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第5話:複数インシデント対応と、リソース再配分の最適化
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ゴブリン一体を撃退し、15DPを獲得したことで、所持DPは888となった。8並びで縁起が良い気もするが、浮かれてはいられない。今回の成功は、あくまで単体の侵入者だったからだ。もし、複数で来られたら?
「コア、前回の迎撃ログNo.002を再表示してくれ。特に、ゴブリンの行動パターンと、落とし穴に対する反応を詳細に。」
『了解しました。ログNo.002を再表示します。…ゴブリンは通路進入時、周囲を警戒する様子を見せていましたが、落とし穴の隠蔽には気づきませんでした。落下後、初期は混乱状態でしたが、徐々に冷静さを取り戻し、壁面を登ろうと試みました。粘液による妨害がなければ、数分以内には脱出の糸口を見つけていた可能性があります。』
「ふむ…やはり、粘液は効果的だったが、万能ではないな。知恵のある相手なら、いずれ対策される可能性がある。それに、一体が罠にかかっている間に、別の個体が警戒して迂回したり、あるいは罠を破壊しようとしたりする可能性も考慮すべきだ。」
現状の防衛ラインは、入口からコア安置室(この部屋)に至る一本道に設置された落とし穴一つだけ。これはあまりにも脆弱だ。システムで言えば、シングルポイント・オブ・フェイラー(単一障害点)を抱えている状態。非常にリスクが高い。
(冗長化が必要だ。複数の経路を用意し、それぞれに異なるタイプの罠や障害物を配置する。侵入者の進行ルートを分散させ、各個撃破を狙う。あるいは、意図的に特定のルートへ誘導し、そこで集中攻撃を加えるキルゾーンを設けるか…)
そのためには、まずダンジョンの拡張と、罠の種類の増加が必要になる。そして、それらを実行するには、やはりDPが必要だ。
「DP稼ぎの効率を上げたいところだが、無闇に侵入者を呼び込むのは得策ではない。まずは情報収集を強化して、リスクを把握するところからだな。」
現状、コアの索敵範囲はダンジョン周辺の限定的なエリアのみだ。これをもっと広げられないか?
「コア、お前の索敵範囲を拡大することは可能か? コストは?」
『可能です。索敵範囲の拡大は、コアの機能拡張に分類されます。半径1kmから半径2kmへの拡大には、50DPが必要です。さらに広範囲にする場合は、指数関数的にコストが増加します。』
「半径2kmで50DPか…安いとは言えないが、必要経費だな。周辺にどんな脅威が潜んでいるか分からないままでは、対策の立てようがない。」
投資対効果を考える。50DPを消費して得られる情報は、潜在的なリスクの回避や、より効率的なDP獲得戦略の立案に繋がる可能性がある。これは、実行すべき投資だろう。
「よし、索敵範囲を半径2kmに拡大してくれ。」
『承知いたしました。コア機能拡張を実行します。コスト50DP。』
コアの輝きが一瞬強まり、俺の頭の中に流れ込んでくる情報量がわずかに増えた気がした。目の前のインターフェースに表示される周辺マップも、より広範囲が表示されるようになった。
『索敵範囲拡大、完了しました。新たな情報をスキャン中です…完了。半径2km圏内に、小規模なゴブリンのねぐらと思われる反応を複数(3箇所)確認。また、やや大型の獣(推定:森猪クラス)の生息域も確認。その他、特筆すべき脅威は現在のところ感知されません。』
ゴブリンのねぐらが3箇所…思ったより近くにいるな。森猪も、下手に遭遇すれば厄介そうだ。冒険者のような人型の反応は、今のところないらしい。これは幸いか。
「ゴブリンのねぐらの規模は? 数はどれくらいだ?」
『各ねぐら、推定5~10体程度の小規模な群れです。組織化された動きは見られず、個々で食料を探している程度の活動レベルと推測されます。』
「なるほどな…つまり、単独、あるいは数匹でふらふらと現れる可能性が高い、ということか。今回のゴブリンも、そういった個体の一つだったのかもしれない。」
情報が得られただけでも、大きな進歩だ。これで、ある程度の侵入者プロファイルを想定できる。当面は、ゴブリン(1~3体程度)と、森に生息する中型以下の動物を主なターゲットとして防衛戦略を考えればよさそうだ。
次に、罠のバリエーションだ。落とし穴だけでは、パターンが読まれやすい。
「コア、現在、俺が設置可能な罠のリストを表示してくれ。落とし穴以外に何がある?」
『現在のダンジョンレベル(Lv.1)で設置可能な罠は以下の通りです。
* 落とし穴Lv.1 (コスト50DP)
* 警報装置Lv.1 (コスト20DP):指定エリアへの侵入をマスターに通知する魔術的な装置。スラきちセンサーより高精度・広範囲だが、物理的な妨害効果はない。
* 粘着床Lv.1 (コスト30DP):指定範囲の床に粘着性の物質を生成し、移動を阻害する。効果時間は限定的。
』
「…少ないな。警報装置はスラきちで代用できているし、粘着床もスラきちの粘液塗布である程度実現可能だ。コストを考えると、現状ではあまり魅力的ではない。」
やはり、罠の種類を増やすにも、ダンジョンレベルを上げる必要がありそうだ。
(となると、やはり既存のリソース、つまりスラきちと落とし穴を、もっと効率的に活用する方法を考えるべきか。)
スラきちの粘液生成能力。これを応用できないか? 粘性強化だけでなく、逆の性質――潤滑性を高めることも可能だとコアは言っていた。
(通路の床を、意図的に滑りやすくする…? 面白いかもしれない。)
「コア、スラきちに新しいタスクを与える。『潤滑液生成・塗布』だ。場所は…落とし穴の手前のカーブあたり。侵入者がカーブを曲がる際に、足を滑らせてバランスを崩すように仕向けたい。」
『了解しました。スラきちに「潤滑液生成・塗布」タスクを付与します。場所は通路ポイントα周辺。推定コストは3DPです。実行しますか?』
「実行してくれ。」
再びスラきちが出動し、今度は通路の床に、目には見えないほどの薄い潤滑液の膜を塗り広げていく。作業を終えたスラきちは、今度は落とし穴の少し手前、壁のくぼみに隠れるようにして待機させた。粘液を塗布した後なので、穴の底にいる必要はない。
これで、防衛ラインはこうなった。
1. 入口から続く通路のカーブ地点(ポイントα):潤滑床(スラきち施工)
2. カーブ直後(ポイントβ):落とし穴+粘着液(スラきち施工)
3. 落とし穴の手前(ポイントγ):スラきち待機(緊急時の追加粘液、あるいは別の指示に対応)
(よし、これで少しはマシになったか? 潤滑床で転倒させ、落とし穴に落ちやすくする。落ちなくても、転倒すれば隙ができる。落ちれば粘液で拘束。スラきちが近くにいれば、追加対応も可能…)
多段構えの罠システム、というほどではないが、単一の罠よりは格段に対応力が上がったはずだ。
そんなことを考え、自己満足に浸りかけていた、まさにその時だった。
『マスター! 複数反応を探知! ゴブリン3体、ダンジョン入口を突破! 通路を進行中です!』
コアの警告が、先ほどよりも緊迫した響きを帯びていた。
3体! いきなり複数インシデント対応のテストか!
「よし来た! コア、各個体の動きをモニター! 連携している様子はあるか?」
『いえ、各個体バラバラに進行しています。先頭の1体がやや先行し、残りの2体が少し遅れてついてきている形です!』
「よし、好都合だ! 各個撃破を狙う!」
簡易マップ上に、3つの緑色の光点が現れる。先頭のゴブリンが、まず潤滑床が仕掛けられたカーブ(ポイントα)に差し掛かった。
次の瞬間、マップ上の光点が乱れた。
『先頭のゴブリン、潤滑床により転倒! バランスを崩し、そのまま落とし穴(ポイントβ)に落下しました!』
「よしっ!」
狙い通りだ! 潤滑床と落とし穴のコンボが見事に決まった!
だが、問題は残りの2体だ。
先頭が突然消えたことに驚いたのか、後続のゴブリン2体はカーブの手前で立ち止まった。何やら喚きながら、警戒している様子がうかがえる。
『後続のゴブリン2体、落とし穴を警戒しています! 1体が慎重に穴の縁を調べています! もう1体は、周囲の壁を叩き、別のルートを探ろうとしているようです!』
まずい。落とし穴の存在がバレた。そして、迂回路を探し始めた。
現状、迂回路など存在しない。この一本道だけだ。だが、壁を破壊されれば、新たな侵入経路を作られてしまう可能性がある。
(壁の強度は岩盤程度…ゴブリンの棍棒で、破壊できるか?)
「コア! 壁の耐久度は、ゴブリンの棍棒による打撃に耐えられるか?」
『継続的な打撃を受ければ、損傷、最終的には破壊される可能性があります。特に、一点に集中して攻撃された場合、数分で穴が開く可能性も否定できません!』
これは想定外の事態だ。壁の強化も今後の課題だな。
だが、今は目の前の2体をどうにかしなければ。
落とし穴に落ちた1体は、粘液のおかげでまだ脱出できていないようだ。だが、残りの2体が自由に行動している状況は危険すぎる。
(どうする? スラきちに何かさせるか? 壁際に待機させているが…)
壁を叩いているゴブリンに対して、スラきちをぶつけても効果はないだろう。物理攻撃無効だが、攻撃力もない。
穴の縁を調べているゴブリンは?
(そうだ! スラきちの粘液!)
「コア! スラきちに指示! 待機地点(ポイントγ)から、穴の縁を調べているゴブリンに向かって、粘液を発射! 足元を狙え!」
『了解! スラきちに「粘液射出(足元狙撃)」を指示!』
壁のくぼみから、スラきちがにゅるりと姿を現した。そして、体を少し震わせたかと思うと、口(?)から粘性の高い液体を、穴を覗き込んでいるゴブリンの足元めがけて発射した!
ピチャッ、という音と共に、ゴブリンの足元に粘液が命中!
ゴブリンは驚いて飛び退こうとしたが、足が粘液に取られてバランスを崩した。
「よし! 今だ!」
だが、ここで打つ手がない。俺には攻撃手段がない。スラきちも、粘液を飛ばすのが精一杯だ。
ゴブリンは体勢を立て直し、粘ついた足元を気にしながら、怒りの形相でこちら(通路の奥)を睨みつけている。壁を叩いていたもう一体も、仲間の異変に気づき、そちらへ合流しようとしている。
(まずい…2体に同時に来られると、今の俺では対処できない。)
落とし穴の1体も、もがき続けている。いつ脱出してくるか分からない。
絶対的に、攻撃力が足りない。
能動的に、侵入者を排除する手段が必要だ。
(やはり、ゴブリンを召喚するしかない…!)
そのためには、DPが…
この3体を処理できれば、45DPは手に入るはずだ。だが、どうやって?
「存在消滅」コマンドは、無力化された対象にしか使えない。まだピンピンしているゴブリンには無効だ。
万策尽きたか…?
いや、まだだ。SEは、どんな状況でも解決策を探すものだ。
俺は、苦境の中で必死に思考を巡らせる。残されたリソースは、俺の知恵と、コアのサポート、そして…足元にいる、もう一体のスライム(最初の清掃用に追加召喚していた個体)だけだ。
(こいつに、何かできないか…?)
思考が高速で回転する。何か、何か手はないのか…?
その時、俺はある可能性に思い至った。非常にリスクの高い、賭けのような手だが…試す価値はあるかもしれない。
俺は、コアを通じて、足元のスライムに、ある指示を与えた。成功するかどうかは分からない。だが、やらなければ、この窮地は脱せないだろう。
通路の奥では、二体のゴブリンが、警戒しながらもじりじりとこちらへ近づいてきていた。落とし穴の中からも、必死に壁を掻く音が聞こえ続けている。ダンジョンマスターとしての、最初の正念場が訪れていた。
「コア、前回の迎撃ログNo.002を再表示してくれ。特に、ゴブリンの行動パターンと、落とし穴に対する反応を詳細に。」
『了解しました。ログNo.002を再表示します。…ゴブリンは通路進入時、周囲を警戒する様子を見せていましたが、落とし穴の隠蔽には気づきませんでした。落下後、初期は混乱状態でしたが、徐々に冷静さを取り戻し、壁面を登ろうと試みました。粘液による妨害がなければ、数分以内には脱出の糸口を見つけていた可能性があります。』
「ふむ…やはり、粘液は効果的だったが、万能ではないな。知恵のある相手なら、いずれ対策される可能性がある。それに、一体が罠にかかっている間に、別の個体が警戒して迂回したり、あるいは罠を破壊しようとしたりする可能性も考慮すべきだ。」
現状の防衛ラインは、入口からコア安置室(この部屋)に至る一本道に設置された落とし穴一つだけ。これはあまりにも脆弱だ。システムで言えば、シングルポイント・オブ・フェイラー(単一障害点)を抱えている状態。非常にリスクが高い。
(冗長化が必要だ。複数の経路を用意し、それぞれに異なるタイプの罠や障害物を配置する。侵入者の進行ルートを分散させ、各個撃破を狙う。あるいは、意図的に特定のルートへ誘導し、そこで集中攻撃を加えるキルゾーンを設けるか…)
そのためには、まずダンジョンの拡張と、罠の種類の増加が必要になる。そして、それらを実行するには、やはりDPが必要だ。
「DP稼ぎの効率を上げたいところだが、無闇に侵入者を呼び込むのは得策ではない。まずは情報収集を強化して、リスクを把握するところからだな。」
現状、コアの索敵範囲はダンジョン周辺の限定的なエリアのみだ。これをもっと広げられないか?
「コア、お前の索敵範囲を拡大することは可能か? コストは?」
『可能です。索敵範囲の拡大は、コアの機能拡張に分類されます。半径1kmから半径2kmへの拡大には、50DPが必要です。さらに広範囲にする場合は、指数関数的にコストが増加します。』
「半径2kmで50DPか…安いとは言えないが、必要経費だな。周辺にどんな脅威が潜んでいるか分からないままでは、対策の立てようがない。」
投資対効果を考える。50DPを消費して得られる情報は、潜在的なリスクの回避や、より効率的なDP獲得戦略の立案に繋がる可能性がある。これは、実行すべき投資だろう。
「よし、索敵範囲を半径2kmに拡大してくれ。」
『承知いたしました。コア機能拡張を実行します。コスト50DP。』
コアの輝きが一瞬強まり、俺の頭の中に流れ込んでくる情報量がわずかに増えた気がした。目の前のインターフェースに表示される周辺マップも、より広範囲が表示されるようになった。
『索敵範囲拡大、完了しました。新たな情報をスキャン中です…完了。半径2km圏内に、小規模なゴブリンのねぐらと思われる反応を複数(3箇所)確認。また、やや大型の獣(推定:森猪クラス)の生息域も確認。その他、特筆すべき脅威は現在のところ感知されません。』
ゴブリンのねぐらが3箇所…思ったより近くにいるな。森猪も、下手に遭遇すれば厄介そうだ。冒険者のような人型の反応は、今のところないらしい。これは幸いか。
「ゴブリンのねぐらの規模は? 数はどれくらいだ?」
『各ねぐら、推定5~10体程度の小規模な群れです。組織化された動きは見られず、個々で食料を探している程度の活動レベルと推測されます。』
「なるほどな…つまり、単独、あるいは数匹でふらふらと現れる可能性が高い、ということか。今回のゴブリンも、そういった個体の一つだったのかもしれない。」
情報が得られただけでも、大きな進歩だ。これで、ある程度の侵入者プロファイルを想定できる。当面は、ゴブリン(1~3体程度)と、森に生息する中型以下の動物を主なターゲットとして防衛戦略を考えればよさそうだ。
次に、罠のバリエーションだ。落とし穴だけでは、パターンが読まれやすい。
「コア、現在、俺が設置可能な罠のリストを表示してくれ。落とし穴以外に何がある?」
『現在のダンジョンレベル(Lv.1)で設置可能な罠は以下の通りです。
* 落とし穴Lv.1 (コスト50DP)
* 警報装置Lv.1 (コスト20DP):指定エリアへの侵入をマスターに通知する魔術的な装置。スラきちセンサーより高精度・広範囲だが、物理的な妨害効果はない。
* 粘着床Lv.1 (コスト30DP):指定範囲の床に粘着性の物質を生成し、移動を阻害する。効果時間は限定的。
』
「…少ないな。警報装置はスラきちで代用できているし、粘着床もスラきちの粘液塗布である程度実現可能だ。コストを考えると、現状ではあまり魅力的ではない。」
やはり、罠の種類を増やすにも、ダンジョンレベルを上げる必要がありそうだ。
(となると、やはり既存のリソース、つまりスラきちと落とし穴を、もっと効率的に活用する方法を考えるべきか。)
スラきちの粘液生成能力。これを応用できないか? 粘性強化だけでなく、逆の性質――潤滑性を高めることも可能だとコアは言っていた。
(通路の床を、意図的に滑りやすくする…? 面白いかもしれない。)
「コア、スラきちに新しいタスクを与える。『潤滑液生成・塗布』だ。場所は…落とし穴の手前のカーブあたり。侵入者がカーブを曲がる際に、足を滑らせてバランスを崩すように仕向けたい。」
『了解しました。スラきちに「潤滑液生成・塗布」タスクを付与します。場所は通路ポイントα周辺。推定コストは3DPです。実行しますか?』
「実行してくれ。」
再びスラきちが出動し、今度は通路の床に、目には見えないほどの薄い潤滑液の膜を塗り広げていく。作業を終えたスラきちは、今度は落とし穴の少し手前、壁のくぼみに隠れるようにして待機させた。粘液を塗布した後なので、穴の底にいる必要はない。
これで、防衛ラインはこうなった。
1. 入口から続く通路のカーブ地点(ポイントα):潤滑床(スラきち施工)
2. カーブ直後(ポイントβ):落とし穴+粘着液(スラきち施工)
3. 落とし穴の手前(ポイントγ):スラきち待機(緊急時の追加粘液、あるいは別の指示に対応)
(よし、これで少しはマシになったか? 潤滑床で転倒させ、落とし穴に落ちやすくする。落ちなくても、転倒すれば隙ができる。落ちれば粘液で拘束。スラきちが近くにいれば、追加対応も可能…)
多段構えの罠システム、というほどではないが、単一の罠よりは格段に対応力が上がったはずだ。
そんなことを考え、自己満足に浸りかけていた、まさにその時だった。
『マスター! 複数反応を探知! ゴブリン3体、ダンジョン入口を突破! 通路を進行中です!』
コアの警告が、先ほどよりも緊迫した響きを帯びていた。
3体! いきなり複数インシデント対応のテストか!
「よし来た! コア、各個体の動きをモニター! 連携している様子はあるか?」
『いえ、各個体バラバラに進行しています。先頭の1体がやや先行し、残りの2体が少し遅れてついてきている形です!』
「よし、好都合だ! 各個撃破を狙う!」
簡易マップ上に、3つの緑色の光点が現れる。先頭のゴブリンが、まず潤滑床が仕掛けられたカーブ(ポイントα)に差し掛かった。
次の瞬間、マップ上の光点が乱れた。
『先頭のゴブリン、潤滑床により転倒! バランスを崩し、そのまま落とし穴(ポイントβ)に落下しました!』
「よしっ!」
狙い通りだ! 潤滑床と落とし穴のコンボが見事に決まった!
だが、問題は残りの2体だ。
先頭が突然消えたことに驚いたのか、後続のゴブリン2体はカーブの手前で立ち止まった。何やら喚きながら、警戒している様子がうかがえる。
『後続のゴブリン2体、落とし穴を警戒しています! 1体が慎重に穴の縁を調べています! もう1体は、周囲の壁を叩き、別のルートを探ろうとしているようです!』
まずい。落とし穴の存在がバレた。そして、迂回路を探し始めた。
現状、迂回路など存在しない。この一本道だけだ。だが、壁を破壊されれば、新たな侵入経路を作られてしまう可能性がある。
(壁の強度は岩盤程度…ゴブリンの棍棒で、破壊できるか?)
「コア! 壁の耐久度は、ゴブリンの棍棒による打撃に耐えられるか?」
『継続的な打撃を受ければ、損傷、最終的には破壊される可能性があります。特に、一点に集中して攻撃された場合、数分で穴が開く可能性も否定できません!』
これは想定外の事態だ。壁の強化も今後の課題だな。
だが、今は目の前の2体をどうにかしなければ。
落とし穴に落ちた1体は、粘液のおかげでまだ脱出できていないようだ。だが、残りの2体が自由に行動している状況は危険すぎる。
(どうする? スラきちに何かさせるか? 壁際に待機させているが…)
壁を叩いているゴブリンに対して、スラきちをぶつけても効果はないだろう。物理攻撃無効だが、攻撃力もない。
穴の縁を調べているゴブリンは?
(そうだ! スラきちの粘液!)
「コア! スラきちに指示! 待機地点(ポイントγ)から、穴の縁を調べているゴブリンに向かって、粘液を発射! 足元を狙え!」
『了解! スラきちに「粘液射出(足元狙撃)」を指示!』
壁のくぼみから、スラきちがにゅるりと姿を現した。そして、体を少し震わせたかと思うと、口(?)から粘性の高い液体を、穴を覗き込んでいるゴブリンの足元めがけて発射した!
ピチャッ、という音と共に、ゴブリンの足元に粘液が命中!
ゴブリンは驚いて飛び退こうとしたが、足が粘液に取られてバランスを崩した。
「よし! 今だ!」
だが、ここで打つ手がない。俺には攻撃手段がない。スラきちも、粘液を飛ばすのが精一杯だ。
ゴブリンは体勢を立て直し、粘ついた足元を気にしながら、怒りの形相でこちら(通路の奥)を睨みつけている。壁を叩いていたもう一体も、仲間の異変に気づき、そちらへ合流しようとしている。
(まずい…2体に同時に来られると、今の俺では対処できない。)
落とし穴の1体も、もがき続けている。いつ脱出してくるか分からない。
絶対的に、攻撃力が足りない。
能動的に、侵入者を排除する手段が必要だ。
(やはり、ゴブリンを召喚するしかない…!)
そのためには、DPが…
この3体を処理できれば、45DPは手に入るはずだ。だが、どうやって?
「存在消滅」コマンドは、無力化された対象にしか使えない。まだピンピンしているゴブリンには無効だ。
万策尽きたか…?
いや、まだだ。SEは、どんな状況でも解決策を探すものだ。
俺は、苦境の中で必死に思考を巡らせる。残されたリソースは、俺の知恵と、コアのサポート、そして…足元にいる、もう一体のスライム(最初の清掃用に追加召喚していた個体)だけだ。
(こいつに、何かできないか…?)
思考が高速で回転する。何か、何か手はないのか…?
その時、俺はある可能性に思い至った。非常にリスクの高い、賭けのような手だが…試す価値はあるかもしれない。
俺は、コアを通じて、足元のスライムに、ある指示を与えた。成功するかどうかは分からない。だが、やらなければ、この窮地は脱せないだろう。
通路の奥では、二体のゴブリンが、警戒しながらもじりじりとこちらへ近づいてきていた。落とし穴の中からも、必死に壁を掻く音が聞こえ続けている。ダンジョンマスターとしての、最初の正念場が訪れていた。
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「アッシュ、お前には完全に失望した。もう俺の跡目を継ぐ資格は無い。追放だ!」
主人公アッシュは、世界最強の冒険者ギルド【神喰らう蛇】のギルドマスターの息子として活躍していた。しかし、筋力のステータスが80%も低下する外れスキル【植物王(ドルイドキング)】に覚醒したことから、理不尽にも父親から追放を宣言される。
しかし、アッシュは襲われていたエルフの王女を助けたことから、史上最強の武器【世界樹の剣】を手に入れる。この剣は天界にある世界樹から作られた武器であり、『植物を支配する神スキル』【植物王】を持つアッシュにしか使いこなすことができなかった。
「エルフの王女コレットは、掟により、こ、これよりアッシュ様のつ、つつつ、妻として、お仕えさせていただきます。どうかエルフ王となり、王家にアッシュ様の血を取り入れる栄誉をお与えください!」
さらにエルフの王女から結婚して欲しい、エルフ王になって欲しいと追いかけまわされ、エルフ王国の内乱を治めることになる。さらには神獣フェンリルから忠誠を誓われる。
そんな彼の前には、父親やかつての仲間が敵として立ちはだかる。(だが【神喰らう蛇】はやがてアッシュに敗れて、あえなく没落する)
かくして、後に闘神と呼ばれることになる少年の戦いが幕を開けた……!
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