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第7話:ゴブリン向け「報連相」マニュアルと、KPIによる人材育成
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ゴブリン三体の同時襲撃という嵐が過ぎ去り、ダンジョン内には再び静寂が戻っていた。スラきちとスラには、戦闘で汚れた通路や落とし穴の清掃、そして自身のメンテナンス(コアが言うには、魔力を補給して体組織を修復しているらしい)に勤しんでいる。その健気な働きぶりを見ていると、自然と口元が緩む。こいつらがいなければ、間違いなく詰んでいた。
「それにしても、スライムでこれだけやれるんだから、ゴブリンを上手く使えれば、相当な戦力になるはずだ…」
俺はコア安置室の床にあぐらをかき、目の前にコアが表示している仮想的なホワイトボード――いや、思考整理用のメモ帳のようなものに、「プロジェクトG:ゴブリン育成・運用計画」とタイトルを書き込んだ。
「さて、コア。まずはゴブリンの基本スペックについて、もう少し詳しく教えてくれ。知性レベル、学習能力、社会性、平均的な戦闘能力などだ。」
『了解しました、マスター。ゴブリンの基本情報は以下の通りです。
* 知性レベル:低い。人間の子供(5~6歳)程度。単純な命令は理解できるが、複雑な思考や計画性は期待できない。
* 学習能力:限定的。反復訓練により、特定の行動パターンや単純なスキルを習得可能。個体差あり。
* 社会性:原始的な群れを形成する傾向がある。強いリーダーに従う習性を持つが、裏切りや下克上も起こり得る。
* 戦闘能力:個体差が大きいが、平均的には成人男性よりやや劣る程度。棍棒や粗末な短剣などを扱い、数で押す戦法を好む。
* その他:狡猾さ、残忍性を持つ個体もいる。衛生観念は低い。』
「人間の子供程度か…なるほど、思ったよりはマシかもしれないな。反復訓練で学習可能、リーダーに従う習性…ここがポイントか。」
俺はメモ帳にキーワードを書き出していく。「反復訓練」「リーダーシップ」「単純命令」。
(システム開発で言えば、ジュニアプログラマーにタスクを割り振るようなものか。明確な指示と、定期的な進捗確認、そして適切なフィードバックが必要だ。)
そこで重要になるのが、前世のブラック企業で嫌というほど叩き込まれ、そしてその欠如によって数々のプロジェクトが炎上する様を見てきた、「報連相」――報告・連絡・相談だ。
「ゴブリンに報連相…ハードルが高そうだが、これができないと組織としては機能しない。なんとかして、基本的な概念だけでも植え付けたい。」
俺はペン(仮想)を走らせる。
**【ゴブリン向け報連相 基本マニュアル Ver.0.1】**
* **報告 (ほうこく):**
* やったこと、見たこと、起こったことを、リーダー(またはマスター)に伝えること。
* 例:「敵、見つけた!」「罠、かかった!」「〇〇、壊れた!」
* いつ?:何か終わったら、何か見つけたら、何か起こったら **すぐ** 伝える。
* 重要度:★★★★★(これが無いと始まらない)
* **連絡 (れんらく):**
* 決まったこと、変更点、注意点などを、仲間に伝えること。
* 例:「マスターが『あっちへ行け』と言った!」「敵が来た、気をつけろ!」「この罠、危ない!」
* 誰に?:関係する **みんな** に伝える。
* 重要度:★★★★☆(情報共有は効率の基本)
* **相談 (そうだん):**
* 分からないこと、困ったこと、判断に迷うことを、リーダー(またはマスター)に聞くこと。
* 例:「これ、どうすればいい?」「敵、強い、助けて!」「どっちに行けばいい?」
* いつ?:困ったら、迷ったら **すぐ** 聞く。自分で勝手に判断しない。
* 重要度:★★★★☆(事故防止とリスク管理)
「…こんな感じか。かなり簡略化したが、ゴブリンの知性レベルを考えると、これくらいでないと理解できないだろう。」
重要なのは、**「すぐ」**という部分を強調することだ。問題が発生してから報告が遅れるのは、プロジェクト炎上の典型的なパターンだ。
(これをどうやって教えるか…やはり、ロールプレイング形式での反復訓練か? あるいは、成功事例には報酬(餌とか?)を与え、失敗事例にはペナルティ(軽いお仕置き?)を与える、アメとムチ方式か。)
次に考えるべきは、リーダーの選抜だ。群れの中から、比較的知性が高く、他のゴブリンをまとめられる個体を見つけ出す必要がある。
「リーダー候補の選定基準…KPI(重要業績評価指標)を設定してみるか。」
**【ゴブリンリーダー候補 KPI Ver.0.1】**
* **指示理解度:** マスター(または上位リーダー)の命令を正確に理解し、実行できるか。(評価軸:正確性、速度)
* **報連相実践度:** 上記マニュアルに基づき、適切なタイミングで報告・連絡・相談を行えるか。(評価軸:頻度、適時性)
* **部下への伝達能力:** マスターからの指示を、配下のゴブリンに分かりやすく伝えられるか。(評価軸:部下の行動精度)
* **問題解決への積極性(相談含む):** 困難な状況に直面した際、パニックにならず、リーダーに相談するなどの行動が取れるか。(評価軸:冷静さ、相談頻度)
* **(おまけ)戦闘貢献度:** 侵入者撃退において、どれだけ貢献したか。(評価軸:与ダメージ、被ダメージ、討伐数など)
「ふむ…かなり、それっぽくなってきたぞ。」
これらのKPIを基に、定期的にゴブリンたちを評価し、スコアの高い個体をリーダーに任命する。リーダーには、少し良い装備や餌を与えるなどのインセンティブを与えれば、モチベーション維持にも繋がるだろう。まさに、人事評価制度だ。
(さらに、タスク管理も導入したいな。どのゴブリンが、どのエリアの警戒を担当しているか、どの罠の監視をしているか…ガントチャート的なものを作って、コアに管理させるか?)
思考がどんどんSE時代の方向へ流れていく。だが、それが面白い。前世では、クライアントの無茶振りや上司の圧力の中で、ただただ疲弊するだけのツールだったこれらのマネジメント手法が、今は自分の理想のダンジョンを作るための武器になるのだ。
「コア、今の計画、どう思う? 実現可能性は?」
俺は、一連の思考を整理し、コアに問いかけた。
『…マスターの計画は、非常に独創的かつ合理的です。ゴブリンの基本特性を考慮しつつ、組織的な運用を目指すというアプローチは、従来のダンジョン運営の常識からは逸脱していますが、成功すれば極めて高い効率性を発揮する可能性があります。』
コアは淡々とした口調ながらも、どこか感心しているような響きを含んでいた。
『実現可能性についてですが、ゴブリンの個体差や学習限界、そして反抗や裏切りの可能性など、不確定要素は多く存在します。しかし、マスターの立案されたKPIによる評価とインセンティブ、そして反復訓練による条件付けを徹底すれば、一定レベルでの組織化は可能であると推測されます。試行錯誤は必要になるでしょう。』
「試行錯誤…つまり、デバッグと改善を繰り返せ、ということだな。望むところだ。」
プロジェクトGの骨子は固まった。あとは、実行に移すための「リソース」――すなわち、ゴブリン本体と、彼らを育成するためのDPを確保するだけだ。
そんなことを考えていると、まさに待ち望んでいた(?)報告がコアからもたらされた。
『マスター、新たな侵入者を感知しました! 森猪(Forest Boar)、1頭です! やや大型の個体です!』
森猪! ゴブリンのねぐらと共に、索敵範囲拡大によって存在を確認していた獣だ。ゴブリンとはまた違うタイプの相手。これも良いデータ収集の機会になるだろう。
「よし来た! 現在位置と進行ルートは?」
『ダンジョン入口を突破し、通路を進行中。ゴブリンよりも移動速度が速いです! 現在、ポイントα(潤滑床)に接近中!』
マップ上の光点(今回は少し大きめの黄色で表示されている)が、かなりの速度で通路を進んでくる。猪突猛進という言葉がぴったりだ。
「あの速度と重量で潤滑床に突っ込んだら…どうなる?」
期待と不安が入り混じる中、俺は光点の動きを注視する。
そして、森猪がポイントαに到達した瞬間――
ズシャァァァッ! という、派手な音と共に、マップ上の光点が激しく乱れた!
『森猪、潤滑床で制御不能! 猛スピードで滑走し、そのまま落とし穴(ポイントβ)に激突、落下しました!』
「おおっ!?」
予想以上の効果だ! 潤滑床+落とし穴コンボが、猪相手にも見事に決まった! ゴブリンの時よりも遥かにダイナミックな突っ込み方だったようだ。
「ダメージは!? 粘液の効果は!?」
『落とし穴への激突により、中程度のダメージを確認! さらに、穴の底の粘液に全身が絡まり、激しく暴れています! 粘性が高いため、脱出は極めて困難な状況です!』
「よしよし! 計算通り…いや、計算以上だ!」
落とし穴の中から、豚の断末魔のような、けたたましい鳴き声が響いてくる。相当なパニック状態に陥っているようだ。
(これなら、あるいは「存在消滅」コマンドの対象になるか?)
「コア、森猪の状態を判定しろ! 無力化されているか?」
『判定中…対象は激しい興奮状態にありますが、粘液による拘束と落下のダメージにより、有効な抵抗は不可能と判断されます。「存在消滅」実行可能です。ただし、対象の生命力がゴブリンより高いため、マスターの精神力消費はやや増加します。』
「問題ない! 実行しろ!」
『了解! 「存在消滅」を実行します!』
コアの宣言と共に、落とし穴から響いていた凄まじい鳴き声が、ぴたりと止んだ。
そして、DP表示が更新される。
**【DP獲得:30DP】**
**【現在の所持DP:910DP】**
30DP! ゴブリンの倍だ!
これは大きい。目標の1000DPまで、あと90DP。ゴブリンなら6体分、森猪なら3頭分だ。
「よし! 目標達成が見えてきたぞ!」
俺は満足気に頷いた。罠の改良と連携が功を奏し、順調にDPを稼ぐことができている。プロジェクトGの実行も、現実味を帯びてきた。
「コア、ログ記録と、スラきち、スラにによる後処理を頼む。落とし穴の粘液も補充しておいてくれ。」
『承知いたしました。迎撃ログNo.004として記録し、後処理タスクを開始します。』
スライムたちが再び働き始めるのを横目に、俺は「プロジェクトG」の計画書に、新たな項目を書き加え始めた。それは、ゴブリンたちの「装備」に関する考察だった。より効率的なダンジョン運営のためには、ソフトウェア(育成)だけでなく、ハードウェア(装備)の改善も必要不可欠なのだ。ホワイトダンジョンへの道は、まだまだ最適化の余地がありそうだ。
「それにしても、スライムでこれだけやれるんだから、ゴブリンを上手く使えれば、相当な戦力になるはずだ…」
俺はコア安置室の床にあぐらをかき、目の前にコアが表示している仮想的なホワイトボード――いや、思考整理用のメモ帳のようなものに、「プロジェクトG:ゴブリン育成・運用計画」とタイトルを書き込んだ。
「さて、コア。まずはゴブリンの基本スペックについて、もう少し詳しく教えてくれ。知性レベル、学習能力、社会性、平均的な戦闘能力などだ。」
『了解しました、マスター。ゴブリンの基本情報は以下の通りです。
* 知性レベル:低い。人間の子供(5~6歳)程度。単純な命令は理解できるが、複雑な思考や計画性は期待できない。
* 学習能力:限定的。反復訓練により、特定の行動パターンや単純なスキルを習得可能。個体差あり。
* 社会性:原始的な群れを形成する傾向がある。強いリーダーに従う習性を持つが、裏切りや下克上も起こり得る。
* 戦闘能力:個体差が大きいが、平均的には成人男性よりやや劣る程度。棍棒や粗末な短剣などを扱い、数で押す戦法を好む。
* その他:狡猾さ、残忍性を持つ個体もいる。衛生観念は低い。』
「人間の子供程度か…なるほど、思ったよりはマシかもしれないな。反復訓練で学習可能、リーダーに従う習性…ここがポイントか。」
俺はメモ帳にキーワードを書き出していく。「反復訓練」「リーダーシップ」「単純命令」。
(システム開発で言えば、ジュニアプログラマーにタスクを割り振るようなものか。明確な指示と、定期的な進捗確認、そして適切なフィードバックが必要だ。)
そこで重要になるのが、前世のブラック企業で嫌というほど叩き込まれ、そしてその欠如によって数々のプロジェクトが炎上する様を見てきた、「報連相」――報告・連絡・相談だ。
「ゴブリンに報連相…ハードルが高そうだが、これができないと組織としては機能しない。なんとかして、基本的な概念だけでも植え付けたい。」
俺はペン(仮想)を走らせる。
**【ゴブリン向け報連相 基本マニュアル Ver.0.1】**
* **報告 (ほうこく):**
* やったこと、見たこと、起こったことを、リーダー(またはマスター)に伝えること。
* 例:「敵、見つけた!」「罠、かかった!」「〇〇、壊れた!」
* いつ?:何か終わったら、何か見つけたら、何か起こったら **すぐ** 伝える。
* 重要度:★★★★★(これが無いと始まらない)
* **連絡 (れんらく):**
* 決まったこと、変更点、注意点などを、仲間に伝えること。
* 例:「マスターが『あっちへ行け』と言った!」「敵が来た、気をつけろ!」「この罠、危ない!」
* 誰に?:関係する **みんな** に伝える。
* 重要度:★★★★☆(情報共有は効率の基本)
* **相談 (そうだん):**
* 分からないこと、困ったこと、判断に迷うことを、リーダー(またはマスター)に聞くこと。
* 例:「これ、どうすればいい?」「敵、強い、助けて!」「どっちに行けばいい?」
* いつ?:困ったら、迷ったら **すぐ** 聞く。自分で勝手に判断しない。
* 重要度:★★★★☆(事故防止とリスク管理)
「…こんな感じか。かなり簡略化したが、ゴブリンの知性レベルを考えると、これくらいでないと理解できないだろう。」
重要なのは、**「すぐ」**という部分を強調することだ。問題が発生してから報告が遅れるのは、プロジェクト炎上の典型的なパターンだ。
(これをどうやって教えるか…やはり、ロールプレイング形式での反復訓練か? あるいは、成功事例には報酬(餌とか?)を与え、失敗事例にはペナルティ(軽いお仕置き?)を与える、アメとムチ方式か。)
次に考えるべきは、リーダーの選抜だ。群れの中から、比較的知性が高く、他のゴブリンをまとめられる個体を見つけ出す必要がある。
「リーダー候補の選定基準…KPI(重要業績評価指標)を設定してみるか。」
**【ゴブリンリーダー候補 KPI Ver.0.1】**
* **指示理解度:** マスター(または上位リーダー)の命令を正確に理解し、実行できるか。(評価軸:正確性、速度)
* **報連相実践度:** 上記マニュアルに基づき、適切なタイミングで報告・連絡・相談を行えるか。(評価軸:頻度、適時性)
* **部下への伝達能力:** マスターからの指示を、配下のゴブリンに分かりやすく伝えられるか。(評価軸:部下の行動精度)
* **問題解決への積極性(相談含む):** 困難な状況に直面した際、パニックにならず、リーダーに相談するなどの行動が取れるか。(評価軸:冷静さ、相談頻度)
* **(おまけ)戦闘貢献度:** 侵入者撃退において、どれだけ貢献したか。(評価軸:与ダメージ、被ダメージ、討伐数など)
「ふむ…かなり、それっぽくなってきたぞ。」
これらのKPIを基に、定期的にゴブリンたちを評価し、スコアの高い個体をリーダーに任命する。リーダーには、少し良い装備や餌を与えるなどのインセンティブを与えれば、モチベーション維持にも繋がるだろう。まさに、人事評価制度だ。
(さらに、タスク管理も導入したいな。どのゴブリンが、どのエリアの警戒を担当しているか、どの罠の監視をしているか…ガントチャート的なものを作って、コアに管理させるか?)
思考がどんどんSE時代の方向へ流れていく。だが、それが面白い。前世では、クライアントの無茶振りや上司の圧力の中で、ただただ疲弊するだけのツールだったこれらのマネジメント手法が、今は自分の理想のダンジョンを作るための武器になるのだ。
「コア、今の計画、どう思う? 実現可能性は?」
俺は、一連の思考を整理し、コアに問いかけた。
『…マスターの計画は、非常に独創的かつ合理的です。ゴブリンの基本特性を考慮しつつ、組織的な運用を目指すというアプローチは、従来のダンジョン運営の常識からは逸脱していますが、成功すれば極めて高い効率性を発揮する可能性があります。』
コアは淡々とした口調ながらも、どこか感心しているような響きを含んでいた。
『実現可能性についてですが、ゴブリンの個体差や学習限界、そして反抗や裏切りの可能性など、不確定要素は多く存在します。しかし、マスターの立案されたKPIによる評価とインセンティブ、そして反復訓練による条件付けを徹底すれば、一定レベルでの組織化は可能であると推測されます。試行錯誤は必要になるでしょう。』
「試行錯誤…つまり、デバッグと改善を繰り返せ、ということだな。望むところだ。」
プロジェクトGの骨子は固まった。あとは、実行に移すための「リソース」――すなわち、ゴブリン本体と、彼らを育成するためのDPを確保するだけだ。
そんなことを考えていると、まさに待ち望んでいた(?)報告がコアからもたらされた。
『マスター、新たな侵入者を感知しました! 森猪(Forest Boar)、1頭です! やや大型の個体です!』
森猪! ゴブリンのねぐらと共に、索敵範囲拡大によって存在を確認していた獣だ。ゴブリンとはまた違うタイプの相手。これも良いデータ収集の機会になるだろう。
「よし来た! 現在位置と進行ルートは?」
『ダンジョン入口を突破し、通路を進行中。ゴブリンよりも移動速度が速いです! 現在、ポイントα(潤滑床)に接近中!』
マップ上の光点(今回は少し大きめの黄色で表示されている)が、かなりの速度で通路を進んでくる。猪突猛進という言葉がぴったりだ。
「あの速度と重量で潤滑床に突っ込んだら…どうなる?」
期待と不安が入り混じる中、俺は光点の動きを注視する。
そして、森猪がポイントαに到達した瞬間――
ズシャァァァッ! という、派手な音と共に、マップ上の光点が激しく乱れた!
『森猪、潤滑床で制御不能! 猛スピードで滑走し、そのまま落とし穴(ポイントβ)に激突、落下しました!』
「おおっ!?」
予想以上の効果だ! 潤滑床+落とし穴コンボが、猪相手にも見事に決まった! ゴブリンの時よりも遥かにダイナミックな突っ込み方だったようだ。
「ダメージは!? 粘液の効果は!?」
『落とし穴への激突により、中程度のダメージを確認! さらに、穴の底の粘液に全身が絡まり、激しく暴れています! 粘性が高いため、脱出は極めて困難な状況です!』
「よしよし! 計算通り…いや、計算以上だ!」
落とし穴の中から、豚の断末魔のような、けたたましい鳴き声が響いてくる。相当なパニック状態に陥っているようだ。
(これなら、あるいは「存在消滅」コマンドの対象になるか?)
「コア、森猪の状態を判定しろ! 無力化されているか?」
『判定中…対象は激しい興奮状態にありますが、粘液による拘束と落下のダメージにより、有効な抵抗は不可能と判断されます。「存在消滅」実行可能です。ただし、対象の生命力がゴブリンより高いため、マスターの精神力消費はやや増加します。』
「問題ない! 実行しろ!」
『了解! 「存在消滅」を実行します!』
コアの宣言と共に、落とし穴から響いていた凄まじい鳴き声が、ぴたりと止んだ。
そして、DP表示が更新される。
**【DP獲得:30DP】**
**【現在の所持DP:910DP】**
30DP! ゴブリンの倍だ!
これは大きい。目標の1000DPまで、あと90DP。ゴブリンなら6体分、森猪なら3頭分だ。
「よし! 目標達成が見えてきたぞ!」
俺は満足気に頷いた。罠の改良と連携が功を奏し、順調にDPを稼ぐことができている。プロジェクトGの実行も、現実味を帯びてきた。
「コア、ログ記録と、スラきち、スラにによる後処理を頼む。落とし穴の粘液も補充しておいてくれ。」
『承知いたしました。迎撃ログNo.004として記録し、後処理タスクを開始します。』
スライムたちが再び働き始めるのを横目に、俺は「プロジェクトG」の計画書に、新たな項目を書き加え始めた。それは、ゴブリンたちの「装備」に関する考察だった。より効率的なダンジョン運営のためには、ソフトウェア(育成)だけでなく、ハードウェア(装備)の改善も必要不可欠なのだ。ホワイトダンジョンへの道は、まだまだ最適化の余地がありそうだ。
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そんな彼の前には、父親やかつての仲間が敵として立ちはだかる。(だが【神喰らう蛇】はやがてアッシュに敗れて、あえなく没落する)
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