない。)
じっと見つめていると、スライムがゆっくりと、本当にゆっくりと、俺の方に滲り寄ってきた。まるで、生まれたての雛鳥が親を求めるかのように。
(…知性はほとんどない、とコアは言ったが、全くゼロというわけでもなさそうだ。簡単な命令なら理解できるかもしれない。)
俺は試しに、指で床の隅を指差してみた。
「おい、あっちへ行ってみろ。」
スライムは、ぴたりと動きを止めた。数秒の沈黙の後、俺が指差した方向へ、のそりのそりと移動を始めた。驚くほど遅いが、確かに指示に従っている。
(なるほど。単純な指示なら通るか。)
次に、俺は自分の足元を指差した。
「今度はこっちだ。」
スライムは再び方向転換し、ゆっくりと戻ってくる。健気というか、なんというか…。
(この動きの遅さは致命的だが…戦闘以外ならどうだ?)
俺は、ダンジョン作成時に飛び散った微細な土埃が溜まっている壁際を指差した。
「あそこを、綺麗にしてみてくれ。」
スライムは、また少しの間を置いてから、壁際へ移動し、土埃に体当たりするように、もぞもぞと動き始めた。すると、どうだろう。スライムが通過した後の床は、土埃が綺麗に取り除かれ、僅かに湿り気を帯びている。溶解液の効果だろうか。
(これは…使える!)
俺の脳内で、一つの活用案が形になり始めた。
(このスライムに、ダンジョン内の清掃を担当させるのはどうだ? ダンジョン内が清潔に保たれれば、不潔な環境を好む害虫のようなモンスターの侵入を防げるかもしれないし、何より精神衛生上良い。床が綺麗なら、罠の作動にも影響が出にくいだろう。)
さらに、思考を巡らせる。
(移動は遅いが、特定の場所まで物を運ぶことはできるかもしれない。例えば、侵入者が落としたアイテムや、ダンジョン内で採取した素材を、特定の保管場所まで運ばせる…とか。)
(物理攻撃無効という特性は、罠の補助にも使えそうだ。例えば、落とし穴の底に配置しておけば、落下ダメージはないが、粘着性のある体で侵入者の動きを阻害できるかもしれない。潤滑油のように働かせて、特定の床を滑りやすくすることも…?)
(警報システムとしても使えるかもしれない。特定の通路に配置しておき、侵入者が通過したら、コアを通じて俺に知らせるように設定するとか…。)
考えれば考えるほど、スライムの可能性が広がっていく。最弱モンスター? とんでもない。こいつは、ダンジョン運営におけるマルチツールになり得る逸材だ。
「よし、お前、今日から『スラきち』だ。」
俺は、目の前のスライムに声をかけた。
『…?』
スライムは、ぷるんと体を揺らした。理解したのかどうかは分からないが、悪い気はしていないように見えた。
「コア、この個体…スラきちに、清掃タスクを割り当てる。まずはこの部屋全体を綺麗にするように指示してくれ。隅々までだぞ。」
『了解しました、マスター。スライム個体識別名「スラきち」に、現区画の清掃タスクを付与します。』
コアが指示を伝えると、スラきちは早速、部屋の隅から順に、ゆっくりとだが着実に床を舐めるように移動し始めた。その姿は、まるで自動清掃ロボットのようだ。いや、生物だからバイオクリーナーと呼ぶべきか。
(動きは遅いが、文句も言わず、黙々と作業をこなす。維持費も安い。素晴らしいじゃないか。)
前世で、深夜のオフィスで一人、空調の止まったサーバー室の床掃除をした経験を思い出す。あの時、スラきちがいれば…いや、考えるのはやめよう。
「さて、スラきちが掃除してくれている間に、次の手を打つか。」
残るDPは940。
防衛力の要となる、罠の設置だ。
「コア、現在設置可能な罠は落とし穴だけだったな。コストと効果は?」
『罠設置(落とし穴)Lv.1:コスト50DP。指定した床に、深さ3メートル、1メートル四方の穴を生成します。落下によるダメージと、一時的な行動阻害効果が期待できます。』
「50DPか…思ったより高いな。まあ、床をくり抜くんだから、そんなものか。」
深さ3メートル。落ちればそれなりのダメージにはなるだろうが、致命傷にはならないかもしれない。這い上がることも可能だろう。
(これ単体では、効果が薄いな。やはり、他の要素と組み合わせるべきだ。例えば、穴の底に毒針を仕込んだり、今のスラきちのように、粘着性のあるモンスターを配置したり…)
だが、それらも追加のDPや、別のモンスターが必要になる。今は、シンプルに落とし穴を設置するしかない。
(問題は、どこに設置するかだ。)
コア安置室(この部屋)への入口通路に設置するのがセオリーだろう。だが、現状は入口からこの部屋まで一直線だ。どこに設置しても、警戒されれば簡単に見破られてしまう可能性がある。
(いや、待てよ。見破られてもいいのかもしれない。)
SE的な思考が働く。
罠の目的は、必ずしも侵入者を完全に排除することだけではない。
* **遅延:** 侵入者の進行速度を遅らせる。
* **分断:** パーティを組んでいる場合、メンバーを分断する。
* **消耗:** 体力や精神力を削る。
* **情報:** 罠にかかった時の反応を見ることで、侵入者の能力や警戒レベルを探る。
* **誘導:** 罠を避けるように動かすことで、別の罠やモンスターがいるエリアへ誘導する。
(そうだ。落とし穴は、あくまで一次的な障害物、あるいはデバフ効果として考えよう。これをトリガーとして、別の何かを発動させる…そういう設計思想が必要だ。)
「コア、入口からこの部屋に至る通路を、少しだけ長くして、緩やかなカーブをつけられるか? コストは?」
『通路の延長(5メートル)と形状変更(緩カーブ)ですね。コストは20DPです。』
「よし、実行してくれ。そして、そのカーブの死角になるあたりに、落とし穴を設置する。」
『承知いたしました。通路の改修、及び落とし穴の設置を実行します。合計コスト70DP。』
コアの指示で、ダンジョンの構造が再び変化していく。入口からこの部屋までの距離が少し伸び、緩やかに左へカーブする通路が形成された。そして、そのカーブを曲がった直後の床に、落とし穴が設置された。巧妙に隠蔽されており、注意深く見なければ気づかないだろう。
これで、残りのDPは870。
通路を改修し、罠を一つ設置した。スラきちが掃除をしている。
少しだけ、ダンジョンらしくなってきた気がする。
「ふぅ…」
一息ついて、床にあぐらをかく。コアは変わらず俺の近くに浮かび、スラきちは黙々と床を磨いている。静かで、平和な時間だ。
(だが、これで終わりじゃない。むしろ、始まりだ。)
罠はまだ一つだけ。モンスターもスラきち一体。これでは、ちょっと腕の立つゴブリンにすら突破されかねない。
(次は、どうする? もっと罠を増やすか? スライムを増やすか? いや、やはりもう少し攻撃力のあるモンスターが欲しいところだが…)
スライム以外のモンスターを召喚するには、ダンジョンレベルを上げる必要があるのかもしれない。レベルアップの条件は何だろうか?
「コア、ダンジョンレベルについて教えてくれ。レベルアップの条件と、メリットは?」
『ダンジョンレベルは、ダンジョンの総合的な規模や発展度を示す指標です。レベルアップの条件は、一定量のDP蓄積、特定の施設の設置、または特定の試練の達成など、複数存在すると考えられますが、現時点では詳細不明です。レベルアップによるメリットは、召喚可能なモンスターや設置可能な罠の種類が増加、ダンジョン拡張可能範囲の拡大、コアの機能向上などが期待されます。』
「詳細不明、か。まあ、そうだろうな。手探りで進めるしかないか。」
まずはDPを貯めるのが近道だろう。それには、侵入者を待つしかない。
「コア、地上への入口は、念のため不可視化設定にしておいてくれ。」
『了解しました。ダンジョン入口を不可視化します。ただし、魔力感知能力の高い存在には看破される可能性があります。』
「ないよりはマシだろう。」
これで、できる限りの準備はした。あとは、最初の「顧客」――つまり侵入者を待つだけだ。
俺は壁に背を預け、目を閉じた。
前世の過酷な日々が嘘のように、今は静かで穏やかな時間が流れている。だが、これは嵐の前の静けさなのかもしれない。
(まあ、どんな問題が発生しても、分析して、仮説を立てて、検証して、修正すればいい。デバッグ作業だと思えば、慣れたものだ。)
そんなことを考えていると、不意にコアが声をかけてきた。
『マスター。スラきちの清掃タスクが完了しました。非常に綺麗になりました。』
目を開けると、部屋の床が文字通りピカピカに輝いていた。スラきちが、俺の足元で満足げに(?)ぷるぷると震えている。
「おお、ご苦労、スラきち。」
俺は、つい、スラきちの頭(?)を撫でていた。ひんやりとして、弾力のある感触。悪くない。
『…マスター、次の指示を。』
コアが促す。
そうだ。休んでばかりもいられない。やるべきことは、まだある。
「よし、コア。索敵範囲を最大にして、周辺の警戒を頼む。何か動きがあれば、すぐに知らせてくれ。」
『承知いたしました。索敵を開始します。』
コアの輝きがわずかに強くなる。ダンジョンマスターとしての、本当の仕事が、いよいよ始まろうとしていた。
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王道の異世界転生、ハーレム、そして最高のドタバタコメディが、ここにある。最強の力は、一途な愛! 個性豊かすぎる仲間たちと共に、あなたも、最高に賑やかで、心温まる異世界を旅してみませんか? 笑って、泣けて、最後には必ず幸せな気持ちになれることを、お約束します。
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
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ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
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※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※
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